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150 噂ってのは何かとあるもので

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…‥‥学園祭2日目にして、好奇心ゆえにやらかしてしまった新しい召喚獣の召喚。

 とはいえ今回はどうもまともなというか、グランドケンタウロスという種族が出て、全身鎧装備ながらも軽々と槍を振り回し、騎士学科の出している店‥‥‥本来であれば剣術などを見ることができる会場にて、合流した副会長にして騎士学科でもあるグラディに協力してもらい、レイアの実力をまずは見ることにした。

「…‥‥ほぅ、某の実力を、か…‥‥うむ、面白そうだ!!」

「ディー君が召喚したにしては、なんか今回はまともそうなやつだよね」
「自分でも内心、結構思っているんだよなぁ‥‥‥」

 ぐっとこぶしを握り、乗り気なレイアに、グラディがそうつぶやく。

 まともと言えばまともの類‥‥‥かな?騎士という面で見れば、多分合っているだろう。

 なお、今回最初の対戦相手は騎士学科の生徒の一人で、グラディいわく実力も中々だとか。

 本人が最初に相手しないのは、ルビーとの対戦時の経験もあるらしいが‥‥‥まぁ、その節は色々とあったな。

「というかそもそも、『グランドケンタウロス』ってなんだろうか‥‥‥」
「図書室から借りてきた図鑑ですと、モンスターの一種ですネ」

 ノインが取り出したのは、何かとお世話になっている図書室の頼れる図鑑の中の一冊。

 『世界ノリがいいモンスターランキング』とやらには、レイアの種族に関しての詳細が書かれていた。

――――――――――――――
『グランドケンタウロス』
ケンタウロスと呼ばれる種族の中でもさらに強靭に進化したモンスター。普通のケンタウロスは主に弓を武器として使用するのだが、この種族になると剣や槍などを装備し、近接戦を主体とする。鎧なども自前であり、人が作る類よりもはるかに頑強である。
半人半馬とされるが、下半身が馬で上半身が人か、もしくは下半身が人で上半身が馬なのが、7:3の確率で確認されている。
普通の馬や、モンスターの馬系統に比べると脚力が非常に強く、スタミナが非常に高いとされ、大昔の召喚士の中には下半身人上半身馬な相棒に乗って、戦争で手柄を立てるなど武功を残している例が多い。
進化した故か武器・防具を常に装備するようになり、強靭な用心棒としても非常に心強いとされる。
―――――――――――――――

…‥‥今回は割合的に多い方の下半身馬上半身人のタイプのようだ。あと図鑑、ノリがいいってどういうことなのかと思ったが、考えて見ればそこまでおかしくないのか。

 というか、下半身人上半身馬なのもちょっと見たかったような気もする…‥‥というか、昔に召喚された例があるけど、その場合どうやって騎乗していたのか気になるのだが。肩車とかだろうか?それはそれで召喚して見たかったような気がする。

 何にしても、どうも正々堂々と騎士道を心がけて戦いの場を好みつつ、忠誠心も非常に強い、主に騎士よりのモンスターらしい。

 とはいえ、今までの例もある事だし、ちょっと気になったので実力を見たかったが‥‥‥都合よく、ココが学園で良かったと実感した。


 とりあえずまずは、騎士相手への模擬戦を挑むことになるのだが、こうして他の騎士学科の生徒と対峙させると絵面が何というかまともに見える。

 いや、あっちは自前の馬脚持ちの槍使いであり、騎士の方は剣を構えているが、これはこれで絵になるかもなぁ。


「それでは、はじめ!!」

 っと、審判役の人が合図をすると同時に、生徒の方が先に動いた。

 一応、今回は模擬戦なので両者ともに木製の武器に変えてもらっているが、互に金属製の武器で無かろうとも試合に影響は無さそうだ。

「ふふふん、まずはマイロードに某の実力の一端をお見せしよう!!」

 自信満々にレイアがそう叫んだかと思うと、くるくるっと槍を回して構え直し、向かってくる生徒の方へ狙いを定める。


「見よ某の脚力を!!」

 ドガァァン!!という音と共に、地面が踏み砕かれ、瞬時にその姿がその場から消えた。

 そしてすぐ後に、その生徒の背後に立っており…‥‥槍でとんっと地面を叩くと同時に、生徒が倒れ伏した。

「き、気絶!!勝負あり!!」
「早っ!?」
「おおぅ、これまた何と言うか、驚いたね」

 あまりにもあっけない瞬間の勝負に思わず叫び、周囲で見ていた観客たちも驚愕の表情を浮かべ、グラディも同じような声を出す。


「ふははは!!マイロードよ、これが某の勝負の付け方だ!!」

 ふふんと自慢するかのように、自信満々に胸を張り口にするレイア。

 兜をかぶっているせいで声も正直聞きにくい所もあるが、表情が見えなくとも絶対自信満々の笑みを浮かべているように思える。

 なんというか、あまりのも速い勝負過ぎるというかなんというか、地面の被害の方が凄まじい以外は分からなさすぎる。

「なんというか、驚きですわね…‥‥すごい速かったですわ」
「拙者も機動力には自信があるか、瞬間速度だとちょっと負けそうでござるな」

 他の面々も、この結果には驚いており、今回ばかりは本当に実力者を召喚してしまったのかもしれない。

 いやまぁ、皆強いけど、戦闘特化という訳でもないからね…‥‥こういう正統派てきな召喚獣は本当に初めてだ。

「ふむ‥‥‥とんでもないが、ちょっと相手してみたいな」

 っと、ここでグラディが興味を盛ったようで、模擬戦の相手が担架で運ばれ、次に彼がレイアの相手をすることになった。

 この国の第2王子ではあるが、彼の実力も高かったはず。

 ルビーとの一戦では一度吹っ飛んだが、本気でやれば多分まともにできそうな気がする。

「ほうほぅ‥‥‥お主、相当できそうだ!!マイロードに某の実力を見せるためにも、中々良い相手にというか、楽しめそうだ!!」
「そりゃどうも。慢心しているわけでもなさそうだけど、ディー君の召喚獣相手だし、気は抜かないよ」


 ぐっと互に武器をかまえ、審判の合図を待つ。

 これはこれで、面白そうな対戦が見られそうで、俺たちも目を離さない。

「それでは、はじめ!!」

 その合図と共に、瞬間的にまた地面が踏み砕かれ、レイアの姿が消えうせる。


「でも、ここだ!!」
「っと!!」

 がっぎぃい!!っと木刀と槍がぶつかり合い、正面にレイアの姿が現れた。

「相当な速度のようだけど、その分軌道は単純。短期決戦でやるのであれば、こちらもやりようがある!!」
「おおお!!某の技を直ぐに見破るとは、これはこれは面白い!!」

 木製の槍と剣ではあるが、互にそこから打ち合い始める。

 短期的な攻撃よりも、こうやって互いに武技を見せ合う事でこちらにアピールする名目もあるのだろうが、なかなか身ごたえはある。

 身長差とかでちょっとアレだが…‥‥槍の位置的にレイアの方も考慮しているようで、正々堂々と戦えるようにしているようだ。

「しかし激しいなぁ‥‥‥あれ、武器の方が持つのだろうか?」
「無理ですネ。直ぐに限界デス」

 ノインの言葉通り、案外早くに勝負は終わった。

 木製の武器ゆえに、耐久力もちょっとはあったはずだが、互いのぶつけ合いのせいで壊れてしまったのだ。

バキィッ!!
「ああ!?」
「そんな!?」

 なかなかいい試合だっただけに、これはこれで惜しい。

 とはいえ、金属製の武器だと激しさゆえに互いにけがを負いそうだし…‥‥実力も見れたので、一旦ここで勝負はお預けである。

「ぬぅ、某の実力を見せられたから良しとするかな‥‥‥そして、そちらも強かった!」
「ああ、ディー君の召喚獣でまともに対戦できたのはこちらもいい経験だった!」

 互いにぐっと握手を握りかわし、騎士としての友情が築き上げられたらしい。

 すがすがしいというか、スッキリとしたその友情に俺たちは拍手を送るのであった。

「‥‥‥にしても、まだちょっと動き足りないな」
「そこまでやっておいて、まだなのか?」
「うむ。マイロードのために見せようと思っていたが、火が付いたようでな。できればこの槍を使って本気で戦って見たいのだが…‥‥」

 自前の槍を装備し直し、そうつぶやくレイア。

 結構いい試合をしただけあって、まだまだ試合をしたいようだ。

「あ、だったらいいところがありますネ」
「どこだ?」
「学外にあるダンジョンデス」

…‥‥言われてみれば、確かにあそこも使えるか。都市の郊外にある森の中のダンジョン。

 時たま授業での実践訓練などで利用されるし、レイアの動きたい欲求とかを満たすには最適解だろう。

「とはいえ、まだ学園祭中だけど‥‥‥勝手に抜けて大丈夫かな?」
「うーん、できれば生徒会の面子が勝手に出て行かれたくないけれども…‥‥分散して巡回できないか?」

 グラディに問いかけると、一応OKのようだ。

 メンバー的にちょっと分散して、俺たちはダンジョンへ向かうのであった。










「…‥‥そろそろ出ても大丈夫じゃよね?」

 ディーたちがダンジョンへ向かった丁度その頃、ようやくゼネが自室から出てきた。

 色々とやらかした後、引き籠りはしたのだが、流石にもうそろそろノインたちの怒りとかも解けた頃合いだと思い彼女はそろそろっと注意しながらディーの部屋の中の方に移動した。

 できればディー自身に召喚されて何事もなかったかのように混ざりたいが…‥‥現状呼ばれてないのだ、気を遣われている可能性が大きい。

「まぁ、やっちまったからのぅ…‥‥」

 妹だった狂愛の怪物へ、決定的なダメージを与える手段として選択した、ディーとのキス。

 ゼネ自身初めてだったとはいえ、案外すんなりと唇を奪えてしまい、色々と気恥しいところがったが‥‥‥その後が地獄であった。

 というにも、彼の召喚獣全員が好意を抱いており、その中での独占行為に全員一気に沸点まで到達したのだろう。

 幸い、部屋の隙間から見る限りでは、あの後起きた出来事をディーは忘れているようであったが‥‥‥内心安心する。

 色々とお見せ出来ないというか、口にするのも恐ろしいというか、下手すれば色々不味かったというべきか…‥‥記憶から失せていて問題は無いだろう。

 でも、キスをしたという事実は残っており、そこを考えるとゼネは頬が熱くなったように感じた。

「むぅ…‥‥儂も案外、絆されまくったんじゃろうなぁ…‥‥」

 元々、彼女は元人間の聖女であり、感覚的には最初から純粋なモンスターである他の面子とは違うところがある。

 召喚獣とその召喚主という事で、ちょっと線を引いていたところもあったはずだ…‥‥いつの間にか消え失せ、自然と共に居た。

 ゆえに、心では悪くはないと思うのだが、こうも自分が熱を入れようとするのは、彼女自身驚いていることでもある。




 何しろ、ゼネは元聖女。かつての生活では、異性と共に過ごすようなことはなかった。

 というか、あの妹たちがまず許すこともなかったし、連日連夜の色々ヤヴァイ襲撃などもあったし、当時の大腐敗していた国では性的な意味合いでも狙われることも多く、何処かで人そのものを嫌っていたのだ。

 けれども、今はもう嫌うことはないだろう。彼女の召喚主となったディーがいるのだし、そこは問題ない。トラウマが更新されたが、それは妹たち限定である。

 とは言え、あの騒動後に妹たちがどう行動をとるのかが不明なのだが…‥‥

「…‥‥話も聞いておったが、王城の方に輸送したらしいからのぅ。儂が御前様にキスをしたところを見て、大ショックを受けて心に傷を負ったようじゃが…‥‥大丈夫なのじゃろうか」

 正直、あの手段は一歩間違えれば、狂愛の怪物から破壊の怪物に変えてしまう可能性はあった。

 どうも純真な聖女象的なものを抱いていたおかげが、そこは免れたようだが、行動の予測がつかない。

「まぁ、これで大人しく諦め、帰ってくれた方が楽何じゃけどな」

 一応元身内でもあるし、迷惑をかけられたとはいえ手痛い報復をする意味もない。

 今はもう、ただ穏やかに余生を過ごしてほしいと思う位であり、根っこの部分では心優しい聖女として彼女はそう願う。

…‥‥生前の聖女時代の自身の暴れっぷりには目を背ける。あれは、若き頃の過ちというか、軽い黒歴史もあるので、そこは徹底的に見なかったことにする。もう処刑されたし、そこは無かったことにしたい。

 


 とにもかくにも、今は静かな部屋で、主の帰りを待っていた方が良いだろうとゼネは思う。

「なんか学園祭で学園も騒がしいしのぅ‥‥‥ああ、案外御前様がやらかしていたりするかもしれん」

 生前には無かったような様な事というべきか、ディーのような色々やらかすというか、召喚獣の方がやらかすことが多い召喚士を彼女は見たことがない。

 そう考えると、色々と面白いような気がして、自然と笑みが浮かぶのであった。




‥‥‥この後、ディーたちが帰ってきた際に、召喚獣が増えていたことに彼女は素直に驚くだろう。

 でも、まだ別の事が起きていたことを、彼女は知らなかった。

 主に対してキスを捧げた光景を見た妹たちが、復活した後に行動を起こすことを。

 とにもかくにも、それはまだ先の話であり、今は知る由もなく、単純に主の帰りを待つだけであった‥‥‥


「…‥‥にしても暇じゃな。そうじゃ、御前様もそろそろ年頃じゃし、その頃合いの男の子には、こういうベッドの下に何か隠し事があるとか言うから、ちょっと探るかのぅ」

‥‥‥微妙に生前、異性に接する機会が無かったゆえに、知識がずれているところもあった。

 なお、そう言う類は彼の部屋にはない。何しろ、元々召喚獣たちが美女だらけなのだから。

 逆に、その環境を見て羨ましく、色々隠す男子生徒たちの方が多く、後にそれでひと騒動が起きるのだが…‥‥それはまた、別のお話。 
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