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とある国王の記録 その3

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――――――国王ゴリアーテが、悪魔ゼリアスに頼んで2週間後。

 この日、ベール王国ではゴリアーテの退位式と、新国王の即位式が行われることになった。




「‥‥‥まさか、たった二週間でこうも状況を変えてしまうとはな」


 ゴリアーテはいまだに信じられないようなつぶやきをしつつ、退位式用の控室にてリラックスしていた。


 相談してよかった、そう心の底から思いつつゴリアーテはほっと息を吐いていたその時だった。




「まぁ、俺自身こうもうまいこと行くとはさすがに予想外だったけどな」

 ふと、後方の方から声が聞こえたので見てみれば‥‥‥そこには、あの時、この状況を創り出してくれることぉ約束してくれた悪魔、ゼリアスがいた。




「予想外とは、どういうことだ?」

 ゼリアスのその言葉に疑問に思ったゴリアーテは尋ねた。


「いやまぁ、長くて二ヶ月、短くて一ヶ月ほどかと思っていたのだが‥‥‥二週間ですべてが終わるとは、流石に計算していなかったからな。それだけ国王の息子・娘たちが優秀だったのか、それとも影響を受けやすかったのか‥‥‥まぁ、いい方向に転がったから良いだろう?」


 ゼリアスのその言葉に、確かに悪いところはなかったと、ゴリアーテは納得した。









……国王の座を押しつけ合う王子・王女たち。

 それぞれに望みがあって、それらを満たそうとして押し付け合っていたのは明白。

 ならば、その望みを叶えてやればいい。


 そうしたうえで、国王陛下が望む子が王座につくかどうか見てみればいいと言い放ち、ゼリアスは動いたのだ。






 まず、旅に出たがっていた第1王子エドモリア=ベールに対しては、旅に実際に出してみることにしたのだ。

 いや、正確には他国をめぐる席を設け、そこに居座らせたと言えば良いだろう。



 その席の名は外交官。

 他国を巡らせ、自国との交流を図らせたり、国ごとの利点・欠点の違いをはっきりと学ばせる場として設けたのだが‥‥‥これが思いのほか、王子の腕が発揮され、今まで交流がなかった国々とも交流が芽生えたり、貿易で互いに利益があるように調節したりなどやってしまったのである。





 次に、商売人希望をしていた第2王子のホウ=ベールには、実際に商売人として働かせた。

 正確には、第1王子の仕事の補佐をしつつ、貿易に関して干渉させただけだ。



 うまい事特産物を引き入れたり、反対に売り込んだりと、確かに商売人向けの才能を発揮し、たちどころに国庫を潤してしまったのである。





 また、スローライフ希望の第3王子モーンブル=ベールに関しては、スローライフをしたいのであれば実際にやって見ろと言い放ち、辺境の方へ飛ばした。

 辺境の辺鄙な土地の領主として、そこを開拓するように命じたのだが…‥‥思いのほか開拓が楽に進み、国の生産量の増大に貢献しているのである。






 ちなみに、残りの逃亡済みだった第4王子モチモチ=ベールだけはどうにもならず放置、裏で女帝を希望だった第1王女ミストリア=ベールは、財政難だった公爵家に嫁がせてみたところ、王子たちの協力もあって、見事に立て直し、配下の者たちに慕われているらしい。







 この時点で第4王子だけはどうにもならず、第1王女はもう放置気味でいいことになり、残っただ1,2,3王子たちはそれぞれ欲が満たされ、皆満足していた。








 そして、ここから国王が次期国王に希望した王子には‥‥‥‥その仕事はあえてついたままにしてもらって、国政を担いつつも、ずっと兼任できるようにしてしまえば、あとは容易かった。




「結局、第1王子を国王にするとはな」
「ああ、他国をめぐる役目は国王自身も行う。それゆえに、今こうしてめぐって才能を発揮している第1王子の息子こそが王にふさわしいと思ったのだ」




 何にせよ、国王の望みが叶い、無事に退任式と即位式がこれから行われようとしている。


「一応、この王子……これから国王となるやつには、今後この国を滅ぼすような愚行をしないように、定期的に見回りに来てやる。帰らずの森に干渉されてしまうのも防ぐためにもな」
「ああ、そうしなくとも絶対に下手に干渉させないように、国法に既に盛り込んでおいたぞ」
「‥‥‥案外、国王もちゃっかりとやってくれているな」


 ゴリアーテの言葉に、ふっと笑みを浮かべるゼリアス。



「国王陛下、もう間もなく退任式のお時間です」

 っと、コンコンと扉が叩かれる音が聞こえ、間もなく退任式が始まる知らせが来た。



「それじゃ、この辺りで俺は去らせてもらうよ。隠居生活を楽しむがいいさ」


 そう言い残し、悪魔ゼリアスは初めから何もなかったように、その場を去った。



「‥‥‥ふぅ、あれからそこまで経っていなかったとはいえ、やはり頼んで正解だったか」


 最初にして最後の英断とも言うべき、次期王決定のための問題解決を悪魔に頼み込んだ王。




 ゴリアーテのその功績は評価され、普通だったけどなかなか良い人だったと、一般的な王にしては評判の良い王として、後世の学者たちにそう分析されたのは言うまでもない。





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