16 / 34
4.あなたに拒否権はありません
2.
「あ、あの?」
「アレクシスです」
「え? アレクシスって……王弟殿下ですか?」
アレクシスがコクリとうなずく。だとしたら、絶対に初対面だ。こんなふうに抱きしめられるような関係ではない。けれど、オロオロするカレンの耳元でアレクシスが「会いたかった」と何度も何度もささやいている。
「アレクシス殿下、もしかして見つかったのですか?」
と、誰かが声をかけてきた。アレクシスは顔を上げないまま、何度もうなずく。その瞬間、ワッと小さな歓声が上がった。
「よかった……もうダメかと思った」
「まさか本当に見つかるとは」
それらはすべて男性の声だったので王室関係者の声だとカレンは察する。
(一体なにが……)
「殿下から離れなさい、カレン」
すると、ドーラがカレンに声をかけてきた。
アレクシスはカレンを自分の腕に囲いつつ、ドーラへと向き合う。
「君は?」
「お初にお目にかかります、アレクシス殿下。わたくしはそちらの女性、カレンの妹のドーラと申します」
「なるほど、おまえが」
アレクシスはそう言って静かにドーラを睨みつけた。その途端、会場にビリビリと緊張感が漂い、令嬢たちが恐怖で身をすくませる。初対面だというのに明確な敵意を向けられたドーラはというと、戸惑いつつもアレクシスににじり寄った。
「殿下はどうしてカレンをご存知なのでしょう? こういってはなんなのですが、姉は大層な引きこもりで、我が家の人間以外との接触が殆どありませんでした。大変恐れながら申し上げますと、人違いだと思いますの」
ドーラはそう言って、そっとカレンの腕に触れ、自分のほうに引き寄せようとする。が、アレクシスはドーラを突き飛ばすと、ゆっくりと大きく息をついた。
「そんなこと、おまえには関係がないだろう」
「え? だって、その……」
「カレン様を虐げてきたのはおまえだな?」
アレクシスはドーラの顎をグイッと掴み、氷のような瞳で見下ろす。
「そ、んな……虐げただなんて」
「カレン様は細すぎる。肌や髪の状況から鑑みても、きちんと食事ができていないのは明らかだ。それに、良家の子女だと言うのにまともなドレスも与えられていない。おまえのドレスは贅を尽くしたものだというのにおかしな話だ」
「それは、その……」
ドーラの目が泳ぐ。アレクシスは手にギリリと力を込めた。
「許さない。よくもカレン様をそんな目に合わせたな」
アレクシスの激しい怒りに、その場にいた人間が全員震え上がる。カレンはというと、アレクシスを見つめながら戸惑いを深めていた。
(一体どうしてアレクシス殿下はこんなに怒っているの?)
確かにカレンは家族から虐げられているかもしれない。けれど、初めて会った女性のために、こんなにも激怒する男性はそういないだろう。というより、これ以上はドーラが可哀想だ。
「殿下、私は大丈夫ですから、もう……」
「大丈夫じゃありません!」
アレクシスはそう言うと、立ち上がってカレンをギュッと抱きしめた。
「あなたはまったく……そうやっていつも自分を犠牲にしようとする。私がそれを、どれほど悔しく思っていたか」
「ええ? えっと、あの――」
カレンが首を傾げる。幼少期から今までの記憶を必死で手繰り寄せてみたものの、やっぱりアレクシスと会った覚えはない。屋敷の使用人や客人たちに似たような男性がいなかったか考えてみても、絶対に違うと言いきれた。
「申し訳ございません。先程申し上げたとおり、私と殿下はこれが初対面だと思うのです」
カレンの言葉にアレクシスがピタリと止まる。彼は瞳を潤ませつつ「いいんです」と言ったかと思うと、カレンを強く抱きしめ直した。
「覚えてなくても構いません。けれど私は、ずっとあなたに会いたかった。どうしても、カレン様の願いを叶えたかったんです。そのために生まれてきたんです」
「私の願い?」
願い事なんて一度もしたことがないと首を傾げるカレンに小さく笑ったあと、アレクシスは真剣な表情を浮かべた。
「今の私には力がある。あなたが望まずとも――たとえあなたに「やめろ」と命令をされようとも、あなたを救うことができます。私はもう、あなたの命令には従いません。思うがまま行動させていただきます」
アレクシスはそう言って、床にしゃがみこんだままのドーラのもとへと向かう。ドーラは「ヒッ」と声を上げながら後ずさった。
「カレン様に辛い思いをさせた報いは必ず受けてもらう。おまえも、おまえの両親も無事では済まない。覚悟しておくといい」
「あっ……あぁ……」
ドーラが恐怖で泣き崩れると同時に、アレクシスがニコリと笑う。カレンはどう反応したらいいのかわからないまま、その場に立ち尽くした。
「アレクシスです」
「え? アレクシスって……王弟殿下ですか?」
アレクシスがコクリとうなずく。だとしたら、絶対に初対面だ。こんなふうに抱きしめられるような関係ではない。けれど、オロオロするカレンの耳元でアレクシスが「会いたかった」と何度も何度もささやいている。
「アレクシス殿下、もしかして見つかったのですか?」
と、誰かが声をかけてきた。アレクシスは顔を上げないまま、何度もうなずく。その瞬間、ワッと小さな歓声が上がった。
「よかった……もうダメかと思った」
「まさか本当に見つかるとは」
それらはすべて男性の声だったので王室関係者の声だとカレンは察する。
(一体なにが……)
「殿下から離れなさい、カレン」
すると、ドーラがカレンに声をかけてきた。
アレクシスはカレンを自分の腕に囲いつつ、ドーラへと向き合う。
「君は?」
「お初にお目にかかります、アレクシス殿下。わたくしはそちらの女性、カレンの妹のドーラと申します」
「なるほど、おまえが」
アレクシスはそう言って静かにドーラを睨みつけた。その途端、会場にビリビリと緊張感が漂い、令嬢たちが恐怖で身をすくませる。初対面だというのに明確な敵意を向けられたドーラはというと、戸惑いつつもアレクシスににじり寄った。
「殿下はどうしてカレンをご存知なのでしょう? こういってはなんなのですが、姉は大層な引きこもりで、我が家の人間以外との接触が殆どありませんでした。大変恐れながら申し上げますと、人違いだと思いますの」
ドーラはそう言って、そっとカレンの腕に触れ、自分のほうに引き寄せようとする。が、アレクシスはドーラを突き飛ばすと、ゆっくりと大きく息をついた。
「そんなこと、おまえには関係がないだろう」
「え? だって、その……」
「カレン様を虐げてきたのはおまえだな?」
アレクシスはドーラの顎をグイッと掴み、氷のような瞳で見下ろす。
「そ、んな……虐げただなんて」
「カレン様は細すぎる。肌や髪の状況から鑑みても、きちんと食事ができていないのは明らかだ。それに、良家の子女だと言うのにまともなドレスも与えられていない。おまえのドレスは贅を尽くしたものだというのにおかしな話だ」
「それは、その……」
ドーラの目が泳ぐ。アレクシスは手にギリリと力を込めた。
「許さない。よくもカレン様をそんな目に合わせたな」
アレクシスの激しい怒りに、その場にいた人間が全員震え上がる。カレンはというと、アレクシスを見つめながら戸惑いを深めていた。
(一体どうしてアレクシス殿下はこんなに怒っているの?)
確かにカレンは家族から虐げられているかもしれない。けれど、初めて会った女性のために、こんなにも激怒する男性はそういないだろう。というより、これ以上はドーラが可哀想だ。
「殿下、私は大丈夫ですから、もう……」
「大丈夫じゃありません!」
アレクシスはそう言うと、立ち上がってカレンをギュッと抱きしめた。
「あなたはまったく……そうやっていつも自分を犠牲にしようとする。私がそれを、どれほど悔しく思っていたか」
「ええ? えっと、あの――」
カレンが首を傾げる。幼少期から今までの記憶を必死で手繰り寄せてみたものの、やっぱりアレクシスと会った覚えはない。屋敷の使用人や客人たちに似たような男性がいなかったか考えてみても、絶対に違うと言いきれた。
「申し訳ございません。先程申し上げたとおり、私と殿下はこれが初対面だと思うのです」
カレンの言葉にアレクシスがピタリと止まる。彼は瞳を潤ませつつ「いいんです」と言ったかと思うと、カレンを強く抱きしめ直した。
「覚えてなくても構いません。けれど私は、ずっとあなたに会いたかった。どうしても、カレン様の願いを叶えたかったんです。そのために生まれてきたんです」
「私の願い?」
願い事なんて一度もしたことがないと首を傾げるカレンに小さく笑ったあと、アレクシスは真剣な表情を浮かべた。
「今の私には力がある。あなたが望まずとも――たとえあなたに「やめろ」と命令をされようとも、あなたを救うことができます。私はもう、あなたの命令には従いません。思うがまま行動させていただきます」
アレクシスはそう言って、床にしゃがみこんだままのドーラのもとへと向かう。ドーラは「ヒッ」と声を上げながら後ずさった。
「カレン様に辛い思いをさせた報いは必ず受けてもらう。おまえも、おまえの両親も無事では済まない。覚悟しておくといい」
「あっ……あぁ……」
ドーラが恐怖で泣き崩れると同時に、アレクシスがニコリと笑う。カレンはどう反応したらいいのかわからないまま、その場に立ち尽くした。
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました
masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。
エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。
エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。
それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。
エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。
妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。
そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。
父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。
釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。
その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。
学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、
アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。