【中編集】そのままの君が好きだよ

鈴宮(すずみや)

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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

6.想いがあればあるだけ、余計に(1)

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 『王太子の耳』はどちらかというと庶民の多く暮らすエリアにある。その方が相談をしやすいだろうという配慮からだ。
 あまり高そうな服を着ては相談者の顰蹙を買ってしまうため、相談員は皆、シンプルな制服に身を包んでいる。
 それでも、行き交う人々は皆、アルヴィア様を見る度に、ウットリとため息を吐いていた。


(アルヴィア様が夜会に出席されたら、すごいんだろうなぁ)


 今でさえこれだもの。おびただしい数の令嬢たちが、彼に群がる様子が目に浮かぶ。彼にエスコートをしてもらえる女性、ダンスを踊ってもらえる女性はきっと、たくさんの羨望と嫉妬の眼差しを送られるのだろう。わたしもきっと、その内の一人だから。


「リュシー、もうすぐ着くよ」


 離れないようにと、手が繋ぎなおされる。さり気なく合わせられた歩幅。肩が触れ合う程の近い距離。心臓はずっとドキドキと鳴り続けている。
 路地裏を抜けると、大きな柵で囲まれた一帯が目に入った。


「ここ、ですか?」


 尋ねたわたしに、アルヴィア様はニコニコと微笑みながら振り向いた。


「うん、そうだよ」


 柵の中へ入り、また少し歩を進める。
 美しい花のアーチ。上品すぎず親しみやすい雰囲気の庭園が広がっている。広場にはテーブルやイス、ベンチなんかが設置されていて、ゆっくりと寛ぐには最適な環境だ。


「これは……どういうことでしょう? だって、この場所は――――」


 これでもわたしは『王太子の耳』。この辺一帯のことぐらい、把握するよう努めている。

 ここはついこの間まで、草も生えない寂れた広場だった。しっかりと整備された街の片隅。暗くジメジメとし、ゴミや糞尿が散乱している。浮浪者がウロウロしていて怖い、何とかして欲しいって陳情が来ていた場所だというのに。


「殿下が書いていただろう? 民の声に応える努力をしているって。ここもその内の一つだよ」


 わたしをエスコートしながら、アルヴィア様が優しく微笑む。


「だっ……だけど、ここで暮らしていた人達は? どうなっちゃったんですか?」


 わたしにとって大事なのは、整備を望む声だけじゃない。ここで暮らす人達だって、わたしにとっては大切な相談者だった。
 仕事が欲しい、食事や水を恵んでほしい、住む場所が欲しい――――そんな風に苦しんでいたのを知っている。彼等は、ここ以外に行くところがない。それなのに、一体どこへ追いやられてしまったのだろう?


「大丈夫。ここを整備したのは他ならぬ彼等だよ」


 アルヴィア様の言葉に目を見開く。真摯な眼差し。温かい笑顔。それだけで、何だか答えが分かった気がした。

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