21 / 38
第三章:蘇る過去
第七話:悲しみの…
しおりを挟む
「お待ち下さい、殿下!」
背後でイザークが制止しているが、俺はかまわず城内を駆けた。
稽古の服装のまま疾走する俺に、使用人たちが驚いて道を空ける。
何人か人間の子が手を振ってくれたが、いつものように声をかける余裕もなかった。
王座の間が視界にはいると、俺の足並みもさらに速まる。イザークも追いつけない早さだ。
一気に走り抜けようとすると、いきなりエルヴィスが目の前に現れ、道を塞いだ。
両腕を広げてたたずむ従兄に飛びつき、俺は怒鳴った。
「従兄さん、あの子を投獄したってどういう事ですか! 彼が何をしたというのです!?」
「ーー反逆罪だ」
「は・・・・・・?」
あの心優しいマースが、そんな事をするはずがない。
だいたい、そんな兆しすらなかったじゃないか。
「でたらめです! 何の証拠があってそんなーー!」
「彼はお前に近づき、その権力を得ようとしていたのだ、息子よ」
王座の間から、大勢の兵士に囲まれて父が現れた。
どこか満足げに微笑んでいる。
俺は従兄を押しのけ、父に詰め寄った。
「そんなはずありません! 彼は幼い頃から私の側にいた、心優しい子です!」
「忘れたわけではないだろう。あの子の村は、反乱を企てたために、やむをえず私の命令で焼き払った。彼の心に、我々を憎む気持ちは当然ある」
「ですが、彼はーー!」
「あの村の件でお前の母が死んだ事とて、忘れたわけではあるまい!」
父は語気を強め、俺の両肩を掴んだ。
「息子よ、所詮人狼は敵なのだ。お前はあの笑みに騙されていたのだよ」
「信じません。あの子は私の子供同然。マースを侮辱するなら、私への侮辱と受け取ります」
「マース? ・・・・・・よもや戦神の名を人狼に与えるとは」
父は小さく嘆息すると、いきなり俺の首に食らいついた。
父の太い牙が動脈を突き破り、一気に大量の血を吸い尽くす。
「な、なにをーー!」
急激に血が足りなくなり、俺の体が傾ぐ。
牙を抜いた父は、俺の体をそっと抱き上げ、エルヴィスへ託した。
「こうでもしないと、お前はおとなしくならんだろう。戴冠式まで、おとなしく寝ていろ」
その場にいたもの全員に、戴冠式まで俺への血の提供を禁止させ、父はきびすを返した。
「父上・・・・・・っ、待って下さい、あの子を殺さないでーー!」
力ない声でも、聴力の良いヴァンパイアには聞き取れているはず。だが父は、俺の方を振り返らない。
何度呼びかけても止まらず、玉座の間へ戻っていった。
「父上・・・・・・」
「部屋へ戻ろう、王子。王の命令は絶対だ」
「ーーっ」
俺はエルヴィスの腕から抜け出すと、渾身の力で拳を振りかぶり、従兄の頬へ叩き込んだ。
エルヴィスの体は後ろへ吹き飛び、壁に激突する。
貧血状態の俺もふらりと後ろへ倒れ込んだが、イザークが受け止めてくれた。
俺の体を気遣ってくれるが、今は自分よりもマースのことが心配でーー父の命令に従った従兄が憎かった。
「従兄さん、あなただって知ってるだろ。あの子がーーマースが私を裏切るはずがない」
「・・・・・・ああ、知っている」
「だったら、なぜあの子をかばってくれなかったんだ!」
壁にもたれたまま、うなだれている従兄。
俺は突進するように近づくと、襟を掴み上げた。
「父の言い分はでっち上げだ。あの人は人狼をヴァンパイアへ変えるため、マースで実験するつもりだ」
「それこそ、お前の勝手な妄想にすぎない。人狼が我々と同じになれるはずがーー」
「おじいさまの残した手帳に、王家が行ってきた背徳の実験について書かれていた。父は必ずやる」
再度強く襟を引き、従兄へ俺の気持ちが伝わるよう強く見据えた。
だが、
「悪いな。俺は人狼より、お前の安全を優先する」
「従兄さーー!」
「イザーク。王子殿下を部屋に連れて行け」
俺の手を簡単に引き剥がし、エルヴィスは背を向ける。
支えを失った俺は、その場に座り込んだ。
慌てて駆け寄ってきたイザークに助けられても、自分の足で立つこともままならない。
血が少ないのも理由の一つだが、一番大きな理由は、マースが心配だったから。
痛い思いをしていないだろうか。苦しんでいないだろうか。彼が悲鳴を上げている姿を想像すると、頭が破裂しそうだった。
「殿下、ひとまずお部屋に戻りましょう。お体が弱っておいでです」
イザークは俺の体を抱き上げ、王座の間に背を向ける。
休んでなどいられない。
今すぐにでもマースを探し出し、城の外へ逃がしてやりたいのに、体は悲しいほど弱り果て、血への欲求がすさまじい。
すぐ目の前にあるイザークの首筋に、どうしようもなく意識が向かう。
噛みつきたい。血を吸いたい。
力がほしい。
ーーだめだ。俺の目的のために、イザークを傷つけるわけにはいかない。
自分の指を噛んで、必死に吸血欲を押さえた。
背後でイザークが制止しているが、俺はかまわず城内を駆けた。
稽古の服装のまま疾走する俺に、使用人たちが驚いて道を空ける。
何人か人間の子が手を振ってくれたが、いつものように声をかける余裕もなかった。
王座の間が視界にはいると、俺の足並みもさらに速まる。イザークも追いつけない早さだ。
一気に走り抜けようとすると、いきなりエルヴィスが目の前に現れ、道を塞いだ。
両腕を広げてたたずむ従兄に飛びつき、俺は怒鳴った。
「従兄さん、あの子を投獄したってどういう事ですか! 彼が何をしたというのです!?」
「ーー反逆罪だ」
「は・・・・・・?」
あの心優しいマースが、そんな事をするはずがない。
だいたい、そんな兆しすらなかったじゃないか。
「でたらめです! 何の証拠があってそんなーー!」
「彼はお前に近づき、その権力を得ようとしていたのだ、息子よ」
王座の間から、大勢の兵士に囲まれて父が現れた。
どこか満足げに微笑んでいる。
俺は従兄を押しのけ、父に詰め寄った。
「そんなはずありません! 彼は幼い頃から私の側にいた、心優しい子です!」
「忘れたわけではないだろう。あの子の村は、反乱を企てたために、やむをえず私の命令で焼き払った。彼の心に、我々を憎む気持ちは当然ある」
「ですが、彼はーー!」
「あの村の件でお前の母が死んだ事とて、忘れたわけではあるまい!」
父は語気を強め、俺の両肩を掴んだ。
「息子よ、所詮人狼は敵なのだ。お前はあの笑みに騙されていたのだよ」
「信じません。あの子は私の子供同然。マースを侮辱するなら、私への侮辱と受け取ります」
「マース? ・・・・・・よもや戦神の名を人狼に与えるとは」
父は小さく嘆息すると、いきなり俺の首に食らいついた。
父の太い牙が動脈を突き破り、一気に大量の血を吸い尽くす。
「な、なにをーー!」
急激に血が足りなくなり、俺の体が傾ぐ。
牙を抜いた父は、俺の体をそっと抱き上げ、エルヴィスへ託した。
「こうでもしないと、お前はおとなしくならんだろう。戴冠式まで、おとなしく寝ていろ」
その場にいたもの全員に、戴冠式まで俺への血の提供を禁止させ、父はきびすを返した。
「父上・・・・・・っ、待って下さい、あの子を殺さないでーー!」
力ない声でも、聴力の良いヴァンパイアには聞き取れているはず。だが父は、俺の方を振り返らない。
何度呼びかけても止まらず、玉座の間へ戻っていった。
「父上・・・・・・」
「部屋へ戻ろう、王子。王の命令は絶対だ」
「ーーっ」
俺はエルヴィスの腕から抜け出すと、渾身の力で拳を振りかぶり、従兄の頬へ叩き込んだ。
エルヴィスの体は後ろへ吹き飛び、壁に激突する。
貧血状態の俺もふらりと後ろへ倒れ込んだが、イザークが受け止めてくれた。
俺の体を気遣ってくれるが、今は自分よりもマースのことが心配でーー父の命令に従った従兄が憎かった。
「従兄さん、あなただって知ってるだろ。あの子がーーマースが私を裏切るはずがない」
「・・・・・・ああ、知っている」
「だったら、なぜあの子をかばってくれなかったんだ!」
壁にもたれたまま、うなだれている従兄。
俺は突進するように近づくと、襟を掴み上げた。
「父の言い分はでっち上げだ。あの人は人狼をヴァンパイアへ変えるため、マースで実験するつもりだ」
「それこそ、お前の勝手な妄想にすぎない。人狼が我々と同じになれるはずがーー」
「おじいさまの残した手帳に、王家が行ってきた背徳の実験について書かれていた。父は必ずやる」
再度強く襟を引き、従兄へ俺の気持ちが伝わるよう強く見据えた。
だが、
「悪いな。俺は人狼より、お前の安全を優先する」
「従兄さーー!」
「イザーク。王子殿下を部屋に連れて行け」
俺の手を簡単に引き剥がし、エルヴィスは背を向ける。
支えを失った俺は、その場に座り込んだ。
慌てて駆け寄ってきたイザークに助けられても、自分の足で立つこともままならない。
血が少ないのも理由の一つだが、一番大きな理由は、マースが心配だったから。
痛い思いをしていないだろうか。苦しんでいないだろうか。彼が悲鳴を上げている姿を想像すると、頭が破裂しそうだった。
「殿下、ひとまずお部屋に戻りましょう。お体が弱っておいでです」
イザークは俺の体を抱き上げ、王座の間に背を向ける。
休んでなどいられない。
今すぐにでもマースを探し出し、城の外へ逃がしてやりたいのに、体は悲しいほど弱り果て、血への欲求がすさまじい。
すぐ目の前にあるイザークの首筋に、どうしようもなく意識が向かう。
噛みつきたい。血を吸いたい。
力がほしい。
ーーだめだ。俺の目的のために、イザークを傷つけるわけにはいかない。
自分の指を噛んで、必死に吸血欲を押さえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる