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「うーん! 美味すぎる!」
普段は絶対に見せない満面の笑みで、加熱し直されたばかりの熱々カレーにがっつく瑠唯人。殆どの事には興味が無さそうな顔をしているけど、こういう時は猫っぽくて可愛いんだよな。
俺は、その様子をカレーではなくサラダを食べながら見つめる。なぜか、瑠唯人は猫なのに猫舌ではなく、逆に犬の俺が猫舌だった。俺もお腹空いてるからがっつきたいのに、なんで猫舌なんだろうなぁ。犬なのに。
「お前ら相変わらず帰るの遅せえなぁ」
「あ、先輩。しょうがないじゃないっすか、部活終わるの6時半っすよ?」
「分かってるよ。でも夕飯もらえるの6時45分までだろ?1、2分遅れたら夕飯抜きじゃねぇか」
「うーん、そうなんすよねぇ。早くあがれるように頼んでみるか……」
カレーに夢中な瑠唯人を横目に、食堂にやってきた須野(すの)先輩とそんな会話を。須野先輩は三年生の狼獣人で、寮に入った頃に色々教えてもらったことから仲良くさせてもらっている。ちょっと口が悪い時があるが、頼りになる先輩だ。
「そういやお前ら明日からどうすんの? 実家に帰省?」
「僕たちは寮に残りますよ。でも3、4日くらいはどっかで帰るつもりです」
「へー、まあ俺も寮に残るけどね。実家帰ると親がうっせぇからさぁ」
明日からうちの大学は夏休みに入る。8月から9月の末までの丸々2ヶ月休みだ。
一週間ほど前に瑠唯人と話し合った結果、今年は長期間の帰省はせず、寮でのんびり過ごそうということになった。
「そうだ、瑠唯人。あとで俺の部屋に来てくれねぇか。」
いつの間にかカレーを食べ終わっていた瑠唯人に先輩がそう切り出す。てかこいつ、米粒1つも残さず食べきるとかどんだけ好きなんだよ。
「──何かあったんですか?」
「いや、ちょっと話したいこと……というか聞きたいことがあって」
「……はい」
不思議がっていた瑠唯人も何かを察したような表情に変わる。対称的に、俺にはなんの話かさっぱり分からない。
「お前ら今から風呂だろ? じゃあその後来てくれ」
「分かりました」
「じゃあまた後で」
先輩はそれだけ言い残すと、食堂の螺旋階段を上っていってしまった。恐らく三階にある自室に戻るのだろう。
そして、瑠唯人はカレーを食べていた時の幸せそうな表情は見る影もなく、どこか寂しいような苦しいような表情で残りの野菜に噛みついていた。
俺はさっきの話が気になっていたが、その後はいつもの日常会話に戻されたため、その表情の原因を探ることはできなかった。
「ごちそうさまでした!」
「よし、行くか」
なかなか食べ終わらないマイペースな瑠唯人に待ちくたびれていた俺は、急かすようにそう促して席をたった。
それからまた一度自室に戻った俺たちは、着替えとタオルを手にお風呂場に続く廊下を歩き始める。さっきまで賑やかだったこの廊下も今では一人二人ほどしかいない。ほとんどの人はご飯の後、自室でゆっくりする人が多いためこの時間はいつもこんな風に閑散としていた。逆に、周りから見ればこの早い時間に風呂へ向かっている俺たちの方が珍しいと思われるかもしれない。
やがて他の人も全くいなくなり、さっきの疑問を聞くには絶好のタイミングになったが…
「瑠唯人、さっきの先輩の話……なんかあったのか?」
「ん? なんにもないよ、どうしたの?」
「えっ……い、いや」
こんな感じで見事に避けられてしまった。
瑠唯人は話しかけた途端に、瞬時に暗い顔からいつものムスっと顔に戻す。うん、こっちの方が見慣れてるからなんか安心する。
しかし、さっきまでの顔は完全に、なにかありますよ。の顔だった。でも、何もないと言われたらそれ以上聞けないし……
「せんぱーい!」
「わっ!? ちょっ、抱きつくなって気持ち悪い!」
「えー、良いじゃないですか。じゃあ先輩が俺に抱きついてくださいよ」
「いや、意味わかんねえよ! いいから離れろって」
脱衣所の前に着いたところで後輩の犬獣人、宮崎冬馬(みやざきとうま)に抱きつかれて俺は慌てる。冬馬は名前に冬が入ってるだけあってか、白毛が特徴的な奴だ。しかし、俺はこいつの度重なる変態行為にうんざりしていた。同じ犬獣人でこうも性格が違うもんなのかと驚かされる。
「先輩たちも今から風呂ですか? 一緒に入りましょー!」
「分かった、分かったから抱きつくなって!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる冬馬に引っ張られ脱衣所に入る。ふと瑠唯人のほうを見るとまた不機嫌そうな顔に戻っていた。
普段は絶対に見せない満面の笑みで、加熱し直されたばかりの熱々カレーにがっつく瑠唯人。殆どの事には興味が無さそうな顔をしているけど、こういう時は猫っぽくて可愛いんだよな。
俺は、その様子をカレーではなくサラダを食べながら見つめる。なぜか、瑠唯人は猫なのに猫舌ではなく、逆に犬の俺が猫舌だった。俺もお腹空いてるからがっつきたいのに、なんで猫舌なんだろうなぁ。犬なのに。
「お前ら相変わらず帰るの遅せえなぁ」
「あ、先輩。しょうがないじゃないっすか、部活終わるの6時半っすよ?」
「分かってるよ。でも夕飯もらえるの6時45分までだろ?1、2分遅れたら夕飯抜きじゃねぇか」
「うーん、そうなんすよねぇ。早くあがれるように頼んでみるか……」
カレーに夢中な瑠唯人を横目に、食堂にやってきた須野(すの)先輩とそんな会話を。須野先輩は三年生の狼獣人で、寮に入った頃に色々教えてもらったことから仲良くさせてもらっている。ちょっと口が悪い時があるが、頼りになる先輩だ。
「そういやお前ら明日からどうすんの? 実家に帰省?」
「僕たちは寮に残りますよ。でも3、4日くらいはどっかで帰るつもりです」
「へー、まあ俺も寮に残るけどね。実家帰ると親がうっせぇからさぁ」
明日からうちの大学は夏休みに入る。8月から9月の末までの丸々2ヶ月休みだ。
一週間ほど前に瑠唯人と話し合った結果、今年は長期間の帰省はせず、寮でのんびり過ごそうということになった。
「そうだ、瑠唯人。あとで俺の部屋に来てくれねぇか。」
いつの間にかカレーを食べ終わっていた瑠唯人に先輩がそう切り出す。てかこいつ、米粒1つも残さず食べきるとかどんだけ好きなんだよ。
「──何かあったんですか?」
「いや、ちょっと話したいこと……というか聞きたいことがあって」
「……はい」
不思議がっていた瑠唯人も何かを察したような表情に変わる。対称的に、俺にはなんの話かさっぱり分からない。
「お前ら今から風呂だろ? じゃあその後来てくれ」
「分かりました」
「じゃあまた後で」
先輩はそれだけ言い残すと、食堂の螺旋階段を上っていってしまった。恐らく三階にある自室に戻るのだろう。
そして、瑠唯人はカレーを食べていた時の幸せそうな表情は見る影もなく、どこか寂しいような苦しいような表情で残りの野菜に噛みついていた。
俺はさっきの話が気になっていたが、その後はいつもの日常会話に戻されたため、その表情の原因を探ることはできなかった。
「ごちそうさまでした!」
「よし、行くか」
なかなか食べ終わらないマイペースな瑠唯人に待ちくたびれていた俺は、急かすようにそう促して席をたった。
それからまた一度自室に戻った俺たちは、着替えとタオルを手にお風呂場に続く廊下を歩き始める。さっきまで賑やかだったこの廊下も今では一人二人ほどしかいない。ほとんどの人はご飯の後、自室でゆっくりする人が多いためこの時間はいつもこんな風に閑散としていた。逆に、周りから見ればこの早い時間に風呂へ向かっている俺たちの方が珍しいと思われるかもしれない。
やがて他の人も全くいなくなり、さっきの疑問を聞くには絶好のタイミングになったが…
「瑠唯人、さっきの先輩の話……なんかあったのか?」
「ん? なんにもないよ、どうしたの?」
「えっ……い、いや」
こんな感じで見事に避けられてしまった。
瑠唯人は話しかけた途端に、瞬時に暗い顔からいつものムスっと顔に戻す。うん、こっちの方が見慣れてるからなんか安心する。
しかし、さっきまでの顔は完全に、なにかありますよ。の顔だった。でも、何もないと言われたらそれ以上聞けないし……
「せんぱーい!」
「わっ!? ちょっ、抱きつくなって気持ち悪い!」
「えー、良いじゃないですか。じゃあ先輩が俺に抱きついてくださいよ」
「いや、意味わかんねえよ! いいから離れろって」
脱衣所の前に着いたところで後輩の犬獣人、宮崎冬馬(みやざきとうま)に抱きつかれて俺は慌てる。冬馬は名前に冬が入ってるだけあってか、白毛が特徴的な奴だ。しかし、俺はこいつの度重なる変態行為にうんざりしていた。同じ犬獣人でこうも性格が違うもんなのかと驚かされる。
「先輩たちも今から風呂ですか? 一緒に入りましょー!」
「分かった、分かったから抱きつくなって!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる冬馬に引っ張られ脱衣所に入る。ふと瑠唯人のほうを見るとまた不機嫌そうな顔に戻っていた。
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