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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
2.幸せの必要条件(4)
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確かに、普段の殿下は『完璧』ってワードがピッタリな、理想の王子様を演じている。
見た目や能力的なこともそうだけど、柔和な受け答えとか、誰にでも平等に優しく接するところとか、細部に渡って自分を押し殺しているっていうのが、わたしの抱く印象だった。
「実際そうだろう? 群がってくる女どもの中で、俺の内面を見てる奴なんて一人もいねぇよ。見せてないからっていう理由もあるけど、誰一人として見ようとしない。疑いもしない。……まぁ、実際誰も見たくねぇだろうけどな、こんな俺の姿は」
殿下は面倒くさそうにため息を吐きつつ、大きく伸びをした。その不満げな横顔が、何だか自分に重なって見える。気持ちが消化不良を起こしていて、モヤモヤしている――――そんな感じの表情だ。
(本当にそうなのかなぁ?)
確かに、初めてこの部屋で殿下と会った時は、普段とのあまりのギャップに面食らった。優雅さの欠片も無ければ、いつも大安売りしている笑顔すらもなく、別人じゃないかと疑う程だった。
だけど、最初に『完璧な王子様』っていう先入観を抱いてなければ、さほど驚かなかった気がするし、ある程度は普通に受け入れられていた気がする。王子だって人間だもの。完璧であり続ける必要は無いんじゃないかなぁってわたしは思う。
「疲れませんか? そんな風に自分を偽って生きるの」
「……その言葉、そっくりそのままお返しするけど」
殿下はわたしのおでこを指先で弾きながら、小さく笑った。その表情は、意地悪なのにどこか優しくて、何でか胸がキューーっと苦しくなる。普段浮かべてる愛想笑いよりも、ずっとずっと綺麗だなぁと思った。
「……実際、わたしも疲れているから聞いたんですよ」
答えながら、わたしも笑う。
自分を守るために作り上げた、偽りの自分。もう十何年もの間、本当は「出来ること」を「出来ない」って言ったり。「分かること」を「分からない」って言ったり。己の意見を言わず、その場をやり過ごしてきた。
だけどそれって、めちゃくちゃ苦痛だ。
「だったら、止めれば良いじゃん」
殿下は、「当たり前だろ?」とでも言いたげな口調でそう口にする。ついついわたしの眉間に皺が寄った。
「無理ですよ。現世では幸せになるって決めてるんですから。そのためには平凡に生きないと」
前世と同じ轍は踏まない。そのためにわたしは、記憶を持って生まれてきたんだと思う。
反省を活かさず、波乱に満ちた最後を迎えるなんて、前世のわたしへの冒涜だ。そんなの絶対に許せない。
見た目や能力的なこともそうだけど、柔和な受け答えとか、誰にでも平等に優しく接するところとか、細部に渡って自分を押し殺しているっていうのが、わたしの抱く印象だった。
「実際そうだろう? 群がってくる女どもの中で、俺の内面を見てる奴なんて一人もいねぇよ。見せてないからっていう理由もあるけど、誰一人として見ようとしない。疑いもしない。……まぁ、実際誰も見たくねぇだろうけどな、こんな俺の姿は」
殿下は面倒くさそうにため息を吐きつつ、大きく伸びをした。その不満げな横顔が、何だか自分に重なって見える。気持ちが消化不良を起こしていて、モヤモヤしている――――そんな感じの表情だ。
(本当にそうなのかなぁ?)
確かに、初めてこの部屋で殿下と会った時は、普段とのあまりのギャップに面食らった。優雅さの欠片も無ければ、いつも大安売りしている笑顔すらもなく、別人じゃないかと疑う程だった。
だけど、最初に『完璧な王子様』っていう先入観を抱いてなければ、さほど驚かなかった気がするし、ある程度は普通に受け入れられていた気がする。王子だって人間だもの。完璧であり続ける必要は無いんじゃないかなぁってわたしは思う。
「疲れませんか? そんな風に自分を偽って生きるの」
「……その言葉、そっくりそのままお返しするけど」
殿下はわたしのおでこを指先で弾きながら、小さく笑った。その表情は、意地悪なのにどこか優しくて、何でか胸がキューーっと苦しくなる。普段浮かべてる愛想笑いよりも、ずっとずっと綺麗だなぁと思った。
「……実際、わたしも疲れているから聞いたんですよ」
答えながら、わたしも笑う。
自分を守るために作り上げた、偽りの自分。もう十何年もの間、本当は「出来ること」を「出来ない」って言ったり。「分かること」を「分からない」って言ったり。己の意見を言わず、その場をやり過ごしてきた。
だけどそれって、めちゃくちゃ苦痛だ。
「だったら、止めれば良いじゃん」
殿下は、「当たり前だろ?」とでも言いたげな口調でそう口にする。ついついわたしの眉間に皺が寄った。
「無理ですよ。現世では幸せになるって決めてるんですから。そのためには平凡に生きないと」
前世と同じ轍は踏まない。そのためにわたしは、記憶を持って生まれてきたんだと思う。
反省を活かさず、波乱に満ちた最後を迎えるなんて、前世のわたしへの冒涜だ。そんなの絶対に許せない。
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