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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-
scene4 〔 子梅 〕
しおりを挟むここはどこなのだろう。
駅からの出方を教えてもらうため、近くにいた高校生に話しかけた。するとなぜかこのカフェに案内され、パンケーキを食べているというのが今の状況だ。
大事な話がどうとかでゴニョゴニョと言葉を並べるユキを横目に、東京のパンケーキを頬張る。東京者の戯れ言などこの先いくらでも聞けるが、この店のパンケーキを食べられるのは今だけなのだから。
「...というわけでバンドメンバーを探していた俺は駅で待ち合わせをしていたわけだ」
どうやらこの男がサイトで知り合った彼女に会いに行ったというような内容らしい。よく話を聞いていないが、サイトだのメンバー募集だのと幸せそうに語っている。
一体、何が悲しくて見ず知らずの都会人の彼女との出会い話を聞かなくちゃいけないのか。かと思えば自分の演奏経験について話したら殺意のこもった目で睨み付けてくる。些細なことに一喜一憂しておめでたい人だ。
「いや、本当になにもできないの?」
なにもできない?いやいや、そんなことは一言も言っていないはずだ。音楽に関しての知識はそこまでないが、小中学校の学芸会では、一貫してカスタネットのポジションを獲得し続けるという快挙を成し遂げ、通知表では常に2をキープしていた記憶がある(ちなみに2段階中ではない。5段階評価である)。
いずれにせよ、ご自分ののろけ話に満足したならさっさと解放してほしい。そんでもって彼女のところへ行くがいい。そもそも、彼女さんは彼氏をおいてどこへ行っているというのだろう。
こっちははやく駅からの出方を教えてもらいたいというのに。まったく、この調子だとまだしばらくかかりそうだ。
「まあ、仕方がない。本当はこんなはずじゃなかったがせっかくあいつも呼んでいることだし...」
ユキはそう言い、スマホを取り出した。
「あ、もしもし?...そうそう。うん、カフェね。いやー、ちょっとしたトラブルが発生してて。じゃあヨロシク」
電話を切り、こちらへ向き直るユキ。ますます訳がわからない。きっとあいつ、というのは彼女のことなのだろう。トラブルというのはまさか駅からの出方が分からなくなってしまったとかだろうか。それならとんだ間抜けなやつに話しかけてしまったものだ。
「近くにいるみたいだから、すぐ来ると思う。これから一緒に活動していくにあたって第一印象は大切にしてね。」
そう言って彼は無理にひきつらせた仏頂面を向けてきた。
数分後、子梅の前にあらわれたのは明らかに東京のおしゃれなカフェには似つかわしくない大柄な男だった。見た目からして、彼女という感じでは無さそうだ。
「よぉ。お、こいつか『期待の新メンバーだと思って会ってみたら前髪ガタガタのダサい女だった』ってのは。」
「......。」
「......。」
それは紛れもなく子梅のことであろう。
5㎏の鉄球の如く重い空気がカフェ全体を包み込む。
一方、等の本人だけはにこやかな笑みを浮かべて店員に期間限定ウルトラフルーツパフェスペシャルのメガ盛りを注文している。
「ちなみにおかわりはできるのか?」
なにも知らない客にとってみれば凄まじくシュールな画になっていることだろうが、子梅の心についた傷は日本海溝よりも深い。
「確かにさっきLINEした以上の女だな。前髪もギザギザって言ってたけどまさかこんなに田舎染みた感じだとは───」
「それ以上言うなぁぁあああ~~‼」
ユキが青ざめた顔をしながら男に飛びかかった。
が、体格差は明らかであり結末は見えている。
案の定男のお腹にぶつかったユキはボスッと音をたててどこかへ飛んでいった。『顔合わせに一番大切なのは第一印象なのに...』という嘆きが血とともに彼の口から吐き出される。
「なんなんだよ、お前。カフェで騒いだりしたら回りの客に迷惑だろ。」
───急に正論を言うなよ...
「でもまあ、大事なのは演奏経験ってもんだからな。こいつだっていつもはこんな草食系男子の鏡みたいなカッコしてるけどな、ギターの腕前はそれなりにあるんだぜ」
「...それは認める」
テーブルの下からユキの声が聞こえる。
「だからそこの田舎っ子、取り敢えず簡単な曲が弾けるくらいならメンバーにしてやるよ。ちょうどいい、ここにギターがあるからこれで────」
「...。」
「ん?どした?」
カフェの一角を、再び重苦しい空気が包み込む。
「一旦帰ってくれ───‼‼」
再びユキが男のお腹へと跳んだ。
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