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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
2.幸せの必要条件(2)
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「ザラ、こっちの書類も整理しといて。あと、レオンたちにこっちの書類も確認してくるように伝令飛ばして」
「……へーーい」
魔法で書類をポイポイ飛ばしつつ、わたしは気の抜けた返事をする。
こんな言葉遣い、この部屋以外で聞かれてしまったら、きっと不敬だなんだって騒がれることだろう。だけど、殿下は意に介していないみたいだし、今更変えろって言われても難しい。この裏表が激しい男の前で自分を取り繕うのは、何だか馬鹿らしく思えた。
「なぁ。おまえって、どうして自分を抑えてんの?」
「へ?」
気づいたら、さっきまで椅子に座っていたはずの殿下が真後ろに立っている。おまけに彼は、書棚に両腕を付いて、わたしのことを取り囲んでいた。無駄に図体がでかいので、圧迫感が半端ない。努めて気にしないようにしながら、わたしは書類のファイリングを続けた。
「……別に、何にも抑えてませんよーー。抑えてたらこんな喋り方しませんって」
実際、わたしがこんな話し方をする人間、殿下以外にはいない。友達と接する時だって、もっと控えめな話し方をするというのに、一体何を抑えているというのだろう。そう思うと、ついついため息が漏れる。
「嘘吐け。性格も学力も魔力も、もっと言えば見た目すら抑えてるだろ。わざわざ自分に魔法まで掛けて隠してるくせに」
「…………っ!」
殿下がボソリとわたしの耳に囁きかける。ぞわっと背筋が震えて振り返れば、彼はじっとわたしのことを見つめていた。
「……どうして分かったんですか?」
おさげ髪に眼鏡――――それだけでも、ある程度自分を隠すことはできる。けれど、それだけじゃ何だか心許ない。
だからわたしは、周りの認識を阻害するための魔法を自分自身に掛けていた。平凡に、普通に見える様に。
(これまで誰にもバレ無かったのに、よりによって殿下に見破られるなんて)
そう思うと、悔しくて堪らない。わたしは唇をキュッと引き結んだ。
「俺の方がお前よりも魔力が強いからだろ。見えるんだよ、そういうの。逆に言うと、今までお前よりも魔力が強い奴が周りにいなかったってだけだと思うけど」
殿下はそう言って、気難しい表情でわたしを見下ろしている。
(なるほどねぇ)
殿下がわたしより強い魔力を持っていることは分かっていたけど、それがこんな形で影響するとは思わなかった。思わずため息が漏れる。
「で? どうして自分を抑えてんの?」
殿下はもう一度、同じ質問をしてきた。どうやら答えない、という選択肢はないらしい。
正直、あまり深堀してほしくない話題だけれど、この男のしつこさは折り紙付きだ。この辺りで答えておくのが無難だろう。
「そんなの、平凡な人生を送りたいからですよ」
殿下の腕の間をすり抜けながら、わたしは答える。
「それじゃ答えになってないんだけど」
殿下はなおも不機嫌な表情を浮かべ、わたしの後に付き纏った。さっきからやたら距離が近いし、嫌ーーな感じだ。このままフェードアウトしたかったけど、どうやら許してもらえそうにない。観念して、わたしは椅子に腰掛けた。
「前世のわたし――――傾国の悪女だったんです」
「ふはっ!」
わたしの予想通り、殿下は盛大に笑ってくれた。真面目に聞かれるよりは、そっちの方が気楽だもの。若干イラッとしつつも、わたしは話を続けることにした。
「……へーーい」
魔法で書類をポイポイ飛ばしつつ、わたしは気の抜けた返事をする。
こんな言葉遣い、この部屋以外で聞かれてしまったら、きっと不敬だなんだって騒がれることだろう。だけど、殿下は意に介していないみたいだし、今更変えろって言われても難しい。この裏表が激しい男の前で自分を取り繕うのは、何だか馬鹿らしく思えた。
「なぁ。おまえって、どうして自分を抑えてんの?」
「へ?」
気づいたら、さっきまで椅子に座っていたはずの殿下が真後ろに立っている。おまけに彼は、書棚に両腕を付いて、わたしのことを取り囲んでいた。無駄に図体がでかいので、圧迫感が半端ない。努めて気にしないようにしながら、わたしは書類のファイリングを続けた。
「……別に、何にも抑えてませんよーー。抑えてたらこんな喋り方しませんって」
実際、わたしがこんな話し方をする人間、殿下以外にはいない。友達と接する時だって、もっと控えめな話し方をするというのに、一体何を抑えているというのだろう。そう思うと、ついついため息が漏れる。
「嘘吐け。性格も学力も魔力も、もっと言えば見た目すら抑えてるだろ。わざわざ自分に魔法まで掛けて隠してるくせに」
「…………っ!」
殿下がボソリとわたしの耳に囁きかける。ぞわっと背筋が震えて振り返れば、彼はじっとわたしのことを見つめていた。
「……どうして分かったんですか?」
おさげ髪に眼鏡――――それだけでも、ある程度自分を隠すことはできる。けれど、それだけじゃ何だか心許ない。
だからわたしは、周りの認識を阻害するための魔法を自分自身に掛けていた。平凡に、普通に見える様に。
(これまで誰にもバレ無かったのに、よりによって殿下に見破られるなんて)
そう思うと、悔しくて堪らない。わたしは唇をキュッと引き結んだ。
「俺の方がお前よりも魔力が強いからだろ。見えるんだよ、そういうの。逆に言うと、今までお前よりも魔力が強い奴が周りにいなかったってだけだと思うけど」
殿下はそう言って、気難しい表情でわたしを見下ろしている。
(なるほどねぇ)
殿下がわたしより強い魔力を持っていることは分かっていたけど、それがこんな形で影響するとは思わなかった。思わずため息が漏れる。
「で? どうして自分を抑えてんの?」
殿下はもう一度、同じ質問をしてきた。どうやら答えない、という選択肢はないらしい。
正直、あまり深堀してほしくない話題だけれど、この男のしつこさは折り紙付きだ。この辺りで答えておくのが無難だろう。
「そんなの、平凡な人生を送りたいからですよ」
殿下の腕の間をすり抜けながら、わたしは答える。
「それじゃ答えになってないんだけど」
殿下はなおも不機嫌な表情を浮かべ、わたしの後に付き纏った。さっきからやたら距離が近いし、嫌ーーな感じだ。このままフェードアウトしたかったけど、どうやら許してもらえそうにない。観念して、わたしは椅子に腰掛けた。
「前世のわたし――――傾国の悪女だったんです」
「ふはっ!」
わたしの予想通り、殿下は盛大に笑ってくれた。真面目に聞かれるよりは、そっちの方が気楽だもの。若干イラッとしつつも、わたしは話を続けることにした。
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