憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

志位斗 茂家波

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‥‥‥暑かった日も、太陽が沈めば自然と冷えてくる。

 ここは海辺ゆえに海風も吹いて心地よい気温となり、合宿の宿舎内でも全員が心穏やかにして眠ることができる。

 いや、それでも近づいてくる最終日の遊びが楽しみで、眠りにくい者もいたりするのだが…‥‥


「‥‥‥なんか、こういう時には目が冴えるんだよなぁ」
「そう言う時が、人にはあるようですし、普通だとは思いマス」

 宿舎の屋上にて、ディーはノインと共に月見をしていた。

 眠りにくい者の類ではないはずなのだが…‥‥どういう訳か、今日はちょっと目が冴えている。

 いや、原因は昼間に飲んでいた苦い飲み物を飲み過ぎたことであろう。

 副作用にちょっと目が冴えるという飲み物であったが、どうやらちょっと飲み過ぎてしまったようなのだ。

 ゆえに今、寝付きにくくもあり、だからこそ開き直って月見でもして眠気を待つことにしたのである。

「流石に徹夜は無さそうだけど、如何せん飲み過ぎたか‥‥‥他の皆はぐっすり寝ているのになぁ」
「私たちは私たちで、鍛練していますからネ」

 何も、合宿の場で学び舎鍛練を行うのは生徒たちだけではない。

 召喚獣たちもまた、同様に鍛錬に励み、各々自己研鑽に努めていたりするのだ。

 ゆえに、昼間のうちに動きまくって疲れ果てて、熟睡しているのである。



「まぁ、今日は珍しくゼネも寝てますし、ご主人様が眠りにつくまでの間、私がお相手しマス」
「ああ、助かるよノイン。‥‥‥にしても、ゼネも眠るとはそれはそれで珍しいような」

‥‥‥メイドゴーレムのノインや、ナイトメア・ワイトのゼネの二人は、召喚獣の中でも特に眠らなくても済む者たちである。

 なので、一晩中起きていたりして色々とやっていたりするそうなのだが…‥‥今日はゼネの方が珍しく眠ったようで、今は彼女と二人っきりだ。

 こうして共に月を見て過ごすのも悪くは無いなぁと思いつつ、眠気が早く来ないかなと考えてもいる。

「…‥‥そう言えば、こうやって二人きりなのも結構久しぶりかもなぁ。最初の召喚獣がノインだったからな」
「ええ、ご主人様と二人きりなのは、その頃ぐらいでしたからネ」

 その後にカトレアやルビーたちを召喚していき、今となってはかなりの大所帯とも言えるのだが…‥‥こうやって二人きりで過ごすのは結構久しぶりだ。

 まぁ、当初はドラゴンとかかっこいい系を求めていたはずなのに、なぜこんな集団になったのかが本当に分からない。

 人生、本当に何があるかはわからないよなぁ‥‥‥そう言えば昔父さんが同じようなことを言いながら、巨大な鳥モンスターに攫われていたこともあったし…‥‥あとで救助されたけどな。

 とにもかくにも、最初に召喚士になってからこういうことになるとは思いもしなかったよ。


 そう思っていると、波風とかも穏やかに聞こえてきて、月明かりがほんわりと周囲を優しく照らし、どことなく雰囲気が良いように感じられる。

「でも眠気が来るかどうかと言えば別だしなぁ‥‥‥」
「‥‥‥でしたらご主人様、膝を貸しましょうカ?」
「‥‥‥そうするか」

 眠気が来ないことにちょっと嘆くと、ノインがそう提案してきた。

 普通に堂々とやってもらうのは何処か気恥ずかしい所もあるが‥‥‥まぁ、こうやって二人きりだし、誰も見ていないのであれば‥‥‥やってもらっても良いかもな。

 というわけで、ノインに膝枕をしてもらって横たわったが…‥‥何と言うか、ちょうどいい感じだとは思う。

 うん、膝枕ってなんでこんなに居心地のいい感じなのか不思議だなぁ‥‥‥

「眠気もようやくというか、ゆっくり来るからな…‥あ、でもこのまま寝たらどうしよう」
「大丈夫デス。眠ったところで、部屋まで起こさないように運びますからネ」
「そうか、なら頼むよ」

 流石に屋上でぐっすり眠り過ぎるのもどうかと思ったが、部屋まで運んでくれるのであればそれはそれでいい。

‥‥召喚獣とは言え、女性に運んでもらうのもどうかと思う自分もいるが‥‥‥こういうことぐらいは大目に見てもらいたい。いや、見てもらうべき相手もいないし、バレなきゃ大丈夫か。

 ちょっと安心したところで、より深い眠気がやってくる。

「‥‥ついでに、ご主人様が眠りやすくなるように、子守歌でも歌いましょうカ?」
「それもやってくれるなら‥‥‥」


 月明かりの元で、そう要望をだすと彼女は歌い始めた。

 その歌はどことなく優しくもあり、深くもあり、包み込むような温かい歌。

 というか、どこでその歌を覚えてきたんだろうかと疑問に思ったが、問いかけたところで「メイドの嗜みですカラ」という返答しかないだろう。

 そのまま歌に聞きほれていると、だんだん意識が沈んで…‥‥‥







「‥すぅ‥‥‥すぅ‥‥‥」
「‥‥‥眠りましたネ」

 穏やかな寝息を立て始め、ディーが寝たことをノインは確認した。

 子守唄を止めつつ、膝に寝ているディーを運ぼうとしたところで‥‥‥ふと気が付いた。

「あれ、そう言えばこの状態でどうやって部屋まで運びましょうカ?」

 地面に座り込み、膝枕をしている以上、立ち上がりにくい。

 かと言って、無理に動かすと起こしそうであり、ちょっと動けない。

「‥‥‥もう少し、熟睡してもらってからにしましょウ」

 深い眠りであればあるほど、起きにくいはずである。

 完全熟睡してしまえば、それこそてこでも起きないレベルになるだろうと考え、ほんのわずかな間だけしかないであろうこの時間を彼女はゆったりと過ごす。

 そしてふと、自分の膝で寝ているディーを見ながら、そっと頬のあたりを撫で上げる。

「ご主人様、良く寝ていますガ‥‥‥無防備ですよネ」

 人が寝ている時というのは、本当に無防備なことが多い。

 いや、中には眠っていても何かがあれば即座に対応するのもいるだろうが…‥‥生憎ながら、今のディーの眠りはその域には達しておらず、本当に無防備なのだ。

「…‥‥」

 そう考え、何となくノインは首を回して周囲を確認した。

 月明かりのある、穏やかな波音が聞こえるだけの宿舎の屋上であり、当り前だが周囲に人気があるわけでもない。

 そう、今はまさに二人きりな状況なのだ。


「‥‥‥熟睡しているようですし、少しやってもいいですかネ?」

 ディーの眠りが深くなってきたところで、懐からそっと膝枕代わりになる枕を取り出し、そこにディーを寝かせる。

 そしてその横に彼女も横たわり、正面から見る。


「ええ、ぐっすり寝ているというか、ご主人様は本当にこういう時は無防備ですよねぇ‥‥‥」


‥‥‥召喚され、主となった方。

 ゆえに、メイドとしては絶対の忠誠を誓いつつ、その身を確実に守り、尽くしていかなければいけない相手。

 だからこそ大事でもあり、愛おしくもあり…‥それなりに長く共に過ごしてきたからこそ、本当に失いたくない相手でもあるのだ。

「ちょっとぐらい、メイドであってもわがままは許されますかネ」

 そうつぶやき、ノインはそっとディーを寝ながら抱きしめる。

 抱きしめ潰さないように加減しつつ、起こさないように細心の注意を払いつつ、優しく包みこんでディーの体を確かめる。

「ふふふ、ご主人様の体は暖かいですネ…‥‥」

 人のぬくもりというものが、どれだけ心地いい物なのかというデータぐらいは入っている。

 けれども、実感すればそのデータ以上の心地よさを感じ取ることができ、彼女にとっても本当に安心できるだけの何とも言いようのない感覚が感じ取れるのだ。


 召喚獣が増えてきたせいで、こういう機会はほとんどないに等しいし、朝のこっそり膝枕争奪戦も順番を決めつつも激しいものがあり、ゆったりと触れ合う機会が少なかった。

 だからこそ、今のこの二人きりの状況をノインは楽しみたい。

「いえ、楽しむというよりも、できればご主人様も起きて身も尽くしまくりたいのですけれド‥‥‥」



‥‥‥残念ながら、そこまではまだ至れない現状がある。

 召喚士と召喚獣、その壁はあり、そうたやすく行ける身ではない。

 いやまぁ、求められるのであれば別ではあるのだが…‥‥自分達から行きたくとも、そうたやすくはいけない壁。

 だからこそ、ルナティアやアリスと言った面子で突破してもらい、そのドタバタに入り混じって突破したいのもある。

 でも、それだけではなく、本当に独占したい時がある。

 自分だけのご主人様であり、本当に甘く蜜のような時間を共に過ごしたい時があるのだ。


 でも、それをやらないのは‥‥‥やはり、メイドとしての自分がいるからこそであり、理性無き獣には陥ることはしない。

 そもそもメイドゴーレムが獣なのかどうかという話にもなりそうだが…‥‥召喚獣なので間違ってもないとは思う。

「本当はもう少しくっつきたいですが…‥もうちょっと違うわがままをしてから、ご主人様を運びましょうカ」

 夜だけど時間が経てば朝日が昇るのが必然であり、そもそもや風にさらすようなこの屋上で寝かし続ければ風邪を引かせる危険性がある。

 体温でぬくもらせることもできるだろうが、それでも眠る前にきちんと運ぶということを言った以上、成し遂げなければいけないだろう。

 そう思い、この心地いい時間を手放したくないのを、後ろ髪を引かれる想いで何とか離れつつ、ちょっとした別のわがままを行って運ぶことに彼女は決めた。

「ごまかして、何かと皆忘れているようですが‥‥‥私はしっかり覚えていますからネ」

 そう告げ、深い眠りに入っているディーの顔をしっかりと自身の手で固定し、狙いを定める。

 残念ながら最初のディーの相手は奪われてしまったが…‥‥それでも、自分もまたやりたいとは思う。

 冷静に考えればただの人の愛情表現の一つであり、人ならざる身では意味も無い行為。

 けれども、人の心と同じような物を持つのであれば、意味のある行為になるのだろう。







‥‥‥甘く、深く、蕩けるような心地。

 ほんのわずかな体の一部同士の接触とは言え、メイドゴーレムの身でも感じる愛おしさに、短い時間で有れども長い時が経ったように思えてしまう。

「‥‥‥良し、とりあえずこれで運びましょウ。何故だかエネルギーが100%以上貯まりましたし、楽々にできマス」

 心の奥底からか、それともやってしまった故の高揚感か、何となく体の調子が良くなったような気がするノイン。

 ぐいんぐいんと思わず頭のアホ毛も大回転をしているのだが、そんなことは気にしない。

 そっとディーを起こさないように持ち上げ、部屋に戻ろうとした…‥‥その時であった。

「ン?」

 ぐいんぐいんと回っていたアホ毛が、急にピンっと立ち、その場に止まってノインはある事を感じ取った。

 位置としては、通常の人の肉眼では見えないだろうが…‥‥今のちょっとした補給のせいなのか性能が向上したようで、切り替えてもいないのに、かなりの遠距離にあるものを彼女の目で見ることができた。


「‥‥‥あれは?」

 月明かりで照らされ、夜とはいえ彼女の今の目であればはっきりと見える。

 かなりの沖合の方に一隻の船が停船しており、そこから小舟が浜辺へ向かって漕ぎ出されているのだ。

 そしてその小舟にはそれなりに人が乗っているようだが…‥‥その中の一人に、見覚えがあった。

「確か、海洋王国の第8王女…‥‥何か用事でもあるのでしょうカ?」

 それは、先日の人命救助活動の際に、漂流船を砲撃していた人物。

 あの時の様子を見る限り、命じられたが故にやっていたようだが救い出せるのなら勝手にすればいいといった雰囲気があった。

 そして今この目で見ると、その時の彼女と同じようだが、表情を見る限り何かを思い悩んで言る様子。

 できれば今は、まだ浜辺に付きたくもないと言っているかのような…‥‥


「‥‥‥なら、ちょっとそれを解決してあげましょう」

 何があるのかはわからないが、様子を見る限りあちらとしても都合が悪そうで、浜辺到達はしたくない様子。
 
 それに、今ならまだ船も近くにあり、何かあれはすぐに引き返せるようなので…‥‥その引き返すきっかけを作ることにした。

 そっとディーを下の方に起こさないように降ろしつつ、腕を変形させていく。

 とても長い筒のような…‥‥アップデートによって付け加えられたスナイパーライフルに切り替える。

「命中率の補正もしつつ…‥弾はこれデス」

 装填し、スコープを通して相手の位置を確認する。

 そして狙うべき場所に集中し、引き金を引くと‥‥‥‥音もなく、詰めた弾が発射され、瞬時に着弾した。




「‥‥‥良シ」

 確認してみると、どうやら小船の底に小さな穴でも開いたのか、ちょっと沈没し始める。

 遠距離からの射撃とバレないように、何か魚のモンスターでもぶつかったような跡を残す小細工済みであり、沈没前に慌てて船の方に引き返したようだ。

「予備もあるでしょうが‥‥‥そちらの方も、狙い打ちましょウ」

 引き返してすぐに戻ってこれないように、残った小舟もセンサーで確認しながら全部に小細工を仕掛けていく。

 ある程度確認作業をしないと動けないようにしつつ、ついでに大きな船の方にも修理が必要な細工を仕掛け終え、一旦ここでやめておく。

「あとは、朝になったら確認しましょウ。今は、ご主人様をベッドへ運ぶだけデス」

 そうつぶやき、彼女は腕を戻し、ディーをそっと持ち上げる。

 そしてすすっとベッドのところまで戻り、そこに彼を寝かせるのであった。

「それでは、お休みなさいご主人様…‥‥」

 今からまた出て、自分一人で全部を片付けてしまうこともできるだろうが、それではディーの周辺の守りがちょっと無くなってしまう。

 それもあり、今晩は彼の側で過ごすことに決めつつ、彼女はそっと再び今の攻撃で失われた分の補充をしようと‥‥‥‥


「何をしているんじゃ?ノイン」
「…‥‥ご、ご主人様の顔にゴミが付いていたので、それを取っただけデス」

 タイミングが悪いというか、ちょうどゼネが夜中だけど起きてきたようで、やろうとしたタイミングを見られかけた。

「ほうほう、なるほど、それなら仕方がないのじゃが…‥‥先に言っておくとな、儂、今起きたわけじゃないのじゃが」
「エ?」

 うんうんと頷きながらそう返答したゼネに、ノインは疑問の声を上げる。

「もっと言うとな、最初からというべきか、ご主人様が寝つけぬので、お主と共に屋上で月見をした辺りから‥‥‥ほれ、このような魔法も最近修得したので見ておったのじゃ」

 そういうと、ゼネはくるっと持っていた杖を回転させ、壁に映像を投影した。

 そこに移っていたのは、先ほどまでいた屋上であり‥‥‥何があったのか、ノインは悟った。


「‥‥‥最初カラ、全部?」
「そうじゃな。まぁ、怪しい船についての方はすぐに動きはないのじゃが‥‥‥」

 ゼネはそう言いながら、こんっと扉を叩き、開いた。

 するとそこには、カトレア、ルビー、リリス、リザ、アナスタシア、レイア、ティア、ルン‥‥‥ついでにどういう訳かルナティアとアリス…‥‥要は全員そろっていた。

「ぜーんぶ、全員を起こして見ていたのじゃ。あぁ、先に言っておくが儂が先にやらかしフルボッコにされた件があったからのぅ。何かあれば、全員巻き添えにしてやろうと思っていたのじゃよ」
「…‥‥‥」

 だらだらと、メイドゴーレムなのに背中を滝のように冷や汗が流れ始めたような気がして、服が濡れるノイン。


 なんというか、今の状況は非常に不味いと悟りつつ‥‥‥‥逃走できないかと探すのだが、彼女達の手によって瞬時に逃走経路を潰されてしまう。

「さてと、儂も一度は体験した全員フルボッコじゃが…‥‥今回は人数もちょっと多めじゃ。でもまぁ、お主なら儂以上に色々と耐えられるじゃろうし、ちょっとしたお仕置きぐらいなら平気じゃろ?」
「えっと、その…‥‥なんと言うべきカ…‥‥、と、とりあえず、ご主人様が起床される際の着替えなどを用意しに向かいマス!!」

 経路が潰されつつも、最後にどうにか脱出できそうな窓に飛びだそうとしたところで…‥‥きゅっと蔓が絡み、びったぁぁんっと床に彼女は倒れた。

 そしてその後、ずるずると抵抗できずに引きずられ‥‥‥ディーを起こさないように配慮されたのは良いのだが、この日彼女は身をもって学んだ。


 人が最も恐怖を覚えるのは、幸せにあった時から落とされる時だと。

 データにもそう言う可能性が示唆されたものがあったが、身をもって学ぶことで実感させられた。

 だがしかし、その実感の仕方は先ほどのディーとの接触時とは真逆ではあったが…‥‥音もしない声なき断末魔が響き渡るのであった…‥‥‥

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