百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!

無色

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緋色の転生編

4.そして物語は始まる

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 スキルは才能と同じだ。
 使えば使うだけ伸びて進化するし、神の祝福とは別に努力で習得するケースもある。
 スキルはオンオフが切り替えられるものと、そうでないものがあり、【百合の姫】、【自己再生】なんかは常時発動のパッシブスキルで、【高速移動】や【跳躍】は任意発動のアクティブスキルに分類される。
 また本来、スキルは使用するのに体力を消費してるんだけれど、私に関して言うと【自己再生】が働き、そのデメリットを無くしている。
 【自己再生】は、厳密には身体のベストな状態を記憶し復元する能力。
 時間はかかるけど手足の欠損、出血はもちろん、体力も万全の状態まで回復する。
 さすがの私も頭部を欠損するのとか、心臓を一突きに…なんて猟奇じみた実験は試してないのでどうなるかはわからない。
 ただしこれは治癒じゃないので、毒とか麻痺とかの状態異常は、むしろ長く苦しむことになる。

「あばばばばばばば」

 というのを、毒草や毒キノコで身を以て味わった。
 毒で吐いて麻痺で寝込んで幻覚で朦朧として死ぬかと思ったわ。
 でもその結果、独力で【毒耐性】と【麻痺耐性】とついでに【精神異常耐性】を習得してやったもんね!
 あと自分で毒を生み出せる【毒生成】と、消化出来るものなら何でも食べられる【悪食】とかいう不名誉なスキルも習得したけど…
 そのついでに薬草食べまくって【薬生成】のスキルも覚えた。
 これで作るポーションがいいお金になるんすわ。
 いやーリベルタスの加護があるからスキルを覚える覚える。
 スポンジから転生したんかってくらい覚える。
 これは余談なんだけど、私は通常のスキルと【百合の姫】の契約で共有出来るスキルを区別するため、人間の場合はフレンドリースキル、従魔の場合はコントラクトスキルと定義付けることにした。
 閑話休題。
 とまあ、どうだこれが私の飽くなき探究心による研究の成果であるハッハッハ。
 よーしこのまま耐性上げていつか無効に出来るようにしちゃうぞーっと。

「もうリコリスったら。次変なことしたら頭から肥溜めにぶち込むわよ」

 あとでお母さんにしこたま怒られて泣いたし、毒キノコ食べすぎた影響でキノコは嫌いになったけど…



 スキルの勉強と同じくらい、お父さんとの剣術の練習も頑張った。
 これがまたキツいキツい。
 【自己再生】があるからって、倒れる限界まで走り込まされて、木剣打ち込まされて。

「よし!次は素振り1万回だ!その後は筋トレ1時間行くぞ!」

 あとシンプルに脳筋なのツラいよぉ…
 ただ、【自己再生】が筋肉の超回復みたいな役割を果たしたおかげで、【高速移動】や【跳躍】を使わなくても、素でそれなりに動けるくらいには、めちゃくちゃ体力が上がった。
 【剣術】と【格闘術】も習得したし、リコリス=ラプラスハート、順調に成長しております。



 成長といえば、魔法の使い方も覚えてきた。
 魔法は体内に巡る魔力マナを、炎や風などに変換して外に放出するわけだけど、それはあくまで魔法の才能――――神様からの祝福でスキルを与えられた人の話。
 お母さん曰く、私は大気中の魔力マナを取り込んで魔法を行使しているとのことで、通常ありえる魔力マナの枯渇が存在しないんだと。
 魔法撃ち放題とかロマンですなぁ。
 エクストラスキル【七大魔法】。
 炎、水、風、木、土、氷、雷の属性魔法を使える上位スキル。
 ほとんど偶然だったけど、スキルを習得させてくれたアルティには感謝だ。
 アルティと私が繋がってるとかもう、そんなのセッ――――――――



 コホン、失礼。
 リルムたちも変わらず毎日楽しそうにしてる。
 リルムは家事のお手伝い。身体を触手みたいに伸ばして、料理に洗濯、お掃除が出来るようになった。
 シロンは村のマスコット。毎日のんびりお昼寝して猫可愛がりされてる。うさぎだけど。
 ルドナは郵便屋さん。すっかりアルティの手紙を届ける配達人になっている。
 ウルは狩りや迷い込んできた魔物の討伐が主な仕事。自分の食い扶持は自分で稼いでくれるから助かってる。
 日々を過ごす過程で、リルムたちもまた成長しスキルを覚えた。
 リルムの【家事】、シロンの【睡眠】、ルドナの【空気抵抗軽減】、ウルの【隠密】。
 【家事】は文字通り、家事全般をするときに補正がかかる。
 【睡眠】は使用するとすぐに眠りにつき、質のいい睡眠が出来るようになる。睡眠時間は九時間。
 【空気抵抗軽減】というのは、動きがスムーズになるスキルらしい。確かに風の抵抗が減ってる…ような気がする。
 【隠密】は自分の気配を隠すスキル。これが非常に便利で、こっそり家を抜け出して訓練するときに重宝してる。
 まあ結果バレてバチボコに怒られるんだけどね☆



 いやいや順風満帆。
 あれから魔物に襲われたって被害も聞かないし、平和でよきかな。
 さーて今日も張り切って。

「お菓子を作るぞー!」

 なんでって?
 食べたいからっていうのは置いといて、村の名産として売り出して、旅に出るときの資金にするのだ。
 というわけで。

「リコリスの~何分クッキング~?今日は村で採れた果物を使ってタルトを作るよ~」

 タルト村だけにね!

「まず焼いといたタルト生地に、村の玉子と牛乳で作ったカスタードクリーム流し込んで~果物盛り付けて~ミント乗っけて~はい完成~」

 味見味見~うわ、うんま!
 お店出せるわ~お口とろける~
 【菓子作り】のスキルも覚えちゃってまぁ。
 異世界パティシエール目指せるねこれは。

「お、みんなも食べたいかね?」
『食べたぁい』
『ボクいちごいっぱいのとこな』
『わたくし木の実以外の甘味は初めてでございます』
『拙者もでござるよ』
「ほいほい。今切り分けるからお待ちを」

 作るの簡単だしおいしいし、これは売れるぞー。
 氷の魔法で冷やせば街に運ぶ間もつし天才じゃん。
 タルト村のタルトでタルト・タルトと名付けよう。

「金貨が1枚金貨が2枚~ウヘヘヘへ夢が広がるビックリした今みんな喋んなかった?!!」

 これは従魔契約を結んだテイマーと魔物が使える【念話】というスキルなんだと。
 言葉を介せない魔物は、これを使って意思疎通するらしい。

「なんで急に?」
『なんか、お話したいなーって思ったらこうなったよ』

 すごいな君たち…

『全てマスターのお力にございます』

 そんで個性的だね君たち喋り方。

『さすが主殿でござる』
「ござる?!侍じゃん!」
『侍…とかいうのはよくわからぬでござるがこうして主殿と言葉を交わせるというのはいやはやなんともデュフッ幸せな気分になるでござるなおっと拙者興奮してつい早口になってしまいましたぞ失敬失敬』
「いやポタクじゃん!THEじゃん!そんな見目麗しいのに!」
『なーいいから早くタルトー』
「お前は…なんか生意気だなシロン…」
『でも可愛いだろ?』
「可愛いってんだよムカつくなモフらせろおらぁ!」

 めっちゃモフってやった。
 あとタルトは好評だったし売れた。



「緊張してきた…」

 馬車に揺られ、道中で宿を取りながら。クローバー家プラス私は王都ヴェスタリアを目指している。
 アルティのナインブレイド第一学園の入学試験を目的に。

「いっぱい勉強したから大丈夫だよ」
「うん…リコちゃんのために、私頑張るからね」
「ん?おー。ん…??頑張れ?ていうかなんで私も一緒に馬車乗ってんの」
「アルティがどうしても一緒に行くと聞かなくてね」

 私の意思は。
 まあ私も王都って初めてだし、ちょっと興味あったから付いてきたんだけど。
 
「見えてきたよ」
「おー」

 でっっっっか。
 湖に囲まれた街…あれが王都か。
 橋を渡り検問を抜けた先は、タルト村とは比べ物にならない人と活気で溢れていた。

「お祭りみたい」

 こっちの世界に来てからこんなにたくさんの人初めて見た。
 おほぉ~、やっぱり都会の女の子は可愛いですなぁ。
 よりどりみどりかよぉたまらんなー。
 うっひょお!あのお姉さん乳でっか色気やべー!
 ちょっ、応援そっちのけでナンパしてくるから降ろして!

「む…」

 窓の外に夢中だった私にフードを被せ、顔をアルティが自分へ向け直す。

「リコちゃんは私だけ見てて」
「あ、ひゃい…」

 あぅ…美女たちが通り過ぎてゆく…



 ここがナインブレイド第一学園か…小中高一貫校だけあってさすがに大きい。
 試験に来てる子ども多いな何百人居るのこれ。
 この中から受かるのが毎年100人ちょっとってことなんだけど、我らがアルティは…まあ大丈夫だろ。

「頑張れ」
「うんっ!」

 試験は筆記と実技と面談。
 たまに勉強見てあげた感じ、内容は基礎学力と応用みたいな問題だったし、アルティ地頭は良い方だからね。
 サクッと首席で合格決めちゃうんじゃない?

「わっ、と」
「ひっ!ごご、ゴメンなさい…あの…よそ見してて」
「こちらこそー」
「ししっ失礼しゃす…」

 ぼーっとしてたらぶつかっちゃった。
 それにしても今の子…前髪で目は隠れてたけど、あれは将来美人になるぞ。

「君きみ」
「んぁ?」
「こんなところで何をしてるんだ。もう試験が始まるぞ。早く来なさい」
「……ほぇ?」

 教室に連れてこられて?
 席つかされて?
 お、これがテスト用紙かね?

「それでは、始め!」

 なんでじゃ?!



 なんか流れで筆記受けちゃったよ…
 そんでちゃんと解いちゃうあたり私って根がマジメなんだろうな…
 次は実技か、受験生のみんな頑張りたまへ。

「あなた、はぐれちゃったの?実技試験会場はこっちよ、来なさい」

 この学校の先生面倒見良っ!
 教育の質が高いのが窺えるわ!

「それでは実技試験を開始する!」

 実技試験は設置された鎧に、剣でも魔法でも好きに打ち込めってさ。
 小さな子たちがわやわやしてるのくっそ萌えるな。
 お、次アルティじゃん。
 
凍る地平フロストホライズン

 アルティが翳した手に魔法陣が展開され、放出された膨大な冷気が対象を空間ごと凍てつかせる。
 鉄の鎧は音を立てて砕けた。

「おおお、エクストラスキルとは!」
「なんて精密な氷魔法だ!」
「あの若さで第八階位の魔法を使いこなすなんて!」

 絶賛の嵐。
 あれ、うちの友だちおんな。ドヤッ。
 七つの属性を使いこなせるアルティだけど、一番波長が合ったのは氷の魔法らしく、あの事件からずっと氷魔法を鍛え続けてきた。
 最上位の第階位魔法はまだまだ無理だけど、低級上位の第八階位くらいなら余裕なんだとか。
 鬼…ゴホンゴホン!!私のお母さんが先生で、その教え方も良かったんだろうけど、あれはれっきとしたアルティの才能。
 おこぼれで魔法が使えてる私と違い、アルティは本物の魔法使いだ。

「いやはや素晴らしい。今年はとんでもない生徒が入ってきたものですな」

 面談もまだなのに、きっとあのおじいちゃん試験管たちのマークシートには、アルティの合格が記載されたことだろう。
 おめでとうアルティ。

「新しい鎧を用意した。それでは試験を再開する!次の者!」

 いやー、今の見せられた後じゃみんな尻込みするでしょ。
 次の受験者も可哀想に。

「どうした、次の者!仕方ない…よし、そこの赤髪の娘!前へ!」

 ほら呼んでるよ赤髪の子。
 赤髪…
 キョロキョロ……

「私?!!」
「リコちゃん?!」
「あ、どうもリコリスです…じゃなくて、いやあの私は!」
「これ以上は時間を取れん!さあ、実技を開始しなさい!」
「はへぁ」
「えっと、よくわからないけど…リコちゃんなら大丈夫!頑張って!」

 学園に通うつもりも無い奴が何故…
 仕方ない、適当にやって終わらせよう…

「見ろよ平民だぜ」

 あ?

「なんだあのみすぼらしい格好」
「あいつも可哀想にな。あんな凄い魔法使いの後じゃ、誰でも見劣りするぜ」
「どうせ平民なんか受かりませんよ」
「そうそう。引き立て役には充分です」

 あのショタ坊ちゃまどもがよぉ…
 しかし私はそんなことで怒るほど単純じゃないのだ。
 わかったかガキども。
 とりあえず木剣で、軽く鎧叩いておしまいだ。

「それにしてもあの魔法使いの女は美しいな」

 あァん?

「素養もありそうだ。この僕の婚約者に相応しい。そう思うだろう?」

 ブチッ

「どうした。早く始めなさい」

 私のアルティに…!!

「色目使ってんじゃねえクソガキャア――――――――!!!」

 ちょっとキレて鎧ぶった斬っちゃったけどいいよね。
 勢い余って校舎もちょっと壊したし、迫力ありすぎてショタ坊ちゃまたちはおしっこ漏らしたし、会場は静まり返ったけど……
 うん、逃げよう。

「あ、リコちゃん!」
「おぉ邪魔しましたーーーー!!」

 超逃げた☆



 あの後大変だった。らしい。
 試験はめちゃくちゃ。
 突然現れたスーパー美少女は誰だ?!って騒然。
 知り合いらしいことがバレたアルティ親子は面談でドチャクソ質問責めにされたんだって。
 いやいやハハハ。まことに。

「ずみ゛ばぜんでしだぁぁぁぁぁ!!!」

 バレてお母さんに吐くほど怒られた。
 人生初土下座である。
 未だかつてこんなに泣いたことある?ってくらい泣いた。

「本当にゴメンなさいね、ヨシュア、マージョリー。アルティちゃんも」
「気にしないでソフィア。過ぎたことよ」
「そのとおりだ。リコリスちゃん、頭を上げなさい」
「ひっぐ…えっぐ…!!」
「本当にもうこの子は…」
「しかしやるなぁ試験に潜り込むなんて。子どもはそれくらいやんちゃじゃないとな」
「あなた」
「はひゃい!!」
「リコちゃん泣かないで」
「ア゛ルディ~」

 よしよしが沁みる…
 もう試験なんて受けない。絶対。



 そうそう、王都に行ったついでにテイマーギルドでテイマー登録してきたよ。
 冒険者ギルドと違って、こっちは成人してない子どもでも登録出来るからね。
 職員のお姉さんにビックリされたけど、無事に登録を完了し、従魔の証のタグをもらった。
 これはテイマーギルドが発行しているもので、このタグを付けていれば安全安心の証明となり、リルムたちも街に入れるようになるんだって。



 冬が明けて、七度目の春がやって来た。
 クローバー家に届いた封書には、王国の紋章印が押されている。
 中身は見なくてもわかる。
 この春、アルティはめでたくナインブレイド第一学園への入学を果たしたのだ。

「おめでとうアルティ!」
「リコちゃんが応援してくれたおかげだよ」

 いやいや実力でしょそんなん。
 てか主席!筆記も実技も満点!すごい!天才!
 このとき、学園にはとある噂がまことしやかに囁かれていたらしい。
 今年度の主席は二人居たとか、試験に赤髪の幽霊が出たとか。
 学園に通わない私には、ぜーんぜん関係無いんだけど。
 よっしゃ今夜はパーティーだ派手に行くぜ。
 ジュース持ってこーい。
 なんて浮かれてる私とは裏腹に、アルティは苦笑いして顔を伏せた。

「これで…リコちゃんとは、あんまり会えなくなっちゃうね」
「夏季休暇とかは帰ってくるんでしょ?すぐだよ。クローバー領と王都なんて、馬車で一週間くらいの距離しかないんだよ?」
「わかってるけど…それでもやっぱり寂しいよ…」
「ふむ」

 泣き虫なのは変わらんね。
 そういうとこが可愛くて好きなんですけどね。フヒヒ。

「ほれ、ちょっと手出せ」
「?」

 差し出された右手の薬指に、木と石で作った指輪を嵌めてやる。

「これ…」
「入学のお祝い。絶対合格するって思ってたから作っといた。私とお揃いだぜ。シッシッシ」

 私の右手の薬指にも指輪。
 石は色違いだ。
 アルティのは、私の髪と同じ紅い石。
 私の指輪には、アルティの髪と同じ銀の石。
 木を磨いて鉱石を探して研磨して、細工と仕上げまで全部自分でやったんだぞ。
 手間掛かってるんじゃから無くすなよ。

「お守り。そんで、離れててもずっと一緒だよって証」

 これからアルティはたくさんのことを学ぶ。
 たくさんの人と出逢う。
 長い長い道のりの途中には、泣きたくなるような嫌なことがあるかもしれない。つらいことがあるかもしれない。
 疲れて立ち止まることだってあるかもしれない。
 それでも覚えていてほしい。
 隣には私が居るって。
 支え合って、寄り添い合って、手を取り合って生きていこう。
 私の無二の親友よ。
 君の人生に、希望の光が在らんことを。

「私…リコちゃんよりすごくなる」
「おほぉ、言うじゃーん。じゃあ私はそれよりもーっとすごくなっちゃろ」
「リコちゃん」
「なんだい?」
「ずっと大好きだよ」
「シシシ。うん、私も大好き」

 ほっぺに軽くキスをし合う。
 青空の下、アルティは自信に満ちた面持ちで学園へと旅立った。
 さらば友よ。しばしの別れ。
 目から汗がこぼれたけど、悲しいなんて言わない。
 アルティが頑張るんだ。私も負けてらんないぞ。
 やることもやりたいこともいーっぱい。
 希望と期待に胸が膨らむ。
 自重?遠慮?そんなの知るかー!

「うっしゃー!やるぞーーーー!!」





 そして十二年の歳月を経て――――
  物語は始まる――――
   私が幸せになるための物語が――――――――
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