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5.殿下は殿下の心のままになさってください
1.
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(なんかこの場面、見覚えがある……)
それは、ふわふわしたピンクの髪の毛、濃い青色の瞳を持つ令嬢が、わたしの婚約者――――ヴァージル殿下と微笑み合う姿を見たときのことだった。
どこからともなく舞い上がる花吹雪。周りには沢山の人がいるのに、まるでふたりきりみたいな空気感を醸し出し、熱く互いを見つめ合っていた。
(分かった。――――あれだ。乙女ゲームだ)
自覚した瞬間、記憶が走馬灯のように一気に蘇ってくる。
状況を一度整理しよう。
わたしはマチルダ。公爵令嬢であり、王太子ヴァージルの婚約者だ。今日から彼とともにこの王立学園に通うことになっている。
父は宰相。それから、優秀な兄が一人いる。子供の頃からの記憶だってバッチリある。
だけどこの世界は、前世のわたしにとっては非現実――――人の手によって作り上げられたゲームの中の世界だ。
(っていっても、内容はほとんど覚えてないんだけどね)
大きなため息を吐きつつ、わたしはヒロインと己の婚約者とをちらりと見遣る。
わたしは元々恋愛小説や乙女ゲームが好きなタイプじゃなかった。寧ろ恋愛とかそういうのは苦手で、遠ざけていたといっても過言ではない。だけど――――
『ダメだよ真知。恋愛が苦手ってだけならまだしも、性格キツイし隙だってないし、そんなんじゃ一生彼氏できないって。男ってもっとふわふわした子が好きなんだからさ』
友人の一人にそんなことを言われて、参考にするようにと渡されたのがこの乙女ゲームだった。
今思うとめちゃくちゃ大きなお世話だけど。それでも一応プレイはした。
(苦手なんだよなぁ、あのヒロイン)
明るくてふわふわしていて、隙だらけで。恋愛のことしか頭にないって感じ。
そりゃ、ゲームだからキャラクターやそれを取り巻く一面しか切り取られてないんだろうけど、それにしたってわたしは好きになれなかった。
(そもそも、婚約者がいる男を好きになって、奪い取っておいて、被害者ぶるってどうなのよ?)
この先になにが起こるかを思い出すだけで、頭がめちゃくちゃ痛くなる。
ヒロインのカトレアは王太子ヴァージルと恋に落ち、婚約者(つまりわたし)がいることに思い悩む。
わたしはわたしで、ヒロインに苦言を呈しまくり、王太子とのデートなんかを妨害し、ゲームにおける悪役として君臨する。
最終的には、王太子ヴァージルはそんなわたしに愛想を尽かし、今から三年後に婚約を破棄し、カトレアと婚約を結び直してハッピーエンドっていう流れだった――――と思う。
(でもさ、それってひっどい話よね)
ヒロインがやってることって略奪じゃん。ただの横恋慕じゃん。
それなのに悪いのは苦言を呈し、二人を邪魔した悪役令嬢のマチルダのほう。
王太子については罪悪感すら覚えていない印象だったし、最悪。
まあつまり、このゲームは前世のわたしにとって、全く参考にならないどころか大嫌いなクソゲーだった。
「マチルダ」
と、そのとき、ヴァージル殿下がわたしの名前を呼んだ。
ようやくわたしの存在を思い出したらしい。わたしも忘れていた――――っていうか、こんな男、どうでもいいから別に構わないんだけど。
「なんでしょう? わたしになにか? ……あっ、もしかしてお邪魔でした?」
ゲーム内でマチルダ(=わたし)がふたりになにを言ったかは覚えていない。多分だけど、早速苦言を呈してたんじゃなかったかな。
まあ、それが当たり前の感覚だと思う。自分の婚約者がどこの誰とも知らない女と目の前でイチャイチャしてるんだからさ。
「え? あ……いや、長引きそうだから先に教室に行ってもらったほうが良いかな、と」
「承知しました。そのほうがありがたいですわ。それでは御機嫌よう」
ぼーっと突っ立っていたせいで足が痛いし。他ならぬ殿下が勧めてくれたんだもん。遠慮なく帰らせてもらうことにする。
なぜだかわたしの返答に困惑しているヴァージル殿下を置いて、わたしはひとり、校舎へと向かった。
それは、ふわふわしたピンクの髪の毛、濃い青色の瞳を持つ令嬢が、わたしの婚約者――――ヴァージル殿下と微笑み合う姿を見たときのことだった。
どこからともなく舞い上がる花吹雪。周りには沢山の人がいるのに、まるでふたりきりみたいな空気感を醸し出し、熱く互いを見つめ合っていた。
(分かった。――――あれだ。乙女ゲームだ)
自覚した瞬間、記憶が走馬灯のように一気に蘇ってくる。
状況を一度整理しよう。
わたしはマチルダ。公爵令嬢であり、王太子ヴァージルの婚約者だ。今日から彼とともにこの王立学園に通うことになっている。
父は宰相。それから、優秀な兄が一人いる。子供の頃からの記憶だってバッチリある。
だけどこの世界は、前世のわたしにとっては非現実――――人の手によって作り上げられたゲームの中の世界だ。
(っていっても、内容はほとんど覚えてないんだけどね)
大きなため息を吐きつつ、わたしはヒロインと己の婚約者とをちらりと見遣る。
わたしは元々恋愛小説や乙女ゲームが好きなタイプじゃなかった。寧ろ恋愛とかそういうのは苦手で、遠ざけていたといっても過言ではない。だけど――――
『ダメだよ真知。恋愛が苦手ってだけならまだしも、性格キツイし隙だってないし、そんなんじゃ一生彼氏できないって。男ってもっとふわふわした子が好きなんだからさ』
友人の一人にそんなことを言われて、参考にするようにと渡されたのがこの乙女ゲームだった。
今思うとめちゃくちゃ大きなお世話だけど。それでも一応プレイはした。
(苦手なんだよなぁ、あのヒロイン)
明るくてふわふわしていて、隙だらけで。恋愛のことしか頭にないって感じ。
そりゃ、ゲームだからキャラクターやそれを取り巻く一面しか切り取られてないんだろうけど、それにしたってわたしは好きになれなかった。
(そもそも、婚約者がいる男を好きになって、奪い取っておいて、被害者ぶるってどうなのよ?)
この先になにが起こるかを思い出すだけで、頭がめちゃくちゃ痛くなる。
ヒロインのカトレアは王太子ヴァージルと恋に落ち、婚約者(つまりわたし)がいることに思い悩む。
わたしはわたしで、ヒロインに苦言を呈しまくり、王太子とのデートなんかを妨害し、ゲームにおける悪役として君臨する。
最終的には、王太子ヴァージルはそんなわたしに愛想を尽かし、今から三年後に婚約を破棄し、カトレアと婚約を結び直してハッピーエンドっていう流れだった――――と思う。
(でもさ、それってひっどい話よね)
ヒロインがやってることって略奪じゃん。ただの横恋慕じゃん。
それなのに悪いのは苦言を呈し、二人を邪魔した悪役令嬢のマチルダのほう。
王太子については罪悪感すら覚えていない印象だったし、最悪。
まあつまり、このゲームは前世のわたしにとって、全く参考にならないどころか大嫌いなクソゲーだった。
「マチルダ」
と、そのとき、ヴァージル殿下がわたしの名前を呼んだ。
ようやくわたしの存在を思い出したらしい。わたしも忘れていた――――っていうか、こんな男、どうでもいいから別に構わないんだけど。
「なんでしょう? わたしになにか? ……あっ、もしかしてお邪魔でした?」
ゲーム内でマチルダ(=わたし)がふたりになにを言ったかは覚えていない。多分だけど、早速苦言を呈してたんじゃなかったかな。
まあ、それが当たり前の感覚だと思う。自分の婚約者がどこの誰とも知らない女と目の前でイチャイチャしてるんだからさ。
「え? あ……いや、長引きそうだから先に教室に行ってもらったほうが良いかな、と」
「承知しました。そのほうがありがたいですわ。それでは御機嫌よう」
ぼーっと突っ立っていたせいで足が痛いし。他ならぬ殿下が勧めてくれたんだもん。遠慮なく帰らせてもらうことにする。
なぜだかわたしの返答に困惑しているヴァージル殿下を置いて、わたしはひとり、校舎へと向かった。
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