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306 いい加減にして欲しいと

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 魔改造されたドラゴンも倒し、ディーたちは塔の上へと進み始める。

 道中に怪物たちの姿はあれども、そんな物はお構いなしに突き進む。

‥‥‥フェイスマスクの研究所であれば、怪物がいてもおかしくはないし、あのような魔改造ドラゴンも作れるだろう。

 だからこそ、しっかりと全容を調べて潰さなければいけないと思ったのだが…‥‥


「‥‥‥なんか、あとちょっと最上部何だろうけれど‥‥‥天井がすごい高いな」
「そして目の前には、頑丈そうな扉だけですネ」

 階段を上がり、ようやく最上階に付いたかと思いきや、目の前にあったのは巨大な扉。

 厳重に鍵が閉められているようだが、どこをどう見てもここ以上に怪しい場所はない。

 ダンジョンコア前のダンジョンマスターがいるべき部屋のようにも見えるのだが‥‥‥

「‥‥‥そう考えると、あのドラゴン以上のものが待ち構えているかもしれないでござるな」
「行きたくない、絶対に面倒、もしくは醜悪」

 ここに来る前に討伐した魔改造ドラゴンを考えると、それ以上の強さの化け物がいる可能性がある。

 そもそも、フェイスマスクの研究所となっているらしいからこそ、それ以上の代物が用意されていてもおかしくはない。

「とはいえ、魔導砲などで無かったことにできませんネ。組織側に情報が伝わっていたのか…‥‥ビームコーティングに近いものがされており、破壊不可能デス」

 扉を分析し、そう告げるノイン。

 いっそのことここをなかったことにする勢いで消し飛ばしたかったのだが、どうやらそうはいかないようであり、対策もされているらしい。

 十分に用意するだけしまくった部屋という事にもなるのだろうが‥‥‥いかなければ何も行らないだろう。

 とはいえ、引き返す気もない。魔改造されたドラゴンへの哀れみもあるし、その改造を施した生物を侮辱するかのような愚行には怒りを持つからな。

「全員、臨戦態勢。開けて早々に攻撃される可能性もあるし、リリスの中に逃げ込めるようにもしておけ」
「「「「了解!」」」」

 全員ノインからの装備品なども着用し、しっかりと武装を整えておく。

 そして、鍵がかけられていようともノインが一つ一つ分析して開錠し、扉が開く。


 ギギギィっと重い音を立ててゆっくりと開いた先には…‥‥塔の中だというのに、不気味な洋館が立っていた。

 周囲の景色は薄暗く、雷鳴も鳴り響いている。

 あちこちが荒廃しており、荒れた外壁が目立つだろう。

「塔の中で、こんな建物か‥‥‥研究所の本拠地と言うべきなのだろうけれど‥‥‥」

 こんな場所で研究をしているやつの気が知れない。

 というか、幽霊とかアンデッドなどが普通に住まいそうな場所で研究できる奴の精神が分からない。普通じゃない精神だからこそ、普通じゃないものを作れるのだろうが‥‥‥それでも、限度というものはあるだろう。


 証拠隠滅の自爆でもされて巻き添えにされる可能性も警戒しつつ、洋館の中へ俺たちは足を踏み入れる。

 中は薄暗く、埃っぽくて人が住んでいなさそうにも見えるのだが…‥‥埃のおかげで、むしろ足跡らしきものが見つかり、何かが住んでいることだけは理解できた。

「しかし、足跡は一つか‥‥‥マイロード、どうする?」
「決まっているだろ。このまま追跡するぞ」

 レイアの言葉に対して、俺はそう返答する。

 誘導するための罠かもしれないが、この埃まみれの場所で形跡としてはこれぐらいしか見当たらないし、辿ってみるしかない。

 罠が仕掛けれられている事も考慮しつつ、消し飛ばして分からなくならないようにそっと注意深く進んでいく。

 すると、洋館の一室にたどり着いたのだが‥‥‥

「‥‥‥本棚の前で、消え失せているか」
「仕掛けによる隠し部屋があるようじゃな。研究所にするなら、わざわざこんな邸で偽装せずとも良いとは思うのじゃが‥‥っと、これかのぅ?」

 埃をかぶっていた本棚の中で、一つだけ不自然に綺麗な本があり、押し込んでみれば足跡の先にあった棚が上へ移動し、入り口が現れる。

‥‥‥こんな塔のダンジョンの中で、ここまで進める人はそうそういないと思うのに、なぜわざわざ洋館を立てた上でそこに隠し扉を設置するのやら。

 そう思いながらも先へ進めば…‥‥とある部屋の中へ出た。


「うっ‥‥‥これは流石に‥」
「グロイ/キモイ/ロクデモナイ」

 奥へ進んだ一室は、両壁に大きな水槽のようなものが並んでおり、その中に何かが浮かんでいた。

 不気味な色合いの液体の中には、何かの肉片が浮かんでいるというか…‥‥よく見ればそれは、異形と化している人体の一部のようだ。

 しかも、全身ではなく変化を起こした部分だけを切り取っているようであり、精神衛生上非常に悪いだろう。

「ホルマリン漬けに近いようですが‥‥‥液体の成分が違うようデス。生かしたままいれているに等しいのですが‥‥‥」
「全部、魂は無いのぅ。ただ単純に、肉の塊が生かされているだけじゃ」

 これ以上いても精神的につらいだけなので、その部屋をさっさと通過して先へ進む。

 だが、先へ行けば行くほど同じような不気味な部屋が存在しており、精神面から攻撃を仕掛けられる。




‥‥‥そしてようやく、最奥部と思われる部屋へ到達した。

 その部屋は、これまでの部屋よりも以上に広く、少しばかり廊下が上り坂になっていたので、上の階層に出たのだと予想ができる。

 その室内は、全部真っ黒に塗装されているようだが、それでも明かりはあるようで…‥‥天井から何か、大きな繭のようなものがぶら下がっていた。

 いや、虫の繭とかならまだ表面的には静かななのが多いのでマシだったが…‥‥どちらかと言えば、目の前にあるのは繭というよりも一つの心臓のようにも見える。

 天井から繋がっている太い配管がごぼごぼと音を立てて、表面には血管らしきものが浮かんで脈を打っており、どっくんどっくんっと重い音が響きわたる。


「ノイン、これは何だと思う?」
「推測ですが、繭ではなく何かの生の状態で出された卵のような‥‥‥」

『そのとおり!!その表現はあっているねぇ!!』
「「!!」」


 突然響いてきた声に対して、俺たちは即座に武器を抜き身構える。

 何処からともなく伝わって来たが‥‥‥よく見れば、天井の方から何か四角い箱のようなものがあり、そこから声が出ているようだった。

「何者だ!!」
『おおぅん?尋ねて来るまでもなく、君たちなら何者かって事ぐらいは分かるんじゃないかなぁ‥‥‥まぁ、いいや。問われたのであれば、きちんと答えてあげよう』

 そう告げた後に、壁の方を見るようにと言われてみれば、そちらに一人の姿が映し出されていた。

 この場ではない別のどこかで移しているようだが、姿はきちんと送って見せてくれるらしい。

 くるりとかっこつけるかのように振り返ってもらえば…‥‥そこには、仮面をつけた者がいた。

 いや、ただの仮面ではなくどこか怒っているような、笑っているかのようなわからない類。

 フェイスマスクのこれまでの仮面と比べて見てもどことなく異様だが、その感じがする仮面は前にも見たことがあった。

『名乗るのであれば、我が名は組織フェイスマスクの幹部が一人、「愛憎の仮面ギリス」。以後お見知りおきをと言いたいところだが、ここで亡くなってもらう事を考えるとあってないなぁ』

 ギリスと名乗る者はそう告げつつ、しっかりと映像越しにこちらの方へ向き直る。

 前にも狂気の仮面とか言う幹部がいたが…‥‥今回は、愛憎と来たか。

 しかも、ただの人間でもなさそうであり…‥‥しっかりと映像から見えるのは、その体の中央に赤く輝く弾がめり込んでいる光景。

「…‥‥仮面の幹部で、しかもコアを取り込んだのか」
『ご名答!!あ、でも正確に言うと取り込んだというよりも、意気投合した結果だぜぇ!!ダンジョンコアではあったが、今ではこの者と意識が混同しており、新しい人格として生まれてしまった者だと思えば良いかもなぁ』

 なんとなく口調が一致していないが、どうやらコアと混ざっているらしい。

 このダンジョンのコアと一体化して、コアの意識が元々の人格に混ざりあい…‥‥新しく、一人の人格として再形成されたようだ。

「人とコアが一体化って、そんなことができるのじゃろうか?」
『普通は出来ないとは思うねぇ。とは言え、このコアはちょっと訳ありで、生物に関して非常に詳しく‥‥‥だからこそ、技術を使って色々とやったら出来ちゃったんだぜぇ!』

 ブレブレな喋り方のように思えるが、見せる雰囲気は話している明るさとは裏腹に隙がなさそうだ。

『まぁ、長話は置いておくとして…‥‥良くここまで登って来たな、とコアの方から言っておこう。だが、ここで同時に終わりであると、幹部の者としても言ってやろう』

 話を切り替え、そう告げるギリス。

 仮面の奥の瞳がいちいち笑ったり冷たくなったりして忙しそうだが、ふざけているわけでも無い様だ。

『そちらのことは、組織に所属する以上良く知っていたが…‥‥実際に目にすると、本当に恐ろしい者たちだと思えたからな。これ以上生かしておけば、組織の崩壊の要因に‥‥いや、既になっているか。狂気の仮面ハドゥーラを倒したらしい話は、既にこちらで確認させてもらったよ。まだ、組織全体に報告はしてないがな』
「報告していないだと?」
『ああ、組織と言っても全部が一枚岩でもなく、所詮「人知を超えたモノを作る」目標で動く輩の集まりゆえに、そんな誰かが消えても気にすることでもないし、そのあたりは割と大雑把かもな。ただな‥‥‥ハドゥーラは組織内での、唯一の親友であったからこそ‥‥‥これは弔い合戦とも言えるだろう』

 ぎりぃっと怒りの目へと変わり、仮面をつけていながらもその変化が理解させられる。

『まぁ、自分達がどれだけ非道な事をやっているのかという自覚はあるので、やられても仕方がないとは思うけど‥‥‥それでも、相手をして見たくなるんだよねぇ』

 怒りの目を切り替え、興味のあるような目になるギリス。

 いちいち表情を変化させるのは疲れそうだが、そんなツッコミを入れる場合ではなさそうだ。

『とりあえず、そこに用意したのは君たちの最後の相手となるであろう‥‥‥ダンジョンマスター。ただし、勧誘してきたものとかではなく、純粋な組織の技術による化け物だ』

 そう告げるや否や、どくんっと急に強い心音が響き始め、蠢いていたものが左右へ大きく揺れ始める。

『先ほどのドラゴンとの戦闘もあり、そのデータを使って急ごしらえ気味に作ったので、後は来るまで熟成させていたところ。まだ早いような気もするが、それでも十分に相手は出来る、正真正銘の化け物だろう』

 どくんどくんっとだんだん音が大きくなり、徐々にその大きさも肥大化していく。

『ここで君らを全員倒したうえで、取り込めるようにもしているからね‥‥‥無事にできあがった暁には、墓石を立ててあげようかなぁ』

 声が伝わりつつも、既にその姿を俺たちは見ておらず、蠢く怪物の方へ目を向けていた。

 それはある程度大きくなったところで、びりぃっと破ける音と共に、ずるりと中から怪物が這い出てきた。


…‥‥大きな繭のような、卵のようなものから出てきた怪物だったが、肥大化していた先ほどとは比べて中身は思ったよりも小さかった。

 精々、普通の大人の人間ほどの大きさではあったが…‥‥その容姿は、人間ではない。

 全身から無数の触手のようなものが生えており、その先は全てが鋭い刃。

 足が円筒状のものであり、触手いがいにも手はあったが、肥大化してバランスが悪い。

 全身の皮膚の色は赤黒く、体毛がない代わりに表面には血管のようなものが覆い尽くしていた。



 がちがちと大きな丸い穴のような口の周囲に円周上についた牙を鳴らし、ぎょろりと複数の目を皆へ向ける怪物。

『さぁ、存分に争ってくれたまえ。ダンジョンと組織の合同傑作ダンジョンマスター…‥‥『ハザード』よ」
【ジョゲルギグブァァァァァァ!!】

 声に応じるかのようにその怪物は雄たけびを上げ、俺たちへ向かって襲い掛かり始めるのであった…‥

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