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眩しくて目を細める。
彦三郎の手足が伸びている気がする。
服装も見たことの無い和服の様なものに変わっていく。
少し神社で見たことのある袴に近い気がした。
何が起きたのか分からない。悪霊になってしまったという事だろうか。
まばゆい光は落ち着いたころには手も足も伸び、顔つきも大人びた一人の男の様になっていた。
「大人になってるのか?」
彦三郎は自分の大きくなったであろう手をまじまじと見ていた。
二度、三度握っては開きを繰り返したのち彦三郎は「糞、関節がきしんで痛てえな」と呟く。
くせ毛な髪こそ面影があるが、それ以外はまるで別人の様だ。
そもそも座敷童というのは子供のうちに死んだ霊が妖怪になったんじゃなかったのか?
実際彦三郎だってそう言ってたはずだ。
「アンタ、彦三郎なんだよな?」
「ああ、兄さん」
いつも通りの口調なのに、声変わりをしたのだろうか、音は低い。
「まあ、こんなことはどうでもいい」
彦三郎はそう言って俺に手を伸ばして、腕をつかんで引き寄せる。
それでようやく周りが見える。
雨はまだ降り続いている。
ここは多分家の上空だ。服に、髪の毛に雨のしずくがまとわりついていく。
それよりも、今自分と彦三郎が空中に浮かんでいるという事実に驚く。
意味不明な生き物を沢山新年会で見て、彦三郎が人間じゃないってちゃんと分かっていた筈なのにいざこうやって超自然現象にあうとどうしたらいいのか分からなくなる。
「まずは医者、だよな」
彦三郎が言う。
「ちょっと、まて。待ってくれ」
俺が思わず言うと彦三郎はこちらを見た。
茶色い飴玉みたいな目は、先ほどまでとあまり変わらないなと今の状況とあまり関係ない事を考えてしまう。
彦三郎のあまりの変貌ぶりも、それから彼が家の外にいるという事実もとんでもない事だとは思うのだけれど、彦三郎が彦三郎なことに安心してしまう。
「……ああ、もう少しで雨やむなこりゃ」
彦三郎は鼻をすんと鳴らしたあと言う。
それからあたりを見回して、少し離れたところにある神社まで、ふわりふわりと飛んで行った。
りんご飴を買った神社は土砂降りの雨で誰もいない。
石段に降りると、思わず自分の体をぱんぱんとさわって変化がないか確認してしまう。
変わったのは多分彦三郎だけだ。
「で、結局どういうことなんだよ」
「ん? あー、多分だけどな……」
彦三郎が何故か目をそらした。
傘も持っていないし周りには勿論コンビニは無い。
いつも見下ろしてた彦三郎を見上げるのは不思議な感覚だ。思わず、一段石段を上がって彦三郎を見下ろす。
これで少しだけだけれどいつも通りだ。
「ちょっとだけ、神格が備わったっぽいんだよな」
彦三郎は今日の天気は晴れですって位、普通の事を言うように告げた。
「は?」
「だから、多分だけどちょっと神様になったって事だな」
何を言っているのかいまいちよく分からない。
そもそも、そういう事は本人が分かるのもなのだろうか。
「カミサマって、あれか?」
「そう、あれだな」
わかっているのか、わかっていないのか知らないけれど普通に彦三郎が答える。
「なんで――」
そんなことになったんだよ。と言う前に彦三郎は視線を逸らした。
「……多分兄さんが俺の信徒ってやつになってくれたからだろうな」
そっぽを向いて言うのはとても子供っぽい。
信徒なんていう普段聞きなれない言葉を子供はあまり使わない。
彦三郎を外に出してやろうとオカルトだの民話だの宗教だのを調べていなければ俺も一瞬では分からなかったかもしれない言葉だ。
「は?」
俺は別に彦三郎の事を神様だとも思っていないし、畏怖もしていない。
彦三郎の言っていることは的外れに思える。
「兄さんが生贄になってくれただろ?」
とんとんと二回彦三郎は自分の手を反対の手で指をさす様に触れる。
それでようやく、俺の手がズキズキと痛んでいることをちゃんと認識する。
「そんなことでか?」
「そんな事じゃなかったみたいだな」
まあ、俺自体が生贄だったしその辺もあるんだろうな。
少なくとも、神格があることは確かだぞ。そう言って彦三郎は笑った。
「ということは、あの家から好きに出られるってことか? 悪霊にならないって事か?」
神だとかなんだとかはどうでもよかった。
一番に気になったのはそれだけだった。
「ああ、今んとこは大丈夫そうだな」
ありがとうな兄さん。と言われて妙に気恥しくなる。
彦三郎が無事ならそれでよかった。
これからどうするか、その話しをしようとしたところでスマホが鳴る。
気が付かなかったがあれから何度も父から着信があったらしく、十数件の履歴が画面に表示されていた。
慌てて電話に出ると、悲壮感漂う声で「晴泰!? 無事なのか!?」と言われた。
今神社にいる事を話すと車で迎えに来てくれるそうだ。
「座敷童様、逃げるなら今のうちですよ?」
俺が聞くと、彦三郎は面白そうにニヤリと笑う。
「別にいいさ。もういつでもどこにでもいけるんだから」
彦三郎は、とりあえず兄さんの手が治るまでそばにいるさと言った。
◆
それから一時間以上たって二人ともずぶぬれになった後、降りしきる雨のなか、父と本家の人を乗せた車が神社の前で停まった。
本家の人は彦三郎を見るなり「ひぃっ」という悲鳴を上げた。
「父さん、こちら元座敷童さんです」
俺がそういうと、父は神妙な顔をして「この度は……」と言った。
それがおかしくて少しだけ笑った・
「そんな事より――」
彦三郎は何か言いたげな父達を制止してから「まずは医者だろ。血が手拭に滲んできてるぞ」と言った。
父はそれを見ると「怪我をしてるなら、そうと早く言いなさい。い、医者へ」と慌てた風に言った。
「座敷童様もっ!!」
上ずった声で彦三郎に車に乗る様に促す親族が滑稽で、思わず彦三郎顔を見合わせた。
嵐は徐々に北上しているらしく、もうすぐ峠を越えるらしい。
被害が少ない隣街の病院へと車は向った。
彦三郎の手足が伸びている気がする。
服装も見たことの無い和服の様なものに変わっていく。
少し神社で見たことのある袴に近い気がした。
何が起きたのか分からない。悪霊になってしまったという事だろうか。
まばゆい光は落ち着いたころには手も足も伸び、顔つきも大人びた一人の男の様になっていた。
「大人になってるのか?」
彦三郎は自分の大きくなったであろう手をまじまじと見ていた。
二度、三度握っては開きを繰り返したのち彦三郎は「糞、関節がきしんで痛てえな」と呟く。
くせ毛な髪こそ面影があるが、それ以外はまるで別人の様だ。
そもそも座敷童というのは子供のうちに死んだ霊が妖怪になったんじゃなかったのか?
実際彦三郎だってそう言ってたはずだ。
「アンタ、彦三郎なんだよな?」
「ああ、兄さん」
いつも通りの口調なのに、声変わりをしたのだろうか、音は低い。
「まあ、こんなことはどうでもいい」
彦三郎はそう言って俺に手を伸ばして、腕をつかんで引き寄せる。
それでようやく周りが見える。
雨はまだ降り続いている。
ここは多分家の上空だ。服に、髪の毛に雨のしずくがまとわりついていく。
それよりも、今自分と彦三郎が空中に浮かんでいるという事実に驚く。
意味不明な生き物を沢山新年会で見て、彦三郎が人間じゃないってちゃんと分かっていた筈なのにいざこうやって超自然現象にあうとどうしたらいいのか分からなくなる。
「まずは医者、だよな」
彦三郎が言う。
「ちょっと、まて。待ってくれ」
俺が思わず言うと彦三郎はこちらを見た。
茶色い飴玉みたいな目は、先ほどまでとあまり変わらないなと今の状況とあまり関係ない事を考えてしまう。
彦三郎のあまりの変貌ぶりも、それから彼が家の外にいるという事実もとんでもない事だとは思うのだけれど、彦三郎が彦三郎なことに安心してしまう。
「……ああ、もう少しで雨やむなこりゃ」
彦三郎は鼻をすんと鳴らしたあと言う。
それからあたりを見回して、少し離れたところにある神社まで、ふわりふわりと飛んで行った。
りんご飴を買った神社は土砂降りの雨で誰もいない。
石段に降りると、思わず自分の体をぱんぱんとさわって変化がないか確認してしまう。
変わったのは多分彦三郎だけだ。
「で、結局どういうことなんだよ」
「ん? あー、多分だけどな……」
彦三郎が何故か目をそらした。
傘も持っていないし周りには勿論コンビニは無い。
いつも見下ろしてた彦三郎を見上げるのは不思議な感覚だ。思わず、一段石段を上がって彦三郎を見下ろす。
これで少しだけだけれどいつも通りだ。
「ちょっとだけ、神格が備わったっぽいんだよな」
彦三郎は今日の天気は晴れですって位、普通の事を言うように告げた。
「は?」
「だから、多分だけどちょっと神様になったって事だな」
何を言っているのかいまいちよく分からない。
そもそも、そういう事は本人が分かるのもなのだろうか。
「カミサマって、あれか?」
「そう、あれだな」
わかっているのか、わかっていないのか知らないけれど普通に彦三郎が答える。
「なんで――」
そんなことになったんだよ。と言う前に彦三郎は視線を逸らした。
「……多分兄さんが俺の信徒ってやつになってくれたからだろうな」
そっぽを向いて言うのはとても子供っぽい。
信徒なんていう普段聞きなれない言葉を子供はあまり使わない。
彦三郎を外に出してやろうとオカルトだの民話だの宗教だのを調べていなければ俺も一瞬では分からなかったかもしれない言葉だ。
「は?」
俺は別に彦三郎の事を神様だとも思っていないし、畏怖もしていない。
彦三郎の言っていることは的外れに思える。
「兄さんが生贄になってくれただろ?」
とんとんと二回彦三郎は自分の手を反対の手で指をさす様に触れる。
それでようやく、俺の手がズキズキと痛んでいることをちゃんと認識する。
「そんなことでか?」
「そんな事じゃなかったみたいだな」
まあ、俺自体が生贄だったしその辺もあるんだろうな。
少なくとも、神格があることは確かだぞ。そう言って彦三郎は笑った。
「ということは、あの家から好きに出られるってことか? 悪霊にならないって事か?」
神だとかなんだとかはどうでもよかった。
一番に気になったのはそれだけだった。
「ああ、今んとこは大丈夫そうだな」
ありがとうな兄さん。と言われて妙に気恥しくなる。
彦三郎が無事ならそれでよかった。
これからどうするか、その話しをしようとしたところでスマホが鳴る。
気が付かなかったがあれから何度も父から着信があったらしく、十数件の履歴が画面に表示されていた。
慌てて電話に出ると、悲壮感漂う声で「晴泰!? 無事なのか!?」と言われた。
今神社にいる事を話すと車で迎えに来てくれるそうだ。
「座敷童様、逃げるなら今のうちですよ?」
俺が聞くと、彦三郎は面白そうにニヤリと笑う。
「別にいいさ。もういつでもどこにでもいけるんだから」
彦三郎は、とりあえず兄さんの手が治るまでそばにいるさと言った。
◆
それから一時間以上たって二人ともずぶぬれになった後、降りしきる雨のなか、父と本家の人を乗せた車が神社の前で停まった。
本家の人は彦三郎を見るなり「ひぃっ」という悲鳴を上げた。
「父さん、こちら元座敷童さんです」
俺がそういうと、父は神妙な顔をして「この度は……」と言った。
それがおかしくて少しだけ笑った・
「そんな事より――」
彦三郎は何か言いたげな父達を制止してから「まずは医者だろ。血が手拭に滲んできてるぞ」と言った。
父はそれを見ると「怪我をしてるなら、そうと早く言いなさい。い、医者へ」と慌てた風に言った。
「座敷童様もっ!!」
上ずった声で彦三郎に車に乗る様に促す親族が滑稽で、思わず彦三郎顔を見合わせた。
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