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洗面台に向かい、顔を水でパシャパシャと洗う。
顔を上げると、鏡に映ったのは濡れてペタンとくっついた毛並みに、ピンと立った三角耳が特徴的な僕の姿だ。
僕は、種族で言うと三毛の猫獣人になる。名前通りの白色をベースに、茶色と黒がアクセントを引き立てる毛並み。
三毛猫の雄は極めて珍しいらしく、確か小学生の頃に「3万分の1の確率」だと習った気がする。
当然、珍しいと言われることも日常茶飯事だけど、他の人と違うというのは自信に思っていいのかどうか分からない。
どうせなら綺麗な白毛やカッコいい黒毛だったらいいのにな、なんて嘆いても変わらないことを考えてしまうのが僕の悪い癖だ。
そして、僕にはもう一つ普通の人と違う所がある。
それは、僕が男性愛者だということだ。
つまり、恋愛対象が女性ではなく男性に向いていて、もちろん女性より男性の体で興奮するし、結婚するなら男性としたいと思っている。
それを自覚したのは中学2年の時だが、今ではあまり思い出したくない記憶でもあった......
つきっぱなしの寝癖を水でちょんちょんと直し、歯を磨いて「よし」と呟き洗面所を後にする。
部屋に戻り、未だ寝間着だった服を秋用のパーカーとジーンズに着替え、寝間着は洗濯かごに入れる。
僕が住むアパートは一人暮らし用のワンルームだから少し狭い気がしなくもないが、意外とくつろぐスペースはあるし、なにより移動が楽だ。
だから、独り暮らしをする上ではワンルームで十分、というかそれ以上は家賃が高いという問題が出てくるので、必然的にワンルーム……ということになるのかもしれない。
それから僕は、先日洗ったばかりで良い匂いのするタオルと着替え、印刷用紙などをバッグに詰めて玄関へ向かった。
玄関のドアを開けると、下井草の住宅街はもう薄暗くなっていて、街灯がスポットライトのように暗い道路の一点を照らしていた。
最近、少し日が落ちるのが早くなって来たかもしれない。
もう秋が来て、そのうち冬になると思うと少し憂鬱な気持ちになる。
なんせ、ネコ科は寒いのが苦手だからだ。
長毛種なら良いだろうけど、僕みたいな短毛種は毎年危機感すら覚える程。
炬燵はどこにしまったかな、と思いつつ鍵をお尻のポケットに入れて人気の少なくなった夜道を歩き出す。
先ずは、井荻駅を挟んで北側にある彼の家に向かう。
僕の家は井荻駅の南側で、温泉は僕の家より南にあるからまた戻って来なくちゃいけない。
といっても、彼の家も温泉も距離は近いから面倒ということはないだろう。
歩き出して数分。ビルやお店の間から次第に井荻駅が見えてきて、街灯以上の明るさに安心する。
駅にはまだ沢山人がいて、その人たちのため息を押し殺しているような表情を見るにおそらく仕事から帰ってきたのだろうと推測できた。
この駅は近くに踏み切りがない代わりに地下道があるから、そこを通って街の北側に移動する。
駅を通りすぎれば彼の家はもうすぐだ。
彼の家はクリーム色が印象的な3階建てのアパートで、1階に2部屋ずつ入っており間取りは全て1K。キッチンやお風呂が別の部屋に分けられてる分生活スペースを広くとれるのが特徴だ。
そのおかげもあって、僕はよく彼の家に泊まったりしている。
実は、彼に対してよこしまな感情がないかと言われれば大嘘にはなるのだが......
――ピンポーン。
2階の右側にある彼の家のチャイムを鳴らす。
ドタドタッという音がしたかと思えば、しばらくして彼が玄関の扉を開けた。
「雪ちゃん、いらっしゃい~!」
「お待たせ、翼君」
そう、彼こそが僕が密かに恋心を抱いている相手の二ノ瀬翼(にのせつばさ)君だ。
彼は、黒毛のアラスカンマラミュート(犬獣人)で、細見だがしっかりとした筋肉質の体とそれとは正反対の甘いマズルをしている。
もちろん、僕より背が高いのでいつも見下げられている感じがなんとも悔しかったりする。
「さあ、入って入って」
「いや、ここでいいよ」
部屋の中へと手招きする翼君の誘いを断る。
「ん、どうかした?」
「これから近くの温泉でも行こうかと思って。あっ、翼君も行かない?」
「温泉? ここら辺に温泉なんてあったっけ?」
おっと、どうやら翼君も知らないようだ。相当マイナーな場所なのかな......?
「僕もさっき知ったんだけど、僕の家から5分くらい下っていったところに"井ノ湯"っていう温泉があるみたい。」
「へえー、んじゃせっかくだし行ってみよっかな」
「ほんと!?」
「おうっ、レポート印刷したら行くから先に行っててくれ」
「うん分かった、詳しい住所はスマホに送っておくね」
「おっけ、サンキュー」
翼くんに印刷用紙を渡して「また後で」と手を振って、翼くんの家を後にする。
階段を下りたところでふと空を見上げると、東の方に綺麗な満月が浮かんでいた。
顔を上げると、鏡に映ったのは濡れてペタンとくっついた毛並みに、ピンと立った三角耳が特徴的な僕の姿だ。
僕は、種族で言うと三毛の猫獣人になる。名前通りの白色をベースに、茶色と黒がアクセントを引き立てる毛並み。
三毛猫の雄は極めて珍しいらしく、確か小学生の頃に「3万分の1の確率」だと習った気がする。
当然、珍しいと言われることも日常茶飯事だけど、他の人と違うというのは自信に思っていいのかどうか分からない。
どうせなら綺麗な白毛やカッコいい黒毛だったらいいのにな、なんて嘆いても変わらないことを考えてしまうのが僕の悪い癖だ。
そして、僕にはもう一つ普通の人と違う所がある。
それは、僕が男性愛者だということだ。
つまり、恋愛対象が女性ではなく男性に向いていて、もちろん女性より男性の体で興奮するし、結婚するなら男性としたいと思っている。
それを自覚したのは中学2年の時だが、今ではあまり思い出したくない記憶でもあった......
つきっぱなしの寝癖を水でちょんちょんと直し、歯を磨いて「よし」と呟き洗面所を後にする。
部屋に戻り、未だ寝間着だった服を秋用のパーカーとジーンズに着替え、寝間着は洗濯かごに入れる。
僕が住むアパートは一人暮らし用のワンルームだから少し狭い気がしなくもないが、意外とくつろぐスペースはあるし、なにより移動が楽だ。
だから、独り暮らしをする上ではワンルームで十分、というかそれ以上は家賃が高いという問題が出てくるので、必然的にワンルーム……ということになるのかもしれない。
それから僕は、先日洗ったばかりで良い匂いのするタオルと着替え、印刷用紙などをバッグに詰めて玄関へ向かった。
玄関のドアを開けると、下井草の住宅街はもう薄暗くなっていて、街灯がスポットライトのように暗い道路の一点を照らしていた。
最近、少し日が落ちるのが早くなって来たかもしれない。
もう秋が来て、そのうち冬になると思うと少し憂鬱な気持ちになる。
なんせ、ネコ科は寒いのが苦手だからだ。
長毛種なら良いだろうけど、僕みたいな短毛種は毎年危機感すら覚える程。
炬燵はどこにしまったかな、と思いつつ鍵をお尻のポケットに入れて人気の少なくなった夜道を歩き出す。
先ずは、井荻駅を挟んで北側にある彼の家に向かう。
僕の家は井荻駅の南側で、温泉は僕の家より南にあるからまた戻って来なくちゃいけない。
といっても、彼の家も温泉も距離は近いから面倒ということはないだろう。
歩き出して数分。ビルやお店の間から次第に井荻駅が見えてきて、街灯以上の明るさに安心する。
駅にはまだ沢山人がいて、その人たちのため息を押し殺しているような表情を見るにおそらく仕事から帰ってきたのだろうと推測できた。
この駅は近くに踏み切りがない代わりに地下道があるから、そこを通って街の北側に移動する。
駅を通りすぎれば彼の家はもうすぐだ。
彼の家はクリーム色が印象的な3階建てのアパートで、1階に2部屋ずつ入っており間取りは全て1K。キッチンやお風呂が別の部屋に分けられてる分生活スペースを広くとれるのが特徴だ。
そのおかげもあって、僕はよく彼の家に泊まったりしている。
実は、彼に対してよこしまな感情がないかと言われれば大嘘にはなるのだが......
――ピンポーン。
2階の右側にある彼の家のチャイムを鳴らす。
ドタドタッという音がしたかと思えば、しばらくして彼が玄関の扉を開けた。
「雪ちゃん、いらっしゃい~!」
「お待たせ、翼君」
そう、彼こそが僕が密かに恋心を抱いている相手の二ノ瀬翼(にのせつばさ)君だ。
彼は、黒毛のアラスカンマラミュート(犬獣人)で、細見だがしっかりとした筋肉質の体とそれとは正反対の甘いマズルをしている。
もちろん、僕より背が高いのでいつも見下げられている感じがなんとも悔しかったりする。
「さあ、入って入って」
「いや、ここでいいよ」
部屋の中へと手招きする翼君の誘いを断る。
「ん、どうかした?」
「これから近くの温泉でも行こうかと思って。あっ、翼君も行かない?」
「温泉? ここら辺に温泉なんてあったっけ?」
おっと、どうやら翼君も知らないようだ。相当マイナーな場所なのかな......?
「僕もさっき知ったんだけど、僕の家から5分くらい下っていったところに"井ノ湯"っていう温泉があるみたい。」
「へえー、んじゃせっかくだし行ってみよっかな」
「ほんと!?」
「おうっ、レポート印刷したら行くから先に行っててくれ」
「うん分かった、詳しい住所はスマホに送っておくね」
「おっけ、サンキュー」
翼くんに印刷用紙を渡して「また後で」と手を振って、翼くんの家を後にする。
階段を下りたところでふと空を見上げると、東の方に綺麗な満月が浮かんでいた。
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