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第一章
招かれざる客
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肉薄の唇が俺に重なり、喉元まで出掛かっていたヒステリックな言葉を、キスで塞がれた。
熱気のごとく胸を渦巻いていた焦燥感が、霧散していくようだった。
ゆっくりと離れていく唇を惜しんでいると、エルヴィスが目を細め、俺を睨んだ。
「いい加減にしろ。同じ事で何度も悩むな」
「でも・・・・・・」
「皆それぞれ役割がある。お前にはお前の、配下には配下にしか出来ないことがある。出来なかったことを悔やむより、自分に出来ることを全うしろ」
俺に出来る事といえば、仲間を守ること。
本当に守りたいのであれば、俺が前線へ出て戦うのが最も良策だが、エルヴィスはそれを許さない。
個人に結界の効果を広げる事も出来ないしーー。
「お前は子を慈しみ、皆に笑顔を見せてやるだけでも充分なんだぞ、ライアン」
「そんなの、何の役にも立たない」
「お前は我々にとって宝だ。何にも代え難い、唯一の宝。そのお前が暗い表情では志気も下がる。ーーお腹の子も、心配するぞ」
エルヴィスの声に同調するように、俺のお腹の中で子供が何度も転がった。
何を訴えているのかまるで分からないが、なぜか元気づけられているようなーーそんな気がした。
「前線では俺が仲間を守る。お前は、ここにいる者たちを守ってくれ」
それでは、あなたのことは誰が守れ ばいい?
俺が横で守ってやれたら、どれほど気が休まることか。
「エルヴィス、俺・・・・・・」
愛しい人の頬に手を伸ばしたとき、見えない手に心臓を鷲掴みにされたような不安感が、突如わき上がった。
警笛を鳴らすように心臓が跳ね上がり、小刻みに体が震える。
「ライアン!? おい、大丈夫か!?」
「エ、エルヴィス・・・・・・っ」
俺が呻いたと同時に、王国内が振動した。
屋根から細かい塵が舞い落ち、俺たちに降りかかる。
察した。
これはーー。
「結界が攻撃されてる・・・・・・!」
俺の張った結界は、効力が強い代わりに、術者と繋がりが深いものだ。
結界自体に損傷を受けることはまずないと思うが、攻撃されればその衝撃が直に俺の体に伝わる。
まるで、俺の体が攻撃されているような感覚に襲われるのだ。
「くそ、やっぱり俺の結界じゃすぐにばれたか・・・・・・」
母は俺よりも呪術が得意な人だったらしいが、彼女の張った結界は部外者を弾くのではなく、透過させるものだったそうだ。
人や人狼をすり抜けさせ、結界の内外を曖昧にすることで、王国の存在を守り通していた。
それに比べて俺の結界はおざなりもいいところだった。
「外に群がってる奴らを追い払わないと・・・・・・っ」
「馬鹿、お前はここで結界を維持しろ! 上は私たちが対処する」
「待って、エルヴィスーー!」
俺を押さえつけるようにして椅子に座らせると、エルヴィスは部屋を飛び出していった。
それと入れ替わるようにして現れたイザークは、俺の姿を見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。
「殿下!?」
「落ち着け、心配ない」
「ですがお顔の色が・・・・・・」
「俺より、エルヴィスの側にいてやってくれないか。あいつ、上へ向かったんだ」
今頃眷属をかき集めて、地上へ向 かっているに違いない。
外は夜だから太陽については心配ないが、敵は日光照射機や三頭犬を連れている。
敵の規模も分からない以上、油断できない。
「戦いに出た皆に、出来る限り結界の外に出ないよう伝えてくれ。俺は、ここで国を守る」
「・・・・・・御意」
イザークは素早く一礼し、きびすを返した。
一人きりになると、心細さからか、体を襲う衝撃が余計強く感じる。
振動し続ける室内で体を丸くしていると、赤ん坊が胎動した。
「・・・・・・そうだな。俺の側には、お前がいてくれるものな」
まだ小さく、可愛らしく動き回る事しかできない我が子の存在が、とても心強かった。
屋敷内にあった眷属や配下たちの気配が消え失せ、数十分ほど腹を撫でて気持ちを落ち着かせていたが、
「・・・・・・?」
不意に、部屋の外に何かの気配を感じ取った。
覚えのない匂い。
絶え間なく襲う鈍痛に耐えながら、この部屋にある唯一の扉を睨んだ。
「誰だ。遠慮しないで、入っておいで」
すると、扉が重々しい音を立てて、ゆっくり開く。
俺は腹を守るように抱え、扉との間に出来た隙間を凝視する。
ゆったりとした足取りで室内に現れたのは、見覚えのない黒髪の男。
彼は薄汚れた外套を肩に掛け、俺を見据えていた。
「君はーー?」
誰だ、と問おうとした矢先だった。
男は外套を跳ね上げ、手にしていた片刃の剣を構えると、俺に向かって駆けだした。
長めの前髪の隙間から、俺たちと同じ紅の瞳が鋭く光る。
「覚悟しろ、ヴァンパイアの王」
眼前に迫る刃。
俺はーー。
熱気のごとく胸を渦巻いていた焦燥感が、霧散していくようだった。
ゆっくりと離れていく唇を惜しんでいると、エルヴィスが目を細め、俺を睨んだ。
「いい加減にしろ。同じ事で何度も悩むな」
「でも・・・・・・」
「皆それぞれ役割がある。お前にはお前の、配下には配下にしか出来ないことがある。出来なかったことを悔やむより、自分に出来ることを全うしろ」
俺に出来る事といえば、仲間を守ること。
本当に守りたいのであれば、俺が前線へ出て戦うのが最も良策だが、エルヴィスはそれを許さない。
個人に結界の効果を広げる事も出来ないしーー。
「お前は子を慈しみ、皆に笑顔を見せてやるだけでも充分なんだぞ、ライアン」
「そんなの、何の役にも立たない」
「お前は我々にとって宝だ。何にも代え難い、唯一の宝。そのお前が暗い表情では志気も下がる。ーーお腹の子も、心配するぞ」
エルヴィスの声に同調するように、俺のお腹の中で子供が何度も転がった。
何を訴えているのかまるで分からないが、なぜか元気づけられているようなーーそんな気がした。
「前線では俺が仲間を守る。お前は、ここにいる者たちを守ってくれ」
それでは、あなたのことは誰が守れ ばいい?
俺が横で守ってやれたら、どれほど気が休まることか。
「エルヴィス、俺・・・・・・」
愛しい人の頬に手を伸ばしたとき、見えない手に心臓を鷲掴みにされたような不安感が、突如わき上がった。
警笛を鳴らすように心臓が跳ね上がり、小刻みに体が震える。
「ライアン!? おい、大丈夫か!?」
「エ、エルヴィス・・・・・・っ」
俺が呻いたと同時に、王国内が振動した。
屋根から細かい塵が舞い落ち、俺たちに降りかかる。
察した。
これはーー。
「結界が攻撃されてる・・・・・・!」
俺の張った結界は、効力が強い代わりに、術者と繋がりが深いものだ。
結界自体に損傷を受けることはまずないと思うが、攻撃されればその衝撃が直に俺の体に伝わる。
まるで、俺の体が攻撃されているような感覚に襲われるのだ。
「くそ、やっぱり俺の結界じゃすぐにばれたか・・・・・・」
母は俺よりも呪術が得意な人だったらしいが、彼女の張った結界は部外者を弾くのではなく、透過させるものだったそうだ。
人や人狼をすり抜けさせ、結界の内外を曖昧にすることで、王国の存在を守り通していた。
それに比べて俺の結界はおざなりもいいところだった。
「外に群がってる奴らを追い払わないと・・・・・・っ」
「馬鹿、お前はここで結界を維持しろ! 上は私たちが対処する」
「待って、エルヴィスーー!」
俺を押さえつけるようにして椅子に座らせると、エルヴィスは部屋を飛び出していった。
それと入れ替わるようにして現れたイザークは、俺の姿を見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。
「殿下!?」
「落ち着け、心配ない」
「ですがお顔の色が・・・・・・」
「俺より、エルヴィスの側にいてやってくれないか。あいつ、上へ向かったんだ」
今頃眷属をかき集めて、地上へ向 かっているに違いない。
外は夜だから太陽については心配ないが、敵は日光照射機や三頭犬を連れている。
敵の規模も分からない以上、油断できない。
「戦いに出た皆に、出来る限り結界の外に出ないよう伝えてくれ。俺は、ここで国を守る」
「・・・・・・御意」
イザークは素早く一礼し、きびすを返した。
一人きりになると、心細さからか、体を襲う衝撃が余計強く感じる。
振動し続ける室内で体を丸くしていると、赤ん坊が胎動した。
「・・・・・・そうだな。俺の側には、お前がいてくれるものな」
まだ小さく、可愛らしく動き回る事しかできない我が子の存在が、とても心強かった。
屋敷内にあった眷属や配下たちの気配が消え失せ、数十分ほど腹を撫でて気持ちを落ち着かせていたが、
「・・・・・・?」
不意に、部屋の外に何かの気配を感じ取った。
覚えのない匂い。
絶え間なく襲う鈍痛に耐えながら、この部屋にある唯一の扉を睨んだ。
「誰だ。遠慮しないで、入っておいで」
すると、扉が重々しい音を立てて、ゆっくり開く。
俺は腹を守るように抱え、扉との間に出来た隙間を凝視する。
ゆったりとした足取りで室内に現れたのは、見覚えのない黒髪の男。
彼は薄汚れた外套を肩に掛け、俺を見据えていた。
「君はーー?」
誰だ、と問おうとした矢先だった。
男は外套を跳ね上げ、手にしていた片刃の剣を構えると、俺に向かって駆けだした。
長めの前髪の隙間から、俺たちと同じ紅の瞳が鋭く光る。
「覚悟しろ、ヴァンパイアの王」
眼前に迫る刃。
俺はーー。
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