帰らずの森のある騒動記   (旧 少女が魔女になったのは)

志位斗 茂家波

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とある少女の記録 その3

……召喚から数分後、何とか少女と悪魔は互に落ち着いて状況を把握した。

「‥‥‥なるほど、つまり俺の容姿がお前の兄に似ていたがゆえに、取り乱したと」
「そうです。兄さまは優しく、時たま狩りにて、襲い掛かって熊の腹を素手で突き破るほど強くて、憧れでした」
「おいちょっと待て、その強い基準がどう考えてもおかしいぞ」

 少女の話に、思わず悪魔はツッコミを入れた。

 悪魔と言えども、常識人的なところがあったのだろうか?





 とにもかくにも、ようやく少女は落ち着き、目の前の悪魔が兄とは違うことを理解した。

 よくよく見れば、耳がとがっていたり、羽が生えていたり、尻尾があったりと兄とは異なる点が多くみられるからである。

「いや、よく見なくても分かるよな?」
「すいません、本当に兄さまに似ていたので……」


 悪魔の呆れたような声に、少女は頭を下げた。







 それからカクカクシカジカと手短に、少女は召喚に至るまでの経緯を悪魔に説明した。



「‥‥‥国が滅ぼされて、皇帝に機会をもらってたくましく生きていたということか?」
「はい」
「で、そこの犠牲者‥‥‥俺を召喚するためにその素材とされた者が持っていた道具で、召喚陣を見つけて、召喚してみようと思ったのか?」
「はい」
「お前さっきから『はい』としか言ってないが?」
「はい」
「適当か?」
「はい‥‥‥あっ!?」
「ま・じ・め・に・聞けぇぇぇぇぇぇ!!」

 思わず悪魔は怒号を飛ばし、少女はびくりと体を震わせたのであった。






 とにもかくにも、悪魔が召喚されたのは事実である。

 そして、召喚されたからには…‥‥


「当然ながら、魔法を使えるようにしたり、もしくは何かの願いをかなえることもできるが、その代償がいるのを理解しているよな?」
「当然です」
「(そこは適当じゃないのか)。…‥‥なら、その図太さ、生き残るだけの狡猾さ、タフさ、天然ボケ、うすのろ‥‥‥」
「悪口ばっかり!?」
「まぁ、それは省略するとしてだ、さっきからツッコミ疲れていたからこの程度の反撃はさせてもらうとして、別に殺す気もないし、魔法を扱えるようにしても良いと思う」
「本当ですか!?」

 悪魔の言葉に、目を輝かせる少女。


 ツッコミさせまくって疲れさせた自覚はあるとはいえ、どうもこの悪魔は良い人(?)のようである。


「だがしかし、本当にお前はそれでいのか?」
「え?」

 と、ここで悪魔が何やら真剣な顔で尋ねてきた。



「お前はここで魔法の力を手に入れ、それで生き残ることだけを選択している。…‥‥けれどな、お前は『復讐』を望まないのか?」




 家族を奪われ、国を奪われ、残るは身一つのみ。

 そして、生きて帰ってくるものはいないとされる森に放置され、そのまま狩りなどをするだけの一生を終える気なのだろうか?


 悪魔は要約して、そう告げる。

「望むならば、お前がこの世界すらも手に入れられるような力を与えることも可能だ。だからな‥‥‥やられたらやり返し、そして家族の仇を討つつもりはないのか?」


 にやぁと笑う悪魔の笑みとささやきに、少女は少し考える。



……確かに、恨みがないと言えば嘘になるだろう。

 けれども、少女は本当にそれで良いのかと思い‥‥‥口を開いた。



「…‥‥いえ、ありません」
「ほぅ?」

 少女の言葉に、悪魔が面白そうな声を出した。

「なんだ?復讐は何にもならないし、めんどくさいからやらなーいとか、偽善者とかが言うような事を思ったのか?」
「違います」

 悪魔の言葉に、少女は力強く拒否した。


「私の家族には、『生き残って』と言われました。確かに、帝国の手によって私の家族は失われ、国もなくなったでしょう。‥‥‥けれども、私はここに生きているのです」




「私が生きているからこそ、王家の血も残っています」

「家族の願い、私が生きてほしいという言葉で、生きているのです」

「復讐?いえ、そんなことを家族は願ってもいません。ただ一つ、私だけでも生きてほしいと願ってくれたのですから、そんなことをする意味もありません!!‥‥‥それにどうせ、あの大国は滅びますしね」
「ん?」


 なにやらいい話しのように聞こえたところで、最後の方につぶやかれた言葉に、悪魔は疑問を覚えた。

「今、どうせ滅びるとか言っていたがどういうことだ?経緯の中に逃亡生活もしていたと言っていたから、そんなことをする準備とか暇はなかったように思えたのだが‥‥‥」
「簡単な事です。逃亡先で、毒を流したんですよ」


「‥‥‥‥はぁ!?」

 少女の回答に、思わず悪魔は驚愕したのであった。














 逃亡生活中、少女は生き残るための策を練っていた。

 国の復興などの目的で、少女を担ぎ上げる輩がでたり、もしかすると少女自身が復讐に来る可能性も考えて、あの大国は探し回っている。


 見つけられたら殺されるかもしれないし、気は抜けない生活であった。



 けれども、優しかった父や母、兄弟たちを蹂躙し、亡き者にして国を奪った者たちを彼女は許すことが出来なかった。




……そこで、逃亡中に少しだけとある毒を、国中の飲料水の中に仕掛けたのだというのだ。

「兄たちから借りた罠の本には、毒についての内容もありました。そこには、獲物を捕らえるための各種の毒薬づくりの方法が記載されており‥‥‥そこから興味を持って、城にあった薬草学の本を読んでいたのです」



 そして、その薬草学の本から少女はとある毒を見つけ出した。

 それは、「国滅ぼしの毒薬」として禁じられた毒の精製方法である。



 何も特産品とかがなかった小さな王国。

 ゆえに危険視されているわけもなく、平和であったがゆえにそんな物騒な内容が書かれていても、誰も扱わないだろうと思われて読めるようにされていたのだ。



 そして、その内容を少女は覚えており、逃亡のさなか密かに国中にばらまいたのだ。


「毒の正式名称は不明ですが、その効果はしっかりと書かれていました。なんでも、一旦地下水などに混入させてしまうと、100年ほどは周囲にその毒を広めながら残留するものであり、その効果は人の欲望を累乗して高めるものだったのです」

 欲望が高められただけで、国が滅びるだろうか?


 答えは「はい」である。





 人の欲望とは恐ろしいもので、自ら制御できるようなものであれば、ある程度抑えたり、努力して欲を満たそうとするのは分かっている。


 けれども、時たま制御不可能な輩がいたりして、暴走し、人々を巻き込むことがあるのだ。


「数値にしたとして、例えば『1』だけの欲望を持った物であれば、その毒入りの水を飲んで欲望が累乗されたところで、『1』なのは変わりません」

…‥‥だが、それ等の欲望の数値ががもしも『100』や『1000』であれば、『10000』や『1000000』の欲望へと、大幅に上がるだろう。



「豪勢な食事を求める人はより豪勢な食事を、惰眠をむさぼりたい者はより惰眠をむさぼり、色欲に溺れる者はより色欲へ嵌っていきます。それらの毒はじわじわと広がり、国から次第に大陸全体へと広がり、効果が無くなるまで残り続けます。‥‥‥そして、大国であるならば、それこそその効果は甚大です」


 大国ということは、それだけ様々な人が多くいることでもある。

 何かの役割を担っている人も多いだろうし、より豊かになりたかったり、偉くなりたいなどの欲望を持つ人も大勢いるはずだ。


 しかも、その毒は死に至らしめるわけではなく、あくまでその欲望を大きくするだけなので、発覚するのも遅れるであろう。



「あれだけの国、もし継承権などでもめれば、その甘い汁を吸いたい人が群がり、蹴落としたり、もしかしたら血生臭い戦いが起き、反乱もあり得るでしょう。‥‥‥人の欲望というのは、それだけ恐ろしいんですよね」

 そう少女が説明を終えたときには、悪魔は真顔になっていた。


「‥‥‥お前、悪魔以上に悪魔らしかったぞ。というか、ばりばり復讐しているじゃんか」

 流石の悪魔も、この少女のとんでもない毒の話には突っ込むどころかドン引きしたようである。



「悪魔以上って…‥‥それはまぁ認めます」
「認めるの?」
「でも、これは復讐ではありません」

 その言葉を言いながら、少女はどこか寂しげな表情に変わった。


「…‥‥どんな国でも、いつかは滅びの時が来るものです。私のいた国だって、平和で楽しかったですが、それでも滅びの時はあるんですよ。そして、それがたまたま大国によって攻め滅ぼされただけです。ゆえに、そう心で納得していました」


 そう言いながらも、少女は頬に何かが伝っていくのが分かった。


「そうでもしないと、私は納得いきませんでした。けれども、優しかった両親や兄さまの事を思うとこらえきれなくなってしまうのです!!それで、その毒のことを思い出し、ただ単にあの大国が滅ぶ時期を早めたのです!!」


「そうすることで、滅びをあの国は知ります。でも、知ったところでもう滅んでいます。そして、あとには何も残らないんですよ…‥‥私の国のようにね」



 話していくうちに、少女は涙が出ているのだと感じた。

 この悪魔は兄とは違う。

 それでも、どこか似た容姿ゆえに話している間に悲しくなってきたのだ。



「もう何もない、何もないんですよ!!生きていたとしても、私には何もない!!でも、両親や兄さまの『生きていてほしい』という願いで生きたいゆえに、どうしたらいいのかわからないんです!!」

 その言葉は、少女の心の底からのものであった。


「生きたい、けれどももう何もない。ゆえに、あくまである貴方を呼びだして‥‥‥‥その『何もない』から『何かがある』へ変えたかったのです!!」


 そう少女は叫び、悪魔の方へ向いた。




 その言葉を聞き、悪魔は少女をじっと見た。


「…‥‥なるほど、ようやく心の底からの願いを口に出したと思ったら、『生きるための何かを得たい』ということか」


 悪魔の言葉に、少女はうなずく。


 最初は運命的なものを感じて、呼びだしてみようと考えただけであった。


 けれども、この悪魔を前にして、ようやく己の本心をさらけ出せたのである。

 自身でさえ、隠していて、ごまかしていた願いを。



「ならば、その『何か』を得られればいいんだな?」
「ええ、その通りです」
「‥‥‥だったら、俺がその『兄』になってやろうか?」
「…‥‥良いんですか?」

 悪魔の言葉に、少女は問いかけた。


「ああ、お前が俺をその兄とやらと間違えたのも何かの縁だ。悪魔が神に関して言うのもなんだが、運命的なものを感じたよ。そして、その悲痛な想いもな。だったら、その願いとして俺が兄の代わりになってお前の『何か』になってやる」
「その代償は…‥‥」
「…‥‥代償?それはしっかりとるが安心しろ。お前から俺がもらう代償としてはだな‥‥‥‥」




 悪魔は口に出すと、少女は驚いた。


 だが、それでいいのであれば叶えると言った悪魔の言葉に、少女はうなずく。





…‥‥そして、ついでに魔法を扱える力もオマケとしてもらい、少女はこの日から魔女となって、そして悪魔の兄を得たのであった。


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