婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!

鈴宮(すずみや)

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【4章】大一番とロゼッタの真実

36.天国から地獄

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 夜会会場はとある貴族の屋敷だった。
 招待客は資産家の貴族や実業家たちばかりで、ホストは身分よりも金銭を重んじている人間だとひと目でわかる。豪華できらびやかなその空間は、ロゼッタにとってとても居心地がいい。ロゼッタはほうと感嘆のため息をついた。


「お気に召したようでよかったよ」


 と、隣でウィルバートが微笑む。ロゼッタはほんのりと赤くなりつつ「もちろんですわ」と返事をした。


「こんな素敵な会に連れてきてくださって嬉しいです」

「素敵なロゼッタ嬢には素敵な場所がよく似合うからね。最初に誘うのはどの夜会がいいか、結構真剣に悩んだんだよ?」

「え?」


 照れくさそうなウィルバートを見つめつつ、ロゼッタの胸がドキッと跳ねる。ウィルバートはいつだってスマートで、迷ったり悩んだりする様子は皆無なので、そういったことを言われるとギャップを感じてドギマギしてしまう。しかもそれがロゼッタのため、というのがたまらなく嬉しい。


(リップサービス! これはウィルバート様のリップサービスですから!)


 ロゼッタは自分にそう言い聞かせつつ、会場内をぐるりと見回す。すると、何人か見知った顔を見つけた。過去に婚活対象だった男性や、公爵夫人のお茶会のメンバー、それから――


「ああ、ライノア様も来ているのね」


 どうやらマルクル・キーガンに無理やり連れてこられたらしい。ライノアははじめて会った夜のように、めんどくさそうな表情を浮かべながら会場に佇んでいた。


(相変わらずもったいない方ね)


 あれではせっかくの縁も逃げてしまう。せっかく顔がいいのに令嬢たちが近寄りがたい雰囲気が出ているし、ビジネスチャンスも逃してしまうだろう。もちろん、ライノアは文官で、自分で事業を行っているわけではないが、顔は広いに越したことがない。


「知り合い?」


 と、ウィルバートが尋ねてきた。ロゼッタは「ええ」とこたえてそっと微笑む。


「腐れ縁のような男性ですの。王太子殿下の補佐官をしていて、仕事で絡みがあるものですから」


 本当は夜会で出会ったのだが、そういった事情は知らないでいい。ウィルバートは「なるほどね」とつぶやき、ロゼッタに向かってそっと屈んだ。


「言い訳しに行かなくていいの?」

「なにをですの?」

「俺と一緒にいるとこ、彼に見られても問題ない?」

「まあ! もちろんですわ!」


 ロゼッタが唇をムッと尖らせる。すると、ウィルバートは嬉しそうに「冗談だよ」と笑った。

 とはいえ、もしもこの場にいたのがトゥバルトだったら、ロゼッタの対応は違っていただろう。ロゼッタは密かにホッとしてしまった。


 それから、ロゼッタはウィルバートと一緒に会場を回った。ウィルバートは実業家らしく、とても顔が広い。知り合いに自分を紹介してもらうたびに、ロゼッタは底しれぬ喜びを感じていた。

 もちろん、恋人だとか婚約者として紹介してもらえるわけではないものの、ウィルバートがそういった雰囲気を匂わせるため、ついついその気になってしまう。ウィルバートにまったくその気がなければこうしてロゼッタをパートナーに選ばなかっただろうから、なおさらだ。


(このままいけば)


 ロゼッタは幸せになれるだろうか? お金や理想の生活を全部手に入れて、心の底から笑える日が来るだろうか? ――そうであってほしい。ロゼッタはウィルバートを見つめながら微笑む。


「――どうしてあなたがここにいるの?」


 けれど次の瞬間、ロゼッタの心と体が一気に凍りついた。


「え……?」


 まるで心臓が止まってしまったかのように、ロゼッタの全身から血の気が引いていく。目の前にいる人間を全力で拒絶しているのに、やけに五感がハッキリとしていて、どうすることもできない。


「ロゼッタ嬢? アバルディア様と知り合いなのかい?」


 と、事情をなにも知らないウィルバートが尋ねてきた。けれどロゼッタはウィルバートと目の前の女性――アバルディアが知り合いであることを悟って、さらにショックを受けてしまう。


「まったく。相変わらずろくに口も聞けないのかしら? ウィルバート様、ロゼッタは私の夫の子供なのよ」

「え? 夫――そうか、アバルディア様はクロフォード伯爵と結婚をしていらっしゃったのですね」


 ロゼッタを置いて、ウィルバートとアバルディアが会話を進める。頭の中がぐちゃぐちゃで、思考が全くまとまらない。ロゼッタはただ、拳を握ることしかできなかった。


「ええ、そうですわ。旧姓で事業をしているからウィルバート様がご存じないのも当然ですわね。……ご存知だったら、こんな貧相な娘と付き合ったりしなかったでしょうし」


 アバルディアはそう言って、ロゼッタをじろりと睨みつける。

 アバルディアはロゼッタの父親の後妻だ。ロゼッタの母親が病に倒れ、亡くなったあとに嫁いできた。

 アバルディアの実家は大層な資産家だが、爵位を持っていない。このため、大きな借金を抱えた美貌の伯爵、ロゼッタの父親に目をつけた。そうして、ロゼッタの父親はアバルディアに金で買われたのである。


「アバルディア様、ロゼッタ嬢は素敵な女性ですよ。そのように言っては……」

「庇うのはよしてください。この娘は現に一言も聞けないまま、呆然と立ち尽くしているではありませんか。みっともない。ウィルバート様の隣に立つような資格はございませんわ」


 アバルディアはまるで虫けらでも見るような顔つきで、ロゼッタの肩を突き飛ばす。既に全身から力が抜けていたロゼッタは、その場に崩れ落ちてしまった。クスクス、クスクスと嘲るような笑い声がそこかしこから聞こえてくる。

 ふと顔を上げると、ウィルバートが困惑した表情でロゼッタのことを見つめていた。アバルディアの手前、強く庇うこともできないのだろう。それだけの影響力をアバルディアは持っている。特に、実業家のウィルバートに対しては……。


「早く帰りなさい。ここはあなたのような人間が来ていい場所じゃありませんわ」


 アバルディアがロゼッタを蹴飛ばした。ロゼッタはよろよろと立ち上がってから、小さく頭を下げる。それから出口に向かって一目散に駆け出した。


「ロゼッタ嬢、待っ……」

「そういえばウィルバート様、事業の件でぜひ、お耳に入れておきたいことがございますの。とてもいいお話ですのよ?」


 ウィルバートはすぐにロゼッタの後を追おうとしたが、アバルディアに引き止められてしまう。彼はロゼッタとアルバディアとを何度も交互に見て、最終的にその場に留まるのだった。
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