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学園1年目

13話

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 本日行われる、召喚魔法に関しての魔導書グリモワールの授業。

 モフモフ九尾の狐のようなモンスターであるタキを、公式の場で再び召喚できる場という事で、この授業にルースは出席していた。


 召喚魔法は魔法陣や詠唱などで長く時間が最初の方で長くかかる物でもあり、本日は午前中いっぱいがその授業となる。

 エルゼはまだ扱えないようで、この授業を選択したルースに対して「もしかしてまたあの女狐を召喚する気じゃないよね‥‥‥?」と、少々包丁もどきの水の刃で脅されつつも、何とかルースは参加することができた。

‥‥‥怖かった。

 アニメとかでわかりやすく言うならば、ハイライトを無くした感じの目で、じっと見てくるそのまなざしが本気で恐怖を感じさせた。

 最終的に、エルゼは現段階では履修不可能な授業とはいえ、出来る様になったら絶対にやるときはその傍にいるからという案で、何とかその場をルースは収めることができたのである。

 結論が付いた後に、エルゼがさりげなく「あの時、あの女狐をモフるまえにあたしがホフればよかったわね」と言ったのは、聞きたくなかった。

 「モフる」と「ホフる」‥‥‥「モ」なら感触を楽しむのに、「ホ」で恐ろしい意味になろうとは、言葉とは不思議なものである。






 そんな恐怖のやり取りを乗り越え、ようやくルースは今回その召喚魔法に関しての授業に参加できたのだが‥‥‥


「召喚魔法に関してーの知識を魔導書グリモワールから得た者がこーれだけの人数とは‥‥‥ちょっと少ないねー!!あはははは!!」
「「「「「「どうして学園長がこの授業を受け持っているんですかぁ!!」」」」」」


 まさかのバルション学園長自ら教鞭をとる授業であった。

 流石のルースも予想はつかなかった。

 いや、この場で召喚魔法の授業に参加している生徒全員が予想だにしていなかったであろう。



 そもそも、あの入学式兼テストの時に、バルション学園長は皆に自ら魔法で攻撃していたので、召喚魔法を使う姿など想像がつかない。

 そもそも、このグリモワール学園のトップがわざわざ強弁に立つというイメージがなかったのだ。


 元からあるイメージだと、この学園の経営とかに携わるようなものに近かったのだが‥‥‥まさか、こんな形で学園長に接触する機会が出来てしまうとは‥‥‥


「ちなーみに!!この召喚魔法に関しての授業を学園長になる前かーら受け持っているんだよー!!」

 何だろう、今物凄く召喚魔法に関してあまり注目されない理由を知ってしまったような気がする。

 あの入学式兼テストで無茶苦茶をやらかすような人が、授業を受け持ってその授業が無茶苦茶にならないわけがない。

 もしかしたら、召喚魔法に関しての研究とかがあったらこの人が飛んでくるかもしれないという恐怖があるせいで、あまり話題にも上らなかったのではなかろうか。



 その思いは全員抱いたようで、すばやく皆何があっても対処が可能なように魔導書グリモワールを目の前に顕現させていた。

「おおーっつ!!何も言われずにー自ら用意するなーんて自主的でいい生徒たちだねー!!」

((((((違う、そうじゃない!!))))))


 バルション学園長が喜び、全員の心はこの時ツッコミで一致した。


「んー?そーいえば‥‥‥さっきから気になっていたーけど、君が今までにない金色を出した、黄金の魔導書グリモワールを持っているという新入生かー!!」
「げっ!?」

 そして運悪くというか、ルースに学園長の目が止まり、思わずルースはそう声に出してしまった。


(‥‥‥よかった、あいつに注目がいったぞ)
(今のうちに、離れてやっておくか)
(スケープゴート‥‥‥身代わり‥‥‥生贄‥‥‥頼むぞ)
(召喚魔法は時間がかかるとはいえ、あいつに注目が言ってくれれば俺たちは大丈夫なはずだ)
(今までにない色の魔導書グリモワールを扱うやつよ、学園長の気をそのまま引いてくれたまえ‥‥‥)


 慌てて助けをつい求めようと、ルースは周囲を見渡したが、心の声が聞こえそうなぐらいの雰囲気で、皆離れていったことにルースは絶望した。

 人間とは、このように自分が大事な生き物なのだろうか‥‥‥




 とにもかくにも目を付けられたようで、近づいてくるバルション学園長に対して、この際ルースは腹をくくった。

 ここで堂々として、何とか対処すればどうにかなるだろうと。


「ふーん、金色にー…‥‥新入生君、君の名前はなんだーい?」
「・・・・ルース=ラルフです」
「そうか、ルース君かー!!面白い色の、変わった魔導書グリモワールを扱うなんて、変わっているねー」

((((((それを貴女が言うのでしょうか?))))))


 にこやかに言う学園町の言葉に、再び皆の心のツッコミが一致する。

「えーっと、授業を受けてーいる皆はもうわかっているだろうけーど、召喚魔法ってその魔導書グリモワールに対応したモンスターを呼びだし、様々なことに利用させてーもらうの」

 ルースの周囲を観察するようにぐるぐる回りながらも、一応授業なので学園長が説明し始めた。


 呼びだすまでの詠唱などはめんどくさいが、一度呼びだせれば次からは省略して同じモンスターを呼びだせるのが、召喚魔法。

 その最たる特徴としては、召喚者の資質によって出てくるモンスターも分かれ、余り無ければ非常に無力なモンスターが、物凄くあれば非常に強力なモンスターが出るのだ。

 また、魔導書グリモワールと同じような力を持つモンスターが呼びだされるのも特徴であり、医療機関系では絶対に一度はやって欲しい魔法なのだという。


「いくら力がよわーくてもつよーくても、その使い道は様々なーんだよ!連絡、配達、送迎、調理、医療、そして戦争にも利用されてしまうようなことはあれども…‥‥まぁ、面白い魔法って認識で良いかな?」
「「「「「「その説明は適当過ぎませんかね!?」」」」」」


 まさかの教鞭をとる人が疑問形で言ってきたので、今度は心中ではなく声を出して皆はツッコミを入れた。


 と、その時ふと皆は疑問に思った。

 召喚魔法に出るもモンスターは、召喚者のもつ魔導書グリモワールの色に対応した力を持つ。

 ということは、この学園長は白色の魔導書グリモワールを持っており、白色という事は光や癒しと言った力があるので、対応するモンスターもそれと同様のはずだ。

 光はまだわかるが、癒しというのはこのバルション学園長に似合わないような‥‥‥

「あ、ついでに言うなーら、私の召喚魔法で呼びだせ-るモンスターは、癒しの力を持つという『ケセランパセラン』のランちゃんだよー」


――――
『ケセランパセラン』
幸せを呼ぶという伝承で有名な、ふわふわした小さな生き物。この世界ではモンスターとして実在はするようだが、その姿を見ることはめったにない。
癒しの力を持っており、そのもこもこではたくと、その個所の傷が見る見るうちに消え去ってしまうという。また、その体液をほんのちょっとただの水に混ぜるだけで、高品質の治療薬になるとされる。
――――


「「「「「「‥‥‥え?」」」」」」

 まさかの予想外すぎるバルション学園長の召喚できるモンスターに、皆は目を丸くした。

 てっきり凶悪そうで、口から怪光線のような物を吐けるゴ○ラもどきの大怪獣のようなモンスターを呼べるのかと思いきや、見事に180度違った。


 あまりにもありえなさ過ぎて、皆の思考が停止し、その場に固まる。

 その反応が面白くないのか、学園長がむっとした表情を浮かべた。

「失礼だなー、私のどこに癒しの要素があるんだーと、言いたいような顔はやめなーさい」

 

 いや、本当にどこに癒しの要素があるのだろうか。

 いちいち言葉を伸ばしてアピールしているような箇所か?いや全然癒されない。

 むしろ、皆のトラウマ製造機だという意見が、皆一致していた。


 その様子が面白くないのか、バルション学園長は口を尖らせた。

「むーっ!…‥じゃあ、そんな顔を皆がすーるのなら、今から3時間以内に召喚を完了させてーね?あらかじめ自分でやってみたことがある人なーらすぐさま呼びだして、私に見せなさーい」


 学園長の説明によると、どうやら召喚する際の召喚用の魔法陣を描く時間や、詠唱時間はそれぞれ異なるそうだが、それでもそこそこかかるのは間違いないそうだ。

「で、時間内に見せることがーできなかった人たーちには…‥‥『親方!!空から大量の閃光弾が!!』という、光魔法で回避能力を鍛え上げる特別補習授業を行ってーあげるわよ?」

「「「「「「了解!!今すぐやります!!」」」」」」


 そんな恐怖じみた補習授業を皆は受けたくない。

 バルション学園長が言い終えると同時に、皆慌てて自分の魔法陣を描くスペースを確保しつつ、召喚に向けて準備を大急ぎで取り組み始めた。




「あーれ?ルース君だけまだ何もして―いないけど、もしかーしてもう召喚経験あるの―?」
「はい、あります!!今すぐ呼びだしますのでその補習授業はなにとぞご勘弁を」


‥‥‥学園長が首をかしげて尋ねてきたので、俺は慌ててタキを呼びだす用意をした。

 どうやら今回受けている生徒の中で、すでに召喚魔法をやったのは俺だけらしい。

 ここでタキを呼びだせば、時間制限に余裕で間に合うのでなんとかその恐怖の補習授業を逃れられるはずである。


「えーっと、『召喚、タキ』!!」

 最初に呼び出すときは、魔法陣を描いて詠唱をする必要があるのだが、2度目からは省力が可能である。


 召喚魔法をルースが発動させると、地面に自動的にあの日、ルースが書いていた魔法陣が金色の線で描かれて出現し、輝く。



 またあの小爆発が起きるかもとルースは身構えたが‥‥‥その心配は杞憂だったようで、すぐさまあの久し振りのモフモフ九尾の狐のようなモンスターであるタキが顕現した。


【‥‥ふむ、あの小娘はいないようじゃな】

 召喚されて最初の一言がそれって‥‥‥エルゼ、どれだけの恐怖をタキに与えたんだろうか。


【おお、召喚主よ。久し振りに呼びだしてくれたな】

 安堵したような声で、久々のモフモフもとい、タキはそうこちらに顔を向けて声を出した。

 9本の尻尾を振っているところを見ると、エルゼがいないのでうれしいと言った感じであろう。

「えっと学園長、これが俺の召喚できるモンスターです」


 さっさと学園長に見せて、この場から逃亡してモフモフしたい気分だったリューは説明しようと学園長の方を向くと…‥‥


「え、ちょ、なんで、いや本当に、まさか‥‥‥」

 何やら思考がうまくまとまらないようで、顔を青ざめさせるバルション学園長。


‥‥‥あれ?もしかしてタキって呼びだしちゃやばい奴?


「る、ルース君‥‥‥これ本当に君が呼びだしたモンスターだよね?」

 声が伸びる様子もなく、どこか真面目そうな感じで学園長がずずずぃっと迫ってきた。

「は、はい。タキと言う名も付けていますが‥‥‥あの、なんかまずい事でも?」
「まずいも何も‥‥‥何をどうしたら召喚魔法で呼びだせる限界を超えたやつを呼びだせるんだ君はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そうバルション学園長は絶叫し、最初の方のふざけた感じが一切なくなって、説明をし始めた。

「モンスターには、色々とあるのだが、その限界はあくまで何かあっても人間がギリギリ対処可能なものまで!!なのに、このモンスターはその範囲を超えたモンスターの中の一体とされるやつで、過去に国を一つ滅ぼしたとされる、その種族名は不明だけど記録にきちんとその容姿などが記されているやつなんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「‥‥‥はぁぁぁぁぁっ!?」
【ふむ、確かに我は一度国を滅ぼしたことがあったなぁ。原因は、その国の馬鹿な王じゃったし、ムカついたからという事で叩きのめしただけじゃがな】

「「自分で認めたよ!?」」


‥‥‥どうやら入学早々、やらかしたようです。

 あの非常に心地よいモフモフの持ち主が、まさかのとんでもないモンスターのようでした。


「いや何でそんなことを召喚した時に話してくれなかったんだよタキ!?」
【我、そんなことを主から聞かれておらんかったからな。どうじゃ、びっくりしたか?】

 ふんっと、どこか武勇伝を聞かせて面白がる人のようにふんぞり返ったタキに言い返せないルース。



・・・・確かに細かい過去などを聞いてはいないし、モフモフが心地よかったので気にも留めていなかったが、とんでもないことを過去にやらかしていたとは、一体誰が予想できただろうか。

 金色の魔導書グリモワールに続き、新たにとんでもないことをしでかしたとルースは思ったのであった。
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