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4章 そして悪意の嵐は、吹き始める

4-10 蝕まれつつ、逃げつつ

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‥‥‥状況を確認すると、今いるのはメデゥイアルの研究所らしい。

 瞬間移動できるような道具か何かで連れてこられているので、どこにあるのかも不明なようだ。

「窓もないから外も見えないし‥‥‥突き破ろうにも、壁がぐにゃぐにゃしてどうも力づくでできないな…‥げほっ」
「ご主人様、無理をしないでくだサイ。毒が回った状態ですので、激しく動くのは禁物デス」
「大丈夫だ、ゼナ。まだ動けるからな」

 ごぶっと毒の影響か血反吐を吐いたが、限界は来ていないようだ。

 ドラゴンが混ざっているおかげか毒に対する耐性が非常に高くなっているそうで。常人なら致死量の量を投薬されているようだが、それでも封じ込めるにはまだ足りない。

 しかし、解毒をしているわけでもないので、鉛のように体が重いような感覚もあるが、足を止めるわけにはいかないだろう。

「今一番良いのは、ゼナをどうにか開放して魔剣が使えるようになることだけど‥‥‥ブレスでも全然焼ききれないな、コレ」
「魔剣封じ用の、特殊な素材で出来ているようですからネ。それにご主人様の事を調べていたのであれば、前もって耐火性能などを高めて簡単に取れなくしているのでしょウ」

 右腕にぶっとく巻かれている包帯だが、この下にゼナがソードモードで収められている。
 
 だからこそこの包帯をどうにかしてほどいて出すことが出来れば、状況を好転させられそうなものなのだが、世の中そう都合よくいかないようだ。

 それに毒に侵されているせいか、ブレスの熱量も下がっているようだしな…‥‥体調でこうも影響されるとは、まだまだドラゴンとしての力で分かっていない部分があったという事か。


【逃亡者発見!!逃亡者発見!!】
「「!!」」

 っと、ここでふと聞こえて来た音にびっくりして振り返ってみれば、いつの間にかはいgから何かが迫ってきていた。

 見る感じ、足の先がタイヤになった四角い物体が、ぎょろぎょろと大きな目玉をこちらに向けて叫んでいるようだ。

「何だあれ?」
「研究所内の、ガードシステムのようですネ。しかもこの感じ、魔獣を機械と混ぜているようで、機械魔獣と言うべきでしょうカ」
【逃亡者発見!!周辺ガードマシン集合、即捕縛セヨ!!】

 ガゴンっと音を立て、機械魔獣ガードマシンとやらはその目玉の横から腕を生やした。

 しかも見た目以上にかなり筋肉溢れる腕で、物理的に捕縛を試みる気らしい。

「ココは逃げるぞ!!」
「そうしたほうが良さそうデス!!」

 体は辛いが、ここで捕まるわけにはいかない。と言うか、捕まったら最後、あの大きな注射を刺されるのが目に見えているし、その後に起こる結果もろくでもないことが目に見えている。

 逃げてみれば、ギュルルルっと音を立て、ガードマシンが追ってくる。

【逃亡!逃亡!!支援求ム!!】
【ラジャー!!タダイマ参上!!】
【捕縛セヨ捕縛セヨ!!】

「数が増えてきたぁ!!」
「周辺のガードマシンを呼び寄せて、追い詰めてくる気デスネ」

 あちこちの通路からひょっこりと出てきて、追いかけてくるガードマシンが増えてくる。

 研究所内の果てしない通路を駆け抜けつつ、振り返って確認するたびに倍増してくるのはどんな悪夢だというのか。



 そうこうしているうちに、いつの間にか袋小路に追い詰められる形となっていた。

【諦メロ諦メロ!!】
【神妙ニ縄ニカカレ!!】
【捕縛捕縛捕縛!!】
「そう簡単に、捕まってたまるかよ!!ドラゴンのブレスを喰らいやがれ!!」

 火力不足な状態だが、それでも威力は十分だったようだ。

 直撃させるとたちどころに炎上し、ちょっと動かなくなる。

 けれども、いっきにブレスを吐いて距離を取らせるが、後からどんどん出てくるようだ。

「くっ、しつこいというか、多いな!!」
「この様子ですと、無限に出てきそうですネ。魔獣が混ぜられているので、魔剣で無いと絶命できないのかもしれまセン」
「ブレスも流石に限度があるか…‥‥いや、でもまだだ!!魔剣が使えない状態だけど、拳が使えないわけじゃないぞ!!」

 このままではらちが明かないと思い、思い切って包帯が巻かれた状態の拳で殴ることにした。

ドッゴォォォォン!!
【ギガピィィィ!?】
【13号ーーー!!】
【ナンテコッタ、逃亡者マダ余力アルノカ!!】
【オノレェェェ!!】

 想像以上に軽かったようで、吹っ飛んだガードマシンを思ってか、他の機械魔獣たちのやる気がアップしてしまった。

 根性で殴る蹴る翼ではたくなどと抵抗をするが、毒が回っているので動きづらい。

【チィ!!シツコイシツコイ!!】
「それはこっちのセリフだガラクタ共!!」
【ガラクタァ!?侮辱、許サナイ!!】
【逃亡者、捕縛キツイ!!四肢切断シテ抵抗サセルナ!!】

 捕縛をより楽にするためにか、ガゴンっと音を立てて筋肉ムキムキの腕が引っ込んだ。

 その代わりに新しい腕が生えてきたが、今度は何やら刃のたっぷりついたものが生えてきた。


ギュィィィィィィィィン!!
【チェンソー、切断開始!】
【腕、足、翼、角、首切断!!】
【切断、大人シク捕縛!!】
「首の時点で捕縛から殺害に切り替えているじゃねーか!!」

 相当頭に血が上っているのか、かなり乱暴な方法に変えたようだ。

 ぶぉんぶぉんっとチェンソーを振るい、こちらの拳を避けて切り付けてくる。

 しかも中にはチェンソーだけではなく、目から針が出たり槍を持ってきたり、ナイフに火炎放射器に…‥‥

「捕縛から完全に殺害に変わっているぞ!!」
【ウルサイ!!ウルサイ!!】
【生キトシ生ケルモノ、ナクナレ!!】
「どうやら、魔獣としての本能がむき出しになって来たようデス。機械と混ぜて制御できるようにしているようですが、不完全のようですネ」

 冷静に言っている場合かとツッコミを入れたいが、相手の攻撃が激しくて中々できない。

 そうこうしているうちに一発、また一発と攻撃が掠め始め、視界が悪くなってくる。

「ぐっ‥‥‥毒が」
【隙アリ!!】
どすぅぅ!!
「がはっつ!!」
「ご主人様!!」


 くらっとくらんだところで、ガードマシンの一機が放った槍が、俺の身体を貫いた。

 心臓には当たらず右胸の方を貫いたようで、動かせる左手でつかんでへし折って直ぐに引っこ抜くも、倒れ込んでしまう。

【ヤッタ!!止マッタ!!】
【オッシャ、ココトドメサス!!】

 ギュイィィィィィンっと音を鳴らせて、チェンソーが迫りくるが、避ける気力はもうない。

 このままだと首切断は流石にやめてほしいとして、四肢を切られかねない…‥‥いや、待てよ?

「そうだ、利用させてもらうぞ!!」
【オォォウ!?】

 動く刃を見てふと思いつき、俺はチェンソーを構えていた一体の腕をつかみ、その刃を包帯へ向ける。

 ブレスなどでは無理だったが、機械魔獣のこいつらの攻撃ならばどうなのか。

 防火性能があったとしても、流石に丈夫すぎたらむしろ不便だろうし、切れるかもしれないという望みをかける。

【不味イ!!234号、早ク離レロ!!】
【ワカッタ!!】
「遅い!!」

 俺の企みに気が付いたのか、ガードマシンが叫んだがすでに遅く、布がずたずたに切り裂けた。

 そのまま切れ端に手をかけ、グイッと引っ張りだせば、一気にほどける。

「ゼナ、後は頼む!!さすがにもう限界だ!!」
「了解デス!!」

 ぶわっと包帯が周囲に飛び散り、俺の腕が露わになった瞬間、刃になっていた彼女が飛び出し、いつものメイドの姿でその場に顕現する。

 それを見届けたところで、体の方に限界が来てしまい、どたっと壁に背を持たれかけて俺は動けなくなる。

 周囲を機械魔獣たちに囲まれ、絶体絶命の状況。

 けれどもたった今、その状況に対応できるメイドが、解放された。

「さて‥‥‥私のご主人様に対して、不遜な事をしてくれた方々には、しっかりとお礼をしないといけませんネ」
【ナ、ナンダコノメイド!!】
【報告ニアッタ、メイド魔剣カ!!】
【怯ムナ!!数ナラコチラガ上回、


ばぎぃっつ!!

【【【‥‥‥!?】】】
「思いのほか、脆いようですネ。ああ、でも機械と混ざった魔獣なら、本体を潰す方がもっとスマートに逝けるのでしょうカ」

 何か物騒な言葉が聞こえたような気がするが、どうも彼女はかなり怒っているらしい。

 珍しいというか、安心できるはずがちょっと怖いというか…‥‥ガードマシンたちの末路が簡単に想像できてしまう。

 そして数分後、いや、数十秒と絶たずに、周囲にはガードマシンだった残骸が散らばっていたのであった…‥‥


「‥‥‥解放してなんだというけれど、封印しておいた方が平和だったかもしれない」
「何か言いましたか、ご主人様?」
「いや、何でもない…‥‥ごふっ」
「っと、毒がまだありますし、胸に穴が開いているので直ぐに治療に移りましょウ。安心してください、メイドたるもの『主のどてっぱらに大穴が開いてもすぐに治す手段』を習得していますからネ」

‥‥‥そんな状況、想定できているってどういうことなのか。普通のメイドはそんな手段を習得しているのか?
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