【短編集】恋人になってくれませんか?※追加更新終了

鈴宮(すずみや)

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6.ポンコツ魔女の惚れ薬が予想外に効果を発揮した件について

2.

 翌日はわたしもキース様もお休みだった。見習い魔女のわたしたちには週に二度お休みがある。けれど、騎士であるキース様のお休みは不定期な上に少なくて、こうして二人そろって休日って日は向こう一か月近くない。薬の効果を持続させたくて、思い切ってデートに誘ったわたしを、キース様は優しく受け入れてくれた。


(キスはダメだったのに)


 そう思うけど、休みの日でもキース様に会えることが、わたしは嬉しくて堪らなかった。


「ハナ、お待たせ」


 そう言ってキース様はわたしのことを抱き締めてくれる。それだけでもヤバいのに、私服のキース様を見るのは初めてで、わたしの心臓はお祭り状態だった。


(印象、違う! めちゃくちゃカッコいい!)


 普段の品行方正な着こなしとは違って、キース様は若者らしいラフな服装に身を包んでいる。少し開いた胸元とか、裾の長めの上着とか、ダボっとしたズボンとか、普段のきっちりした騎士装束とのギャップがすごい。でも、それがとっても似合っていて、わたしの瞳は釘付けだ。


「……似合ってる?」


 キース様がそんなことを尋ねるから、わたしはコクコクッて大きく頷いた。


(やっぱり薬を作って良かった)


 昨日と正反対のことを思いながら、わたしはキース様と手を繋ぐ。
 だって、薬が無かったら、こんな風にキース様と手を繋ぐ日なんて訪れなかった。彼の私服姿を見ることなんて、一生叶わなかったに違いない。


「ハナも、すっごく可愛いよ」


 キース様はそう言って穏やかに微笑んでくれた。底知れない幸福感に、心が震えた。


 けれど、幸福な日々はそう長くは続かない。


「キース」


 翌日の昼休み、わたしがキース様に声を掛けようとしたほんの少し前のこと。凛とした美しい声が練武場に響いた。


「姫様」


 キース様はそう言って、恭しく頭を垂れた。
 まるで絵に描いたような神々しい光景。その場にいる誰もが見惚れる美しさだった。
 この王国唯一の後継者、姫君であるマリア様は、騎士たちだけでなく、わたしたち魔女見習いにとっても憧れであり、唯一無二の護るべきお方だ。
 彼女を守り支えるために、わたしたち魔女や魔法使いは城に集められ、魔法を学ぶ。それが国の決まりだった。


「どうしたの? 最近、全然会いに来てくれないじゃない」

「申し訳ございません。不義理を働くつもりは無かったのですが。なぁ、ケン」


 キース様はそう言って、隣の騎士と顔を見合わせる。彼はよくキース様と一緒にいる、ケネスというわたしの同期だ。ワンコみたいな柔らかい髪の毛に、可愛らしい顔をした、弟みたいな男の子で。騎士というより文官向きなタイプだけど、魔力が強かったから騎士見習いとして採用されたらしい。


「寂しかったのよ。あなた達が来てくれないと、お喋りする相手もいないんだもの」


 そう言ってマリア様は、キース様の肩へ手を伸ばした。


(あっ……)


 止めて。キース様に触らないで。
 そう言いかけて、わたしは必死に口を噤んだ。
 マリア様はこの国の姫君で。誰よりもお美しい方で。
 それから――――キース様の婚約者だった。


(止めてって言われるべきはわたしの方だ)


 惚れ薬を使ってキース様の気持ちを操って、マリア様に寂しい思いをさせた。反逆者とみなされてもおかしくない程の、あってはならない行為。
 恋してはいけない人だった。そうと分かっていたのに、いつの間にかどうしようもない位、キース様が好きになっていた。


(だって、わたしを――――わたしの魔法を認めてくれたのは、キース様だけだったから)


***

 わたしの母親は、とても優秀な魔女だった。
 今は引退した先代国王に仕え、戦火から国を守った英雄で。だからこそ、その娘であるわたしには多大な期待が寄せられていた。
 けれど、蓋を開けてみれば、わたしは簡単な魔法すらまともに発動させることのできないポンコツで。周囲の落胆ぶりは火を見るより明らかだった。


(実家では自分を『落ちこぼれ』だなんて思うことなかったのにな)


 母は小さな魔法でも、成功するたびに手を叩いて褒めてくれたし、今みたいに上手く魔法が発動しない、なんてことは無かった。息を吸うみたいに自然に、魔法を奏でられていた。
 そんなわたしがキース様と出会ったのは、皆と行った実習先でのこと。そこでもわたしは、指導役の魔女が命じたとおりの魔法を出すことが出来なくて。一人で居残り演習をしていた。


「何をしているの?」


 そんなわたしに声を掛けてきたのがキース様だった。
 一人じゃ危ないからって、キース様はわたしの側にいてくれた。事情を話すのは恥ずかしいし勇気が必要だったけれど、キース様は優しく受け止めてくれた。
 正直言ってこの時期、わたしは魔法が好きじゃ無くなっていた。楽しくないし、寧ろ苦痛で。だけど背を向けるのも嫌で、一人泣きながら練習していたんだけど。


「ハナは偉いね」


 キース様は、そんなわたしを丸ごと受け止めてくれた。同じ見習い魔女たちに同じことを言ってたら、きっと顰蹙を買っていただろう。けれど、キース様はわたしの気持ちを否定しなかった。それどころか、「俺は君の魔法が好きだよ」って言ってくれて、わたしは涙が止まらなかった。
 その日からわたしは、キース様のことが好きだった。
 ずっとずっと、好きだった。
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