王家の影ですので

渡辺 佐倉

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王家の影の次期当主について

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* * *

ルイスが執務室を出た後すぐに、カイルの部下はそっと執務室に入りその奥にある休憩室に足を踏み込んだ。

そこにはぐったりと横たわるカイルがいる“筈”だった。
けれどそこにいたのはすでに身支度を整えて凡庸な伯爵家令息の姿となったカイルがいた。

「眠ってしまわれているかと」


だからこそ、あの王太子はカイルをおいてこの部屋を出たのだろうと配下の者も思っていた。


「気を失いにくいよう訓練を受けているからね」

気を失いにくくする訓練、毒に強くなる訓練。
誰にも言っていないけれど様々な訓練をカイルは受けてきている。
そしてそのほとんどは、そうやって油断した人間から情報を得るためのものだ。

けれど、ほとんどの場合それが情報を得るために使われることはない。
彼は諜報機関の次代の長になるべき人間なのだ。

基本は配下に命令するのが仕事だ。
勿論伯爵家で無ければ入れない場所には自分で赴くがそれ以外は人を使う方の立場だ。

けれど、いざという時に王族を守るという家の方針により、カイルは様々な訓練を受けている。

「全く、碌な死に方が出来なくなってるよ、俺たちは」

そう言って配下に向かってカイルは笑った。

それから突然真顔になって頭を下げた。

「魔が差した。
俺の行動はお前たち皆の人生を左右しかねないというのに、すまない。
自分の欲を優先させてしまった」

配下の者は慌てて「や、やめてくださいよ。俺たちはあなたに従うしついて行くって決めてるんですから!!」と言った。

それから静かに「迎えが来ております」とカイルに言った。
カイルは簡単な書置きを残すとそのまま執務室を出てすぐの場所の窓から闇に消えた。
後片付けは別の配下の者がしてくれるだろう。

帰りの馬車の中で「閨教育、俺も受けてみようかな」とカイルが言うと先ほどの配下の男が噴き出した。

「それは王子殿下が大変ご立腹されるかと」

ごにょごにょと言葉を選ぶように言った。

「あー」

カイルは別に察しが悪いわけではない。察しが良く無ければ諜報活動なんてやってられない。

「本で勉強するだけにしておく」

どうせ、お妃探しは一旦中断になって時間が出来そうだしな。
とカイルは言いながら馬車の背もたれに体を預けた。
いくら鍛えていようが体は事後のけだるさが残っている。

けれど、その姿でルイスと顔を合わせるなんてとんでもなく恥ずかしくてできそうになかった。

自分はこの先どのような選択をするのだろうとカイルは考えて、それからやめた。
王家の影は王家にそっと寄り添うだけだ。

命令があれば主君に従う。

「そう言えば王子殿下に残してきたメモにはなんて書いたのですか?」
「あ?あー」


『お互いに守るべきものがあるので大変ですが』


書いたのはたったそれだけだった。
一生気持ちを言うつもりは無い。
だから、これからも変わることの無い関係なのだと、その時はカイルは思っていた。

そう考えていたカイルの元に、トンデモナイ条件とともにルイスがプロポーズに来るのはもう少し先の事だった。


END
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