ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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プロローグ

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 今から三百年ほど昔、この地上を支配していたのはヴァンパイアだったそうだ。
 人を家畜のように飼い、天敵である人狼との戦争にかり出す悪魔。
 そのヴァンパイアの王国は、人と人狼の連合軍ーー聖騎士団によって、一夜にして滅ぼされた。
 王族は壊滅。残った眷属たちは地下に身を潜め、晴れて地上は人間と人狼の物になった。
 ・・・・・・だが、戦いはまだ続いている。


 時刻は午後十時を回ったところだった。
 俺は大股で公園内を闊歩し、銃のセーフティを外す。
 やや雑音混じりの通信機を押さえながら、俺は静かに言った。
「聖騎士団遊撃隊、ライアン・ブラックフォード。これより任務に移ります」
 口にくわえていた煙草を吐き捨てながら、振り返りざまに引き金を引いた。
 純銀製の弾丸は、俺の首に食らいつこうとしていたヴァンパイアの口内に進入し、そのまま喉を貫いた。
 だが、これぐらいじゃ奴らは死なない。
 俺はもう一丁、同じ型の銃を取り出した。
 すっかり手になじんだ、全体が赤黒い銃。
 それを両手に、俺は悶絶しているヴァンパイアの心臓めがけて弾をぶっ放した。
 弾丸には聖水が詰められている。
 眷属と呼ばれる雑魚なら、この弾を一発でも頭か心臓に浴びれば死ぬが、俺は何発も相手の胸に撃ち込んだ。
 その隙に、背後にもう一体ヴァンパイアが迫る。
 だが、俺は動かなかった。
 横を擦過していく相棒に気が付いていたからだ。
 俺は、液化していくヴァンパイアの死骸を見下ろしながら、もう一本煙草を口にくわえた。
 ちょうどヴァンパイアの心臓を長剣で突き刺した相棒ーーローガンが振り返り、眉をつり上げた。
「馬鹿野郎! 普通、遠距離武器のお前が俺の背中を守るんだよ、ライアン!」
「そうなのか?」
「そうだ、このニコチン馬鹿! 前線は俺たち人狼の役目なんだから、先行しすぎるな!」
 確かに人間の身体能力では、ヴァンパイアに太刀打ちできない。そこは人間と友好的な関係を続けている人狼に任されてしまう。
 しかし、後方支援なんて性に合わない。この手でヴァンパイアを殺さなければ。
 だから、俺は前に出る。
 二丁拳銃を、弾がなくなる勢いで撃ち続けるのだ。
 ・・・・・・俺の人生を奪ったヴァンパイアどもを、殺し尽くすまで。
「いくぞ、ローガン」
「だから、お前は先に行くなって!」
 キャンキャンと泣きわめく相棒を背後に、俺は銃を構えた。
 それほど広くない公園。その四隅から湧き上がるようにして現れる化け物ども。
 俺は片手に煙草、片手に銃を持ち、舗装された道を歩く。
 射程範囲内に獲物が入ってきた瞬間、俺は立て続けに五発、引き金を引いた。
 全て心臓に命中ーーかと思いきや、一匹外していたらしい。
 滑るように近付いてくるヴァンパイア。
 俺は煙草をくわえ、空いた手にもう一丁銃を握ろうとしたが、それより先にローガンが横から飛び出す。
 人間ではあり得ない俊敏さでヴァンパイアに近付くと、手にしていた長剣を横になぎ、敵の首を切り落とした。
 さすがのヴァンパイアも、頭が無くなれば行動できない。俺は念のために転がっているヴァンパイアの頭を粉々になるまで撃ち、ついでに胴体に残った心臓にも残弾をお見舞いしてやった。
 空になった弾倉を取り出し、替えの弾倉を手に取ると、視界の隅で何かが動いた。
 言うまでもない。ここには俺たちと、ヴァンパイアしかいないのだから。
「ローガン、十時の方向から敵」
「俺に命令するなっつーの」
 そうは言いながらも、ローガンはすでに地面を蹴り、俺が指示した方向へ動いている。
 その間に俺は弾倉を詰め替え、紫煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
 点々と輝きを放つ星が美しい夜空。それに向かってゆっくりと煙を吐き出していたが、俺の体を、突然重圧感が襲った。
「なん、だ・・・・・・!?」
 まるで、見えない手で押さえつけられそうなーーそんな感覚だ。
 膝が折れそうになり、俺は必死で下肢に力を入れる。
 その時、気づいた。
 公園の奥、闇の中に一人、この世のものとは思えない美しい青年がたたずんでいるのを。
 まるで青年の体が発光しているかのように、くっきりと闇の中でも存在感を放っている。
 月光のように輝くアイスブロンドと、血のように赤く濡れた瞳が、俺の視線をからめ取った。
 赤い瞳ということは、あの青年もヴァンパイア。
 それも、この重圧感からするに、今まで遭遇したことがない高位のヴァンパイアだ。
 俺は突然現れた秀麗なヴァンパイアを見つめたまま、その場に片膝をつく。
 圧倒的な力。視線だけで他者を屈服させるほどの威圧感に、胸が苦しくなった。
 うずくまる俺を見つめたまま、美しいヴァンパイアは微笑む。その背後から三体のヴァンパイアが飛び出し、俺へ向かってきた。
 銃を持ち上げる。だが、震える腕では照準が定まらない。
 あと数メートルで喉を食い破られると思ったとき、ローガンの引き締まった腕が俺の体を抱え上げた。
「ライアン、大丈夫か!?」
 ヴァンパイアから距離をとり、ローガンは訊ねる。
 間近に見える不安げな顔に、俺は小さく頷いた。
「すまない、大丈夫だ・・・・・・」
「そんな真っ青な顔で何言ってんだ。ここは一旦退却ーー」
「嫌だ」
 俺はローガンの腕の中から抜け出すと、片方の銃を両手で構え、全精神力を総動員して、引き金を引いた。
 一発、二発、三発。
 人間の視力では、ほぼ残像にしか捉えられない化け物の頭に向けて、俺は狂ったように弾丸を放つ。
「退却なんてあり得ない。俺はこいつらを殺さなきゃいけないんだ!」
 たとえ弾が外れようと、当たるまで撃ち続ければいい。
 この忌まわしい生き物をこの世から根絶する日まで、俺は奴らから逃げてはいけないのだ。
 硝煙と液化するヴァンパイアの生臭いにおいが充満する公園で、俺はひたすら引き金を引き続けた。
 雑魚を撃ち殺し、最後にあの高位のヴァンパイアを殺そうと姿を探したが、あの美しい姿は、闇に紛れて消え去っていた。
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