ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

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第二章:動き出す終末の歯車

第六話:海辺の乱戦

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 こちらへ近づいてくる団長。闘志がむき出しだ。
「あらら。あの化け物にばれないよう、こっそり動いていたのに・・・・・・」
 ヴァンパイアはわずかに焦りの色を浮かべ、癖なのか、再び帽子のつばを目深に引き下げた。
 人間を見下すヴァンパイアが団長を恐れるたび、俺達の胸にも希望の灯がともる。
 俺達はヴァンパイアに勝てるのかもしれないーーと。
「団長、俺達も戦います!」
 俺は、わき上がる戦意に任せて言った。ローガンもいつでも飛びかかれる体勢をとっている。
 けれど、団長は敵から目を離さず、俺達の援助を拒否した。
「気持ちは嬉しいけど、このヴァンパイアは王族に近いと言われるほど強い。君たちでは援護もままならないよ」
 普段優しい団長しか見ていない分、今の言葉には破壊力があった。
 聖騎士団の誇りである遊撃隊員の俺達に、足出まといだと団長は言っているようなものだ。
 一組織を担う団長からすれば、部下を無駄に負傷させない為に考えた結果なのだろうが、戦力として見てもらえなかったのは、素直にショックだった。
「さて、まずは君のような高位ヴァンパイアが、この昼間になぜ地上にいるのか聞かなければならないねーーイザーク」
 聞き覚えのある名前だった。
 たしか、そう・・・・・・はぐれヴァンパイアを率いる親玉の名前だ。
 俺が驚いて見つめる中、イザークは上品に微笑んだ。
「私には私の目的があるんですよ、団長殿」
「人間をおもちゃのように壊して楽しむ事が目的なのかな?」
 団長がわずかに殺気をまとったのが分かった。
 最近増えつつある人間の惨殺事件が、脳裏に浮かんだのだろう。
 俺もこの間イザークの手下に殺されそうになったから、奴に対してふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「人間を守るべき組織のトップとして、お前を野放しにはできない。おとなしく付いてきてもらおうか」
「・・・・・・この私に、お前ごときが命令するというのですか、マース」
 イザークは眼孔鋭く、団長を見据えた。
「我が主君の命を奪ったお前が・・・・・・お前ごときが、この私に命ずる事は許されません!」
 イザークが地面を蹴ると、道路を舗装していた煉瓦が音を立てて粉砕された。
 一足飛びに団長へ接近し、右手を振りかざした。いつ取り出し他のか、手には短剣が握られていた。
「団長!」
 俺は団長のみを案じて叫んだ。
 団長は二本の剣を交差させてイザークの剣を受け止め、左右に切り下ろして短剣を粉砕する。
 得物をなくしたイザークは即座に数歩下がり、両腕を下に向けて素早く振り下ろした。
 すると袖の裏から短剣が現れ、指の間に収まる。
 間髪入れずに短剣が放たれたが、団長は二本の剣を巧みに操り、六本の短剣を弾き飛ばした。
「腕が衰えたな、イザーク。王宮警備長の実力はどこにいった?」
「大きなお世話ですよ。あなたごとき、本気を出さずとも殺せます」
 そうは言っているが、俺の目から見てもイザークは団長よりも動きが遅く感じられた。
 やはり陽の光の下で団長と戦おうとしたのは、無謀だったのだ。
 俺達が手を出さなくても団長なら勝てる。
 そう思ったとき、この戦場を取り囲むように、無数の人影が出現した。
 全員、黒いロングコートを着込み、フードで顔を覆っていた。
「イザーク様」
 乱入者質は口々にイザークの名を呼び、恭しく頭を下げる。恐らく、イザークの眷属なのだろう。
 数人が地面に降り立ち、イザークを守るように集まった。
 残りは何の前触れもなく、俺達に襲いかかった。
「やれやれ、ランチはまだ先になりそうだ・・・・・・」
 団長はのんきにそう言いながら、無造作に剣を振るう。
 その一太刀で三体のヴァンパイアが首を切り落とされ、絶命した。
 俺もすかさず銃を握り、走り出したローガンを援護する。相棒の背中を狙うヴァンパイアをねらい撃っていると、イザークと目があった。
 奴は眷属の壁から身を乗り出すようにして、俺を見ている。配下を殺している俺を睨んでいるかと思ったが、違った。
 まるですがるように、訴えるように俺を見ていた。
 その姿が、なぜか俺の脳を揺さぶった。
 何か・・・・・・記憶の底に埋もれているような何かがせり上がってくる。
 同時に激しい頭痛が襲い、俺は頭を押さえた。
 そのせいで接近してきたヴァンパイアを銃撃できず、胸ぐらを捕まれる。
 軽々と振り上げられたかと思うと、視界が反転し、体が宙を舞っていた。
 海に面するこの場所を囲む塀に背中を打ち付け、そのまま落下していく。下はもちろん、海だ。
 青く底の見えない海が、こんな時でも美しく映る。
 じょじょに遠ざかり、視界から消えていく街並。
 団長が俺の名前を呼んでいる。ローガンが駆けてくる。
 だが、俺の体はすでに海の上に投げ出されていた。
 最近、こんな事ばかりだ。
 戦闘中に隙を見せ、どうせ今回も誰かに助けられる。
 もう、このまま死んだ方がいいのかもしれない。
 俺が目を閉じようとすると、すでに頭上へ遠ざかった街の縁から、何かが飛び降りた。
 一瞬ローガンかと思ったが、奴の被っていた帽子が舞い上がり、金糸があふれ出す。
「なんでお前がーー!?」
 水面に迫る俺を抱き、頭部を守るように己の胸へ包み込んだのは、ローガンでも団長でもなかった。
 人類の敵であるヴァンパイアーーイザークだった。
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