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【2章】伯爵家執事レヴィの場合
11.全てを失うぐらいなら(2章最終話)
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レヴィの心臓がドクンドクンと鳴り響く。
扉の向こうには今、ずっと渇望していた存在――――アリスが居る。ほんの数ヶ月の間に痩せ細り、今にも崩れ落ちそうなアリスが。そう思ったその瞬間、レヴィの胸が強く軋んだ。
(早く……早くお嬢様を部屋に戻さなければ)
先ほどの様子を鑑みるに、立っているのもやっとだろう。
前回とは全く違う理由で、レヴィはアリスを帰そうと誓う。
「お嬢様、早くお部屋にお戻りにならないと、お身体が……」
「心配させてごめんなさい。私は大丈夫よ。
それに、ドアを開けてくれなくても良いの。私、レヴィに話を聞いてほしかっただけだから」
すぐに弱々しい答えが返ってきた。けれど、レヴィにはとても大丈夫なようには聞こえない。心配だった。アリスのことが、あまりにも。
(しかし……)
今はアリスが望むなら、どんな願いでも叶えてやりたい。
しばらく迷った末、レヴィは「承知しました」と答えた。
「――――お父様から既に聞いてると思うんだけど……私、失敗しちゃった。夫に嫌われちゃったの」
『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』
『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』
『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』
話の内容とは裏腹に、アリスの声はひどく明るい。気丈に振る舞っているが、声がかすかに震えていた。彼女が今、とても無理をしていることが――――アリスの深い悲しみが伝わってくる。切なさのあまり、レヴィは胸を掻きむしりたくなった。
「自分なりに頑張ったのよ? ちゃんと夫婦になろうって。たとえ契約結婚になったとしても、お飾りの妻としての務めを果たせるように良好な関係を築こうって思ったの。
だけど、夫は私の全てが気に食わないみたいで……。ごめんね、レヴィは私に幸せになってほしいって願ってくれていたのに」
(悔しい)
アリスにこんな言葉を言わせてしまったことが。
アリスに辛い思いをさせたことが。
もしもあの夜、レヴィが彼女の想いに応えていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのに――――レヴィは眉間に皺を寄せながら、壁をドンと強く殴った。
「お嬢様は何一つ悪くありません! 悪いのは……悪いのは全て私です! 私が、貴女の願いを叶えなかったから……だから」
「レヴィは何も悪くないわ」
アリスの声がレヴィを優しく包み込む。扉で遮られて見えないが、彼女はきっと穏やかに微笑んでいるのだろう。あまりの温かさにレヴィは目を見開き、それから胸をギュッと押さえた。
「嫁いでみて分かったの。全部、レヴィの言うとおりだった。
もしもあのとき、レヴィが私を連れて逃げ出していたら、お父様やお母様、領地のみんなに恐ろしいほど迷惑をかけてしまったと思う。私、現実が見えていなかったのよね。本当、世間知らずのお嬢様だったんだって思い知ったわ」
「お嬢様……」
レヴィの心境は複雑だった。
アリスにはいつも夢と理想の詰まった世界で生きてほしいと思っていた。そういられるよう、心を尽くしてきた。社会や現実の闇や汚い部分からとことん遠ざけ、綺麗な部分だけを見せてきたのだ。
その結果、アリスはレヴィと生きる未来を望んだ。それが間違っていたとは思わない。
しかし、アリスは侯爵との結婚をとおして現実を知った。無理やり、一番つらい形で突きつけられた。
今のアリスは、レヴィが知っていた頃のアリスとは違う。彼女は本当の意味で大人になったのだ。
それを素直に喜ぶことができない――――そんな現状があまりにも辛かった。
「だからこそ……だからこそ私、怖いの。これから私を待ち受けている未来が見えて、とても怖い」
やがて、アリスのすすり泣きが聞こえてくる。レヴィは静かに息を呑んだ。
「お母様のおかげでこうして領地に帰ってこれたけど、夫はいずれ私のことを連れ戻しに来るわ。貴族の妻がいるという事実を作るために政略結婚をしたのだもの。当然だって分かってる。
だけど、ごめんなさい!
私……私は、冷たくて暗いあの部屋に一人で帰りたくない。誰にも存在を忘れ去られて、生きているのか死んでいるかも分からないような状態で、寂しく一生を過ごしたくないの! 誰にも愛されることなく、あの部屋でたった一人で死ぬぐらいなら、私は……私はもう! もう……」
「私が貴女を愛します!」
レヴィはもう、我慢できなかった。
「これまでも、これからも、ずっとずっと……貴方のことを愛しています。愛し続けます」
扉を開け、アリスを中へと引き込み、細く小さな体を力強く抱き締める。
『生きていたくない』
そんな悲しい言葉を、レヴィはどうしてもアリスに言わせたくなかった。
身分の違いがなんだ。倫理観がどうした。
そんなものより、アリスの心が、身体が、命が、レヴィには何よりも大事だった。
彼女を守るためならば、たとえ世間から後ろ指をさされようと、地獄に落ちようとも、悪魔に全てを売り払っても構わない。
命を落とすならば共に――――決して一人では行かせない。
覚悟は決まった。
レヴィはもう止まることも、振り返ることもしない。
「お嬢様――――私の愛しい、アリス様……」
レヴィがアリスに触れる。頬に、額に、唇に、首筋に口づけながら、彼は愛を囁く。
「貴女には私が居ます。もう決して離れはしません」
指を、視線を絡め、二人もつれ合うようにしてベッドに沈む。熱い吐息が狭い部屋に木霊し、部屋をしっとりと温める。
「レヴィ……レヴィ」
アリスはずっと泣いていた。それは嬉しさ故か、悲しさ故か、はたまた背徳感故かは分からない。
けれど、ほんの少しでも良い。彼女の心が軽くなれば――――救われてほしいとレヴィは切に願う。
「愛しています、アリス様」
月が満ちる。闇夜に静かに沈んでいく。
その夜、レヴィの部屋の扉が再び開くことはなかった。
***
それから数日後、アリスを返せという催促の手紙が侯爵から届いた。
伯爵はアリスが侯爵と離婚できるよう話し合いの場を設けたのだが、話が全く折り合わない。
権力をチラつかせられ、事業や領民たちを人質にされてしまい、離婚は不可能だという結論に持っていかれてしまう。
「――――私、帰るわ」
アリスの言葉に、伯爵が息を呑み、首を横に振る。
「家のことは気にしなくて良いんだ! 今更かもしれないが、私はアリスに幸せになってほしい! 自ら不幸になる必要なんて……」
「大丈夫よ」
穏やかに微笑みながら、アリスは言う。
「私は今、幸せだもの。二度と不幸になんてならないわ。夫がその気なら、こちらも存分に利用させていただくだけ。あちらから提示された条件に乗っかろうと思うの。良いでしょう、お父様?」
アリスの視線を辿りながら、伯爵は静かに目を見開く。
(本当にそれで良いのだろうか?)
これは大きな賭けだ。
葛藤がないわけではない。
他に道はないのだろうか。下手をすれば、全てを失う羽目になるのではないか、と。
けれど今はアリスの笑顔を、幸せを第一に考えたい。
―――それから伯爵はとても微かに頷いた。
***
「ようやく帰ってきたのか、世間知らずなお嬢様」
それは聞いているだけで心が凍てつくような声音だった。
アリスは静かに頭を下げ、何も返事をせずにいる。下手に返答すれば、侯爵がさらに難癖をつけるからだろう。しかし、返事をしないこともまた焦れる要素らしく、彼はフンと鼻を鳴らした。
「本当にふてぶてしい女だな。君みたいな女と形だけでも結婚をしなければならない僕の身にもなってほしいものだ。おまけに愛情まで求められるとは……」
「そんなもの、無用の長物ですわ」
「はぁ?」
侯爵は馬鹿にしたように笑いながら、アリスの顔を覗き込む。クックッと喉を鳴らしつつ、彼は愉悦に満ちた表情を浮かべた。
「おいおい、無理をするな。あんなにもしおらしく打ちひしがれていたくせに、急にどうしたんだ? 君はみっともなく、僕からの愛情を求めていたらそれで良い。そんなもの、一生手には入らないが――――」
「要りません、と申し上げましたわ。だって私、本当は最初から、貴方の愛なんて欲していなかったんですもの」
あまりにも思いもよらない返答だったのだろう。侯爵は大いに動揺し、眉間にシワを寄せている。
アリスはそっと瞳を細めた。
「『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』
『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』
『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』
――――そう仰っていましたわね。ですから、連れて参りました。私を愛し、世話をし、共に居てくれる人を」
これまでに見せたことのない表情でアリスが笑う。彼女の視線の先には、黒髪の――――自身よりも数段美しい男性が控えていて、侯爵は静かに息を呑んだ。
「はじめまして、旦那様。本日より、奥様のために伯爵家から参りました。レヴィと申します。以後お見知りおきを」
アリスの幸せはレヴィが必ず守り抜く。
たとえ、どんな結果になろうとも。
一人より、二人で――――。
レヴィは不敵に笑いつつ、アリスの手をギュッと握った。
扉の向こうには今、ずっと渇望していた存在――――アリスが居る。ほんの数ヶ月の間に痩せ細り、今にも崩れ落ちそうなアリスが。そう思ったその瞬間、レヴィの胸が強く軋んだ。
(早く……早くお嬢様を部屋に戻さなければ)
先ほどの様子を鑑みるに、立っているのもやっとだろう。
前回とは全く違う理由で、レヴィはアリスを帰そうと誓う。
「お嬢様、早くお部屋にお戻りにならないと、お身体が……」
「心配させてごめんなさい。私は大丈夫よ。
それに、ドアを開けてくれなくても良いの。私、レヴィに話を聞いてほしかっただけだから」
すぐに弱々しい答えが返ってきた。けれど、レヴィにはとても大丈夫なようには聞こえない。心配だった。アリスのことが、あまりにも。
(しかし……)
今はアリスが望むなら、どんな願いでも叶えてやりたい。
しばらく迷った末、レヴィは「承知しました」と答えた。
「――――お父様から既に聞いてると思うんだけど……私、失敗しちゃった。夫に嫌われちゃったの」
『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』
『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』
『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』
話の内容とは裏腹に、アリスの声はひどく明るい。気丈に振る舞っているが、声がかすかに震えていた。彼女が今、とても無理をしていることが――――アリスの深い悲しみが伝わってくる。切なさのあまり、レヴィは胸を掻きむしりたくなった。
「自分なりに頑張ったのよ? ちゃんと夫婦になろうって。たとえ契約結婚になったとしても、お飾りの妻としての務めを果たせるように良好な関係を築こうって思ったの。
だけど、夫は私の全てが気に食わないみたいで……。ごめんね、レヴィは私に幸せになってほしいって願ってくれていたのに」
(悔しい)
アリスにこんな言葉を言わせてしまったことが。
アリスに辛い思いをさせたことが。
もしもあの夜、レヴィが彼女の想いに応えていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのに――――レヴィは眉間に皺を寄せながら、壁をドンと強く殴った。
「お嬢様は何一つ悪くありません! 悪いのは……悪いのは全て私です! 私が、貴女の願いを叶えなかったから……だから」
「レヴィは何も悪くないわ」
アリスの声がレヴィを優しく包み込む。扉で遮られて見えないが、彼女はきっと穏やかに微笑んでいるのだろう。あまりの温かさにレヴィは目を見開き、それから胸をギュッと押さえた。
「嫁いでみて分かったの。全部、レヴィの言うとおりだった。
もしもあのとき、レヴィが私を連れて逃げ出していたら、お父様やお母様、領地のみんなに恐ろしいほど迷惑をかけてしまったと思う。私、現実が見えていなかったのよね。本当、世間知らずのお嬢様だったんだって思い知ったわ」
「お嬢様……」
レヴィの心境は複雑だった。
アリスにはいつも夢と理想の詰まった世界で生きてほしいと思っていた。そういられるよう、心を尽くしてきた。社会や現実の闇や汚い部分からとことん遠ざけ、綺麗な部分だけを見せてきたのだ。
その結果、アリスはレヴィと生きる未来を望んだ。それが間違っていたとは思わない。
しかし、アリスは侯爵との結婚をとおして現実を知った。無理やり、一番つらい形で突きつけられた。
今のアリスは、レヴィが知っていた頃のアリスとは違う。彼女は本当の意味で大人になったのだ。
それを素直に喜ぶことができない――――そんな現状があまりにも辛かった。
「だからこそ……だからこそ私、怖いの。これから私を待ち受けている未来が見えて、とても怖い」
やがて、アリスのすすり泣きが聞こえてくる。レヴィは静かに息を呑んだ。
「お母様のおかげでこうして領地に帰ってこれたけど、夫はいずれ私のことを連れ戻しに来るわ。貴族の妻がいるという事実を作るために政略結婚をしたのだもの。当然だって分かってる。
だけど、ごめんなさい!
私……私は、冷たくて暗いあの部屋に一人で帰りたくない。誰にも存在を忘れ去られて、生きているのか死んでいるかも分からないような状態で、寂しく一生を過ごしたくないの! 誰にも愛されることなく、あの部屋でたった一人で死ぬぐらいなら、私は……私はもう! もう……」
「私が貴女を愛します!」
レヴィはもう、我慢できなかった。
「これまでも、これからも、ずっとずっと……貴方のことを愛しています。愛し続けます」
扉を開け、アリスを中へと引き込み、細く小さな体を力強く抱き締める。
『生きていたくない』
そんな悲しい言葉を、レヴィはどうしてもアリスに言わせたくなかった。
身分の違いがなんだ。倫理観がどうした。
そんなものより、アリスの心が、身体が、命が、レヴィには何よりも大事だった。
彼女を守るためならば、たとえ世間から後ろ指をさされようと、地獄に落ちようとも、悪魔に全てを売り払っても構わない。
命を落とすならば共に――――決して一人では行かせない。
覚悟は決まった。
レヴィはもう止まることも、振り返ることもしない。
「お嬢様――――私の愛しい、アリス様……」
レヴィがアリスに触れる。頬に、額に、唇に、首筋に口づけながら、彼は愛を囁く。
「貴女には私が居ます。もう決して離れはしません」
指を、視線を絡め、二人もつれ合うようにしてベッドに沈む。熱い吐息が狭い部屋に木霊し、部屋をしっとりと温める。
「レヴィ……レヴィ」
アリスはずっと泣いていた。それは嬉しさ故か、悲しさ故か、はたまた背徳感故かは分からない。
けれど、ほんの少しでも良い。彼女の心が軽くなれば――――救われてほしいとレヴィは切に願う。
「愛しています、アリス様」
月が満ちる。闇夜に静かに沈んでいく。
その夜、レヴィの部屋の扉が再び開くことはなかった。
***
それから数日後、アリスを返せという催促の手紙が侯爵から届いた。
伯爵はアリスが侯爵と離婚できるよう話し合いの場を設けたのだが、話が全く折り合わない。
権力をチラつかせられ、事業や領民たちを人質にされてしまい、離婚は不可能だという結論に持っていかれてしまう。
「――――私、帰るわ」
アリスの言葉に、伯爵が息を呑み、首を横に振る。
「家のことは気にしなくて良いんだ! 今更かもしれないが、私はアリスに幸せになってほしい! 自ら不幸になる必要なんて……」
「大丈夫よ」
穏やかに微笑みながら、アリスは言う。
「私は今、幸せだもの。二度と不幸になんてならないわ。夫がその気なら、こちらも存分に利用させていただくだけ。あちらから提示された条件に乗っかろうと思うの。良いでしょう、お父様?」
アリスの視線を辿りながら、伯爵は静かに目を見開く。
(本当にそれで良いのだろうか?)
これは大きな賭けだ。
葛藤がないわけではない。
他に道はないのだろうか。下手をすれば、全てを失う羽目になるのではないか、と。
けれど今はアリスの笑顔を、幸せを第一に考えたい。
―――それから伯爵はとても微かに頷いた。
***
「ようやく帰ってきたのか、世間知らずなお嬢様」
それは聞いているだけで心が凍てつくような声音だった。
アリスは静かに頭を下げ、何も返事をせずにいる。下手に返答すれば、侯爵がさらに難癖をつけるからだろう。しかし、返事をしないこともまた焦れる要素らしく、彼はフンと鼻を鳴らした。
「本当にふてぶてしい女だな。君みたいな女と形だけでも結婚をしなければならない僕の身にもなってほしいものだ。おまけに愛情まで求められるとは……」
「そんなもの、無用の長物ですわ」
「はぁ?」
侯爵は馬鹿にしたように笑いながら、アリスの顔を覗き込む。クックッと喉を鳴らしつつ、彼は愉悦に満ちた表情を浮かべた。
「おいおい、無理をするな。あんなにもしおらしく打ちひしがれていたくせに、急にどうしたんだ? 君はみっともなく、僕からの愛情を求めていたらそれで良い。そんなもの、一生手には入らないが――――」
「要りません、と申し上げましたわ。だって私、本当は最初から、貴方の愛なんて欲していなかったんですもの」
あまりにも思いもよらない返答だったのだろう。侯爵は大いに動揺し、眉間にシワを寄せている。
アリスはそっと瞳を細めた。
「『君を愛する? 何を愚かなことを。君に求めるのは貴族の妻という形だけだ。それ以外、全く期待していないよ。……寧ろそんな奇特な人間が存在するのか? ただの世間知らずなお嬢様である君を?』
『君の世話など知ったことか。自分で手配すればいいだろう? そんなことをしてくれる人間がいればの話だが』
『悔しかったら君も男を連れ込んだらどうだ? 僕は全く気にしないよ。そんな物好き、居るはずがないからね』
――――そう仰っていましたわね。ですから、連れて参りました。私を愛し、世話をし、共に居てくれる人を」
これまでに見せたことのない表情でアリスが笑う。彼女の視線の先には、黒髪の――――自身よりも数段美しい男性が控えていて、侯爵は静かに息を呑んだ。
「はじめまして、旦那様。本日より、奥様のために伯爵家から参りました。レヴィと申します。以後お見知りおきを」
アリスの幸せはレヴィが必ず守り抜く。
たとえ、どんな結果になろうとも。
一人より、二人で――――。
レヴィは不敵に笑いつつ、アリスの手をギュッと握った。
応援ありがとうございます!
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