ダークナイト・ヴァンパイア ~宵闇の王子~

哀楽

文字の大きさ
28 / 38
第四章:逃避

第四話:俺の気持ち

しおりを挟む
 日が、沈む。
 柔らかな日差しがかすみ、宵闇が忍び寄る。
 赤、紫、紺の三色が入り交じる夕暮れ時が、俺は最も好きな時間帯だった。
 見ていて飽きないし、心が穏やかになる。
 だが、今は絶望しかない。
 用意された監視付きの部屋は、監獄のようだ。
 ベッド、テーブル、ソファ、クローゼットーー全てが木製の最高級品。
 俺のためにとマースが用意したようだが、少しも嬉しくない。
 見かけは美しい調度品で飾られていても、俺を逃がさないための茨の監獄。
 俺の首にぶら下がっているチェーン付きの首輪が、それを物語っていた。
 この三日、窓辺にソファを置いてずっと外を眺めている。この部屋では、それ以外にすることがない。
 出入り口でたたずむ二人の監視に見られながら、何かする気にはならなかった。
 外を眺め、朝昼晩の三回ーーマースに血を吸われる。
 俺の手首には常に輸血用のチューブと針が刺され、血が送り込まれていた。そうでもしないと、毎日三回の吸血には耐えられない。
 そして、晩餐の時間がやってくる。
「ーー殿下、入りますよ」
 体が大きく震えた。
 自動扉が静かに開き、マースが入ってくる。
 監視の二人を追い出すと、彼は俺の側へやってきた。
「また、眠っていらっしゃらないのですね。目の下が黒くなっていますよ」
「この状況で眠れる訳ないだろ」
「私に血を吸われるのが楽しみで、眠れないんですね?」
「ちがーー」
 返事など待たず、マースは俺を抱き上げた。
 暴れる俺をベッドに放り、上に多い被さってくる。
 怖い。
 逃げ場がない。
 震えながら顔を伏せると、マースは犬のように俺へすり寄った。
「そんなに怖がらないで下さい。ーーめちゃくちゃにしたくなります」
 言葉に反し、マースの目は優しい。
 俺の頭を撫でながら、壊れ物を扱うように優しく抱きしめてきた。
「まだ私があなたに懐いていない頃、よくこうして抱きしめて下さいましたね。覚えていらっしゃいますか?」
「・・・・・・怖い夢を見て泣いている時も、よく抱きしめていた」
「懐かしいですね。今では、殿下の方が小さくていらっしゃる」
 マースは俺から体を離した。
 探るように、彼の指先が俺の襟を広げていく。
 落ち着き始めていた俺の心臓が、再び忙しなく動き始めた。
 また血を吸われる。
 鋭くとがった犬歯が、俺の皮膚に近寄る。
 思わず目を閉じると、後方で自動扉の開閉する音が聞こえた。
「・・・・・・失礼します、団長」
 ローガンの声だ。
 団長は不満そうに舌打ちをし、俺から離れた。
「どうした、ローガン」
「司令部が団長を呼んでいます」
「分かった。お前はここにいなさい」
「了解」
 団長は一度俺を、名残惜しそうに見た。
 だが、すぐにきびすを返して部屋を出ていく。
 俺は体を起こすと、出口を塞ぐように立っているローガンを見据えた。
「・・・・・・やつれたな、お前」
「・・・・・・」
「なんだ、もう俺とは話さないつもりか?」
「敵の親玉と話すわけにいかないからな」
「おい、どういう意味だよ」
 思わずベッドから起き上がり、ローガンに詰め寄った。
 彼は、最後島で見たときよりもやせ細り、頬がこけていた。
 目も据わり、以前の面影はどこにもない。
 ーーまるで、死の淵からよみがえったばかりのマースを見ているようだった。
「俺は確かにヴァンパイアだったけど、お前と過ごした三年間が消え去った訳じゃない。今でもお前をーー」
「黙れよ! そんな言葉聞きたくない!」
 ローガンに胸を強く押され、俺はよろめいた。
「なにするんだ、ローガン!」
「どうせお前のことだから、今でも俺を相棒だの何だの言うつもりだろ!?」
「当たり前だろ。三年間、ずっと背中を預けてきたんだから!」
「でもお前は、よりにもよって王族ヴァンパイアだったじゃないか・・・・・・!」
 ローガンの目から、涙がこぼれ落ちた。
 彼が泣くのを見るのは初めてで、俺は思わず言葉を飲み込む。
 ずるりと座り込んだローガンは、頭を抱えた。
 しゃくりあげる様子が幼い子供のようで、俺の怒りが収縮していった。
「・・・・・・なんで? なんでお前がヴァンパイアなの? ずっと好きだった奴が、なんで・・・・・・っ」
「ローガン・・・・・・」
「ヴァンパイアにお前を盗られそうで焦ってたら、今度は団長がお前を独り占めしてーー俺のこの気持ちはどうしたらいいんだ? 教えろ、ライアン」
「・・・・・・」
 どう答えたらいいのだろう。
 好いてもらえるのは本当に嬉しい。
 けれど、マースの独占的な歪んだ愛も、ローガンの純粋な好意も、応えてやることができない。
 だって、俺は三百年も昔に、ただ一人の男に心を差し出したから。
 生まれる前から結婚が決められていた、生涯ただ一人の伴侶。なかなか決断できない俺を、ずっと待っていてくれた優しい人。
 あの人ーーエルヴィスにしか、愛しているとは言えない。
 だから、
「ーーごめん。俺は、お前の気持ちには応えられない。俺は会わなきゃいけない奴がいる」
 強い口調で言い切ると、うつむき、震えていたローガンが勢いよく顔を上げた。
 いつになく険しい表情を浮かべ、立ち上がった。
「あの王族ヴァンパイアか」
「・・・・・・ああ。あいつは俺を待ってる」
「お前を助けにもこないじゃないか。翼を持つ王族ヴァンパイアのくせに!」
「それは・・・・・・」
 言いよどんだとき、ローガンが俺の両肩を掴んだ。
 その場に引きずり倒され、手首を押さえ込まれる。
 彼の全体重が俺にのし掛かり、腕が痛んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

処理中です...