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4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-3 軍用研究は、転用されやすく

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‥‥‥インスタント魔獣と言うのは、元々魔獣の軍事転用を目指すという研究の中で生まれた技術らしい。

 というのも、魔獣の生きとし生けるものを滅ぼす性質をどうにかしてコントロールすることが出来たのであれば、人以上に強靭な兵士として使えるのではないかという案が出たので、ならそれを実際にできないかどうかという事で研究が始まったそうだ。

 うまいこといけば魔獣に対して魔獣で留めたり、兵士にできれば人を雇わずとも戦をやりやすく、魔獣の研究を進める事で多くの謎をより解明しやすくなるかもしれないという考えもあったらしい。


 だがしかし、物事と言うのはそう思いのほかうまくいくことはなく、そもそも魔獣は討伐されたら身が全て滅びて無くなってしまい、資料そのものがほとんどない状態になるので、魔獣を調べたくとも中々調べにくいのだ。

 けれども、根性ある者かあるいは狂気に満ちた者か、知的好奇心を満たしたいのか欲望を鎮めたいのか、色々な思惑を持つ者たちがどうにかして諦めずに挑みつづけた結果‥‥‥とある偶然によってインスタント魔獣というものが誕生したのである。



「そして今、その魔獣に関しては軍用は無理だったので、結局は魔剣士たちの特訓相手に作られたらしいけれども‥‥‥うーん、いまいち相手にならないな」
「ぞなぞなぞな…‥‥いや、お前たちの方が想定を超え過ぎて、対応しきれないのだぞな。というか、他の1年生たちも何故ここまで相手にできているぞなぁ!?」
「いやだって、ゼナさんに比べたら滅茶苦茶弱いもん」
「あの人との戦闘の方が、得られるものが多いというか、このインスタント魔獣たちが弱すぎるというか」
「死線をいくつもかいくぐって来た私たちに、敵はない‥‥‥‥本当に、ゼナさんとの戦闘で天国と地獄を見てきたので、このインスタント魔獣たちは生ぬるいんだよねぇ」

 研究部部長が叫ぶのだが、同級生たちは口々にそう答える。

 そしてその周囲には、インスタント魔獣たちが力尽きてスライムに戻っており、全滅したと言えるだろう。

「…‥‥私との模擬戦が、思いのほかご主人様の同級生たちにとって良い訓練になっていたようですネ。まぁ、確かにこの魔獣たちはさほど強くなかったのですが‥‥‥」

 
 ソードスクリューモードの状態でゼナが複雑そうに口にするが、何とも言えない気持ちである。

 確かにこのインスタント魔獣たちの強さはそこそこありそうだったのだが…‥‥強さ、はっきり言ってゼナより圧倒的に弱すぎる。

 彼女相手に集団で挑み、毎回全滅をさせられているから実感はなかったのだが、どうもかなり鍛えられていたようでこの程度ならば軽くこなせてしまうようだ。

 うん、これ100%ゼナのせいだな。間違いなく断言できるのだが、何だろうこの消化不良感。


「あのー、フォンティーヌ部長、もっとインスタント魔獣を増やすことは可能でしょうか?」
「可能と言えば可能ぞな。とは言え今日はこれだけしか用意できなかったし、やるのならば3日ほど待ってほしいぞな」
「というと?」
「インスタント魔獣用のスライムは、2日ほど漬物石でじっくり熟成させる必要があるのが原因ぞな。その工程を手抜きするとインスタント魔獣にならず、ただの液体になってしまうぞな」

 部長曰く、インスタント魔獣として使用しているこのスライムたちだが、製造工程にかなりの数の必要な作業が多く、いざ数を用意しようとしてもどうしても時間がかかるらしい。

 その事もあって軍事利用には難があり過ぎるという事で、今のように魔剣士たちの相手として作るようにはなったそうだ。

‥‥‥軍用目的だったのに、コストなどの面を踏まえて不採用になった技術ってことか。採用されたらそれはそれで大量の漬物石が必要になる光景‥‥‥軍用?漬物屋の光景にしか思えない。

 そんな物凄い軍用という言葉から離れすぎた光景を話を聞いた全員が思い浮かべつつも、今度の大量発生版を少しは期待して本日のインスタント魔獣の使用は終了するのであった。

「しかし、コレだけの数のインスタント魔獣を難なく討伐できる生徒たちですら、ほぼ毎回全滅にさせるメイド魔剣‥‥‥うーむ、正直言ってインスタント用のスライム製造よりも、彼女の方を真面目に研究させてほしいのだが、駄目ぞなか?」
「駄目デス。私はご主人様のメイド魔剣であり、私のすべてを知っていいのはご主人様だけデス」
「じゃぁ、主にされているフィー、君が彼女の全部を知った後に教えてくれないかぞな?」
「…‥‥無理かもしれないです」

 そもそも、このメイド魔剣のすべてを知るって、なんかこう深淵を覗き見るようで怖いのだが。知ったら引き返せないような予感がするのは気のせいだろうか‥‥‥?








 軍用研究がいまいちその力を発揮できない現状となっていた丁度その頃。

 ミルガンド帝国のとある貴族家の屋敷では、着々とある準備が進められていた。

「…‥‥それで、まずは確実にするためにも、相手の力を探る目的でコレを使用するというが、そのためになぜこれを必要とするのだ?」
「いやぁ、ちょうどいい重さと硬さ、大きさなどがそろわないと発揮できないのでねぇ。そちらが用意してくれた生贄による血肉で丁度良かったが、一応念には念を入れて完璧な状態にしておきたいんだよねぇ。相手に対してできる限り力を出してもらうためにはこちらもしっかりしたほうが良い。準備に手を抜かないで置けば、後で損することはないんだよねぇ」
「そういうものか…‥‥」

 …‥‥公爵家の後釜になりそうなものを消し去ればいい。

 いや、それが無理だとしても使い物にならなくすればいいだけの話であり、その為だけに手を組む者を捜し、見つけ出した者とは言え…‥‥

「それでも、もうちょっとマシな格好はあるだろうに。なぜ毎回違う格好でありながら、誘うようで全然情欲を湧き立てないようなものになるのだ」
「ふふふふ、これで欲望が湧いていたら別に良いんだけどねぇ。でも、そうでないのは残念残念。これでも多少は魅力に自身があるのに、なぜ誰もかかってくれないのかそれが不思議だねぇ」
「不思議と言えばそうかもしれないが…‥‥」

 色々とツッコミどころがあるとは言え、やってくれるのであれば惜しむことはない。

 とは言え、こうも顔を合わせることがあるのならば、できればもうちょっとまともな格好をして欲しいと愚者であっても思わずそう思ってしまうのであった…‥‥


「いっそ、誰も気にならないようにすべての人を全裸にする道具を使おうかなぁ?そう、それこそが一番気が楽で、誰も気にせずに済む世界になるだろうねぇ!」
「どう考えてもろくでもないことになると思うのだが。本当にこれと手を組んでよかったのだろうか?」


‥‥‥悪人とは言え、一応多少の常識は辛うじて持っていたようであった。いや、悪人関係なく常識があるならばそうかもしれないが、常識がないのであれば‥‥‥どうなのだろう?
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