繋がる指先

渡辺 佐倉

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再会

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結局あの人が在学中に話していた、春休みに会おうとか、5月は旅行に行こうとか、そういった話は忙しすぎて無理だった。

5月の連休に、あの人の大学進学後初めて会いに行くことになった。
どこか行きたいところは無いか?と電話で聞かれたがどこと答えることが出来なかった。

そもそも、俺とどこかに行って楽しめるのか分からなかった。
あの人が高校生だった頃、何度か学園の外でデートはしたが、それは閉鎖された学園から解放される時間だったからこそあの人も楽しそうだったのではないかとさえ思えた。

映画の趣味も合わないし、服の趣味も合わないし、カラオケもそんなに好きでは無かった。
ただ、貴方に会えればなんていう馬鹿みたいなセリフを口にできる訳も無く待ち合わせの駅に向かった。

電車を降りて、改札を通って周りを見回すと、あの人はもう着いていた。
目立つ人だ。すぐに見つかった。


向こうも、こちらに気が付いたらしく、軽く手を上げる。
思わず駆け寄ると、そんなに急がなくても大丈夫と笑われた。
相変わらず糸は俺の手とあの人の手の間を繋いている。

一か月ぶりの笑顔を見ただけで泣きそうになるなんて、どうかしている。


俺の持ってきた泊り用の荷物を見てあの人は「とりあえずコインロッカーに荷物入れて遊びに行こうか」と言った。



連れていかれたのは水族館だった。
名前は知っていたが、こんな場所に水族館があるのには驚いた。

いつのまにかチケットを取り出す小西先輩に、自分の分は自分で払うと言おうとしたけれど、そんなの多分お見通しの様で上手くかわされてあれよあれよといううちに入場ゲートを二人で通った。

やや、薄暗い館内で魚を眺める。
熱帯魚は色鮮やかで目を奪われる。

不意に手をとられる。
それが、あの人に手を握られたからだと気が付くのはすぐだった。

「ここ外ですよ。」
「暗いしどうせ周りからは良く見えないよ。」

薄暗いと言っても別に真っ暗では無い。
周りにいる人間の姿かたちはしっかり見えるし、今は連休中だ。人は多い。

だけど、そう思ったこと全てを飲み込んで、握られた手を確認した。
それから、そっと握り返すとあの人は照れたみたいに笑った。

目の前の水槽では紺色をした小さな魚が泳いでいる。
そこだけ水槽が明るくて、水に太陽の光が当たっているみたいでとても綺麗だった。
本当の南の国の海もこんな感じなのだろうか。

親の神社の関係で国外に家族で行くことはまずあり得ない。

そのため国外に行った経験は無いけれど、一度本物のこの小さな魚の泳ぐ海を見てみたいと思った。

「綺麗だね。」
「そうですね。」

ただ二人並んで静かに水槽を眺めてるだけだ。
けれど、小西先輩は歩みを俺に合わせてくれていることも分かっている。
それに、俺がこの紺色の魚を気に入ったこともきっと気が付いている。

「夏休みにでもどっか旅行に行こうか。」
「そうですね。」
「うん、そうだね……って、ホントに一緒にいってくれるの!?」

俺が素直に頷くと思って無かったらしく、とても驚いていた様子だった。
小西先輩は、ニヤニヤとしまりの無い笑顔を浮かべながらとってつけたように次はクラゲだってといって俺の手を引いた。

デートみたいだなと思った。多分口に出して言うと、デートみたいじゃなくてデートだからと怒られそうなので何も言わなかったけれど、今まであまりしたことの無い恋人らしい過ごし方だなと、嬉しかった。


クラゲ水槽の周辺は真っ暗で一面クラゲが漂っていた。
クラゲだけがまるで淡く光っているみたいでまるで別世界に居る様だった。

地面に這う糸が見えない位展示スペースは暗く、水槽以外何も見えないみたいだ。

不意に手を引っ張られ、あの人の胸板に寄り添う格好になった。

「暗いからどうせ誰からも見えないよ。」

耳元で静かに言われ、言い返す事ができなかった。
そのまましばらく二人で、ゆらゆらと揺らめくクラゲを見ていた。



その後、二人で昼食をとってあの人が今一人暮らしをしているというマンションに向かった。
実際案内されるまで、場所もよく知らなかった。

小西先輩が卒業する直前まで、そこで終わりの関係だと思っていた。
だから聞けなかったし、あの人から俺に伝えてくることも無かった。

そのままずるずると聞けずじまいだった場所に二人で向かっている。
もう手は離してしまったけれど、今でも少し汗ばんだあの感触が残ってる様だった。


案内されたマンションンは駅からほど近くとても新しそうだった。
そのまま二人で無言でエレベーターに乗って、4階にあるという小西先輩の部屋へと向かった。

玄関のドアを開け、入る様に促される。
入ったところで、ガシャンという鍵がかかる音が聞こえた。

部屋がどんな感じかを確認する間も無く壁に押し付けられてキスをされる。
久しぶりに触れるあの人の唇は、やはり熱くて意識が全部持ってかれるみたいだった。

着いて早々何やってるんだと、わずかに残った冷静な部分が自分自身に呆れていた。
しかし、それ以上に嬉しくて、嬉しくて、身体が震えた。

息もできない位キスをされて、それからシャツをめくられ脇腹を撫でられた。
慌てて「シャワーだけで浴びさせてください」とだけ伝える。

「んー、聞いてあげたくない。」

聞けそうに無いじゃなくて、聞くつもりが無いと言われおののく。

「でも、ここじゃさすがにしにくいな。」

余裕がなさそうに言われ、もう一度キスをしてそれから二人で足をもつれさせながら靴を脱いで、抱えられるようにして寝室に行く。

汗をかいている筈だとか分かっていたし、嫌じゃないと言ったら嘘になるけれど、それでもあの人の欲情した顔をみたら仕方がないと思った。
多分自分も同じような表情をしている筈だ。

着ている服を脱ぐのももどかしくて、二人して馬鹿みたいに荒い息をして一分一秒でも早く触れ合いたくてたまらない。

腕をベッドに縫い止められる。
そのまま目があう。

欲しくて欲しくてたまらないという酷い顔をしていた。
でも、その顔は嫌いじゃなかった。

「もう、とっとと入れて欲しい……。」

我慢できなかった。
自分の体は準備をしないと受け入れることさえ難しいとわかっているのに何でもいいから早く繋がりたかった。

あの人が舌打ちをする。
それでも、ローションをこれでもかというほど垂らして、指で中を緩められる。

気持ちばかり急いて、もうなんでもいいから入れてくれ!と叫び出したい気持ちになる。

いつもよりかなりおざなりな前戯なのに、体は歓喜に震えて、起立からはだらだらと先走りを垂らしている。
あの人のそれも馬鹿みたいに膨らんでいて、切っ先をあてがった。

入ってきた瞬間感じたのは少しばかりの痛みとそれを凌駕する快感で、思わず我を忘れて声を上げる。
抱きこまれた体からはもうあの人の匂いしかしない気がした。

俺の息が整う前に、あの人の腰が動き初めて喉の奥から声がもれる。

快感を逃そうと息を吐くと、そこを狙いすました様に腰を打ち付けられる。

「アぁあっ…、やっぅぁッ。」

声を上げるとそのままパンパンと音が立つ位腰を打ち付けられる。
頭の中はもうぐちゃぐちゃで気持ちいいと好き以外考えられなくなった。



「腰が痛い……。」

昨日無茶をした自覚はあった。
あの後もそれこそ何度もして、どろどろに疲れてそのまま眠ってしまい、結局なんとか起き上がったのは翌朝だった。

小西先輩は俺のよこで腰をさすってくれてはいるが、表情がニヤニヤと笑っていてしまりが無い。
けれど、明らかにぐちゃぐちゃだった筈の体は綺麗に清められていて、昨日俺が意識を飛ばした後、後片付けをしてくれたことが分かる。

「今日は一日ゆっくり過ごそうか。ご飯作って一緒に食べて、その後DVDでも見ようか。」

体中がきしんで碌に動けそうにない俺は、ただうなずく他無かった。

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