復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!

鈴宮(すずみや)

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【終章】運命の夜会とリビーの復讐〜ピュアすぎる執着の終着点〜

33.ピュアすぎる執着の終着点

 それから四年の月日が流れた。


「遠いところをわざわざ来てくれてありがとうね、リビー」


 シャルロッテが笑う。その腕には小さな赤ん坊が抱かれていた。薄っすらと生えている金色の髪の毛に、真っ白な肌、父親譲りの青い瞳が特徴の綺麗な顔をした赤ん坊だ。


「親友の出産祝いをするのは当然のことでしょう? それにしても本当に可愛い王子様だね。これぞまさしくジルヴィロスキー王国の国宝だわ」


 ふわふわのほっぺをつつきながらわたしたちは笑う。


 今から二年前、アインハードはシャルロッテと結婚した。
 けれどそれは、決して平坦な道のりじゃない。紆余曲折の末の出来事だった。


(本当に、いろんなことがあったなぁ)


 二人の赤ん坊を抱っこしつつ、わたしはしんみりと目をつぶる。

 アインハードが夜会の件でゼリックのところに抗議に来たり(パートナーを勝手に連れて帰られたのだから当然だけど)、わたしに対して公開プロポーズをしそうになるところをゼリックが阻止したり――思い出すとちょっぴり恥ずかしくなる程度に、結構しつこく付きまとわれた。


 だけど、そんなアインハードを凌駕する勢いで、シャルロッテが彼に猛アピールをかました。


『リビーに妃になる気がないなら、わたくしが絶対に殿下を射止めてみせますわ!』


 シャルロッテの猛攻は凄まじかった。四六時中アインハードを追いかけ回し、ひたすら声をかけ、これでもかというほど好意を口にする。あれだけ好かれて、気にならない男はいない。最後は根負けする形で、アインハードからシャルロッテにプロポーズをした。

 二人はシャルロッテの学園卒業を待って結婚をし、一年後に妊娠。産後五ヶ月が経って落ち着いた今、こうして会いに来た、というわけだ。


(わたしもこんなに小さかったんだな)



 シャルロッテの子供を抱きしめながら、そんなことを思う。ちょうどわたしが前世の両親を亡くしたのと同じ月齢だし。もしも二人になにか起きたら、この子はどうなるんだろうって。


(だけど)


 もしもこの子がわたしと同じ状況に陥ったとして、アインハードもシャルロッテも復讐なんて望まないってことだけはわかる。二人とも自分の子供を心から愛しているし、そんなことは忘れてただ幸せになってほしいと思うだろうって。シャルロッテの笑顔を見ていたら絶対そうだって信じられて、なんだか嬉しくなってしまった。


「それより! リビーも、結婚おめでとう!」

「……ありがとう」


 唐突にお祝いの言葉をかけられて、わたしは思わず照れてしまう。


「出産と重なって、結婚式に行けなくて残念でしたわ。聞けば、とんでもなく豪華なお式だったのでしょう?」

「あー……まあ、ねえ」


 企画したのはわたしじゃないけど。わたしは明後日の方角を見つめつつ、乾いた笑いを浮かべてしまう。


「シンプルでいいって言ったんだけどね。聞き入れてもらえなくて」

「そりゃあそうですわ! だってゼリック様ですもの。リビーの晴れの舞台に、シンプルなんて無理に決まってるじゃない」

(ですよね!)


 ――ということで、この春、わたしはゼリックと結婚をしました。


 わたしたちの結婚への道のりは――というと、平坦そのもの。まるで出来レースかっていうぐらい、スムーズにいろんなことが進んでいった。


『リビー、僕と結婚してくれる?』

『……え?』


 ゼリックからプロポーズを受けたわたしは、正直なところ困惑した。何千本あるのかなってぐらい大きなバラの花束と、でっかいダイヤの指輪、ロマンチックな夜景――という乙女が夢見るシチュエーションにもかかわらず、素っ頓狂な声を上げてしまったわたしをどうか許してほしい。だって――。


『でも、わたしたちは兄妹ってことになっているし……』

『大丈夫だよ。実際には血が繋がっていないし、必要な手続きの準備は全部整えてある。周りへの説明も僕が全部対応するし、お父様やお母様にもリビーにプロポーズすることは事前に伝えて承諾ももらっている。だから、あとはリビーが頷いてくれるだけでいいんだ』

『ええええ……?』


 普通に考えたら中々に大きなはずのわたしたちの結婚への障害をゼロにされ、ありとあらゆる状況を整えられたものだから、他に選択肢はないってすぐにわかるじゃない?


『嫌……?』

『嫌じゃないけど』


 大体、ゼリックがいないとわたしはまともに眠れないし、平穏無事に生きられないわけで。


『じゃあ、僕のことどう思ってる?』


 ゼリックは出会った頃と同じ、純粋無垢な表情でそう尋ねてきた。そんなことを言われたら、わたしも覚悟を決めるしかないわけで。


 そうしてわたしたちは、兄妹をやめて夫婦になった。


 結婚に合わせて、ゼリックがわたしにプレゼントしてくれたものがもう一つある。わたしたちが暮らす新しい家だ。


 新しい家は、王都から遠く離れた土地にある。小高い丘の上に建てられためちゃくちゃ豪華な建物。元お城だから当然だ。
 それはつまり、わたしが生まれた場所――サウジェリアンナ王国の王城として使われていた場所だった。


(まさか本当に実現するとは思わなかったな……)


 ゼリックはわたしの知らない間に、戦争を食い止めたり、新しい万能薬や魔法陣を開発したりと、ものすごい数の功績を打ち立てていたらしい。そうして、褒賞としてサウジェリアンナ旧王国領をもらい受けた。わたしが十一歳のときに明かしてくれた夢を見事実現させたのだ。


(本当に、愛されているよね)


 幼い頃のわたしにはわからなかったけれど、ゼリックがサウジェリアンナ旧王国領を望んだのは当然わたしのためで。いろんなことをわたしのために努力してくれていたんだよなって思うと、たまらなく幸せな気持ちになる。


(どうしよう、ゼリックに会いたくなってきちゃった)


 シャルロッテのお見舞いと合わせて、しばらくわたしだけでパパとママのいる実家に滞在する予定なのに。わたしもゼリックのことは言えないなぁ……。


「リビー」


 城から帰ろうとしたそのとき、名前を呼ばれたわたしはハッと顔を上げた。


「ゼリック!」


 返事をするやいなや、ゼリックがわたしをギュッと抱きしめてくる。純度百パーセントの屈託のない笑顔に、わたしは思わず目を細めた。


「どうしてここに?」

「それはもちろん、リビーを迎えに来たんだよ」


 ゼリックはそう言ってわたしの頬に口付ける。結婚したというのにこの溺愛ぶり。そして執着! さすがゼリックと言わざるを得ない。


(だけど)


 そんなゼリックがいたから、わたしは自分の本当の気持ちに向き合うことができたし、幸せに生きていられるんだと思う。だって、わたしがどこにいてもゼリックなら追いかけてきてくれるし、それが地獄の果てでも側にいてくれる。勝手に死ねる気がしないんだもん。


「どうしたの? リビー」


 黙り込んでしまったわたしにゼリックが尋ねてきた。


「……ゼリックって本当に、わたしのことが大好きだよね」


 いつも困らされてばかりなんだもん。少しはゼリックも照れたり困ったりすればいい。そう思って放った言葉なのに、ゼリックはものすごく嬉しそうに「そうだよ!」って言って笑う。

 ――結局、負けるのはわたしのほう。


 ものすごく悔しいけど、わたしは笑って負けを受け入れるのだった。
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