短編小説

甘井ふたば

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あるイセカイでもう一度

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「好きです! 付き合って下さい!」





「……ごめんなさい」

 絶望だった。

 2018年5月??日。晴れ間の見える今日。俺はこの日に、去年の春から秘めたるこの思いを、解放した。

 本気だった。俺は今まで誰とも付き合ったことは無く、いうなれば『初恋』という奴だった。少し遅すぎた、経験を積むべきだったと少し思う。

 最初に気付いたのは去年の4月ごろだったか。

 彼女を見ているとだんだんと気分が高鳴って直視できなくなる。歳が同じ故、関わる事が多い。そして、時間がたつほどに、その思いは強くなっていった。俺は過ごしているうちに、『彼女もそう思っているんだ』と勝手に思っていた。ぶっちゃけ、行けると思ってた。それなのに。

 俺は振られたのだ。

 しばらくの間、立ち尽くしていた。ふと気が付くと、そこにはもう彼女の姿は無かった。

 俺は夢中で走った。何処へ行く当てもない。ただひたすらに夢中でアスファルトの上を走った。一歩一歩が俺を刺すぐらいに力強く。

 走り続けていると、俺をあざ笑うかのように、雨が降ってきた。

……今日は一日中晴れって予報だったのに。クソ。

 それでも俺は走った。夢中で走った。どこかへ向かっているわけではなく、ずぶ濡れになりながら走り続けた。もう、どうにでもなれ! と走り続けた。

 気が付けばスーパーの海鮮コーナーに来ていた。そこから先は詳しくは覚えていない。

 ただ自棄に身を任せ、クッソ高い伊勢エビを大量に買おうと思っていたのは覚えている。だが伊勢エビが地域の小さいスーパーに売っているはずもなく、仕方がないから大き目のエビを大量に買ったのも覚えている。

 いざ、エビパーティー。そう決意したのは覚えているんだ。







 そして今、俺の目の前にはでかいエビの山がある。将来の為にとなんとなく貯めていた財布の中身がすっからかんになっている。段々と思考が冷静になってくる。何をしたんだよ俺はという悔悟の念が湧いてくる。

 キッチンに行き、おもむろにヤカンとボウルを取り出し、水を入れる。そして、棚の奥底に眠る塩を取り出す。

 俺はエビパーティーを開催した。

 ぷりっぷりのエビが、舌の上で踊る。まるで傷心の俺を慰める恋人かのように。俺を癒すように、その味が舌と喉に入り込む。俺は涙した。そして、また一尾、また一尾と大き目のエビを食べ進めていく。食べるたびに癒されていく感じがした。

 何匹も何匹も、俺は食べ進めていく。


 不意に悪寒が走った。流石に回想がキモ過ぎたかと一瞬思ったが、違う。エビの身が喉に詰まっているのだ。苦しさが全身を襲う。異物を吐き出そうとするも、咳き込むことさえできやしない。

 苦しい。苦しすぎる。

 やがて、力が抜け何の抵抗もできなくなる。そして瞼が重くなる。息苦しいという感覚が、一瞬でなくなった。

 直感でわかる。俺は、死んだのだ。

 …そして、意識がブラックアウトした。







 俺は意識を取り戻した。

 ……え、俺は死んだんじゃないのか?

 自分の体に触れてみる。軽く腕をつねると痛みを感じる。もしかして、俺は生きているのでは? そんな期待を胸に抱き、恐る恐る瞼を動かしてみる。

 俺が目を開けると、明るすぎる光が目に飛び込んできた。少しづつ体を起こし、軽く周りを見渡してみる。

 そこは、一面真っ白な、不思議な世界だった。

 俺は確かに体を起こし座っているようだった。だが、床というものが存在しない。まるで体が宙に浮いているみたいな感覚があった。

「目が覚めたデスか?」

 真後ろから少女の声がした。振り返ってみると、そこには1人の少女が居た。身長は小3くらい――だいたい132cmくらいだろうか――で、白く綺麗な肌をしている。青い瞳を持ち、銀髪のハーフアップ。そして何故か白を基調としたセーラー服を身にまとっている。

「大丈夫デス?」

「あぁ」

「じゃ、ちゃっちゃと本題に入りますね。speak franklyデース!」

「なんか一部聞き取れなかったんだけど……。すぴーく? ふれんくりー?」

「聞き流せ」

「あっ、はい」

 一瞬だけ、目の前の少女の口からすごい圧を感じた気がする……。

「えっと、それで本題とは?」

「まずもって、君は死にました」

……なんとなくそんな気はしていたが、やはりか。

 俺は死んでいたのだ。恋人に振られた傷心で、エビを食って死ぬ男。大方、中毒死だとかそこらへんだろう。なんとも無残である。目の前の少女の口調で言うなら、デースだけにDeathと言ったところだろうか。

 脳がこの事実の受け入れを拒絶する。ああ、せめてこれが夢であってくれればいいのに。

「夢じゃないデース」

 あ、バレてる。



「まぁそう簡単に現実を受け入れれないデスよね? でもユーが死んだという事実は変わらないデスから?」

 どこか腹立つ口調で、冷たい事実を宣言する彼女。そういえばこいつ、誰なんだよ。

「あー、そういえば自己紹介してませんでしたね。 私はErica Michael birds。生命、認識、そして輪廻の女神デス。エリカって呼んでくだサイ! あ、 因みに君の名前は上から聞いてるので自己紹介は大丈夫デス」

 俺の悲しみなど存在しないかのように、ハイテンションで自己紹介を済ます女神。

「だって悲しまなくていいんですもの」

 う、また心を読まれた。…ん?

「悲しまなくていい、とは?」

「わたしは輪廻の女神。ま、いろいろあって君は転生することになったんです。詳しい説明は省きますがネ」

 え、そこ省かれるのか。結構気になるんだけど、まあいいや。

「ほほう、転生。どこに俺は飛ばされるんで?」

 さて、この時。俺は内心、期待の心に胸を躍らされていた。なぜなら、ここに至るまでの状況……。

 バカみたいな死に方をして、よくわからん場所で目を覚まし、目の前に抜けてる感じの女神がいるという。このどこかで見たことある感じ…。

 完全に異世界転生モノのテンプレじゃないか!

「それはここに……、うーん、なんて読むのかわかんないですネェ、この台本」

 女神はどこからか一冊のノートを取り出し、中身を見ている。俺が転生する場所はそこに書いてあるらしい。

 頼む! 異世界であってくれ! 彼女に振られ、貯めた金がエビになる世界なんてもうこりごりなんだ!

「イーセー……これは……カイですかネ? 今から君にはイセカイに転生してもらうです」

 やった! やっぱりだ! 俺は異世界に転生できる! 異世界チートが俺を待ってるんだ!

「まあ浅い御託話にしましょう。ちゃちゃっと終わらせます。はい、目を閉じてー」

 俺は言われるがままに目を閉じた。これであの悲しい世界ともおさらばし、新しく異世界でハーレムとか築いてやるぞぉ!

 体が白い光に包まれる。急激な眠気……先程体験した行き詰まりのような苦しさでなく、心地よい、それこそ眠気のような感覚が体を迸る。

 俺はほどなく目を閉じた。






「あのー。ていうか、おい」

 波のさざめく音で意識が戻る。重い瞼でよく見えなくが、手足に触る硬く冷たい感触は知っている。コンクリートだ。

 とすると、俺の転生した異世界は結構文明が進んでいたりするのだろうか? これなら、あれないこれないで困らなくて済みそうだな。俺は先人の知恵をパクってちやほやされるというテンプレ展開でも良かったのだが……。

「おい」

 不意に意識がはっきりとし始める。夢うつつな状態に、水を差すかのように発せられた若い女性の声がしたからだ。

 何処か聞いたことあるようなその声に、状況を確認しようと俺はやっとこさ瞼を開ける。



「「……何でお前がここにいるんだよ」」

 目の前にいたのは、確かに女性だった。しかし、それは紺色のローブに身を包む魔法使いでも、緑色を基調とする鎧を着たエルフの騎士でもない。

 目の前の存在は非常に現代的な、ビビットな服装をしていた。容姿は、はっきりとした眼に整っている顔立ちをし、耳にはずれそうなイヤホンをかけており、かなり可愛らしい。しかし、その顔の深くにはどこか不幸を感じさせるような、そんな苦労人特有の顔をしている。

 さて、俺はこの顔をした人間を一人よく知っている。もう少し胸が小さかったはずだが、それでも間違えていないだろう。

「……千夏ちか?」

「……そういう名前で生きているけど」

「ええっ、千夏ぁ!? なぜおまえがここに、生きているはずじゃ!?」

「生きてるよ!」

 冷静な態度をしながらも、どこか混乱した表情を隠しきれない彼女。間違えない。こいつは俺の告白した相手。そして俺は彼女に振られ、やがてエビを食って死ぬ……。

「少し、いいか。一つずつ確認させてほしいことがある」

「いいけど」

 俺は深呼吸をした。こういう時、状況を判断するのに最適なものがある。5W1Hだ。

「何をしにここに?」

「……観光よ」

「君は誰だ?」

「さっきも言ったけど、千夏。奈楼なろう大学水産学部四年の、空乃芽そらのめ 千夏よ」

「今って……いつだ?」

「……2020年5月??日」

「に、2020ねぇぇん!? ……じゃなくて、そうだ。なぜここにいる!」

「友人にいい場所があるって聞いたんだよ!」

「どのようにしてここに!」

「新幹線とか色々乗り継いでで来たよ!」

 おい、もしかしてこれって。

「……ここはどこだ」







「え、伊勢だけど」







「伊勢かい!」
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