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4章 中等部後期~高等部~

4-18 勝ち目のない勝負は挑むことは無いのだが

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‥‥‥貴族たるもの、何かしらの嗜みは必要である。

 趣味をきっかけに交流を増やし、様々な情報を集める手段として役立てることが出来るそうなのだが‥‥‥具体的にどのようなものを身に付ければ良いのか、という点があやふやである。

 乗馬、剣、裁縫、酒、賭け事‥‥ある程度の加減もかけつつも、他者と話し合いやすくなるようなものを選ぶのが良いらしいのだが、それでもさらに細かく分けられる。

 だったらどうすればいいのだというようなものがあるが、この学園ではその心配をしなくても良い。

 なぜならば、この学園に通っている間に最適なものは何なのか、ある程度調べられているからだ。

 知らぬはその事を聞くまでの生徒たちであり、自分で見つけられない人はその方法で趣味を得ることが出来る。

 

「‥‥‥でも、僕らの場合そもそも趣味が最初からはっきりしているよね」
【キュル、調べなくても、自分が分かればわかるの】

 ハクロの蜘蛛部分をモフモフしながらつぶやけば、編み物をしていたハクロがそう答える。

 本日の授業は各々の趣味にふける時間であり、自由時間に近いけれどもそうではない。

 どのぐらい満喫できているのかということなどが、後でレポートとしてまとめる必要が出るそうなのだが…‥‥まぁ、まとめるにしてもそこまで長くはならないだろう。

【それよりも見て、アルス。新しいの、出来た!】

 そんな事はどうでもいいと言わんばかりにハクロが見せてくれたのは、先ほどから作成していた作品。

 自身の糸を用いての編み物が趣味らしいが、たった今出来上がったのは‥‥‥小さな蜘蛛の人形のようだ。

「前にも多く作っていたけど、これは結構小さいね」

 そこそこの大きさのぬいぐるみを作っていた時があったが、それとはまた違う小さな編みぐるみ。

 というか、どうやってこの手のひらサイズに収まるほどの小さい蜘蛛の編みぐるみを編めるのか‥‥‥あ、よく見たら結構細い糸を使っているけど、それでも人の手では難しい作品だろう。

【ふふふ、それだけじゃないよ!前の雪人形の経験を活かして、こんなこともできるの!】

 なにやら自信満々に胸をはって手をチョイっと動かせば、蜘蛛の編みぐるみに変化が起きた。

ぐぐぐ、びしぃっ!!

「お、見事な敬礼だね。もしや、稼働可能な人形にもなっているの?」
【そう、動くの!】

 ハクロがくいくいっと動かせば、それに合わせて動く小さな蜘蛛の編みぐるみ。

 動きが本物の蜘蛛の動きそっくりだが、ところどころにハクロらしい動かし方が現れており、何となく人形劇で使用されて劇を行っている人形のようにも見えなくもない。

 どうやら冬季限定としていた雪だるまたちで作った警備隊の編みぐるみバージョンのようだ。

【さらに、事前にちょっと用意済みなんだよ】

 そう言いながら取り出したのは、たった今動いていた蜘蛛の編みぐるみと同じ小さな蜘蛛の編みぐるみ達。

 ハクロが手を動かせば、ぴくぴくっと反応して動き出す。

【糸、細かく分けて動くようにして、関節部、ちょっと工夫。そのおかげで、自然な動き再現可能になった!どう、アルス、これ凄い?】
「うん、すごいよハクロ」
【キュルへ~♪】

 頭を出して褒めて欲しそうに言うので、彼女の頭を撫でてあげれば嬉しそうに鳴く。

‥‥‥酔っぱらって甘えて恥ずかしがっていたくせに、普段もこんな甘えん坊でもあるんだよなぁ‥‥‥あ、でも酔って枷が外れた状態の方がもっとすごかった。もしや、これでもまだちょっと加減している気なのだろうか?

 とにもかくにも、小さな蜘蛛人形たちはハクロの手によって命を吹き込まれたかのように動きつつ、小さな道具を各自にハクロは持たせた。

 それもまた小さな糸で作った楽器のようで‥‥‥‥指揮棒を操るようにハクロが手を動かせば、あっと言う間に小さな音楽隊が出来上がる。

 これはこれで、面白いものが出来上がったなぁと、周囲で見ていた他の生徒たちも同じ気持ちで微笑ましく見守り、曲に耳を傾ける。

「というか、なんか聴いていたら眠くなってきたような…‥‥穏やかな曲調だけど、何を流しているの?」
【正妃様や所長お婆ちゃんに教えてもらった子守歌。私なりにちょっとアレンジしてみて‥‥‥ふわぁ‥‥‥】

 穏やかで優しく眠気を誘う演奏は、どうやらハクロ自身にも影響を及ぼしてしまったらしい。

 気が付けば演奏が止まり、全員で昼寝をし始めてしまうのであった‥‥‥‥







‥‥‥学園で平和な昼寝の時間が到来していた丁度その頃、エールケイ軍事国ではその真逆な空気が流れていた。

「いそげぇ!!帝国の兵士共が攻めてきたぞぉ!!」
「ダメだ、備蓄が全然ねぇ!!」
「用意していたはずなのに、いつの間にか無くなっているのだが!?」

 本来、戦争に関してエルスタン帝国は事前に国内で通告を行い、戦争をしていることを国民に知らせて、万が一に備えてもらう事がある。

 だがしかし、今回のエールケイ軍事国相手に関しては…‥‥圧倒的過ぎるさゆえに、連絡をする前に速攻で攻めこむことが出来ていた。

「大体なんだよ!!ギリギリこれで戦えるかって思ったところで、相手の準備が滅茶苦茶整った状態で来るとはだれが思うか!!」
「帝国の兵士の熟練度などが高いと言っても、この用意の良さはおかしいだろ!!」

 手際よく攻められてしまっている中で、軍事国の兵士たちは帝国の動きに関して色々と気になる事を見つけてしまう。

 地理的にも詳しいはずの軍事国側よりも圧倒的に地の利を生かしていたり、的確に並びで弱い箇所や補給線を狙ってくるなど、あちこちで上手過ぎる行動が目に見えてしまうのだ。

 これではまるで、最初から全部を知られているような、情報が全部流れていたのではないかと思えてしまう。


 とは言え、この危機的な状況にあっても‥‥‥‥報告を聞いていた上層部の者たちは、まだあきらめていなかった。

「まだだ!!かなり早すぎるが、念のために用意しておいた対帝国兵器・・・・・を投入せよ!!」
「出番が思いのほか早すぎたが、元々これがあるからこそ企んでいたのだ!!ここで活かさずにしていつやるのだ!!」

‥‥‥そう、軍事国側は元々、真正面からエルスタン帝国に挑めば、負ける可能性が見えていたのである。

 だがしかし、ある時とある兵器が商談として持ち込まれ…‥‥うまいこと利用できれば、帝国を倒して自分達が上に立てるのではないかという野望が湧きだし、それに突き動かされていたのだ。

 計画が大きく狂っている現状ではあるが、その兵器を用いれば逆転できる可能性がある。

 その事に一塁の望みをかけ、彼らは用意していた兵器を扱おうとしていたのだが…‥‥待機させていた場所に着くまで、彼らはその現状を知ることは無かった。

 とっくの前に見限られ、用意してきた者たちが兵器を持ち帰っていたことを。

 予定に無かったはずの大敗状態を早期に悟って、既に見限られていたことを。

 
 ただ、それでもその者たちにとって、軍事国の者たちはまだ利用できる存在と見ていたに違いない。

 なぜならば、その兵器の起動には犠牲が必要なのだが…‥‥その犠牲に関しては、誰でも良かったのだから‥‥‥‥


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