○○過敏症な小鳥遊君

渡辺 佐倉

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俺過敏症な小鳥遊君

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俺だけじゃなくて、あの場にいたオメガだけが特別なのかもしれない。

そんなことはちゃんと理解していた。
だけどどっちにしろ、カメムシと同じくらい最悪だ。


少なくとも俺といなければ、小鳥遊君は眼鏡もマスクもいらなくて普通の美形として楽しく生活ができる。


それが分かってしまった。

俺は空き教室でうずくまる事しかできなかった。
泣きたいような気持が無いわけじゃないけれど上手く泣けない。

走った所為で上がった息が徐々に落ち着く。
授業に出なければいけない。

分かってる。
ちゃんとわかってるのに体は動かない。

がらり――

ドアのあく音がした。
先生が見回りに来たのかと思ったけれどそこにいたのは焦った様子の小鳥遊君だった。

「なんで――」

この場所が分かるのか。

「匂いがするから。
人より過敏なんだよ。
知ってるだろう曽山も」

知ってる。
その匂いがカメムシじゃないってことも聞いた。
だからと言ってこんなピンポイントで探せる様なものなんだろうか。

だって、俺はちゃんと抑制剤を飲んでいて、だからアルファだって誰がオメガかなんてわからない。

「でも……。
あそこにいたオメガの子は平気そうだったし」


何を俺はいいだすんだ。
馬鹿かと思う。

というか馬鹿なんだと思う。
俺は馬鹿だ。


あの時楽しそうに小鳥遊君と話すオメガの子に確かに俺は嫉妬してしまったのだ。
眼鏡をかけずマスクをせず楽しそうに笑う小鳥遊君と普通に話せるこが。

小鳥遊君は今はもうマスクをしてしまっている。
あれだけ咳き込んでいたのだ。
直接匂いを嗅ぐのが辛いのだろう。

俺はもう一度逃げてしまおうと立ち上がろうとした。

「逃げないで。
マジで。
ちゃんと、話すから。
頼むから――」

何故小鳥遊君が頼むのか。
何故小鳥遊君の顔が赤いのか。

俺にはよくわからない。
だけど体はちゃんと動いてくれない。

「フェロモン過敏症だっていうのは本当なんだ。
ただ、反応するのは曽山だけ……。
好きな子のフェロモンに勝手に過剰反応しちゃうだけなんだ」
「え……?」

ようやくちゃんと見返せた小鳥遊君の顔は赤い。
言われた言葉を反芻してようやく意味が分かった。

「小鳥遊君俺の事好きなの?」

一番気になったのはそこだった。
好きなの? おれのことが!?

そこに一番びっくりしてしまった。

「あれ?
驚くとこ、そこ?」

やっぱり曽山君にはかなわないなあと小鳥遊君は言った。

「フェロモンに反応してるって意味?」


俺はそんなことより気になっていることを聞いた。
カメムシじゃなくても、無いからこそ、でも、彼は大きく咳き込んでいて、今もマスクをつけている。

「別に発情を誘発されたりはしないよ。
抑制剤はちゃんと効いてるよ」

俺を落ち着けるように小鳥遊君は言った。

それから「はちみつみたいな焼けるような甘い匂いがするんだよ」と俺に言った。

「それでむせてるの?」

俺が聞くと小鳥遊君はうなずく。
それから俺のうずくまってた隣に座った。

むせる様な匂いが辛くないのだろうか?

「チョコだべる?」

唐突に差し出された。

「これは曽山君専用なんだよ。
他の甘い匂いがするとそれに消されて少しいい気がするのと」


もそもそと小鳥遊君は「他の人間にこの匂いがかがれると思うと気が狂いそうで……」と言った。
俺はちょっと驚いだ。

「いやな匂いじゃない?
例えばカメムシみたいな」
「カメムシからは離れようよ。
そういうんじゃないよ。
むしろいい匂いだ」

ふーん。としか俺には返せなかった。
頭はパンクしそうで。

小鳥遊君は俺にだけ過敏症が出てしまって、そう言えばだから入学式はマスクをしてなくて、俺が好きで。
好き。

「俺も、小鳥遊君の事好きかも……」

今さっき気付いたかもしれないけど。
俺がそういうと小鳥遊君は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「でもさ。
そのむせるやつは治った方がいいよね」

俺は言った。

「まあ、医者も一時的なものだと言ってるから」

こんどこそ俺は自分の袖の匂いをかいだ。
別にはちみつの様な匂いはしない。

貰ったチョコを口に含むとチョコの匂いしかしない。

「マスク大変そうだしね」
「ごめんね。嫌な気持ちにさせた」
「別に……大丈夫」

俺が言うと顔が赤いままの小鳥遊君はようやくほっと息を吐いた。

それから「うん、甘いいい匂い」と言った。

それがもらったチョコレートの匂いだったのか、はちみつの匂いの事だったのか俺にはよくわからない。
だけどその言葉自体が甘ったるい気がして、俺は少し気恥ずかしくなった。



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