9 / 17
王子3
しおりを挟む
「今日は、弟殿下の誕生パーティーだけど、行かなくていいのかい?」
野茨は残念ながら本の内容はあまり頭に入って来なかった。
そんなこと聞いてくる人はいなかった。野茨が疎まれているのは周知の事実だったからだ。
「俺はいらない王子だから」
夜露が今までにない驚いた顔をしている。
それから、今度こそ泣いてしまうんじゃないかという表情をしていた。
悲しい顔だった。
絶望しているというのはこういう顔なのだろうか。
何故赤の他人であろうこの人がそんな顔をしているのか野茨には分からなかった。
「お兄さんはなんでそんなに泣きそうなの?」
野茨が聞くと夜露は「俺はお兄さんって程若くは無いよ」と言って少しだけ笑った。
「もしかして、お兄さん魔法使い!?」
魔法使いはそれ以外の人間よりも長命だ。
だからそうかもしれないと聞いた野茨の言葉に、夜露は悲しそうな顔で笑い返した。
それを野茨は肯定だととった。
魔法使いの見た目は年齢とは関係ない。
もしかしたらこの人は自分の父親よりも長い年月を過ごしているのかもしれない。
けれど、この人が魔法使いだとして、不思議なことが野茨にはあった。
魔法使いは国の宝だ。
それなのに、なぜこんな簡素な恰好をしているのだろう。
魔法使いというのは大体ゆったりとした服装でそこには豪華な刺繍が入っている。
こういう恰好が好きな人なのだろうか。
それとも事情があるのだろうか。
こんなさびれた場所にいるのも不思議だった。
魔法使いと言うのは王宮に来るたびに接待をされている筈だからだ。
ねえ、と野茨が聞こうとした時それは目に入った。
なぜ今まで気が付かなかったのかわからない。
彼の足首からのびているのは足輪とそこにつながる鎖だった。
まるで罪人をつなぐ様な足枷と鎖だった。
薄汚れたそれは、だからこそそれなりに長い期間彼の足につけられているのだと分かる。
彼はどのくらいの期間ここにいるのだろうか。
野茨はごくんと唾を飲み込んだ。
ふふ、と優し気な声で夜露が笑う声がした。
「おじさんは悪い魔法使いなんだよ」
それから、あまりにも普通のことを話す様に夜露は言った。
けれど彼が罪人だとはどうしても野茨には思えなかった。
悪い魔法使いというにはこの人は優しすぎる気がした。
だけどきっとこの人がそう言うならそうなのだろう。
実際彼は鎖で繋がれてここに閉じ込められている様だった。
けれど、そんな人の話は聞いたことが無い。
だれもここに罪人がいるなんて話はしていなかったし、ここは囚人のための施設でもない。
本当に危ない人間を王城に置いておくとも思えない。
悪い人間は僻地にある専用の施設に入るのだと野茨はもう知っていた。
夜露はそんな野茨の考えはどうでもいいという様に、にっこりと笑った後、真剣な顔をして夜露は野茨を見た。
「君はいらない王子なんかじゃないよ」
野茨と目を合わせて夜露は言い聞かせる様に言った。
とても真剣な表情と口調だった。
「君はちゃんと祝福を受けている。
君には美貌だって、力だって話術だってなんだってある筈だよ。
君を見ればみんな君の虜になるはずだし、君と話せば君にみんな夢中になるはずだよ」
「本当に? お兄さんも?」
「……ああ、俺もそうだね」
泣いてしまいそうな位そうだよ。と夜露は付け加えた。
「あなたの名前は?
あなたも僕を祝福してくれる?」
野茨に言われて夜露はギクリと固まる。
けれど、しばらく逡巡した後「俺の名前は夜露。他の人には言っちゃ駄目だよ」と答えた。
とてもきれいな名前だと夜露は思った。
夜露の黒い髪の毛ときれいに輝く黒い瞳の様な名前だ。
「……祝福。そうだね。
祝福をしてもいいのか」
夜露が何を言っているのか野茨には分からなかった。
祝福については、その時の思い付きだった。
彼が言う通り本当に野茨に皆が夢中になるのであれば、勇気が欲しかった。
けれど夜露は真剣に祝福について考えているようだ。
「でも魔法の対価がここには無いんだ」
「あっ……。じゃあこれは?」
野茨が取り出したのは数日前おやつのケーキに入っていた陶器製のフェーブという小さなマスコットだった。
野茨はもう魔法というものには対価が必要だと知っていた。
対価は宝物ならいい。野茨が今持っている宝物はこれだけだ。
ケーキに入っていた時は嬉しくてずっと持っていようと思ったけれど、この不思議な魔法使いの魔法が見られるならこの宝物を差し出しても惜しくないと思った。
金銀財宝じゃないから、気持ちばかりのものになってしまうかもしれないけれど、これを対価に魔法をかけてくれないだろうか。
そうしたら、誰かに笑いかけて、話しかける勇気がもてるかもしれない。
魔法使いは手のひらにおかれた花の形をしたフェーブを眺めると、聞き取れない呪文をいくつか唱えた。
きれいな魔法陣が一瞬煌めいた気がした。
「あなたの愛する人があなたから遠ざかりません様に」
静かに夜露は言った。
手のひらにのっていたはずのフェーブは消えてしまった。
野茨は夜露の、高すぎず低すぎない不思議な声が好きだと思った。
「ねえ、もっとお話をして!」
野茨は夜露にねだった。
「じゃあ――」
夜露は本棚の中から一冊の本をもってきて開いた。
中には美しい挿絵とそれから野茨にはまだ分からない難しい言葉が沢山書かれていた。
夜露が話してくれたのは、一人の王様の話だった。
空の星になった王様の話だ。
「夜空を見上げてみるといいよ。丁度ダイヤモンドみたいな形をした形をした星座だよ」 そう夜露は言った。
王様の話よりもダイヤモンドみたいだという方が気になった。
ダイヤモンドという宝石は野茨も知っている。想像してみたらとても夜露に似合う宝石なのかもしれない。
「ダイヤモンドかあ」
「ダイヤモンドが好きなのかい?」
静かな声で夜露が言う。
宝石は別に好きではない。ただ野茨は夜露に似合うと思っただけだ。それをそのままいうのも恥ずかしくて野茨は「星が好きなんです」と答えた。
夜露は楽しそうに目を細めると、「ダイヤモンド型の中の一番明るい星が本物のダイヤモンドみたいにキラキラと輝いていてきれいだよ」と言った。
ダイヤモンドは魔法使いにしか研磨できない特別な石だ。
そんな美しい星があるのかと野茨は思わず身を乗り出すようにして夜露の話を聞いていた。
そんな野茨に夜露は優し気に微笑んだ。
けれどそれはどこかさみし気な微笑みだった。
夜露は誰でも野茨に夢中になると言った。
野茨が話しかければ彼の笑顔もさみし気じゃなくなるだろうか。
野茨はそう考えながら夜露のお話を時間が許す限りずっと聞いていた。
野茨は残念ながら本の内容はあまり頭に入って来なかった。
そんなこと聞いてくる人はいなかった。野茨が疎まれているのは周知の事実だったからだ。
「俺はいらない王子だから」
夜露が今までにない驚いた顔をしている。
それから、今度こそ泣いてしまうんじゃないかという表情をしていた。
悲しい顔だった。
絶望しているというのはこういう顔なのだろうか。
何故赤の他人であろうこの人がそんな顔をしているのか野茨には分からなかった。
「お兄さんはなんでそんなに泣きそうなの?」
野茨が聞くと夜露は「俺はお兄さんって程若くは無いよ」と言って少しだけ笑った。
「もしかして、お兄さん魔法使い!?」
魔法使いはそれ以外の人間よりも長命だ。
だからそうかもしれないと聞いた野茨の言葉に、夜露は悲しそうな顔で笑い返した。
それを野茨は肯定だととった。
魔法使いの見た目は年齢とは関係ない。
もしかしたらこの人は自分の父親よりも長い年月を過ごしているのかもしれない。
けれど、この人が魔法使いだとして、不思議なことが野茨にはあった。
魔法使いは国の宝だ。
それなのに、なぜこんな簡素な恰好をしているのだろう。
魔法使いというのは大体ゆったりとした服装でそこには豪華な刺繍が入っている。
こういう恰好が好きな人なのだろうか。
それとも事情があるのだろうか。
こんなさびれた場所にいるのも不思議だった。
魔法使いと言うのは王宮に来るたびに接待をされている筈だからだ。
ねえ、と野茨が聞こうとした時それは目に入った。
なぜ今まで気が付かなかったのかわからない。
彼の足首からのびているのは足輪とそこにつながる鎖だった。
まるで罪人をつなぐ様な足枷と鎖だった。
薄汚れたそれは、だからこそそれなりに長い期間彼の足につけられているのだと分かる。
彼はどのくらいの期間ここにいるのだろうか。
野茨はごくんと唾を飲み込んだ。
ふふ、と優し気な声で夜露が笑う声がした。
「おじさんは悪い魔法使いなんだよ」
それから、あまりにも普通のことを話す様に夜露は言った。
けれど彼が罪人だとはどうしても野茨には思えなかった。
悪い魔法使いというにはこの人は優しすぎる気がした。
だけどきっとこの人がそう言うならそうなのだろう。
実際彼は鎖で繋がれてここに閉じ込められている様だった。
けれど、そんな人の話は聞いたことが無い。
だれもここに罪人がいるなんて話はしていなかったし、ここは囚人のための施設でもない。
本当に危ない人間を王城に置いておくとも思えない。
悪い人間は僻地にある専用の施設に入るのだと野茨はもう知っていた。
夜露はそんな野茨の考えはどうでもいいという様に、にっこりと笑った後、真剣な顔をして夜露は野茨を見た。
「君はいらない王子なんかじゃないよ」
野茨と目を合わせて夜露は言い聞かせる様に言った。
とても真剣な表情と口調だった。
「君はちゃんと祝福を受けている。
君には美貌だって、力だって話術だってなんだってある筈だよ。
君を見ればみんな君の虜になるはずだし、君と話せば君にみんな夢中になるはずだよ」
「本当に? お兄さんも?」
「……ああ、俺もそうだね」
泣いてしまいそうな位そうだよ。と夜露は付け加えた。
「あなたの名前は?
あなたも僕を祝福してくれる?」
野茨に言われて夜露はギクリと固まる。
けれど、しばらく逡巡した後「俺の名前は夜露。他の人には言っちゃ駄目だよ」と答えた。
とてもきれいな名前だと夜露は思った。
夜露の黒い髪の毛ときれいに輝く黒い瞳の様な名前だ。
「……祝福。そうだね。
祝福をしてもいいのか」
夜露が何を言っているのか野茨には分からなかった。
祝福については、その時の思い付きだった。
彼が言う通り本当に野茨に皆が夢中になるのであれば、勇気が欲しかった。
けれど夜露は真剣に祝福について考えているようだ。
「でも魔法の対価がここには無いんだ」
「あっ……。じゃあこれは?」
野茨が取り出したのは数日前おやつのケーキに入っていた陶器製のフェーブという小さなマスコットだった。
野茨はもう魔法というものには対価が必要だと知っていた。
対価は宝物ならいい。野茨が今持っている宝物はこれだけだ。
ケーキに入っていた時は嬉しくてずっと持っていようと思ったけれど、この不思議な魔法使いの魔法が見られるならこの宝物を差し出しても惜しくないと思った。
金銀財宝じゃないから、気持ちばかりのものになってしまうかもしれないけれど、これを対価に魔法をかけてくれないだろうか。
そうしたら、誰かに笑いかけて、話しかける勇気がもてるかもしれない。
魔法使いは手のひらにおかれた花の形をしたフェーブを眺めると、聞き取れない呪文をいくつか唱えた。
きれいな魔法陣が一瞬煌めいた気がした。
「あなたの愛する人があなたから遠ざかりません様に」
静かに夜露は言った。
手のひらにのっていたはずのフェーブは消えてしまった。
野茨は夜露の、高すぎず低すぎない不思議な声が好きだと思った。
「ねえ、もっとお話をして!」
野茨は夜露にねだった。
「じゃあ――」
夜露は本棚の中から一冊の本をもってきて開いた。
中には美しい挿絵とそれから野茨にはまだ分からない難しい言葉が沢山書かれていた。
夜露が話してくれたのは、一人の王様の話だった。
空の星になった王様の話だ。
「夜空を見上げてみるといいよ。丁度ダイヤモンドみたいな形をした形をした星座だよ」 そう夜露は言った。
王様の話よりもダイヤモンドみたいだという方が気になった。
ダイヤモンドという宝石は野茨も知っている。想像してみたらとても夜露に似合う宝石なのかもしれない。
「ダイヤモンドかあ」
「ダイヤモンドが好きなのかい?」
静かな声で夜露が言う。
宝石は別に好きではない。ただ野茨は夜露に似合うと思っただけだ。それをそのままいうのも恥ずかしくて野茨は「星が好きなんです」と答えた。
夜露は楽しそうに目を細めると、「ダイヤモンド型の中の一番明るい星が本物のダイヤモンドみたいにキラキラと輝いていてきれいだよ」と言った。
ダイヤモンドは魔法使いにしか研磨できない特別な石だ。
そんな美しい星があるのかと野茨は思わず身を乗り出すようにして夜露の話を聞いていた。
そんな野茨に夜露は優し気に微笑んだ。
けれどそれはどこかさみし気な微笑みだった。
夜露は誰でも野茨に夢中になると言った。
野茨が話しかければ彼の笑顔もさみし気じゃなくなるだろうか。
野茨はそう考えながら夜露のお話を時間が許す限りずっと聞いていた。
10
あなたにおすすめの小説
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる