白露の蜘蛛はあなたを愛しましょう ~転生者以上にチート過ぎませんか~ (仮)

志位斗 茂家波

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出会いましょう、新しい世界と共に

二十三話 蔓と糸の絡み合い

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…馬車が賊に襲われていた。
 ここまでは、割と異世界転生ものではよくあるものだろうと思う自分がいるので問題はない。

 ただの盗賊の類であれば、ハクロならあっという間に倒すだろうし、こういう時は人助けをしたほうが良いというのもわかるだろう。

 だがしかし…

【ジョゲジョゲァァァァァァァァァァァ!!】

「賊が植物の怪物になるのは、流石に許容範囲外かなぁ!?」

 何やら持っていた武器が変化して、取り込まれた賊たち。
 飲み込まれた者たちが混ぜられて、出来上がったのは巨大な蔓の化け物。

【キュル、嫌な感じがしていましたが、こういう結果になりましたか…魔獣になってますね、アレ】

 警戒して蜘蛛部分の毛を逆立てつつ、ハクロがそうつぶやく。

「人が、魔獣にか?」
【ええ、多分。魔獣は堕ちた獣と言われますが…私からすれば、人も獣の枠内に入りそうですから、魔獣になってもおかしくはないと思っています。でも…うーん、ちょっと微妙に違うような気がしなくもないですね】

 自身が蜘蛛の魔獣だからか、相手が魔獣になったのはわかるらしい。
 けれども、何かが異なっているのか違和感を感じているようで、微妙な表情になっている。

【王都は結界で守られていますが、人の魔獣がきちんと結界に弾かれるかわかりませんし…もしも、このまま見境なく暴れられたら、それこそ面倒ごとになると私の勘がささやいてます。なので…ここは本気で、止めさせてもらいましょうか】

 今でさえ、相当な厄介ごとになっているのだが、放置しておけばさらに面倒な事態になりかけないとハクロは判断したらしい。
 背中に背負われながらも、ハクロの纏う雰囲気が一瞬のうちに警戒から戦闘の方面へ…普段の柔らかい気配が静まり、凍てつく吹雪のような冷たい空気を纏う。

【旦那様、糸で結んでますが、もう少し私にしがみついてください…振り落とされないように】
「わかった」

 降ろして戦ってくれても良いのだが、離れたら相手の蔓が飛んでくる可能性なども考えて、しがみついてもらった方が都合が良いのだろう。
 なるべく邪魔にならないようにしつつ、ハクロの指示に従ってぎゅっと抱き着く。

【キュル…それじゃ、いきますよ】

 手を掲げ、ハクロが糸を出していくつもの糸が周囲を舞い始める。

【瞬間大切断…百糸騒乱!!】

 無数の糸が号令と共に、生きているかのようにうねり、蔓の魔獣と変り果てた賊へ向かって襲い掛かる。
 
 相手は自身の蔓をあちこちから飛び出させて、糸を叩き落として防御するも数の多さでは負けており、さらに糸の切断力でぶった切られて意味をなさなくなる。
 多くの蛇に群がられているように糸が絡みついていき、触れた個所から食い込み、切り裂く。

 よく見れば切られた蔓は、魔獣本体から伸びている部分は再生しているようだが、その再生が間に合っていない。
 あれほど大きな蔓の塊だった姿は、あっという間に刈り取られていく。

 けれども、その中身に人の肉体はない。
 外側から剥かれているというのに、取り込んだはずの賊の肉体は出てこず、小さくなっていくのに見えるものがない。
 いや、むしろ蔓そのものが賊の肉体だったというように、血潮をまき散らすも…最終的には、何やら一つの塊となった。

「これは…」
【キュル、持っていた斧ですね。脈を打ってますが、これが今の本体になっているのでしょう】

 肉体はすでに取り込まれて、原因となった魔道具らしい斧があるのみ。
 どくんどくんと鼓動をうっているかのように震えており、今もなおその柄からは蔓が伸びようとしており、ハクロの出した糸で次々と切断されている。

【寄生虫のようなものですね。宿主の肉体が削られたので、今度は私たちを狙っているようですが…誰が、旦那様に寄生させると思うでしょうか】

 ぞっとするほど冷たい声がハクロから出て、一瞬だが斧に意志があるかのように、恐怖で身を震わせたように見えた。
 切断し続ければあの蔓の魔獣は誕生しないだろうが、現況を絶たなければ意味がない。

【それでは…これで、終わりです】

 ハクロが拳を握り締め、直接触れないように糸でコーティングし、斧に狙いを定める。
 無駄なあがきを続けるかのように蔓を出す斧だが、逃れるすべはあるまい。

 驚かされはしたが、その生涯は短かったようで…ハクロが拳を振り下ろし、刃が砕け散ると、断末魔のような音が聞こえ…そして、塵となって消え失せたのであった。


「…終わったようだけど、なんだったの、あれ」
【わかりません。ただ、良くないものなのは確かですね…】











「…なるほど、駒は駒でしかなかったが、思わぬ収穫を得たな」

 ハクロ達が騎士たちのほうに向きなおって事情を聴こうとしているそのころ、現場から離れた場所を駆け抜ける者たちの姿があった。

「しかし、良かったのでしょうか。本来なら、眠り姫も完全に抹殺する予定でしたが…」
「あの状況で出来ると思うか?我々は手を出さずに見ていたが…彼女は、どうやら気が付いていたようだな」

 駆け抜ける中、一人がそうつぶやくと、彼らの上の者がそう口にした。

「気配を可能な限り消し、情報の収集に努めるだけの姿勢であったのが功を奏したな…もしも、手を加えるようなことがあれば、一瞬のうちにあの賊どもと同じ末路を辿らされた可能性があるだろう」
「そんな、馬鹿な」
「信じられないは無理もないが…わかったからな。奴はあの魔獣のほうに意識を向けているようで、我々の方にも少しだけ目を向けていた。口に出すそぶりもなかったが…それでも、ほんのわずかにだが、殺気を浴びせられたからな」

 信じられないと思う者たちも多いが、彼らの中で一番の実力が持つ者の言葉に驚かされる。

「どうやら、瞬時に我々の気配と実力を読み、判断したのだろう。手を出すなと…おおぅ、今思い出すだけでも、恐ろしかった。どうせなら全員に浴びせれば良いのに、集中させたのは余計な手間を省くためか…」

 思い出してもなお、彼はぞっとさせられる。
 見ているだけの立場で本当によかったと、心の底からそう思う。

 もしも、隙を見て動こうとしたら…あの蔓の魔獣と化した捨て駒のように、命を散らされていたのは間違いない。
 邪魔されたくなかったのだろう。あの戦い、圧勝のように見えたが、彼女はあの背負っていた少年のほうを守る方に全力を向けていたようで、余計な手間を省きたかったようだ。


「何にしても、あの魔道具の改良が必要なことや、眠り姫を抹殺するのは失敗したこと、そして…あの蜘蛛の魔獣に感じての情報を得られたことを報告しなければな」
「情報を報告するのは良いが…出来ればあの蜘蛛の魔獣とは敵対したくないなぁ。万が一があれば、あの少年のほうを人質にとかはできないのか?」
「無理だろう。というか、やったら死よりも恐ろしい結末が待ち受けるな…」

 冗談では済まない、本当に恐ろしいもの。
 今回は本当に監視し、報告するだけの立場に徹することが出来たのは幸運だったのだと、ハクロの強さを理解してしまった者は思うのであった…


「…しかし、美しい蜘蛛の魔獣の噂を聞いていたが、実物を見ると本当に凄かったな。王子が瞬時にフラれたという話もあったが…うん、求婚するのも無理はないだろう。同情するよ…」
「お、流石、元3位、今代4位の速度でやられた人。立場が塗り替えられたけど、理解できるのか」
「やめろ、その話題は心の古傷が痛むのだ…」

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