【中編集】そのままの君が好きだよ

鈴宮(すずみや)

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1.そのままの君が好きだよ

4.君は何も悪くない(1)

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 サムエレ殿下とわたくしは、街の入り口で馬車を降りた。


(うわぁ……)


 たくさんの人が行き交う中、わたくしの胸は興奮で高鳴る。街をこんな風に歩くのは生まれて初めてだった。街歩きに限らず、ジャンルカ殿下にはわたくしと出掛けるという発想自体がなかったようだし、わたくしは屋敷に籠って勉強ばかりしていたから。


「お腹空いただろ? まずはご飯にしようか」


 そう言ってサムエレ殿下がニコリと微笑む。その瞬間、お腹がぐぅと大きな音を立てた。恥ずかしさに頬を染めれば、殿下はクスクスと笑い声をあげる。


「そっ……そこは聞こえなかったフリをしてくださっても良いと思いますわ!」

「ごめん。ディアーナにしては珍しいなぁと。すごい……可愛いなぁって」

(可愛いっ⁉)


 そんなこと、生まれてこの方言われた記憶がなかった。綺麗だとか、美しいといった社交辞令を貰うことは多々あれど、『可愛い』はわたくしにとって、あまり身近な誉め言葉ではない。


(だけど不思議。全然嫌な気がしない)


 寧ろ凄く……物凄く嬉しい。

 お腹の音を聴かれるなんて、本来恥ずべきことだ。けれども、殿下はそのことを珍しいと――――可愛いと言ってくれた。
 両親ですらも『ジャンルカ殿下の婚約者に選ばれた』だとか、『学業で良い成績を修めた』といった、結果でしかわたくしを評価してくれなかった。どんな形であれ、わたくし自身を受け入れてもらえることが嬉しい。今のわたくしにとって、大きな救いだった。


「ディアーナは嫌いなものはある?」

「ありませんわ」

「じゃあ、好きなものは?」

「それも特に……」


 街をブラブラと歩きながら、サムエレ殿下は質問を重ねる。
 「だったら俺の好きな食べ物にするね」と言って、殿下はお店を選んだ。わたくしが普段食べているものとは見た目も味も異なる料理。けれど、それがあまりにも美味しい。


(家でも是非、こういう料理を食べたいわ……!)


 食べながら自然と笑みが零れた。瑞々しいトマトの赤色とバジルの緑色が美しく、こんがりと焼けたチーズが食欲を誘う。口内から全身に幸せが広がっていく感覚は生まれて初めてだった。


(多分、普段食べているお料理の方が高価だし、手も掛かっているんだろうけど)


 それが全てではないのだと実感する。幸福な気づきだった。


「気に入ってもらえた?」

「えぇ、もちろん!」

「だと思った。実は、さっきの料理を包み焼きにしたやつがあってさ。お土産に買っていこうよ。街歩きしながら食べれるんだ」


 そう言ってサムエレ殿下は嬉しそうに笑う。わたくしは嬉しさのあまり、何度も頷きながら笑った。

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