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いざ、魔法屋へ……

#29 真夜中の一幕デス

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SIDEワゼ

……深夜、誰もが寝静まっている頃、ワゼは都市アルバスにこっそり潜入していた。

 フェンリル(夫)にはあらかじめ夜中に訪れる予定を話していたので、叩き起こす手間を省き、とりあえず目立たない場所に停車させていた。

「さてと……こっちでしたネ」

 すたすたと歩き、路地裏に入り、そこにシアンの隙を見て密かに作り上げていた隠し地下室に入るワゼ。



 中に入ると、奥には縄でぐるぐる巻きにして縛られた者たちがいた。

 口にはしっかりとさるぐつわとして布を巻いており、途中で抜け出そうとしていたのか、暴れた形跡もあった。


「もがぁ……もがががあ!?」

 手が変形して明かりを灯していたワゼの姿を見て、縛られていた者たちは驚愕の表情となる。

 そして逃げ出そうと暴れるが…‥‥縄がそう簡単にほどけるはずもなく、抵抗はただむなしいだけに終わるのだった。

「さてさて、夜分遅くなりましたが、逃げだそうという努力はしていたようデスネ。ですが、その縄はハクロさんが生み出した糸を練り合わせて作り上げたものですので、そう簡単に千切れる事もありまセン」


 しっかりと脱出は不可能であると言い聞かせ、ワゼはその場にあった椅子に腰かけ、縛られている者たちへ向き直った。

「さて、歯に詰まっていた自害用と思われる毒物なども取り除きましたし、舌を噛み切ろうにも少々細工をしたので、無理でしょウ。あ、隠し持っていた武器の類は全て押収させていただきマシタ。金属製品が少々不足していたので、ありがたく利用させていただきマス」
「んもががが・・・・・もがぁ」
「では、これよりちょっとだけ、お話尋問をしましょウ」


 ワゼのその言葉を聞き、その者たちはもはや絶望の表情を浮かべるしかできないのであった。








「……なるほど、あなた方は裏ギルドと呼ばれる所の者たちでも、末端に位置する者たちですカ」
「そ、そうだ!!我々はただ、命じられて」
「末端に位置するものだからこそ、相手がどの様な者なのか把握できていなかった……という事ですネ」
「う”っ……」

 ワゼの冷徹なまなざしを向けられ、話していた一人が何も言えなくなる。

 若干一名は興奮していたようだが、まぁ、それは放置で良いだろう。



 何にせよ、たった10分ほどのお話であったが、色々と有用な情報をワゼは得ることができた。


 まず、この世界にある魔法ギルド、冒険者ギルド以外にも、裏ギルドと呼ばれる、いわば裏社会につながる者たちで構成されたギルドから、この者たちは派遣されてきたという事。

 そして、彼らを要請したのが…‥‥この都市の冒険者ギルドのギルド長、ゲルハードと言う人物らしいという事。

 そして、その目的は…‥‥

「冒険者ギルドの閑古鳥の原因調査をして、私達…‥‥ご主人様とハクロさんに目が付き、そこから考えた愚策デスカ……」

 その内容を聞き、ワゼは呆れたようにそうつぶやいた。


 冒険者ギルドのここ最近の閑古鳥のせいで、そろそろ休業しないとまずい事態になったのは、少々申し訳ないとワゼは思ってはいた。

 だがしかし、それならば色々と改善したりすればいいし、特にやましい事がなければそれはそれでよかったのだが…‥‥残念ながら、そのゲルハードと言う人物には、やましいことだらけだったそうだ。

 それで、ギルドを休業させた場合、原因調査などのために本部の方から監察官などが送られてくるらしく、自身の不正の発覚をゲルハードは恐れたらしい。



 そこで、手っ取り早く考えたのが、休業しないために、そして自分の欲望を満たすための金策だったそうだが…‥‥その内容が愚かと言うか、ハクロを手に入れて、その美貌を利用してどこかの馬鹿貴族に高く売りつけるか、もしくは、彼女の生み出す糸を搾取したりして換金する予定だったそうである。


 だが、そこで邪魔になったのが、ハクロの「使い魔」と言う部分。

 使い魔という事は主がいて、その主と言うのが、魔法ギルドに魔法屋として最近登録されたシアンの事だったのである。

 冒険者ギルドにも登録して、冒険者業をしてくれれば、ハクロの美貌効果もあってより一層盛り上がったかもしれないことを考えると、色々といら立ったらしい。

 その上、ハクロの美貌を聞き、独り占めしているような事で醜い嫉妬の部分も出たそうなのだ。


(…私もいるのですが、ハクロさんだけが目立つのですか、そうですカ)

 ちょっと思わずそう心の中でつぶやくワゼ。

 それは置いておくとして、そのゲルハードと言う人物はどうにかしてみようと考え…‥‥裏ギルドへ依頼することに決めたそうなのである。

 裏ギルドと言う存在は、いわば社会の闇。

 かと言って簡単に潰されないのは、ひとえに綺麗ごとだけでは済まない世界の事情もある。


 そして、ゲルハードは裏ギルドに依頼したそうなのだが、その依頼の内容と言うのがハクロの簒奪、そして奪い返されることのないように…‥‥シアンの抹殺も依頼したそうなのだ。


 ハクロを簒奪する程度であれば、単純に追い払うだけで済んだ。

 ハクロはシアンの使い魔であり、彼女のがいなくなればシアンも悲しむという考えがあるのだ。

 …‥‥だが、シアンの抹殺と言うところで、ワゼの逆鱗に触れたのであった。


「…‥‥大体の内容は分かりましタ。まぁ、別の件で本来はギルド自体が私たちを警戒しているものと考えていましたが…‥‥末端部分であれば、何も知らないはずデス。ある意味、哀れと言う事実が分かったので、あなた方はきちんと開放いたしましょウ」

 ワゼのその言葉に、縛られていた者たちの目に希望の明かりがともる。


「ですが、甘く考えないでくだサイ。私は、ご主人様のために働き、害をなす者には絶対に容赦する気がありまセン。今回は未遂とは言え、それでも害をなそうとしたことは明らかデス」
「ぐっ……な、ならばどうするつもりなのだ!!」
「ご安心くだサイ。流石にその分かっていなかった末端の哀れさと、開放するということを口走ったのでこの世から存在しなかったことには致しまセン。ただ、ほんのちょっとだけ……そうですね、こちらの薬を一気飲みしてくれればいいのデス」

 そう言ってワゼが懐から取り出したのは、その場の人数分はある液体の入った小瓶。

 それぞれ別々の色をしていたが、共通していたのはどう考えてもろくでもない気配を漂わせていることであった。


「な、なんだそれは……」
「裏社会に住まうだけの事情も考慮して、流石に毒死はないようにした何かしらのモノデス」
「何かしらのモノってなんだよ!?」
「サァ?ご主人様のために、畑の肥料や狩りの手助けになるような薬品を作ってみたら…‥‥ちょっとばかり失敗した何かデス」
「思いっきり目をそらしているじゃねぇか!!」
「失敗作ってことだよね!?」

「何にせよ、『一応』死ぬことはないはずデス。ご安心してくだサイ」
「「「「全然安心できないんだけど!?」」」」


 全員のツッコミが入ったが、ワゼは構わずにそれぞれに一瓶ずつ手渡す。

 飲まなければそれでもう人生も終わりデス、と言葉を聞き、裏社会い所属しているものとはいえ、命が惜しくなった。

 どう考えても、飲んだら色々と終わるような気もするが……少なくとも、命があればまだどうにかなるはずである。

「では、ドウゾ」

 ワゼのその合図を聞き、彼らは背に腹は代えられぬと意を決して…‥‥一気の飲み干した。

 味わう事もせず、本当に素早く終わらせようとして…‥‥そして、すぐにその作用が彼らに襲い掛かったのであった。

「「「「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」



「……まぁ、これで彼らの分はチャラにしましょウ。ですが、少々影響させてしまったがゆえに起こしてしまったこととは言え、自身の屑行為・自己保身のためにご主人様に害をなそうとした冒険者ギルドのギルド長、ゲルハードと言う人物だけはただでは済ませまセン。‥‥‥‥丁寧に、それはもう生きているだけで地獄と言えるような目に合わせましょウ」

 そうにっこりと微笑みながら、作用に苦しむ彼らを手刀で気絶させ、地下室から放り出したワゼはそうつぶやく。

 そして、今すぐには動かずに、準備を密かに進めていくのであった‥‥‥‥‥。





――――――――――――――――――――
SIDEハクロ

……ハルディアの森、シアンの家の中で、深夜ハクロはこっそりと動いていた。

 ちょっと今日は目が冴えて、少し眠りにくかったのだ。


【うーん、夜行性ではないのに、ちょっと目が冴える時があるのは困りますね】

 そうつぶやきつつ、家の中に与えられた自室にて、眠くなるようにと考え動き回ったり、糸で編み物をしたり、新技開発したりなどを静かに行ったが…‥‥一向に眠気が来る気配が無い。



【あ、そうだ】

 そこでふと、彼女は思いついた。

 眠れないのであれば、誰かの眠りに便乗すればいい。

 まだ幼い時に、同じように眠れなかったことがあって、その時は他のアラクネたちが寝たときに、そっと寄り添って、その体温を感じながら目をつむっていたら、自然に寝れたのだ。

 ならば‥‥‥‥





 抜き足差し足……ではなく、音を立てないようにと言う考えで糸を張り巡らし、滑るように移動するハクロ。

 彼女が思いついたのは、この家にいる誰かの睡眠に便乗するものであり…‥‥シアンの部屋に侵入しようと考えたのだ。

 
【確か、シアンの部屋はここでしたよね】

 部屋の前にたどり着き、扉の取っ手に手をかけたところで……ハクロはふと気が付く。


 これってもしかして、かなりいけないことをしているのではなかろうか?と。

 真夜中に、種族が違うとはいえ異性の部屋に忍び込む行為。

 そして、その相手がシアンである事を考えると…‥‥急にハクロはドキドキとしてきた。

 

【…‥‥でも、女は度胸なはずです】

 深呼吸し、呼吸を整えるハクロ。

 そして、ついに取っ手に手をかけ、開けようとしたところで…‥‥

ガコン!
【…‥‥へ?】

 どこかで何かが開くような音が聞こえ、思わず体を硬直させるハクロ。

 そこで素早く動けていればよかったのだが…‥‥残念ながら、そのような回避能力をハクロは持っていなかった。

 と言うかそもそも、糸の上にまだ足を乗せていたので、少し足場が不安定だったというのもあるだろう。

 そのまま数秒ほど経過して‥‥‥‥


ガッシャァァァァァン!!
【あふん!?】

 頭の上に、何か落ちて来てハクロはぶっ倒れた。

【な、なんですかこれ…‥‥がくっ】

 そのまま気絶し、力なく倒れたハクロ。

 落ちてきたものは…‥‥自身が留守中に、シアンの身に何かあってはいけないとワゼが稼働させていた罠の一つ、「金ダライ(ただし中身に粘土を詰めて重量増加)」であった。




「なんの音だ…‥‥?」

 ハクロが倒れた後、部屋の外の異音に目を覚まして、シアンは扉を開けた。

 そこにいたのは、床にぶっ倒れて大きなたんこぶを頭に作って気絶したハクロであった。

「は、ハクロ!?何があった…‥‥って、ああ、ワゼの仕業か」

 少々驚愕したが、すぐに誰の仕業なのかシアンは理解した。


 とは言え、このまま廊下に放置しておくと彼女が風邪をひきかねない。


「…‥‥しょうがない、部屋に運ぶか」

 ハクロを背負って見たシアンであったが‥‥‥その胸のふくらみにドキッとしてすぐにその場に下ろした。

 と言うかそもそも、体格差的に持ち切れなかった。



「…‥‥しょうがないか」

 運ぶのは断念し、替えの布団をシアンは持って来た。

 そして、ハクロが風邪をひかないように丁寧に被せていく。

 蜘蛛の部分が少々邪魔になるようだったので、椅子などを使ってちょうどいい高さにさせ、そこに頭を載せたりして、気を使う。

 即席の寝場所を作り終え、彼女をそこに寝かせる。


「さてと、これでいいかな?」

 すぅすぅっと気絶しつつも寝息を立てはじめた彼女を見て、シアンはちょっと見ていた。

 色々と残念なところがあるとはいえ、ハクロの顔は美しくもあり、シアンだって男だ。

「…‥‥いや、二度寝するか」

 ちょっとばかり邪念が出てきたような気がするので、紛らわせるためにシアンは自室に戻った。

 彼女に何かして、嫌われたくないという思いもあるのだが‥‥‥‥それをした場合、どうなるかは分からない。

 ただ、まだ今の関係の方が良いと思っての事であった…‥‥‥


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