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戦友(番外編内三人称です)
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それはグレンにとって、覚悟していた事だった。
自分の価値観と比べればあり得ないことではあったが、それでも予想はできていたし、諦めるつもりもあった。
こんな風に今そんな制度を使う人間がいない、一夫多妻制を持ちだして側室を置く様にと言われるとは思っていなかったが、貴族同士の子を跡取りにとなることは容易に予想ができていたし、グレンは周りから忠告もされていた。
男同士の行為で子供ができる可能性は極端に低い。
シャーリーは奇跡の様な存在なのだとグレンは知っていた。
だから、こうやって側室の話が来ても反対はしなかったのだ。
何も思わなかった訳では無い。けれどこれ以上アルフレートが板挟みになるのを見たく無かったのもグレンにとって紛れもない事実だった。
◆
「何で、なにも言ってくれないんですか。」
ある晩、アルフレートが寝室で掴みかかる勢いでグレンに言った。
「何がだ?」
「……側室の話聞いていない訳じゃ無いでしょう。」
「ああ、その話か。」
アルフレートこそ触れられたくないのだろうとグレンは考えていた。
「貴族には、貴族のルールがあるんだろ?
副長さんだって、親が決めた許嫁がいるって言ってたぞ。」
まあ、俺ら平民にはなじみのないルールだけどな。グレンがそう言うとアルフレートは溜息をついた。
「アンタに出会う前は、俺もそういう人生を送るんだと思ってましたよ。」
吐きだす様にアルフレートは言う。
「誰でもいいとまではいかないですけど、周りが決めた相手と結婚して、跡継ぎを生ませて、それ以外考えた事なんで無かった。」
自嘲をにじませてアルフレートがこぼした言葉でようやく、グレンは自分の胸の奥にあったしこりの様なものがほどけていくのを感じる。
「へえ、どんな女と結婚するつもりだったんだ?」
「戦友になれる人なら、ありがたいなとは思っていたんですよ。」
アルフレートが言うと、グレンはふっと息を吐く様に笑う。
「じゃあ、俺は理想通りってことだな。」
グラスに注がれたウィスキーをあおるとグレンは笑った。
「俺以外の誰かの子が生まれて、それが男でも、万が一俺がまた身ごもってもどうせごたつくんだろうな。」
ニヤリ、戦いの時に見せる表情でグレンが笑った。
「なら俺は、俺がもう一度子供を産む方に賭けたいな。」
グレンはそれだけ言うと、アルフレートはようやく笑顔を浮かべた。
それからお互いが持っていたグラスを置くと、アルフレートは立ち上がってグレンを見下ろした。
アルフレートの手はいつも遠慮がちにグレンに触れる。
それが、結婚前の事が原因だとグレンは良く知っていた。
もう一人子供をと言っているのに、時々見せるそんな様子がグレンにはもどかしかった。
何度も話をしたし、今でもアルフレートは時折、酷く憔悴しきって昔の様にグレンを抱く日もあった。
そんな事は端から承知で結婚したのだ。
「なあ、もし俺とお前が殺し合ったとしてどちらが勝つと思う?」
「なんですか突然。しかもこんな時に。」
「たまにはいいだろ?」
グレンはまるで、今、対面座位で繋がっているなんて事ありませんよ位の気軽さでグレンは言う。
「そりゃあ、多分アンタが勝つでしょう。
間合いに入られたら多分俺では対応不可能でしょうね。」
「まあ、間合いに入る前に対応されれば薙ぎ払われるのは俺だろうけどな。」
言葉遊びなのか何なのか、今しなければならない話なのだろうか、アルフレートは訝し気に囁き声すら聞こえる距離にいる伴侶を見る。
「なあ、セックスは間合いに入らないでできると思うか?」
グレンはアルフレートの腰のあたりに触れていた手を一旦離して、首に、項に、それからアルフレートの金髪を撫でた。
「昔から、殺すつもりがあるんならとっくに殺してるよ。」
いつもより穏やかな声で言われ、アルフレートは思わず瞬きをした。
それから、グレンは膝で自重を支えながら腰を少しだけ上げると、力を抜いた。
アルフレートの怒張がグレンの最奥を貫く。
「あぁっ、あああッ。」
悲鳴にも似た声がグレンからもれた。
快楽に眉根を寄せるアルフレートを満足気に見た。
その愉悦に満ちた表情のまま、グレンは下腹を撫でる。
それは丁度アルフレートが埋められている位置で、愛おしそうに撫でたグレンにアルフレートは舌打ちをした。
「ホント、アンタって人はっ。」
繋がったままベッドに押し倒して、えぐるように穿つ。
のけぞったグレンの首筋にアルフレートは思わず舌を這わせた。
「種付けするんだろ?」
「何で、あんたは一々そういう言い方するんですか!」
押さえつける様にして、アルフレートが腰を打ち付ける。
グレンは快楽に表情を歪ませながら「さあな。」と笑った。
「んっ……一つ言えるのは、ああっ、俺がアルフの事を愛してるって事だけだ。」
アルフレートは思わずグレンに口づける。
段々深くなる口付けと抽送に、もうグレンは喘ぎ声以外の声を出せなくなっていた。
◆
夜半過ぎ、ようやく呼吸が整って、グレンは上半身裸のままベッドにうつ伏せに横になっている。
横にはアルフレートがグレンの髪の毛をそっと撫でていた。
「子供は縁だからな。
まあ、なる様になるだろ。」
「俺は、もう、貴方の子しか欲しくないんです。
だから、済みません。」
それは、これからまだ、周りがうるさくなるだろうことへの早すぎる謝罪だった。
「別に気にすんな。伴侶ってそんなもんだろ。」
けだるげな声ながら、それでもはっきりとグレンは言う。
「愛してます。」
アルフレートの囁く様な声はそれでも、グレンに届く。
「知ってる。」
グレンは笑うと、そのまま瞼を閉じた。
了
お題:R18甘々
自分の価値観と比べればあり得ないことではあったが、それでも予想はできていたし、諦めるつもりもあった。
こんな風に今そんな制度を使う人間がいない、一夫多妻制を持ちだして側室を置く様にと言われるとは思っていなかったが、貴族同士の子を跡取りにとなることは容易に予想ができていたし、グレンは周りから忠告もされていた。
男同士の行為で子供ができる可能性は極端に低い。
シャーリーは奇跡の様な存在なのだとグレンは知っていた。
だから、こうやって側室の話が来ても反対はしなかったのだ。
何も思わなかった訳では無い。けれどこれ以上アルフレートが板挟みになるのを見たく無かったのもグレンにとって紛れもない事実だった。
◆
「何で、なにも言ってくれないんですか。」
ある晩、アルフレートが寝室で掴みかかる勢いでグレンに言った。
「何がだ?」
「……側室の話聞いていない訳じゃ無いでしょう。」
「ああ、その話か。」
アルフレートこそ触れられたくないのだろうとグレンは考えていた。
「貴族には、貴族のルールがあるんだろ?
副長さんだって、親が決めた許嫁がいるって言ってたぞ。」
まあ、俺ら平民にはなじみのないルールだけどな。グレンがそう言うとアルフレートは溜息をついた。
「アンタに出会う前は、俺もそういう人生を送るんだと思ってましたよ。」
吐きだす様にアルフレートは言う。
「誰でもいいとまではいかないですけど、周りが決めた相手と結婚して、跡継ぎを生ませて、それ以外考えた事なんで無かった。」
自嘲をにじませてアルフレートがこぼした言葉でようやく、グレンは自分の胸の奥にあったしこりの様なものがほどけていくのを感じる。
「へえ、どんな女と結婚するつもりだったんだ?」
「戦友になれる人なら、ありがたいなとは思っていたんですよ。」
アルフレートが言うと、グレンはふっと息を吐く様に笑う。
「じゃあ、俺は理想通りってことだな。」
グラスに注がれたウィスキーをあおるとグレンは笑った。
「俺以外の誰かの子が生まれて、それが男でも、万が一俺がまた身ごもってもどうせごたつくんだろうな。」
ニヤリ、戦いの時に見せる表情でグレンが笑った。
「なら俺は、俺がもう一度子供を産む方に賭けたいな。」
グレンはそれだけ言うと、アルフレートはようやく笑顔を浮かべた。
それからお互いが持っていたグラスを置くと、アルフレートは立ち上がってグレンを見下ろした。
アルフレートの手はいつも遠慮がちにグレンに触れる。
それが、結婚前の事が原因だとグレンは良く知っていた。
もう一人子供をと言っているのに、時々見せるそんな様子がグレンにはもどかしかった。
何度も話をしたし、今でもアルフレートは時折、酷く憔悴しきって昔の様にグレンを抱く日もあった。
そんな事は端から承知で結婚したのだ。
「なあ、もし俺とお前が殺し合ったとしてどちらが勝つと思う?」
「なんですか突然。しかもこんな時に。」
「たまにはいいだろ?」
グレンはまるで、今、対面座位で繋がっているなんて事ありませんよ位の気軽さでグレンは言う。
「そりゃあ、多分アンタが勝つでしょう。
間合いに入られたら多分俺では対応不可能でしょうね。」
「まあ、間合いに入る前に対応されれば薙ぎ払われるのは俺だろうけどな。」
言葉遊びなのか何なのか、今しなければならない話なのだろうか、アルフレートは訝し気に囁き声すら聞こえる距離にいる伴侶を見る。
「なあ、セックスは間合いに入らないでできると思うか?」
グレンはアルフレートの腰のあたりに触れていた手を一旦離して、首に、項に、それからアルフレートの金髪を撫でた。
「昔から、殺すつもりがあるんならとっくに殺してるよ。」
いつもより穏やかな声で言われ、アルフレートは思わず瞬きをした。
それから、グレンは膝で自重を支えながら腰を少しだけ上げると、力を抜いた。
アルフレートの怒張がグレンの最奥を貫く。
「あぁっ、あああッ。」
悲鳴にも似た声がグレンからもれた。
快楽に眉根を寄せるアルフレートを満足気に見た。
その愉悦に満ちた表情のまま、グレンは下腹を撫でる。
それは丁度アルフレートが埋められている位置で、愛おしそうに撫でたグレンにアルフレートは舌打ちをした。
「ホント、アンタって人はっ。」
繋がったままベッドに押し倒して、えぐるように穿つ。
のけぞったグレンの首筋にアルフレートは思わず舌を這わせた。
「種付けするんだろ?」
「何で、あんたは一々そういう言い方するんですか!」
押さえつける様にして、アルフレートが腰を打ち付ける。
グレンは快楽に表情を歪ませながら「さあな。」と笑った。
「んっ……一つ言えるのは、ああっ、俺がアルフの事を愛してるって事だけだ。」
アルフレートは思わずグレンに口づける。
段々深くなる口付けと抽送に、もうグレンは喘ぎ声以外の声を出せなくなっていた。
◆
夜半過ぎ、ようやく呼吸が整って、グレンは上半身裸のままベッドにうつ伏せに横になっている。
横にはアルフレートがグレンの髪の毛をそっと撫でていた。
「子供は縁だからな。
まあ、なる様になるだろ。」
「俺は、もう、貴方の子しか欲しくないんです。
だから、済みません。」
それは、これからまだ、周りがうるさくなるだろうことへの早すぎる謝罪だった。
「別に気にすんな。伴侶ってそんなもんだろ。」
けだるげな声ながら、それでもはっきりとグレンは言う。
「愛してます。」
アルフレートの囁く様な声はそれでも、グレンに届く。
「知ってる。」
グレンは笑うと、そのまま瞼を閉じた。
了
お題:R18甘々
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