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3.おまえじゃ、ダメだ
3.タイムリミットと命令(2)
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「失礼いたします」
声がして顔を上げると、そこにはサイラスの幼少時、お目付け役をしていた男が立っていた。名をオリバーといい、今では宰相補佐に取り立てられている。将来、サイラスの右腕を務める予定の男だ。
「あぁ、おまえか」
「――――やはり失敗に終わったのですね。もういい加減諦めたら如何ですか?」
オリバーは半ば呆れたような表情で、そう口にした。
「六年間も振られ続けてきたんです。望みなんてないでしょう?」
「――――――オリバー、俺は振られたのか?」
まだ想いを伝えてすらいないというのに。そう思うと、唇が不機嫌に尖っていく。オリバーはふぅ、とため息を吐き、サイラスに数枚の書類を手渡した。
「どう思うかは殿下次第ですが、諦めた方が楽だと私は思いますよ」
「そうか。ならば俺は、振られていないとそう思おう」
サイラスはそう言って書類を片手に立ち上がる。自分次第だというならば、こんなにも簡単なことは無い。サイラスは、振られて等いないし、諦めない。元より、楽な道を選ぼうと思う質でもないからそれで良いと、そう思った。
「けれど、殿下。タイムリミットは着実に迫っていますよ」
「分かっている。このままで良いと思っているわけではない」
書類に目を通しながら、サイラスは眉間に皺を寄せる。
王太子である彼の妃選びは、完全な私事ではない。国の今後を左右し得るし、国民や他国に与える影響も大きい。サイラスには他に兄弟もいないため、彼が無能だからと替えが利く身分でもない。安定した王政の継続のため、一刻も早く盤石な体制を築く必要があるのだ。
「そこまで固執なさるのなら、もういっそのこと、ご命令なさったら如何ですか?」
「――――何?」
サイラスは目を見張り、オリバーを見つめる。
「『妃になれ』と……一言そうお命じください。殿下にそう命令されて、断れるわけがございません。私が断らせません」
オリバーは憮然とした表情で、淡々とそう口にする。
これまでサイラスは、あくまで向こうの意向を尋ねる、という姿勢を取っていた。シェイラの父親に結婚の打診をした時だってそうだ。断る道を残していた。
「それは……」
サイラスは眉間に皺を寄せ、言い淀む。少なくとも彼が命令すれば、シェイラと会話が出来るかもしれない。けれど、彼ができるのはそこまでだ。シェイラには望んで、彼の妃になって欲しい。馬鹿げていると思われるかもしれないが、それが彼の望みだった。
「出来ぬのなら、もう一人の候補者とご婚約を。私に言えるのはそれだけです」
失礼します、と恭しく頭を垂れ、オリバーは部屋を去っていく。サイラスは深々とため息を吐いた。
声がして顔を上げると、そこにはサイラスの幼少時、お目付け役をしていた男が立っていた。名をオリバーといい、今では宰相補佐に取り立てられている。将来、サイラスの右腕を務める予定の男だ。
「あぁ、おまえか」
「――――やはり失敗に終わったのですね。もういい加減諦めたら如何ですか?」
オリバーは半ば呆れたような表情で、そう口にした。
「六年間も振られ続けてきたんです。望みなんてないでしょう?」
「――――――オリバー、俺は振られたのか?」
まだ想いを伝えてすらいないというのに。そう思うと、唇が不機嫌に尖っていく。オリバーはふぅ、とため息を吐き、サイラスに数枚の書類を手渡した。
「どう思うかは殿下次第ですが、諦めた方が楽だと私は思いますよ」
「そうか。ならば俺は、振られていないとそう思おう」
サイラスはそう言って書類を片手に立ち上がる。自分次第だというならば、こんなにも簡単なことは無い。サイラスは、振られて等いないし、諦めない。元より、楽な道を選ぼうと思う質でもないからそれで良いと、そう思った。
「けれど、殿下。タイムリミットは着実に迫っていますよ」
「分かっている。このままで良いと思っているわけではない」
書類に目を通しながら、サイラスは眉間に皺を寄せる。
王太子である彼の妃選びは、完全な私事ではない。国の今後を左右し得るし、国民や他国に与える影響も大きい。サイラスには他に兄弟もいないため、彼が無能だからと替えが利く身分でもない。安定した王政の継続のため、一刻も早く盤石な体制を築く必要があるのだ。
「そこまで固執なさるのなら、もういっそのこと、ご命令なさったら如何ですか?」
「――――何?」
サイラスは目を見張り、オリバーを見つめる。
「『妃になれ』と……一言そうお命じください。殿下にそう命令されて、断れるわけがございません。私が断らせません」
オリバーは憮然とした表情で、淡々とそう口にする。
これまでサイラスは、あくまで向こうの意向を尋ねる、という姿勢を取っていた。シェイラの父親に結婚の打診をした時だってそうだ。断る道を残していた。
「それは……」
サイラスは眉間に皺を寄せ、言い淀む。少なくとも彼が命令すれば、シェイラと会話が出来るかもしれない。けれど、彼ができるのはそこまでだ。シェイラには望んで、彼の妃になって欲しい。馬鹿げていると思われるかもしれないが、それが彼の望みだった。
「出来ぬのなら、もう一人の候補者とご婚約を。私に言えるのはそれだけです」
失礼します、と恭しく頭を垂れ、オリバーは部屋を去っていく。サイラスは深々とため息を吐いた。
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