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王国漫遊編

8.ルムの街

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 途中襲ってきた魔物を返り討ちにしつつ、野を越え山を越え、ミムレット村出発から一夜が明けて。
 私たち一行は外壁にグルリと囲まれた、ルムの街へと到着した。

「うはぁ!でっかい街!」

 さすがに王都ほどじゃないけど、人も建物もいっぱい。
 しかし異世界ってなんで同じ作りの街が多いんだろ。
 壁に囲まれて水路が通って。
 作画おとなのもんだいか?

「街へ着いたら宿を探さないとですね」
「それとお爺ちゃんたちの頼まれごともな。っし、行こう行こうー!可愛い女の子にいっぱい出会えますよーに!」

 なんて期待してた矢先のこと。
 サンキュー神様!

「ようこそルムの街へ。女二人と従魔なんて珍しい組み合わせだね。身分証はあるかい?」

 街の検問所に詰めてる女兵士さんが、そりゃあ目が覚める美人さんだこと。
 そんで鎧の上からでもわかるワォ、ナイスバディ。

「私はリコリス。お姉さんとの出会いに胸を打たれました。よろしければ今夜、月明かりの下でこの運命を二人っきりで語らいませんか?」
「はい。身分証です」
「あぁん!今お姉さんとお話してたのにぃ!」
「おもしろい子たちだね。冒険者…へえ、若いのに精霊エレメンタル級なんて大したもんじゃないか。犯罪歴も無し、と。ここらじゃ見ない顔だ。ルムの街へはギルドに寄りに?」
「まあ、いろいろと」
「そうかい。あたしはジーナ。しがない衛兵さ。なにか困ったことがあったら言いな。これでも街の顔なんだ」

 姉御肌で気っ風がいいのに上品な顔立ち。
 ジーナさんステキすぎ。

「お姉さんに恋して胸の高鳴りが抑えきれなくて困ってます♡」
「心臓止めたらいいんじゃないですか。いいから行きますよ」
「うおぉい!まだ話の途中…ちょちょちょ引きずらないでー!あーんジーナさーん!二番街ってどっちの方ですかー!」
「中央通りから南東の一区画がそうだよ。ケンカはほどほどにね」

 ケンカじゃないです。
 一方的な暴力です。



「ちっくしょー…悉くナンパの邪魔しやがって…。なんだぁ?私が他の誰かのものになるのが嫌なのかぁ?同担拒否か貴様、あぁん?」
「向こうから寄ってくるぶんには何も言いませんよ」
「けっ」

 とりあえず宿を取った。
 何日滞在するか決めてないから日払いで。
 ベッドが一つなことと、従魔を中庭に寝かせなければならないこと以外は特筆すべき点もない普通の部屋だ。

「なんでベッド一つ?」
「路銀は有限です。切り詰められるところは切り詰めるべきです」
「アルティ、私が旅のためにどんだけお菓子やら薬やら売って貯金したと思ってんの。ちょっとでも余裕ある旅にするためだぞ。ベッド二つくらい」
「ダメです」
「おぉ…なんだその圧…」
「ダ・メ・です」
「は、はい…すみません…?」

 ベッドが一つなのはともかくとしてだ。
 小鳥の裁縫屋を探す他にもやることはたくさんある。
 まず食料の調達。
 【アイテムボックス】にはまだまだ蓄えがあるけど、それも無限じゃない。
 消費したら補充するのは当たり前だ。
 肉に野菜にパンに調味料。魚も食べたいけど、まだまだ海が遠いんだよなぁ。
 今度川で釣りでもするか。
 それからやっぱり馬車も欲しいな。中古でもいいから。
 牽引はウルにやってもらったらいけるだろ。

『いけるでござるよ』

 サンキュ。
 離れてても使える【念話】が便利すぎる。
 必要なのはタオルとか着替えか…これは裁縫屋を探すついでに見繕ってもらえばいいか。
 あとは冒険者ギルドにも寄っておこう。
 手軽に稼げる依頼クエストがあれば受けて、ついでに魔物の素材も買い取ってもらって、と。

「よし、んじゃあとりあえずご飯行くか」
「はい」

 宿は食堂も兼ねている。
 一階はそれ専用のスペースだが、昼前ということもあってまだお客さんは疎らだ。

「いらっしゃい。何にしようか」
「オススメは?」
「今日はオーク肉のいいのが入ったからね、それを野菜と一緒にパンに挟むとおいしいよ」
「じゃあそれ2つずつで。あと、中庭で寝てる子たちにもお願いします。向こうには5つずつ」
「はいよ」

 恰幅のいい女将さんだ。
 朗らかで愛想がよくて、この宿は当たりだったかもしれない。
 しばらくして料理が運ばれてきた。

「はいお待ちどお」

 大きめの焼き肉バーガーがドンっと2個ずつ木の皿に乗ってやって来た。
 想像以上にでっけえ。
 コ○ダスタッフが転生したから異世界人太らせてみた、じゃん。
 横にじゃがいもがゴロッとしてるのもボリューミーだ。

「おいしそう!いただきます!」

 ちょっと硬めの黒パンに、塩で味付けされたシンプルだけどジューシーな肉のスライス、それに野菜がアクセントになって美味。
 普通の女子なら食べ切れるか怪しい量だが、案外ペロリと平らげてしまう。
 料理がおいしいのはもちろんだけど、これで私たちは大食いなのだ。
 私は特にこれといって理由もなく普通に食べるのが好きなだけなんだが、しかしアルティは見かけによらずよく食べる。
 聞くところによると、魔法使いは魔力マナを消費する際に運動するときのような疲労を覚えるらしい。
 それがどうやらカロリー消費に繋がり、エネルギーを欲するようになるのだと。
 またアルティの場合、常人の何倍も魔力マナの総量が多いもんで、よく食べるのはその影響なんだってさ。

「ふぃー…おいしかった」
「すみません、もう一皿追加で。……いいですか?」
「いいに決まってるやろがい!」

 お預けくらった犬みたいな顔してもう。
 ああ、なるほど。
 これが、いっぱい食べる君が好き~ってやつか。



 次は冒険者ギルドだ。
 王都の本部よりそりゃ小さいけど…なんだ?
 なんだか空気が重い。

「こんにちは。あら、はじめましての方ですね。本日はどのようなご要件でしょうか」

 眼鏡をかけたちょっと童顔なお姉さん。ラキラさんていうんだって。
 はい好みでーす。
 空気が重いと思ったけど私の気の所為か。
 ナンパしようとしたら後ろから圧が飛んだので、慌てて本来の目的に軌道修正する。

「あ、えっと、素材の買い取りを」
「はい。かしこまりました。では素材を承ります」

 えーっと…何があったかな。
 道すがら倒したやつそのまま【アイテムボックス】に放り込んでるからなぁ…

「ゴブリンの腰蓑…棍棒…グリズリーベアの毛皮と爪…。レッドスケイルリザードの尻尾…。ジャイアントビーの針…いいやそれっぽいの全部出しちゃえ」
「あわわわわわわわわ」
「こんなもんかな。査定お願いしますお姉さん♡」
「ギ、ギルマスーーーー!!」

 ……ありゃ?

「な、なんだこれは?」

 ラキラさんが呼んできたのは、浅黒い肌にスキンヘッドの筋肉モリモリマッチョマン。
 マッチョマンは持ち込んだ魔物の素材と私とに、訝しんだ視線を行き来させた。

「レッドスケイルリザードにジャイアントビー…これは全部お前が倒したものか?」
「違う違う。半分はあっちの可愛い子」
 
 と、掲示板の前で目ぼしい依頼クエストを探すアルティに、親指を立てて後ろ向きに差す。

「あの子、ああ見えて精霊エレメンタル級なんだよ」
精霊エレメンタル級…それなら納得は出来るが…」
「なんだなんだぁ?粘体スライム級の美少女が倒したにしては魔物のレベルが高いって話かぁ?誰かが倒した魔物の素材を盗んできたとでも思ってるー?じゃあいいや、他のとこで売るから」

 全部【アイテムボックス】に片付けて、と。

「行こーぜアルティ。ここは私たちよそ者には冷たい場所だった」
「ま、待て!待ってくれ!」
「あー?」
「疑って悪かった!是非ともうちで買い取らせてくれ!」
「定価で?」
「もちろん色を付けさせてもらう!だから話を聴いてくれ!」
「ほーん。じゃあ聞こうじゃないか。熱いお茶でも飲みながら、ね」

 はい勝った。



 というわけで、査定が終わるまで紅茶を嗜みつつ執務室で待たせてもらうことになった。
 さすがギルドマスターいい茶葉を使ってる。

「先ほどは失礼した。改めて、冒険者ギルド、ルムの街支部ギルドマスター、ウォルステン=ウォーロックだ」
「こちらこそ。百合の楽園リリーレガリア、リコリス=ラプラスハートです」
「同じく、アルティ=クローバーです」
「ラプラスハート…まさか英雄の…!それにアルティ=クローバーといえば、しろがねの大賢者か…!」
「そんなところです」
「驚いたな…。魔物の件も含めてだが。買取査定額はもちろんだが、おそらく討伐対象として依頼が出されていたものも、あの中に含まれているようだ。その分の金額も上乗せしておく」

 おー思わぬ収入が。

「どうもです」
「ルムの街へはどんな用事で?」
「旅の途中なんですよ。まあちょっと頼まれごともしてますけど」
「女二人旅とは花だな。不便があれば何でも言ってくれ」
「さっきまでとは随分対応が違うんじゃないですかぁ?んー?」
「それだけお前たちの美しさに目が霞んだということだ。有能な人材に投資するのは基本だろう?」

 上手いこと言いおって。 
 それで気をよくしたわけじゃないにせよ、少なからずお互いの態度は軟化を辿った。

「じゃあ馬車を売ってるところを紹介してほしいな」
「馬車か。それなら商業ギルドに推薦文を出しておこう。この街にはいつまで滞在する予定でいる?」
「全然決めてない。やることやったら次の街を目指すよ」
「なら明日商業ギルドへ向かうといい。向こうのギルドマスターはおれの幼なじみなんだ」
「女の人?」
「ああ、そうだ。よくわかったな」
「一瞬顔がニヤけた」

 ウォルステンさんは口元を手で隠してから、ジトっと目を細めた。

「目敏い奴だ」
「美人?」
「ああ、大層な美人だぞ」
「うっひょお楽しみ!馬車と一緒にお買い上げしちゃおっかなぁ!」
「どうしたんだこいつは」
「気にしないでください。不治の病なんです」

 誰が薄幸のスーパー美少女だ。
 お茶もいただいたし、そろそろおいとましようかねと思っていたとき。
 部屋の外が騒がしくなって、ラキラさんが慌てた様子で扉を開けた。

「大変ですギルマス!!また行方不明者です!!」
「なんだと?!」

 穏やかなことばかりじゃない。
 その報せは、私たちの旅路に陰を落とした。



「これで今月6人だぞ!いったいどうなっているんだ!」

 ウォルステンさんは憤慨して拳を机に叩きつけた。
 穏やかじゃないのも当然だろう。
 行方不明者。それも6人なんて相当に重大な案件だ。

「話を聞かせてもらえる?」

 耳にしてしまった以上無視は出来なかろう。
 精霊エレメンタル級の冒険者ということで、アルティ共々、ウォルステンさんたちの話に耳を傾けた。

「ここ一週間、市内で行方不明者の報告が多数上がってきているんだ。全部で13人。その全てが若い女性だ」
「若い女性か…」
「リコ」
「なんも言っとらんて。家出とかは?」
「13人の若い娘が揃って家出なんてすると思うか?」
「絶対無いとも言い切れないでしょ。じゃあ人攫い?」

 盗賊とか山賊とかなんかそういう系の。
 しかし、それもありえないと否定された。

「街の入り口は一つだけですし、常に衛兵の皆さんが詰めていますから。不審な人物は通れません。犯罪歴も調べますし」
「例外もあるのでは?リコのように」
「誰が犯罪者予備軍だこら。確かに、犯罪歴って言っちゃえば逮捕歴でしょ。捕まったり罰を受けてない人が裏で手引きしてるのかもしれないよ?」
「それなら街の外へ出た情報が少なからずあるはずです。それが無いというのは…」

 誰も知らない外への抜け道があるか、【隠密】みたいに気配を消す系のスキルを使ってるか、はたまた【空間魔法】を使ってるか。
 なんとも奇妙な話である。
 そこそこ大きい街とはいえ、目撃情報がまったく無いなんて。

「大賢者様的にはどう思う?」
「まだなんとも。失踪した女性に共通点は?」
「若いということ以外は特に…」

 行方不明者のリストを手に、一通り目を通してみた。
 失踪しているのは18から20までの若い娘。
 職業にも出身にも一貫性は無い。
 が、仮にこれが人攫いだとしたら、娘の使なんていくらでもある。
 それが若いというなら尚更。
 そんな下卑た考察に行き着かせた犯人と、行き着いてしまった私自身にそこはかとない嫌悪感を抱いた。

「人の楽園にわで好き勝手してる奴がいるってことか」
「リコ?」
「よし、手助けになるかはわかんないけど、私たちも出来る限りのことは協力するよ」
「ああ、心強い」
精霊エレメンタル級冒険者が協力してくれるなんて」

 ラキラさーん、その言い方だと頼りにしてるのはアルティだけに…
 私も頼りになるよぉ…
 たぶん。



「厄介事には自分から突っ込んでいくスタイルなんですね」

 茜色に染まる街。
 小鳥の裁縫屋を目指す道中、アルティはため息混じりに毒をついた。

「いえ、困っている人を見過ごせないだけでしょうか」
「さすがにね。正義を執行するじゃないけどさ。この手が届く範囲くらいは、何とかしたいって思うじゃん。性分っていうか。それに事件を解決したら、女の子たちからキャーカッコいい孕ませてー♡ってお願いされたりするかもしれないじゃんグヘヘ」
「犯人はどうやって人攫いを敢行しているんでしょうか」
「スルーされると寂しいんだぞ私は。街の出入り口は一つで、街中は常に衛兵が巡回してる。誘拐なんて物理的に不可能だろ。抜け道があるか【空間魔法】を使ってるか…どのみち13人も攫ってる時点で一筋縄じゃいかなそう」
「何か算段があるのかと思ってました」
「あると思うか?自慢じゃないが私はそんなに賢くないぞ。そこのかわい子ちゃーん♡お姉さんとお茶しよー♡」
「賢くないのは見て取れます」
「お、あそこにいるのは!!」
「聴きなさい」
「おーい!ジーナさーん!」

 見えたその人に向かって、私は大手を振って駆け寄った。

「よお。二人連れの冒険者さん」
「リコリスって呼んで。お仕事中?」
「ああ。まあね」
「ジーナさん、お知り合いですか?」

 ジーナさんの傍にもう一人。
 これまたかわい子ちゃんちゃんじゃあないですか。
 眼鏡に三つ編みが素朴な印象だけど、私の目は誤魔化せんぞ。
 頭に花飾りなんか付けちゃってまあ。

「はじめましてお姉さん。私リコリス。冒険者でーっす」
「はじめまして。私はアイファ。この先の裁縫屋で働いているの」
「裁縫屋のアイファ…」
「もしかして、エラルドさんとリリカさんのお孫さんですか?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんを知ってるの?!」

 そりゃ驚くよねってことで、私たちは偶然の出会いに喜び、事の経緯を話した。

「ミムレット村に…すごい偶然…。ねえ、よかったらうちで晩ご飯食べていかない?お父さんたちにも教えてあげたいし」
「迷惑でなかったら喜んで」
「それじゃあジーナさん。また」
「ああ。気を付けて帰るんだよ」

 と、ジーナさんはアイファさんの肩をポンと叩いて去っていった。
 うーん、颯爽としててイケメンのムーブだ。
 ああいうお姉さんに手取り足取りもいいなぁ。

「それじゃあ行こうか。店はこの先なの」
「はい」
「あ、私はリルムたちにご飯あげてくるよ。先に行ってて」
「場所わかりますか?」
「大丈夫大丈夫。また後で」

 忘れられたーなんて、シロンあたりがうるさそうだし。
 急いで戻ろうっと。



 宿に戻ってすぐ、女将さんにリルムたちのご飯をお願いした。
 メニューは昼と同じ、パンに肉と野菜をたっぷり挟んだもの。
 それと私が作ったスープも添えた。

『おいしー』
「よかった。私とアルティは他所でごちそうになってくるからね。大人しくしてるんだよ」
『かしこまりましてございます』
『おー。スンスン…』
「どした?シロン」
『リコリスお前、なんか匂うな』
「フェロモン的な?」
『確かに匂うでござるな』
「フェロモンじゃない?」
『変な女と寝て香水でも移ったんじゃないか?』
『なんか嫌な匂いー』

 スンスン…確かに言われてみれば。
 【五感強化】でやっとわかるくらいだけど、甘い香り…がする気がする…
 御婦人のキツめな香水が風に乗ってきたか?
 寝る前に身体拭いとくか。



 小鳥の裁縫屋。
 家族三人で経営するこぢんまりしたお店には、目を惹く服や小物が並んでいた。
 もう少し早い時間に来ていたら、きっとあれこれ目移りして買い物に勤しんでいたと思う。
 アイファさんを初め、父のトランドさん、母のキャエラさん親子は、私たちの訪問をあたたかく迎え入れてくれた。

「ハハハ、そうかあの家に泊まったのか。生まれ育った家だが恥ずかしいな」
「そんなことないです。すごくあったかくて、ステキなお家でした」
「そう言ってくれると私も嬉しいよ」
「お婆ちゃんが作る芋の煮物、私も大好きなの」
「めっちゃおいしかった!また食べたいなぁ。そうだ、言伝があったんだ」

 私はエラルドさんたちから言付かった伝言を三人に伝えた。

「お義父さんもお義母さんも元気そうでよかった」
「そうだな。一緒に住もうと何度も言ってるんだが。我が親ながら強情だ」
「大丈夫よ。私がいっぱい稼いで、お爺ちゃんたちも一緒に住めるくらい大きな家を建てるんだから」
「店に並んでいる服はアイファさんが?」
「私のはまだまだお店に出せるものじゃなくて。せいぜいハンカチに刺繍したり、こういうお守りを編むくらい」
「あ、そのお守り。お爺ちゃんも持ってた」
「あれは私が初めて編んだものなの。不格好で新しいのをあげたいんだけど、これがいい!なんて言うのよ」

 お爺ちゃんたちと話したときみたいな和やかな空気。
 居心地が良くて、家族なんだなぁとしみじみ思う。
 ご飯もどこかお婆ちゃんの味がする。
 きっと家庭の味を受け継いでるんだろうなぁ。

「二人は冒険者なのね。女二人なんて何かと大変でしょう」
「まあ。でも」
「毎日めっちゃ楽しいよ!アルティとは超仲良しだし!ねー♡」
「メッチャ、仲良シ、デス」
「急に感情死ぬじゃん」
「フフッ、こんなに賑やかなのは久しぶり。なんだかお爺ちゃんたちに会いたくなっちゃった」
「夏頃になったら、休みを取って会いに行こう」
「そうね。お義父さんたちもきっと喜ぶわ」

 アルティが小声で、いいですね家族って、と呟いた。
 ホームシックかー?なんて揶揄おうとして言葉が詰まる。
 なんだか私も、お父さんとお母さんの顔が見たくなったから。



「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。本当においしかったです」
「二人はいつまでルムの街にいるの?」
「決めてないけど、明日はいるつもり。服とかいろいろ買いたいし」
「じゃあうちに寄って!うんとサービスしちゃうから!」

 私的にはえっちなサービスの方が…

「…………」

 ギロッ…とアルティが凄む。
 心読んだ?

「アイファったら、歳の近い子たちに会えて嬉しいのね」
「娘と仲良くしてあげておくれ」
「はいっ」
「では」
「ああ、送っていくよ。最近物騒らしいから」

 人攫いの話は民間にも知れ渡っている様子。
 トランドさんは私たちを案じてそう言ってくれたけど、丁重にお断りした。

「キレイな奥さんと可愛い娘さんを家に残す方が心配ですよ」
「私たちなら平気です。お気遣い、ありがとうございます」
「おやすみなさい、いい夢を」

 夜風が冷たい。
 帰り道、私たちはどちらからともなく身体を寄せて、触れた手を繋いで帰った。
 気恥ずかしかったけど、お互い離すことはしない。
 日常の中の幸せな時間。



 けれど、世界のどこかに幸福が在れば、世界のどこかに不幸も在る。



 世界はかくも平等で不平等だと、月が昇りきった深夜。
 街の喧騒が私たちにそう告げた。
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