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2章 吹く風既に、台風の目に

2-6 とりあえず、色々とぶっ飛んでいると分かった(頭が)

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ギュルルル、ウィィィィ!!

 何かこう、煩い音が鳴り響くと壇上にその音の発生源がさっそうと登場し、ポーズを決めた瞬間にばしゅんっと音を立てて煙幕が噴き上げる。

「やってきたか、今年度の新たな魔剣士になるお子様どもぉぉぉぉぉぉ!!ようこそ、このデュランダル学園へ、ひやっはぁぁぁぁぁあ!!」

「…‥‥ご主人様、冒頭からこのようなぶっ飛んだ人は俗にいう『頭のねじが外れた人』という認識でよろしいでしょうカ?」
「いや、それ以上の何かというか、頭どころか何か大事なものを無くした人にしか見えないんだが」

 ゼナのそのつぶやきに答えつつ、周囲の他の人達も同感だというように頷き合っていた。






‥‥‥デュランダル学園、入学式。

 広い校庭に集められた生徒たちの前で、いきなりぶっ飛んだ登場をしたのはこの学園の学園長ガッドハルド。持っている魔剣は「剣」という名が合わないようでありつつ、音による衝撃波そのものを刃と化すことが出来るギターの様な見た目をした魔剣「エレキギール」だそうで、あの煩い音はその魔剣で作り出したものらしい。一応今は生徒たちの前という事で刃を出さないようにしているようだ。

 というか、アレがこの学園の長で良いのだろうか…‥‥ファンキーな爺さんにしか見えない。虹色に染めたらしいアフロヘアーにごてごてとしたサングラスと、見た目からも何かおかしくなったお爺さんにしか見えないだろう。二度もつぶやくが、良いのかあれが、ここの学園長で。


「いよっしゃぁ、新入生となった魔剣士の卵共よぉぉぉくきけぇぇぇl!!この学園で貴様らは、各々が持つ魔剣やその身のありようをしっかり学び、立派な魔剣士として育成されるぅ!!」
ジャジャーン!!
「だがしかぁし!!魔剣の持つ力に溺れることなく、扱えガキどもぉぉぉ!!唯一の魔獣どもを駆逐できる武器を、己の欲望で穢してはならぁぁぁぁん!!」
ギュリリリリ!!リリリリリリィィィン!!
「そう、己の相棒であり生涯の友、命を預ける相手として真摯に向き合い、ここで精一杯学んでいけぇぇぇぇ!!」

 うるさい音を鳴り響かせながら、案外まともな事を言う学園長。

 てっきりもうちょっと乱暴でぶっ飛んだ発言をするのかと思っていたが、そこはわきまえているらしい。いや、振舞い方をしっかりわきまえるなら、まずあんな登場をしないか。


ギュリリリン!!
「以上!!学園長としての宣誓は終わり!!テメェ等はこれから3年間はみっちり魔剣士と言うのは何たるものかここでしっかり学びつくしぃぃぃぃ!!立派に巣立てよぉぉぉぉぉぉぉ!!いやっはぁぁぁぁぁ!!」

 鳴り響かせ、叫びつくし、満足した様子で去っていく学園長。

 うるさいながらも一応教育者としての矜持というのか、言いたいことはしっかり言ったようだけれども‥‥‥

「魔剣士として大成しても、ああいう大人にはなるまい」
「言っていることはまともなはず」
「だけれども、流石にあそこまでファンキーな人にはなりたくないというか」
「頭のねじを何本も無くしたくないなぁ…‥‥」

 この場にいる一同は全員、反面教師という言葉の意味をしっかりと学ばされたような気がするのであった。

 人間、何事も異常すぎる人を見ると我が身を振り返りまともになりたくなるものである。












「ふぁぁぁ‥‥‥やはり、子供たちにはこれが一番心をつかむようで何よりだぜべいべぇ…‥ぜぇ、ぜぇ‥‥‥」
「ガッドハルド学園長、流石に無理をし過ぎているのでは?」
「自身をダメな例にして、反面教師像を作り上げて導かせる心意気は良いのですが、いつ逝くのか教師陣としては気が気でなかったです」
「だ、大丈夫、まだまだ若いものにはまけんぜひやっふ、ごっふぼべ!!」
「「「「吐いたぁぁぁ!!やっぱり無理をし過ぎていたぁぁぁ!!」」」」

‥‥‥フィーを含む新入生たちが改めて他の教師たちから学園での生活や学びに関しての説明を受けていた丁度その頃、舞台裏に用意された部屋では残されていた教師たちが必死になって学園長を看病していた。

 というのも、この学園長が亡くなってしまえば次は自分があの立場に立たなければいけない可能性があり、何としてでもあと数年は確実に保たせて他の奴に押し付けようと画策する時間を確保するためである。

「デュランダル学園の伝統とは言え、いい加減無くしたいが‥‥‥それでも、このしょっぱなから頭が吹っ飛んだようなパフォーマンスを始めて以来、生徒の質が上がっているデータがあるからなぁ。やめたくとも辞めれないのが悲しい事だ」
「より上回る事をすればいいかもしれないが、それがなかなか難しいというのも厳しい現実だな」

 ひゅーひゅーっと呼吸を安定させるために酸素吸入器の道具を使って学園長の息を整えている間に、教師たちはそう口にする。

 もっといい方法があるかもしれないが、今のところこの方法が一番効果的で、やる前に比べて生徒たち同士での争いごとも減っており、卒業後の進路にて悪事に手を染める者が減っていたりするので、おいそれと簡単にやめることができないのが悩みの種でもあった。

「そ、それでもまだあと、10年は確実にやるぞ…‥‥身を犠牲にしても、生徒たちの行く末を輝く星々のように明るいものにしなければ、教師としては失格なのじゃからな‥‥‥ほへっはぁ‥‥‥」
「無理しないでください、学園長。これ終えたら後は、夏季・冬季長期休暇の始まりと終わり、卒業式のときと次の出番までそれぞれ期間がありますからね」
「そうそう、なのでその休みの間にぜひとも気力を高め、次に取り掛かれるように養生してもらわなければいけないのですからね」

 自身を犠牲にしてまで生徒たちを思うさまは教師の鑑と言って良いかもしれない。けれどもここで体を壊されて亡くなられてしまえば、後には混乱が残るのみ。

 だからこそ、あと数年、いや、後数十年は持ってもらうために出来る限りのことを教師たちは尽くす所存であった。自分がその立場になる事だけは、絶対に避けるために。


「それにしても、今年の新入生たちはなかなか立派な魔剣を持っている者たちが多いが…‥‥果たして何人ほどが、失われてしまうのか」
「ああ、出来れば全員無事に卒業させたいが、力に溺れる奴もいるからなぁ」
「学園長が必死になって身を反面教師にしてまで、そうなる事を避けさせるのだが‥‥‥どのぐらいの効果が及んだのやら」

 ひとまず今は、絶対になりたくない話という重い雰囲気をさけ、教師としての立場から今年は入ってきた生徒たちのことに関して話題を移す。

「衝撃、雷撃、波動、火炎、吹雪、変態、着用、鈍器、暗器…‥‥様々な種類の魔剣がこうやって一同にそろう光景も、中々良い物ですがな。全部良い方向へ育ち、正しく扱ってくれるといいのですが」
「一部おかしいのが混ざっていたような…‥‥いやまぁ、例年通りか。悪の道に堕ちないのであれば、それはそれでまだマシか」
「去年の生徒だと、三日三晩謎の叫びをあげて、何処かへ走り去ってしまい今も行方不明という事例もありましたからなぁ…‥‥」

 多種多様な魔剣があるからこそ、それらを扱う魔剣士となるものたちも個性がある。

 一部、どうしようもないのもいるのだが、それでもどうにかするために動くのが教師としての務めであろうと全員思っているのだ。

「後は、今年度の生徒には面白そうな魔剣を持つのもいますね。すでにちらっと見ましたが、人型になっている魔剣…‥‥あのようなものは初めてですね」
「人の言葉を持ち、他の魔剣との意思疎通も可能で、最新の情報では剣以外の姿も持つ‥‥‥今年もまた、安らかに過ごせそうにないのは確実になりましたなぁ」
「ああいう生徒がいるのは分かるが、それでも毎年落ち着けないのは大変であるが…‥‥それでも、育てがいがありまくると思えば良い事か?」

 気になる生徒や魔剣が多いが、それでも全部を特別扱いせずに教師たちはどう教育を進めていくのか話し合い、今後の指針をしっかりと定めていく。

 トラブルが多くあるのは目に見えるが、それでも生徒たちの成長が楽しみで、教師たちは楽しそうに会話を弾ませるのであった‥‥‥


ピ、ピ、ピ、ピ―――――
「大変だ!!学園長の心臓が止まったぞ!!」
「落ち着いてと言ったけれども、止めすぎですってば学園長!!」
「急いで蘇生させろぉぉぉぉぉ!!」
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