俺が思ってたバンドLIFEはこんなはずじゃなかった!

さくもも

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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-

scene5 〔 鉄男 〕

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 『筋トレとバンド活動は両立してはいけない』などという法律を聞いたことがあるだろうか。
 俺はない、いや、そんな法律は存在しない‼今、ネットで検索したがやはり無かった‼
 しかしだ、鉄男は未だかつて、一度もバンドを組めていない。これは理屈が成り立っていないと思わないだろうか。質量保存の法則に反する考え方と言っても過言ではない。
 もちろん、当方にも問題がないとは言えない。具体的には顔とか顔とか顔とかだ。これに関しては毎日小顔ローラーとフェイスシェイプトレーニングで改善への努力をしているつもりだ。
 しかし、彼がちょくちょく顔を出している(部員だとは一言も言っていない)軽音楽部の部員連中は口を揃えて言う。
「剛力くんはその.....筋トレとか、忙しいでしょ?だ、だからさ、わざわざバンドにまで手を出さなくても.....」と。
 まるで邪魔者扱いなのである。

 剛力鉄男、都内の某公立高校に通う二年生だ。趣味は筋トレとドラム。ドラム缶を潰すことではない、DRUMだ。どら息子でもない。

 ドラムを叩くにはいい体つきをしていると我ながらに思う。にも拘らず、誰も彼をバンド活動に誘ってくれないのは、やはり知らず知らずのうちに、与えてしまっている威圧感のせいだろうか。
 とはいえ、中身は心優しい青年。バンドを始めたきっかけも、これまた原稿用紙100枚や200枚では収まりきらないような熱い熱い男の友情物語が関わっているのだが、これはしゃくの都合上、泣く泣くカットすることとなった。

 そんなわけで、高校でのバンド活動は諦めた鉄男だったが、先日とあるサイトの掲示板で衝撃的な記事を見つけた。
 なんと、バンドメンバーを募集していると言うのだ‼しかも高校生、これはきっと、自分と同じく不当な誤解を受け、いわゆる『余り組』に属しているだれかの投稿に違いない。同じ境遇に立たされた者同士、仲良くやっていこうじゃないか───というような勝手な妄想をそのまま文字に起こした内容のメールを、いかにも好青年を装った文面で送信した。
 返信は割りとすぐに返ってきた。『ぜひともお会いしたい』というやや短めのそれであったものの、鉄男は興奮を押さえきれずに深夜にも関わらず部屋を占拠しているドラムを叩きまくった。(その結果、隣の住民が『近所に破壊魔がいるようなので駆除して欲しい』と警察に通報したことにより親父に怒られ、いじけてオンラインゲームに逃げたことは敢えて言う必要もないだろう)

 さっそく待ち合わせ場所を決め、次の週末に顔合わせをすることとなった。
 せっかくだから、相手の最寄りの駅で待ち合わせにしてあげよう、一応手土産も持っていった方がいいだろうか、成り行きでカフェに寄ったりすることもあるかもしれないな、駅の近くの美味しいパンケーキ屋さんの予約を取っておこうか....などと妄想を膨らませ、一週間後に訪れる対面の時を心待ちにしながら眠りについたのだった。

 しかし、心優しい青年のお節介はこれにとどまらなかった。もしかしたらまだメンバーが集まりきっていないのかもしれない。ならばこちらからも用意をしていった方が良いのではないか。
 一人でさえどこのバンドにも所属できていない、という自分の立場を完全に忘れ、ありがた迷惑に走った鉄男が出した決断は『同じサイトに同じ内容の募集をかけ、集まったメンバーも連れて顔合わせをしよう』という世にも奇妙なものだった。
 もちろん結果は見えている。何日経っても参加を希望して来るものは現れなかった。
 だが、剛力鉄男という男の辞書に妥協の二文字は存在し得ない。鬼のような執念のもと、彼は来る日も来る日も駅の近くを歩き回ってギターケースを持っている高校生たちに手当たり次第声をかけた。そして遂に顔合わせが翌日に迫った金曜日、彼の頭にふと、軽音部の存在が浮かんだ。

「ど、どうしたの?剛力くん。今日はいったい何を壊し...じゃなくてなんの用件で?」
そう言った軽音楽部部長の声は、案の定震えていたが、そう気にすることではないだろう。
「今日はドラムの機材をお借りしに来たわけじゃないんだ」
「.....。」
「ちょっとメンバーが足りてなくてな、人をお借りしに来たんだ」
部員全員の表情が凍りついた瞬間だった。

 よそよそしく楽器の手入れを始める者、チューニングに勤しむ者などそれぞれであるが、彼と目を合わせようとするものは誰一人としていない。
 できるだけ人が良さそうで演奏経験があること、それがメンバーの条件。そんな中、鉄男の目に留まったのは部屋の片隅でベースの音合わせをする小柄な青年であった。
「こいつに決定だぁぁああー!!!」
 何を根拠に決定したのかはさだかではないが、とにかく直感的にそう感じたのだ。
 鉄男は部室の奥へとずんずん進み、なにも知らない彼の首根っこを掴んで部室をあとにしたのであった。

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