30 / 31
10-2
しおりを挟む
眩しくて目を細める。
彦三郎の手足が伸びている気がする。
服装も見たことの無い和服の様なものに変わっていく。
少し神社で見たことのある袴に近い気がした。
何が起きたのか分からない。悪霊になってしまったという事だろうか。
まばゆい光は落ち着いたころには手も足も伸び、顔つきも大人びた一人の男の様になっていた。
「大人になってるのか?」
彦三郎は自分の大きくなったであろう手をまじまじと見ていた。
二度、三度握っては開きを繰り返したのち彦三郎は「糞、関節がきしんで痛てえな」と呟く。
くせ毛な髪こそ面影があるが、それ以外はまるで別人の様だ。
そもそも座敷童というのは子供のうちに死んだ霊が妖怪になったんじゃなかったのか?
実際彦三郎だってそう言ってたはずだ。
「アンタ、彦三郎なんだよな?」
「ああ、兄さん」
いつも通りの口調なのに、声変わりをしたのだろうか、音は低い。
「まあ、こんなことはどうでもいい」
彦三郎はそう言って俺に手を伸ばして、腕をつかんで引き寄せる。
それでようやく周りが見える。
雨はまだ降り続いている。
ここは多分家の上空だ。服に、髪の毛に雨のしずくがまとわりついていく。
それよりも、今自分と彦三郎が空中に浮かんでいるという事実に驚く。
意味不明な生き物を沢山新年会で見て、彦三郎が人間じゃないってちゃんと分かっていた筈なのにいざこうやって超自然現象にあうとどうしたらいいのか分からなくなる。
「まずは医者、だよな」
彦三郎が言う。
「ちょっと、まて。待ってくれ」
俺が思わず言うと彦三郎はこちらを見た。
茶色い飴玉みたいな目は、先ほどまでとあまり変わらないなと今の状況とあまり関係ない事を考えてしまう。
彦三郎のあまりの変貌ぶりも、それから彼が家の外にいるという事実もとんでもない事だとは思うのだけれど、彦三郎が彦三郎なことに安心してしまう。
「……ああ、もう少しで雨やむなこりゃ」
彦三郎は鼻をすんと鳴らしたあと言う。
それからあたりを見回して、少し離れたところにある神社まで、ふわりふわりと飛んで行った。
りんご飴を買った神社は土砂降りの雨で誰もいない。
石段に降りると、思わず自分の体をぱんぱんとさわって変化がないか確認してしまう。
変わったのは多分彦三郎だけだ。
「で、結局どういうことなんだよ」
「ん? あー、多分だけどな……」
彦三郎が何故か目をそらした。
傘も持っていないし周りには勿論コンビニは無い。
いつも見下ろしてた彦三郎を見上げるのは不思議な感覚だ。思わず、一段石段を上がって彦三郎を見下ろす。
これで少しだけだけれどいつも通りだ。
「ちょっとだけ、神格が備わったっぽいんだよな」
彦三郎は今日の天気は晴れですって位、普通の事を言うように告げた。
「は?」
「だから、多分だけどちょっと神様になったって事だな」
何を言っているのかいまいちよく分からない。
そもそも、そういう事は本人が分かるのもなのだろうか。
「カミサマって、あれか?」
「そう、あれだな」
わかっているのか、わかっていないのか知らないけれど普通に彦三郎が答える。
「なんで――」
そんなことになったんだよ。と言う前に彦三郎は視線を逸らした。
「……多分兄さんが俺の信徒ってやつになってくれたからだろうな」
そっぽを向いて言うのはとても子供っぽい。
信徒なんていう普段聞きなれない言葉を子供はあまり使わない。
彦三郎を外に出してやろうとオカルトだの民話だの宗教だのを調べていなければ俺も一瞬では分からなかったかもしれない言葉だ。
「は?」
俺は別に彦三郎の事を神様だとも思っていないし、畏怖もしていない。
彦三郎の言っていることは的外れに思える。
「兄さんが生贄になってくれただろ?」
とんとんと二回彦三郎は自分の手を反対の手で指をさす様に触れる。
それでようやく、俺の手がズキズキと痛んでいることをちゃんと認識する。
「そんなことでか?」
「そんな事じゃなかったみたいだな」
まあ、俺自体が生贄だったしその辺もあるんだろうな。
少なくとも、神格があることは確かだぞ。そう言って彦三郎は笑った。
「ということは、あの家から好きに出られるってことか? 悪霊にならないって事か?」
神だとかなんだとかはどうでもよかった。
一番に気になったのはそれだけだった。
「ああ、今んとこは大丈夫そうだな」
ありがとうな兄さん。と言われて妙に気恥しくなる。
彦三郎が無事ならそれでよかった。
これからどうするか、その話しをしようとしたところでスマホが鳴る。
気が付かなかったがあれから何度も父から着信があったらしく、十数件の履歴が画面に表示されていた。
慌てて電話に出ると、悲壮感漂う声で「晴泰!? 無事なのか!?」と言われた。
今神社にいる事を話すと車で迎えに来てくれるそうだ。
「座敷童様、逃げるなら今のうちですよ?」
俺が聞くと、彦三郎は面白そうにニヤリと笑う。
「別にいいさ。もういつでもどこにでもいけるんだから」
彦三郎は、とりあえず兄さんの手が治るまでそばにいるさと言った。
◆
それから一時間以上たって二人ともずぶぬれになった後、降りしきる雨のなか、父と本家の人を乗せた車が神社の前で停まった。
本家の人は彦三郎を見るなり「ひぃっ」という悲鳴を上げた。
「父さん、こちら元座敷童さんです」
俺がそういうと、父は神妙な顔をして「この度は……」と言った。
それがおかしくて少しだけ笑った・
「そんな事より――」
彦三郎は何か言いたげな父達を制止してから「まずは医者だろ。血が手拭に滲んできてるぞ」と言った。
父はそれを見ると「怪我をしてるなら、そうと早く言いなさい。い、医者へ」と慌てた風に言った。
「座敷童様もっ!!」
上ずった声で彦三郎に車に乗る様に促す親族が滑稽で、思わず彦三郎顔を見合わせた。
嵐は徐々に北上しているらしく、もうすぐ峠を越えるらしい。
被害が少ない隣街の病院へと車は向った。
彦三郎の手足が伸びている気がする。
服装も見たことの無い和服の様なものに変わっていく。
少し神社で見たことのある袴に近い気がした。
何が起きたのか分からない。悪霊になってしまったという事だろうか。
まばゆい光は落ち着いたころには手も足も伸び、顔つきも大人びた一人の男の様になっていた。
「大人になってるのか?」
彦三郎は自分の大きくなったであろう手をまじまじと見ていた。
二度、三度握っては開きを繰り返したのち彦三郎は「糞、関節がきしんで痛てえな」と呟く。
くせ毛な髪こそ面影があるが、それ以外はまるで別人の様だ。
そもそも座敷童というのは子供のうちに死んだ霊が妖怪になったんじゃなかったのか?
実際彦三郎だってそう言ってたはずだ。
「アンタ、彦三郎なんだよな?」
「ああ、兄さん」
いつも通りの口調なのに、声変わりをしたのだろうか、音は低い。
「まあ、こんなことはどうでもいい」
彦三郎はそう言って俺に手を伸ばして、腕をつかんで引き寄せる。
それでようやく周りが見える。
雨はまだ降り続いている。
ここは多分家の上空だ。服に、髪の毛に雨のしずくがまとわりついていく。
それよりも、今自分と彦三郎が空中に浮かんでいるという事実に驚く。
意味不明な生き物を沢山新年会で見て、彦三郎が人間じゃないってちゃんと分かっていた筈なのにいざこうやって超自然現象にあうとどうしたらいいのか分からなくなる。
「まずは医者、だよな」
彦三郎が言う。
「ちょっと、まて。待ってくれ」
俺が思わず言うと彦三郎はこちらを見た。
茶色い飴玉みたいな目は、先ほどまでとあまり変わらないなと今の状況とあまり関係ない事を考えてしまう。
彦三郎のあまりの変貌ぶりも、それから彼が家の外にいるという事実もとんでもない事だとは思うのだけれど、彦三郎が彦三郎なことに安心してしまう。
「……ああ、もう少しで雨やむなこりゃ」
彦三郎は鼻をすんと鳴らしたあと言う。
それからあたりを見回して、少し離れたところにある神社まで、ふわりふわりと飛んで行った。
りんご飴を買った神社は土砂降りの雨で誰もいない。
石段に降りると、思わず自分の体をぱんぱんとさわって変化がないか確認してしまう。
変わったのは多分彦三郎だけだ。
「で、結局どういうことなんだよ」
「ん? あー、多分だけどな……」
彦三郎が何故か目をそらした。
傘も持っていないし周りには勿論コンビニは無い。
いつも見下ろしてた彦三郎を見上げるのは不思議な感覚だ。思わず、一段石段を上がって彦三郎を見下ろす。
これで少しだけだけれどいつも通りだ。
「ちょっとだけ、神格が備わったっぽいんだよな」
彦三郎は今日の天気は晴れですって位、普通の事を言うように告げた。
「は?」
「だから、多分だけどちょっと神様になったって事だな」
何を言っているのかいまいちよく分からない。
そもそも、そういう事は本人が分かるのもなのだろうか。
「カミサマって、あれか?」
「そう、あれだな」
わかっているのか、わかっていないのか知らないけれど普通に彦三郎が答える。
「なんで――」
そんなことになったんだよ。と言う前に彦三郎は視線を逸らした。
「……多分兄さんが俺の信徒ってやつになってくれたからだろうな」
そっぽを向いて言うのはとても子供っぽい。
信徒なんていう普段聞きなれない言葉を子供はあまり使わない。
彦三郎を外に出してやろうとオカルトだの民話だの宗教だのを調べていなければ俺も一瞬では分からなかったかもしれない言葉だ。
「は?」
俺は別に彦三郎の事を神様だとも思っていないし、畏怖もしていない。
彦三郎の言っていることは的外れに思える。
「兄さんが生贄になってくれただろ?」
とんとんと二回彦三郎は自分の手を反対の手で指をさす様に触れる。
それでようやく、俺の手がズキズキと痛んでいることをちゃんと認識する。
「そんなことでか?」
「そんな事じゃなかったみたいだな」
まあ、俺自体が生贄だったしその辺もあるんだろうな。
少なくとも、神格があることは確かだぞ。そう言って彦三郎は笑った。
「ということは、あの家から好きに出られるってことか? 悪霊にならないって事か?」
神だとかなんだとかはどうでもよかった。
一番に気になったのはそれだけだった。
「ああ、今んとこは大丈夫そうだな」
ありがとうな兄さん。と言われて妙に気恥しくなる。
彦三郎が無事ならそれでよかった。
これからどうするか、その話しをしようとしたところでスマホが鳴る。
気が付かなかったがあれから何度も父から着信があったらしく、十数件の履歴が画面に表示されていた。
慌てて電話に出ると、悲壮感漂う声で「晴泰!? 無事なのか!?」と言われた。
今神社にいる事を話すと車で迎えに来てくれるそうだ。
「座敷童様、逃げるなら今のうちですよ?」
俺が聞くと、彦三郎は面白そうにニヤリと笑う。
「別にいいさ。もういつでもどこにでもいけるんだから」
彦三郎は、とりあえず兄さんの手が治るまでそばにいるさと言った。
◆
それから一時間以上たって二人ともずぶぬれになった後、降りしきる雨のなか、父と本家の人を乗せた車が神社の前で停まった。
本家の人は彦三郎を見るなり「ひぃっ」という悲鳴を上げた。
「父さん、こちら元座敷童さんです」
俺がそういうと、父は神妙な顔をして「この度は……」と言った。
それがおかしくて少しだけ笑った・
「そんな事より――」
彦三郎は何か言いたげな父達を制止してから「まずは医者だろ。血が手拭に滲んできてるぞ」と言った。
父はそれを見ると「怪我をしてるなら、そうと早く言いなさい。い、医者へ」と慌てた風に言った。
「座敷童様もっ!!」
上ずった声で彦三郎に車に乗る様に促す親族が滑稽で、思わず彦三郎顔を見合わせた。
嵐は徐々に北上しているらしく、もうすぐ峠を越えるらしい。
被害が少ない隣街の病院へと車は向った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる