ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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第二章:動き出す終末の歯車

第二話:相棒という存在

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 それから十五分ほどして、俺たちは目的地であるレストラン・ボーノに着いた。
 団長は、ローガンが勧めていたロブスターのパスタを注文し、俺は少し悩んだ後、キャベツとベーコンのペペロンチーノに決めた。
 メニュー表を店員に返しながら、俺はふと、レストラン後方にある窓を振り返った。
 窓のすぐ外にもたれかかっているのは、ローガンだ。
 初夏の日差しが照りつけているにも関わらず、彼は顔色ひとつ変えずに立っていた。
「中で待てばいいのに、外で待つと聞かなくてね」
 俺の視線に気づいたのか、団長がため息混じりに言った。
「護衛だからって、私達が食事しているそばで外に待たせるのは、申し訳ないよね」
「そうですね。中に呼びましょうか?」
「・・・・・・いいの?」
「え?」
 唐突な問いに、驚いた。
 俺が首を傾げると、団長は少し困ったように笑った。
「いや、ローガンと何かあったんじゃないかと思ってね」
「そんな、団長が心配するような事は、何も・・・・・・」
 そう言った矢先、先日のキスが頭をよぎり、俺は頬に熱が集まってくるのを感じた。
 何もない、と言いそうだった口が力なく閉じ、俺はうなだれた。
 すると、団長は苦笑しながら身を乗り出し、俺の頭を撫でた。
「君は本当に分かりやすいなあ」
「申し訳ありません・・・・・・」
「いやいや、謝る事じゃない。誰だって、今の君たちを見ていれば変化に気づくよ」
 それは俺も思う。
 互いのよそよそしい態度に、俺もーー恐らくローガンも気まずく思っているのだから。
 それをどう打開しようか考えたところで、何も浮かばなかった。
「よけいなお世話かもしれないけど、よければ話くらい聞くよ。これでも、君のお父さんなんだからね」
「・・・・・・」
 団長に相談すれば、何か変わるのだろうか。
 いや、戻れるのだろうか。
 あのキスの意味も、少しは理解してやれるのだろうか。
「ーー実は」
 俺は意を決して、団長に先日あった事を話した。
 キスされた件にさしかかると、団長は飲んでいた水を盛大に吹き出した。
「ぶふっ・・・・・・えっ、キスされたの?」
「はい。理由を聞いたら、そうでもしないと気が治まらないと言っていました」
「・・・・・・それを聞いても、ライアンは分からなかったんだね」
「団長は分かるんですか?」
 やや身を乗り出して俺が訊ねると、団長は少し頬を赤らめ、小さく頷いた。
「たぶん、分かると思うけど・・・・・・確かに難しい問題だね」
「俺・・・・・・どうしたらいいのでしょうか」
 ローガンと前のように話したい。
 心ではそう思っているのだが、たった一回のキスによって、今までどう接していたか分からなくなってしまったようだ。
 困り果てて団長を見つめると、彼は微苦笑しながら、俺の頭を再度撫でた。
「本人に聞いてみるのがいいかもね。今まで聞こうとは思わなかったのかい?」
「今日、出発前に聞こうとしたんですが、団長がいらっしゃったので・・・・・・」
「嘘、ごめん!」
 団長は、常日頃は浮かべない狼狽した顔で、何度も俺に謝った。
「そうと決まれば善は急げ、だ。さっそくローガンをここにーーって、あれ?」
 団長は、俺の後方を見て眉根を寄せた。
 一体どうしたのか訊ねると、団長は見つめている方を指さした。
「ローガンがいない」
「え?」
 俺は慌てて振り返った。
 確かに、さきほどまであったローガンの姿が、窓の外にない。
 何かあったのかもしれない。
 俺は急いで立ち上がり、出口へ向かう。
「俺、ローガンを探してきます」
「えっ、料理来ちゃうよ?」
「すみません、先に召し上がっていてください!」
 俺は、親に対してとんでもなく失礼なことをしている。
 せっかく貴重な時間を割いてまで食事に連れだしてくれた人を放っていくのだから。
 それでも、俺の頭の中には、ローガンを探すという目的しかなかった。
 あの仕事熱心な男が、護衛中に断りもなくいなくなるはずがない。それは、相棒たる俺が誰よりも理解していた。
「ローガン?」
 店の外に出て、念のため周囲をぐるりと確認するが、ローガンの姿はない。
 まるで浮いているかのように海が一望できる歩道を、俺は駆けだした。
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