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驚愕の事実 Ⅰ

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──《幻想戯曲》。ロートケプフェンが俺の元へ渡ってきた、その経緯。それは明らかに数多の偶然が積み重なり、起きた出来事であった。

……どうやらアイリスはこの街の図書館──その地下にある《幻想戯曲》を保存している立ち入り禁止区域──の幻想司書であり、それを幼い頃から務めてきたらしい。
 人目に付く事なく、《幻想戯曲》の秘匿の為にずっとそこで暮らしてきた。

だが、俺たちと同年代となったアイリスは学園生活を送ってみたいと多々思うようになり、図書館館長に幾度となく抗議を申し入れた。
 その甲斐あって、館長も了承。
 但し、緊急事態以外には《幻想戯曲》を一般人の目前で使用しない事を条件として。

そんなアイリスが編入学するのは、我らが四ツ葉学園。
 あろう事か、彼女は下見を兼ねて深夜に学園に不法侵入したというのだ。
 その時にアイリスの不手際で落としてしまった本があった。
 彼女が仕事の為に所持していた《幻想戯曲》の内の一冊、《ロートケプフェン》である。

しかし彼女は、それに気付かず帰っていってしまったのだから恐ろしい。

ここから先は俺の想像の範疇になるが、恐らくロートケプフェンを見つけたのが、学園の図書室の管理人さん。
 だが《幻想戯曲》は契約者には中身が見えないという事もあり、処分に困っていたのだろう。ラベルやバーコードが貼られていなかったのが、それを示唆している。

そこに運悪く俺が来てしまい、管理人さんは片付ける筈の本の中にロートケプフェンを忍び込ませておいたのではないか。
 恐らく、本好きな俺が手に取る事を願いながら。

「……あなた、かなりの推理力を持ってるわね」

「元はと言えば、落としたアイリスが悪いと思うぞ。そもそも不法侵入だ。犯罪だぞ」

「……で。どうせこの女の子と一緒にいたいとかいうあなたの破廉恥な思考はお見通し。……だから、選択肢をあげる」
 
アイリスは俺の言う事を全くといいほど無視して言い、二本の指を立てた。
 それが俺の目にしっかりと映ったところで、一つ、と折っていく。

「大人しく、その本を私に返すか」
 
──二つ。

「冗談抜きで風穴空けられてから、返すか」

アイリスがスカートの内側から瞬時に取り出したのは、ロートケプフェンと酷似している一冊の本。
 それを見て、公園での彼女がやってのけた芸当が脳内でフラッシュバックされる。
 幾ら自分がした事とはいえ、これはあまりにも支離滅裂ではないのか。

「嘘、だろ……」

そう呟きを漏らすと同時、

「……断章フラグメント

という言葉が、俺の耳へと届いた。
 その発信源がアイリスでないなら、残るは一人。
 視線を向ければ、そこには紅い刺又を手にし、何時の間にか立ち上がっていたメイジーがいた。

「……アイリスの都合は知らないけど、私の契約者に手を出すのは──許さないよ?」

「安心しなさい、メイジー。あなたの契約者には、手出ししないから」

メイジーが発した剣呑な雰囲気を一瞬で終わらせたアイリスも凄いが、やはりこの子ら、危険だな。

「取り敢えず、蒼月。契約破棄はしなくていいから、メイジーを本の中に戻してみて。頭の中で、『戻れ』って念じればいいから」

釈然としない何かを感じつつも、言われた通りに脳内で念じる。
 そして訪れたのは、静寂だった。
 ……何、俺。からかわれてるの?

「……私をおちょくってるワケ?」

……それはこっちのセリフだ。俺が貴女に言いたい。
 そう思いつつ項垂れる俺を一瞥してから、アイリスはメイジーへと視線を向けた。

「メイジー、あなたは何も知らないの? ロートケプフェンのキャラクターでしょ?」

「……生憎。召喚されるのは初めてだったから、何も、分からない」

「という事は、契約自体が初めてって事ね。……元に戻せないキャラクターといい、未完の《幻想戯曲》といい、厄日だわ」

こっちのセリフだ。
 いきなり獣使いに襲われて、アイリスにロートケプフェンで召喚しろと言われれば戦闘狂のメイジーが出てくるし。
 混沌かよ。何時から俺は道を踏み外したんだろう。

まぁ、今はアイリスに頼るしかなさそうだ。
 《幻想戯曲》についても、メイジーの詳細についても。
 ……これから俺、どうなるんだろ?


~to be continued.
 

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