10 / 38
第二章:動き出す終末の歯車
第六話:海辺の乱戦
しおりを挟む
こちらへ近づいてくる団長。闘志がむき出しだ。
「あらら。あの化け物にばれないよう、こっそり動いていたのに・・・・・・」
ヴァンパイアはわずかに焦りの色を浮かべ、癖なのか、再び帽子のつばを目深に引き下げた。
人間を見下すヴァンパイアが団長を恐れるたび、俺達の胸にも希望の灯がともる。
俺達はヴァンパイアに勝てるのかもしれないーーと。
「団長、俺達も戦います!」
俺は、わき上がる戦意に任せて言った。ローガンもいつでも飛びかかれる体勢をとっている。
けれど、団長は敵から目を離さず、俺達の援助を拒否した。
「気持ちは嬉しいけど、このヴァンパイアは王族に近いと言われるほど強い。君たちでは援護もままならないよ」
普段優しい団長しか見ていない分、今の言葉には破壊力があった。
聖騎士団の誇りである遊撃隊員の俺達に、足出まといだと団長は言っているようなものだ。
一組織を担う団長からすれば、部下を無駄に負傷させない為に考えた結果なのだろうが、戦力として見てもらえなかったのは、素直にショックだった。
「さて、まずは君のような高位ヴァンパイアが、この昼間になぜ地上にいるのか聞かなければならないねーーイザーク」
聞き覚えのある名前だった。
たしか、そう・・・・・・はぐれヴァンパイアを率いる親玉の名前だ。
俺が驚いて見つめる中、イザークは上品に微笑んだ。
「私には私の目的があるんですよ、団長殿」
「人間をおもちゃのように壊して楽しむ事が目的なのかな?」
団長がわずかに殺気をまとったのが分かった。
最近増えつつある人間の惨殺事件が、脳裏に浮かんだのだろう。
俺もこの間イザークの手下に殺されそうになったから、奴に対してふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「人間を守るべき組織のトップとして、お前を野放しにはできない。おとなしく付いてきてもらおうか」
「・・・・・・この私に、お前ごときが命令するというのですか、マース」
イザークは眼孔鋭く、団長を見据えた。
「我が主君の命を奪ったお前が・・・・・・お前ごときが、この私に命ずる事は許されません!」
イザークが地面を蹴ると、道路を舗装していた煉瓦が音を立てて粉砕された。
一足飛びに団長へ接近し、右手を振りかざした。いつ取り出し他のか、手には短剣が握られていた。
「団長!」
俺は団長のみを案じて叫んだ。
団長は二本の剣を交差させてイザークの剣を受け止め、左右に切り下ろして短剣を粉砕する。
得物をなくしたイザークは即座に数歩下がり、両腕を下に向けて素早く振り下ろした。
すると袖の裏から短剣が現れ、指の間に収まる。
間髪入れずに短剣が放たれたが、団長は二本の剣を巧みに操り、六本の短剣を弾き飛ばした。
「腕が衰えたな、イザーク。王宮警備長の実力はどこにいった?」
「大きなお世話ですよ。あなたごとき、本気を出さずとも殺せます」
そうは言っているが、俺の目から見てもイザークは団長よりも動きが遅く感じられた。
やはり陽の光の下で団長と戦おうとしたのは、無謀だったのだ。
俺達が手を出さなくても団長なら勝てる。
そう思ったとき、この戦場を取り囲むように、無数の人影が出現した。
全員、黒いロングコートを着込み、フードで顔を覆っていた。
「イザーク様」
乱入者質は口々にイザークの名を呼び、恭しく頭を下げる。恐らく、イザークの眷属なのだろう。
数人が地面に降り立ち、イザークを守るように集まった。
残りは何の前触れもなく、俺達に襲いかかった。
「やれやれ、ランチはまだ先になりそうだ・・・・・・」
団長はのんきにそう言いながら、無造作に剣を振るう。
その一太刀で三体のヴァンパイアが首を切り落とされ、絶命した。
俺もすかさず銃を握り、走り出したローガンを援護する。相棒の背中を狙うヴァンパイアをねらい撃っていると、イザークと目があった。
奴は眷属の壁から身を乗り出すようにして、俺を見ている。配下を殺している俺を睨んでいるかと思ったが、違った。
まるですがるように、訴えるように俺を見ていた。
その姿が、なぜか俺の脳を揺さぶった。
何か・・・・・・記憶の底に埋もれているような何かがせり上がってくる。
同時に激しい頭痛が襲い、俺は頭を押さえた。
そのせいで接近してきたヴァンパイアを銃撃できず、胸ぐらを捕まれる。
軽々と振り上げられたかと思うと、視界が反転し、体が宙を舞っていた。
海に面するこの場所を囲む塀に背中を打ち付け、そのまま落下していく。下はもちろん、海だ。
青く底の見えない海が、こんな時でも美しく映る。
じょじょに遠ざかり、視界から消えていく街並。
団長が俺の名前を呼んでいる。ローガンが駆けてくる。
だが、俺の体はすでに海の上に投げ出されていた。
最近、こんな事ばかりだ。
戦闘中に隙を見せ、どうせ今回も誰かに助けられる。
もう、このまま死んだ方がいいのかもしれない。
俺が目を閉じようとすると、すでに頭上へ遠ざかった街の縁から、何かが飛び降りた。
一瞬ローガンかと思ったが、奴の被っていた帽子が舞い上がり、金糸があふれ出す。
「なんでお前がーー!?」
水面に迫る俺を抱き、頭部を守るように己の胸へ包み込んだのは、ローガンでも団長でもなかった。
人類の敵であるヴァンパイアーーイザークだった。
「あらら。あの化け物にばれないよう、こっそり動いていたのに・・・・・・」
ヴァンパイアはわずかに焦りの色を浮かべ、癖なのか、再び帽子のつばを目深に引き下げた。
人間を見下すヴァンパイアが団長を恐れるたび、俺達の胸にも希望の灯がともる。
俺達はヴァンパイアに勝てるのかもしれないーーと。
「団長、俺達も戦います!」
俺は、わき上がる戦意に任せて言った。ローガンもいつでも飛びかかれる体勢をとっている。
けれど、団長は敵から目を離さず、俺達の援助を拒否した。
「気持ちは嬉しいけど、このヴァンパイアは王族に近いと言われるほど強い。君たちでは援護もままならないよ」
普段優しい団長しか見ていない分、今の言葉には破壊力があった。
聖騎士団の誇りである遊撃隊員の俺達に、足出まといだと団長は言っているようなものだ。
一組織を担う団長からすれば、部下を無駄に負傷させない為に考えた結果なのだろうが、戦力として見てもらえなかったのは、素直にショックだった。
「さて、まずは君のような高位ヴァンパイアが、この昼間になぜ地上にいるのか聞かなければならないねーーイザーク」
聞き覚えのある名前だった。
たしか、そう・・・・・・はぐれヴァンパイアを率いる親玉の名前だ。
俺が驚いて見つめる中、イザークは上品に微笑んだ。
「私には私の目的があるんですよ、団長殿」
「人間をおもちゃのように壊して楽しむ事が目的なのかな?」
団長がわずかに殺気をまとったのが分かった。
最近増えつつある人間の惨殺事件が、脳裏に浮かんだのだろう。
俺もこの間イザークの手下に殺されそうになったから、奴に対してふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「人間を守るべき組織のトップとして、お前を野放しにはできない。おとなしく付いてきてもらおうか」
「・・・・・・この私に、お前ごときが命令するというのですか、マース」
イザークは眼孔鋭く、団長を見据えた。
「我が主君の命を奪ったお前が・・・・・・お前ごときが、この私に命ずる事は許されません!」
イザークが地面を蹴ると、道路を舗装していた煉瓦が音を立てて粉砕された。
一足飛びに団長へ接近し、右手を振りかざした。いつ取り出し他のか、手には短剣が握られていた。
「団長!」
俺は団長のみを案じて叫んだ。
団長は二本の剣を交差させてイザークの剣を受け止め、左右に切り下ろして短剣を粉砕する。
得物をなくしたイザークは即座に数歩下がり、両腕を下に向けて素早く振り下ろした。
すると袖の裏から短剣が現れ、指の間に収まる。
間髪入れずに短剣が放たれたが、団長は二本の剣を巧みに操り、六本の短剣を弾き飛ばした。
「腕が衰えたな、イザーク。王宮警備長の実力はどこにいった?」
「大きなお世話ですよ。あなたごとき、本気を出さずとも殺せます」
そうは言っているが、俺の目から見てもイザークは団長よりも動きが遅く感じられた。
やはり陽の光の下で団長と戦おうとしたのは、無謀だったのだ。
俺達が手を出さなくても団長なら勝てる。
そう思ったとき、この戦場を取り囲むように、無数の人影が出現した。
全員、黒いロングコートを着込み、フードで顔を覆っていた。
「イザーク様」
乱入者質は口々にイザークの名を呼び、恭しく頭を下げる。恐らく、イザークの眷属なのだろう。
数人が地面に降り立ち、イザークを守るように集まった。
残りは何の前触れもなく、俺達に襲いかかった。
「やれやれ、ランチはまだ先になりそうだ・・・・・・」
団長はのんきにそう言いながら、無造作に剣を振るう。
その一太刀で三体のヴァンパイアが首を切り落とされ、絶命した。
俺もすかさず銃を握り、走り出したローガンを援護する。相棒の背中を狙うヴァンパイアをねらい撃っていると、イザークと目があった。
奴は眷属の壁から身を乗り出すようにして、俺を見ている。配下を殺している俺を睨んでいるかと思ったが、違った。
まるですがるように、訴えるように俺を見ていた。
その姿が、なぜか俺の脳を揺さぶった。
何か・・・・・・記憶の底に埋もれているような何かがせり上がってくる。
同時に激しい頭痛が襲い、俺は頭を押さえた。
そのせいで接近してきたヴァンパイアを銃撃できず、胸ぐらを捕まれる。
軽々と振り上げられたかと思うと、視界が反転し、体が宙を舞っていた。
海に面するこの場所を囲む塀に背中を打ち付け、そのまま落下していく。下はもちろん、海だ。
青く底の見えない海が、こんな時でも美しく映る。
じょじょに遠ざかり、視界から消えていく街並。
団長が俺の名前を呼んでいる。ローガンが駆けてくる。
だが、俺の体はすでに海の上に投げ出されていた。
最近、こんな事ばかりだ。
戦闘中に隙を見せ、どうせ今回も誰かに助けられる。
もう、このまま死んだ方がいいのかもしれない。
俺が目を閉じようとすると、すでに頭上へ遠ざかった街の縁から、何かが飛び降りた。
一瞬ローガンかと思ったが、奴の被っていた帽子が舞い上がり、金糸があふれ出す。
「なんでお前がーー!?」
水面に迫る俺を抱き、頭部を守るように己の胸へ包み込んだのは、ローガンでも団長でもなかった。
人類の敵であるヴァンパイアーーイザークだった。
0
あなたにおすすめの小説
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる