黄金の鳥が羽ばたくとき

渡辺 佐倉

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昔話

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アルフレート視点



最初にあの人をあの人として認識したのは恐らく騎士団の中の手合わせで自分より大きな男を一撃で沈めている姿を見た時だった。

恐ろしく強くて、それから動きがただ美しいと思った。

「まあ、強くても所詮平民だから。」

貴族出身者が言った。声には明らかに嘲笑が含まれていた。

自分から見てこの中で一番強いのはあの人だ。けれど彼はこれ以上出世することも無いし、誰かの下で使われ続けるということなのだろう。

それは当たり前のことなのにも関わらず苛立っている自分がいた。
他人に対して何か思っても無駄だという事はよく分かっている筈なのにあの人が正当に評価されていない気がして、それが体の内側をざわつかせた。




「なあ、飲みにいかないか?」

何度か確認するように話しかけられたことはあったが、意図がよく分からなかった。
けれど今日かけられた言葉の意味は分かった。

今までかけられた言葉が、貴族に媚びを売る為のものじゃないことは分かっていた。
そもそも媚びを売られたところで買ってやれるだけの地位も権力も持ち合わせてはいないのだ。

だから、違うという事は分かっている。

逆に何故俺という気持ちが無かったわけではないが、それでも二つ返事で了承した。


あのひとは木のジョッキをあおってから俺を見た。

「お前魔獣を倒すの好きだろう。」

それだけ言った。

「人と相対するよりマシでしょう。」

あの人は魔獣を屠る瞬間も美しかった。けれど、多分この人が最も強さを発揮できるのは対人戦だという事をもう知っていた。

「魔獣の方が気が楽か。」
「まあそんなところです。」

そう答えると、あの人は人の悪い表情でニヤリと笑った。

「お前にとっては人間は煩わしいものなのかもなあ。」

そういうとあの人は残っていた酒を喉に流し込んだ。
どういうことですか?と聞き返しても相変わらず人の悪い笑みを浮かべてはぐらかされてしまった。

まもなく俺は昇進してあの人と纏う色が変わった。
それでも、俺の何が気に入ったのか時々二人で飲む様になった。



その日の事はよく覚えていない。

貴族同士の付き合いも、増えていくしがらみも、馬鹿みたいな足の引っ張り合いに付き合わされることも、少しずつ少しずつ関わり合いになりたくないことが増えていた。

魔獣を切り刻んでいる瞬間の方が楽だったのだ。

祝いだと言われ笑っても心の深いところでは何がめでたいのかもよく分かっていなかった。
折角あの人が祝ってくれていたのによく分からなかった。


その日のその後のことは何も思いだせない。

翌朝、妙に体が痛くて、背中が引っかかれたみたいに引き攣れた痛みがあった。
それから自宅の寝室にあの人がいた。
起きた俺を見たあの人は一瞬ひきつった顔をしていて不思議に思った。

けれど、あの人はすぐにいつもの表情に戻ってしまった。

今なら何故あんな顔をしたか分かる。
体の痛みの意味も。
背中の傷があの人が縋った証であったならきちんとあの時確認しておけば良かったと思う位、自分が独善的な人間である事も知っている。



「おい、どうした?」

伴侶であるあの人に声をかけられようやくぼうっと昔の事を思い出していたことに気が付く。

「昔の事を思い出していました。
まだ、自分が今より馬鹿なことばかりしていた時の事を。」
「へえ。
まあ、俺は馬鹿なお前も嫌いじゃないがな。」

まるで見透かしたようにあの人は笑う。
人の悪い昔と変わらない笑みだ。

かなわないなと思う。
多分俺はこの人に一生かなわないのかもしれない。

けれど、それでいいと今は思えた。

END

お題:アルフレート視点で二人の出会い
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