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23.呪われ公爵は愛せない
7.(END)
(苦しい)
胸が締め付けられるような心地。息苦しさに涙が出る。
「ハルリー!」
アンブラがハルリーに追いついたのは、彼女の私室に差し掛かった時だった。
「アンブラ様」
目尻をそっと拭い、ハルリーは微笑む。けれど、その表情には深い悲しみが滲み出ていた。
「先程は大変失礼いたしました。急に体調を崩すなんて……見苦しい所をお見せして、申し訳ございません。少し休めば良くなると思いますので、どうかこのまま」
肩を震わせ、気丈に振る舞う。あまりにも意地らしいその姿に、アンブラは思わず手を伸ばした。
「すまなかった!」
華奢な身体を強く抱き締める。甘く温かな香り。己がどれ程ハルリーを渇望していたのか、深く深く実感する。
「アンブラ様、わたくしは…………」
ハルリーの言葉は続かない。
(もう遅いのかもしれない)
既に彼女の心は離れ、この状況を不快に思っているのかもしれない。けれどアンブラには、ハルリーを放してやることが出来なかった。腕に力を込めながら、アンブラは肩を震わせる。
「俺は、君のことを不幸にするかもしれない」
胸に巣食う大きな不安。それが消え去ることは、きっと一生無いだろう。
(それでも)
跪き、恭しくハルリーの手を握る。ハルリーの大きな瞳がアンブラを見下ろし、キラキラと揺れる。
「それでも、俺の側に居てもらえないだろうか?」
心からの懇願。ハルリーは目を見開き、それからゆっくりと細めた。
「わたくしが、アンブラ様の側を離れることはありません。
…………離婚なんて嫌です。絶対、嫌」
握り返された手のひら。二人の薬指には夫婦の証たる指輪が光る。
「だってわたくし、アンブラ様のことを愛していますもの。お側に居られるだけで幸せですもの。
真面目で、誠実で、不器用で、本当はとても温かい人。人一倍、愛情に篤い人。
わたくしが深く傷つくこと、危険を恐れて、遠ざけるようにしていらっしゃったのでしょう?」
「……リヒャルトに聞いたのか?」
ハルリーはコクリと頷く。それからいつものように微笑むと、アンブラを優しく包み込んだ。
「愛してほしいとは申しません。幸せにしてほしいとも。
けれど、わたくしがアンブラ様を愛することをお許しください。どうか、側に居させて」
「どうして君は……?」
「そんなの、夫婦だから、で十分じゃありませんか」
当然のように言い放たれたその言葉が、ストンと胸に落ちる。
(そうか)
夫婦だから側に居る。相手を愛そうと努力する。あまりにも単純な話だ。
「それに、アンブラ様はご存じないかもしれませんが、わたくしはあなたと一緒に居られたら、それだけで幸せなんです! 魔女の呪いなんかより、わたくしの幸せの方がずっとずっと大きい。だから、まかり間違ってアンブラ様がわたくしを愛してしまったとしてもきっと大丈夫です!」
「まかり間違って……って君…………」
ふふっ、とアンブラの口から笑い声が漏れ出る。
「そうだね」
額に、こめかみに、触れるだけのキスをする。ヒャッ!と頬を真っ赤にしたハルリーに、アンブラは愛しさが込み上げる。初めて感じる胸の高鳴り。目を瞑ってみても、暗闇はいつもの様に、ハルリーのことを蝕みはしない。触れて、口付けて、何度も何度も確かめる。とても、穏やかな気持ちだった。
「ハルリー、最初の約束を違えても良いだろうか?」
君を愛することは無い――――そんなことは無理そうだ――――
アンブラが耳元でそんなことを囁く。
「もちろん!」
ハルリーはそう言って、満面の笑みを浮かべるのだった。
胸が締め付けられるような心地。息苦しさに涙が出る。
「ハルリー!」
アンブラがハルリーに追いついたのは、彼女の私室に差し掛かった時だった。
「アンブラ様」
目尻をそっと拭い、ハルリーは微笑む。けれど、その表情には深い悲しみが滲み出ていた。
「先程は大変失礼いたしました。急に体調を崩すなんて……見苦しい所をお見せして、申し訳ございません。少し休めば良くなると思いますので、どうかこのまま」
肩を震わせ、気丈に振る舞う。あまりにも意地らしいその姿に、アンブラは思わず手を伸ばした。
「すまなかった!」
華奢な身体を強く抱き締める。甘く温かな香り。己がどれ程ハルリーを渇望していたのか、深く深く実感する。
「アンブラ様、わたくしは…………」
ハルリーの言葉は続かない。
(もう遅いのかもしれない)
既に彼女の心は離れ、この状況を不快に思っているのかもしれない。けれどアンブラには、ハルリーを放してやることが出来なかった。腕に力を込めながら、アンブラは肩を震わせる。
「俺は、君のことを不幸にするかもしれない」
胸に巣食う大きな不安。それが消え去ることは、きっと一生無いだろう。
(それでも)
跪き、恭しくハルリーの手を握る。ハルリーの大きな瞳がアンブラを見下ろし、キラキラと揺れる。
「それでも、俺の側に居てもらえないだろうか?」
心からの懇願。ハルリーは目を見開き、それからゆっくりと細めた。
「わたくしが、アンブラ様の側を離れることはありません。
…………離婚なんて嫌です。絶対、嫌」
握り返された手のひら。二人の薬指には夫婦の証たる指輪が光る。
「だってわたくし、アンブラ様のことを愛していますもの。お側に居られるだけで幸せですもの。
真面目で、誠実で、不器用で、本当はとても温かい人。人一倍、愛情に篤い人。
わたくしが深く傷つくこと、危険を恐れて、遠ざけるようにしていらっしゃったのでしょう?」
「……リヒャルトに聞いたのか?」
ハルリーはコクリと頷く。それからいつものように微笑むと、アンブラを優しく包み込んだ。
「愛してほしいとは申しません。幸せにしてほしいとも。
けれど、わたくしがアンブラ様を愛することをお許しください。どうか、側に居させて」
「どうして君は……?」
「そんなの、夫婦だから、で十分じゃありませんか」
当然のように言い放たれたその言葉が、ストンと胸に落ちる。
(そうか)
夫婦だから側に居る。相手を愛そうと努力する。あまりにも単純な話だ。
「それに、アンブラ様はご存じないかもしれませんが、わたくしはあなたと一緒に居られたら、それだけで幸せなんです! 魔女の呪いなんかより、わたくしの幸せの方がずっとずっと大きい。だから、まかり間違ってアンブラ様がわたくしを愛してしまったとしてもきっと大丈夫です!」
「まかり間違って……って君…………」
ふふっ、とアンブラの口から笑い声が漏れ出る。
「そうだね」
額に、こめかみに、触れるだけのキスをする。ヒャッ!と頬を真っ赤にしたハルリーに、アンブラは愛しさが込み上げる。初めて感じる胸の高鳴り。目を瞑ってみても、暗闇はいつもの様に、ハルリーのことを蝕みはしない。触れて、口付けて、何度も何度も確かめる。とても、穏やかな気持ちだった。
「ハルリー、最初の約束を違えても良いだろうか?」
君を愛することは無い――――そんなことは無理そうだ――――
アンブラが耳元でそんなことを囁く。
「もちろん!」
ハルリーはそう言って、満面の笑みを浮かべるのだった。
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