上 下
4 / 5

とある悪役令嬢の華麗なる悪魔頼み 前編

しおりを挟む
…かつて、私はとある乙女ゲームにはまっていた時があった。
 その乙女ゲームは『ギリギリ乙女危機一髪』略して『ギリオト』という、名前がちょっとあれなものだが…それでも、中身は非常に面白いものだった。

 そう、例えその乙女ゲームに出る悪役令嬢ヴィラが、全てのルートで確実にバッドエンドへ向かい、救われることがなかったとしても。
 ヒロインであれば関係なく、攻略対象をいかにして攻略していくかのみを考えるだけで良かったはず…だった。



「でも、流石にそのゲームの悪役令嬢ヴィラに転生したら意味ないのよぉおおおおお!!だから、どうにかしてバッドエンドを回避してください悪魔様ぁぁぁ!!」
「…なるほど。好きだった乙女ゲームに転生したと分かったのは良いけど、全部バッドエンドで悲惨な末路しか用意されていない悪役令嬢だったと分かって絶望したから、藁にも縋る思いで悪魔に頼むわけか」
「バッドエンドルートその68や72、398などに関わる悪魔であっても、もはや頼むしかないんですよぉおおおお!!」
「ルート、多くないか?」

 目の前でしゃべる黒猫…全バッドエンドルートを回避するため、呼び出した悪魔に対して私は全力で頼み込む。

 悪魔、それは悪役令嬢がいくつかのバッドエンドルートで呼び出し、結果として破滅に向かう菊花になるもの。
 けれども、悪魔に対しての望みはたいていが叶うため、ならばこのバッドエンドルートをたどらずに、せめてトゥルーエンドと言えるようなものに将来を変えられないかと思い、私は呼び出したのである。

 これはこれで、バッドエンドルートに突き進みかねない危険な賭けではあるが、それでも他に方法がない。

「進行中にヒロインが取得する聖女の称号や聖魔法、チートな知識などを活かしても全部無駄になるのはわかっているのですわぁぁ!!だってもう、10回はループしてますもの!!」
「ほぅ、何度もループを繰り返して、そのたびにバッドエンドに叩きこまれているのか」
「しかも、どうもヒロインの人も私と同じで記憶があるのか、毎回別の攻略者に対して挑み、そのたびに私がバッドエンドに巻き込まれるのよ!!もう何度もバッドエンドをやられるのはいやなのよぉおおお!!大体このゲーム、攻略対象者が100人以上いるから、あと90回は確実になりますわぁぁぁ!!」
「多すぎないか、その攻略対象」

 悪魔にツッコミをされるが、そんなゲームなのだから仕方がない。
 第1皇子のアレッサンドス様や騎士団長のご子息のマルスト様、宰相様のお孫のベルリッカ様あたりは、乙女ゲームとしては定番の位置にいる方々だろう。
 だが、ギリオトの面白いのは攻略対象が定番を超えて、山賊王や異国の王子、魔界の帝王など幅広く存在しており、彼らの攻略もあるのだ。

 あまりの数の多さに全攻略は厳しいとされているが、愛があれば問題ないというようなプレイヤーも多かったと聞く。

「それにあの転生ヒロイン、その愛があればの人のほうで全攻略対象と楽しむって、8回目ぐらいで暴露してきやがったのですわぁ!!こっちの気も知らないで攻略対象と甘々な日々を過ごしているのに、わたくしはループの間もバッドエンドばかりでもう嫌になりますものぉ!!」

「すごいな、そのヒロイン…しかもその口ぶりからして、相手もお前がループしている人だってわかっていそうなんだが、それすら気にせずに自分だけ良ければいいってことでやりまくっているのか…」
「そうなのですわ!!しかもどうあがいても、廃人ゲーマーというのかやりこみ度がわたくし以上で、いくら先を読んで回り込もうとしても、バク技とか言って追い抜かしますもの!!攻略を楽にする裏ルートの道具や違法薬物、鼻毛ガムテワープ、違法人身販売、侵略戦争…非道なことも多くて、どうしようもできなかったですわ!!」
「普通に犯罪としか言いようがないのが…いや、ちょっと待て、変なの混ざってないか?」

 本当に乙女ゲームとやらに出てきていい方法なのかと悪魔はツッコミを入れるのだが、なぜか仕込まれているそうなのでどうしようもない。
 そんな世界に転生した悪役令嬢の人も可哀そうだとは思えるが、そこに召喚された悪魔自身もその無茶苦茶なことに巻き込まれそうである。

「なので、どうしようもないなら…いっそバッドエンドのきっかけになりそうでも、どうにか願いを叶えてくれそうな悪魔に頼むしかなかったのですわ!!なので、お願いですからどうか、このループからも抜け出して、せめて修道院で生涯を過ごすとか生き延びさせてほしいですわぁぁ!!」

 心からの叫びをあげながら、悪魔に向かって土下座をする悪役令嬢ヴィラ。
 その光景は黒猫を前にして崇めているような人にしか見えないのだが、本人からすれば生死を賭けた方法なのだ。


 あまりの必死ぶりを見て、流石に悪魔もしばし考えこみ…そして口を開く。

「…わかった。ならば、どうにかできるように尽くそう」
「本当ですの!?」
「ただし、俺…悪魔との取引だぞ?バッドエンドのいくつかのルートに入っているのならば、もしかするとそのバッドエンドにお前を入れてしまう可能性がある。何をどうやって回避すればいいのかも検討が付きにくく、どうしようもない可能性もある…それでもいいのか?」
「問題ないですわ!!どうにかしてこのループから抜け出せるなら、何でも捧げてあげますの!!」
「バッドエンドに、代償で死亡するってありそうなんだが…」
「そのあたりは大丈夫ですわよ。悪魔関与バッドエンドルートの場合、悪役令嬢の死後に未知のウイルスによるゾンビパニックや、断頭台で切り落とされた頭から化け物爆誕もありますもの。ループしていても、その前に奴らに一泡吹かせることができるなら、アリといえばありですわね」
「なぁ、だからこれ、本当に乙女ゲームなのか?」

 とにもかくにも、悪役令嬢ヴィラは、悪魔と取引を行い、このループから抜け出す方法を模索することになった。
 どうにかできれば良いのだが…果たして、悪魔との取引はどうにかするきっかけになるのか…

「そういえば、悪魔の攻略とかはないのか?聞いた感じだと、それをされてこちらが狙われる可能性もありえなくもないが」
「ありましたわよ。でも、それはその対象の悪魔のみだから、違う悪魔としてあなたを召喚したのですわ」
「悪魔でも可能性があったのか…」
「攻略対象に、幽霊や天使、魚人、獣人、触手魔人、超人、鳥人、エルフ、ドワーフなどもいましたからね…色々と網羅してましたわね」

…そこまで相手の攻略をやりまくったのだろうか、この悪役令嬢。
 そしてそいつら全部とよくやろうとしているな、ヒロイン…


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの妻にはなれないのですね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:36,948pt お気に入り:403

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,112pt お気に入り:95

悪徳令嬢はヤンデレ騎士と復讐する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:259

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:29

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,687pt お気に入り:1,013

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,630pt お気に入り:142

処理中です...