流れる星、どうかお願い

ハル

文字の大きさ
20 / 20

招待状

しおりを挟む
 大石一家との食事会の後から保育園で何も言われなくなったようで流星は毎日楽しそうに保育園に通い、結弦も安心している。そして、いつの間にか葵と仲良くなったのか、流星の話に彼の名前を聞くことが増えた。

 結弦が要と暮らすようになってから現場に要からの差し入れはあるものの、頻度は二週間に一回のペースになった。それに、悲しさを全開に表現した声を上げるのは同僚である。要の差し入れは彼らが普段の食事として食べられるようなものではなく、旅行気分で思わず手が出てしまうものばかりだ。パートナーが作ってくれる弁当も良いが、そんな差し入れを食べられれば、パートナーの苦労も減りその上美味しい物にありつける、まさに理想の昼食だったのだろう。それが減ったことに落ち込む彼らに結弦は申し訳なさを感じた。しかし、頻度が少ない方が結弦の心は穏やかなのは確かであり、それは結弦の仕事への集中力を高めることに繋がった。
「結弦、また、腕を上げたな。」
「今後も頼むぞ。」
 その結果、自然と代表や同僚から褒められることも増えた。そして、納期に余裕をもって納品できる目途が立った。

 完成目前に差し掛かった昼休み、隣に座った同僚から話しかけられる。
「そういえば、結弦、週末にマルコシデパートにいなかったか?」
「先日のお休みの日に居ましたけど。」
「やっぱりな。そこで、流星君と同じくらいの子を連れた女性と一緒なのを見たんだが結弦の恋人か?」
「っ違いますよ!友人です。」
 彼の盛大な勘違いに驚きのあまり結弦は大声を出してしまう。そのせいか、彼は驚いて固まっている。
 大石母子と流星とマルコシデパートに行き、子供たちをデパート内にできた商品で遊べるキッズスペースに行くのが目的だった。あれから、大石母子と交流が続いていて、結弦が泉と仲良くなったように葵と流星が仲良くなったので出かけやすい。子供達を遊ばせている間、結弦と葵は待機スペースの長椅子に隣合わせで腰掛ける。あの日から泉は大石とうまくやっているようで、書類上の結婚だが大石は泉と一般的な夫婦と同じ関係を築きたいと思っていたと告白され、それからは大石が毎日家に帰って来て家族で食事を共にする機会が増えたらしい。それに、少し前に家族で旅行に行ったことも聞いて結弦は貰ったお土産を抱きしめながら我が事のように嬉しかった。葵はツンとした態度だったが、少し照れくさそうに笑っていた。

 そんな和やかな時間だったのに、まさかそれを見た第三者にそんな誤解をされるなんて結弦は思いもしなかった。とりあえず、同僚には誤解を強調しておき、後で葵に謝罪の連絡をしようと結弦は今後を考えたところで、ふと気になることができ少し居心地悪そうにしている彼の方を見る。
「それにしても、先輩はデパートとか行くんですね。」
 この先輩が周囲から資格バカと言われるほどに資格を持っていることは会社の中で知れ渡っている。元々、頭が良くて代表の元に来るまでは官僚だったらしい。資格の勉強用書籍が彼の鞄から出てきた時は結弦は失礼だったがすごく驚いた。あまり見た目で判断したくはないが、先輩は屈強な男性で前職にも見えないし、勤勉より運動をしている方がしっくりくる。しかし、それらを見てしまえば、結弦も納得せざるを得ない。それでも、そんな彼がデパートに用事があることだけは結弦にとって受け入れられない。デパートと同僚が似合わないからだ。思わず結弦は彼をじーっと見てしまうと、彼は頭を掻きながら恥ずかしそうに言う。
「実はあのデパートにしか出店されていないチョコレートのお店があってたまに買いに行くんだ。フレーバーも色々あるし、高カカオとかもある。」
 彼の返答を聞いて結弦はようやく納得する。食べ物目的であれば先輩でもあり得る話だろう、と。
「いいですね。チョコレート。全然気づきませんでした。僕らは子供たちが遊べる場所が設置されたって聞いたので流星と同じ保育園に通う子供と彼の母親と一緒に行ったんです。」
「そうなのか。それにしても、ママ友がいたんだな。良かったな。」
 結弦が答えると感心され慰めるように彼に言われてしまう。それほどに、友人関係などほぼ皆無であることは誰もが知っているのだろう。結弦が友人の話をほとんどしないし、その認識は合っているので何も言わない。それでも、そんなにしみじみと言われると結弦は多少傷つく。
 だから、結弦は話題を変える。
「それにしても、先輩って辛いものが好きだったような気がするんですけど。チョコレートも好きだったんですね。」
 ンンッ
 何かがつっかえたようなわざとらしいような咳を彼は一つする。
「失礼。俺は甘い物も嫌いじゃないし、ちゃんと家族にも買う。それと、勉強には甘い物があった方が捗るんだ。」
 それだけ言って彼はどこか逃げるように仕事に戻っていく。明らかに何かを隠しているが結弦はあえて放置する。それより、先輩が言っていたチョコレートのお店の方が気になってしまい、帰宅してから調べようと結弦は考える。

 月日が経つのは早く、羽水トラストから出された納期の日、代表は報告の為、依頼者である羽水トラストの関係者を連れて現場に出かけ、結弦も含めた社員たちは事務所の方に詰めて次の仕事の段取りを確認する。羽水トラストからの依頼が通常では考えられないほどに大仕事だったので、次の案件の話し合いや資料確認をしながらも結弦は間を置かずに壁にかかっている丸時計をチラチラと見てしまっているが、他の社員たちもどこかソワソワとどこか気がそぞろになっている。
「やっぱり、皆は手がつかないな。」
「そりゃそうでしょうね。」
 給湯室に何となく数名が集まると年長者である社員の言葉を皮切りに集まった人どころか、その言葉を聞いていたデスクにいた社員達までもが見合わせて笑ってしまう。結弦も資料から顔を上げて周囲の人と目を合わせて同じ顔をしてしまう。
「次の仕事を確認するのもまだ少し時間があるから急いで段取りする必要もないからな。」
「そうかもしれませんね。あ、チョコレート食べますか?」
「あ、これ、あのデパートのチョコレートだな。いただこう。」
 隣にいる先輩に個包装されたチョコレートを渡すと彼は嬉しそうに笑う。本当に甘い物は好きなのか、とそんな彼を見て結弦は思い2個渡す。同僚から聞いたチョコレートのお店は葵に聞けばすぐに分かり、彼女と子供たちとデパートに行ってすぐ購入した。
「やっぱり、先輩が行っているチョコレートのお店ってここだったんですね。友達もここのお店は好きみたいでお勧めの味とか聞いたんです。最近、月に一回は買いに行っていますね。デパートのお店だから最初は敷居が高いと思ったんですが、想像よりリーズナブルで買いやすいですよね。」
「そうなんだよ。だから、俺も買いに行くんだ。勉強には糖分が必要だしな。」
 彼は「しかも、これはまだ食べたことがない限定フレーバーだな」なんて嬉しそうに渡したチョコレートを口に含む。結弦もそれを見て同じ味のチョコレートを食べる。口に入れた瞬間、カカオの濃い風味とストロベリーと紅茶の味が一瞬で広がってスッと無くなってしまうので飽きないのだ。その何個でも食べられるチョコレートのおかげで、月一度の超甘党になった時に簡単にその欲を抑えるのに最適な物なので良かったのだが、結弦にはおいしすぎてその期間以外にも食べてしまい少しだけ糖尿病への不安もないことはない。
「美味しいな。」
 やっと羽水トラストの依頼に区切りがついたことで仕事での要との関係は切れ、それにより結弦の心に対するストレスも軽減された。それにより、チョコレートがより美味しく感じられるのかもしれない。
「代表はもうそろそろ帰ってくるんじゃないか。」
 ガチャ
 隣でチョコレートを味わった同僚が代表の帰りを口にした瞬間、タイミング良く扉が開き結弦を含めその場にいた全員が扉の方を見てしまう。
「うぉ!なんだ、一斉にこっちを見られるとビビるんだが。」
 一斉に注目を浴びた代表は驚いて腰が引けている。年長者である社員が相手の反応が気になり我慢できずにさっそく聞いている。全員の代弁者に最適だ。
「どうだったんだ?代表、その、向こうの反応は。」
「ああ・・・・想像以上だってさ。」
 少し間をあけた代表が親指をあげて満面の笑みを浮かべて言う。それに、全員が安堵の息をこぼしてしまう。
「なんだよ!不安になったじゃないか!」
「本当ですよ!代表!」
「俺なんて体が震えたっていうか、今でも震えているんですけど!恐怖で!」
 各々が代表の振舞いに対して不満を口にするが満面の笑みだ。それに彼は、わるいわるい、と言いながら自分の席のところに向かう。
「それで、ここからは羽水トラストさんから話があってのことだが、俺たちをプロジェクトへの協力会社として今度催される百周年記念パーティに可能な限りは参加してほしい、とのことだ。もちろん、家族を連れて行っていいらしいし、ホテルの立食パーティだそうだ。高級ホテルだから肩肘張る場所だが、料理は高級だろうな。」
 振って湧いた話に事務所内の空気が固まる。そんな中、恐る恐るといった感じで手を挙げたのは先ほどチョコレートを渡した隣の同僚だ。
「あの、そんな高級なところに行って俺たち浮きませんか?」
 その質問は全員の心の代弁になっている。誰もが思っている疑問に代表は肩をすくめる。
「俺も実はそれを思っていたんで、最初は遠慮したんだ。そうしたら、向こうがだいたい出席するのはグループ会社の社員や社長ばかりで全員スーツ姿でそんな肩肘が張るような場所ではないらしい。ほとんど建設関係者だから緊張しないでいい場なんだってさ。あ、出席組は当然だが全員スーツを着るようにな。」
 代表の最後の言葉に慌てる様子を見せる同僚たちがいる。この業界でスーツを持っているのは何人いるのだろう、と考えたら彼らの反応は当然だ。
「クローゼットに仕舞ったままのスーツって着れると思いますか?」
「いや、それはどうなんだ?俺も実はこれしか持っていないから出席はこれ着用になる。」
 同僚の一人の言葉に代表は苦笑している。代表は依頼人との商談があるため今着ているスーツを持っているので問題ないが、ずっと現場人間である他の社員は前職がスーツ着用の人以外は持っている可能性は低いだろう。
「そういえば、ユニハスで簡易スーツが売っていますよ。ズボンから上着までそろえても一万ぐらいで買えます。」
 結弦はスーツを着る予定はなかったが、元々高校卒業したら就職する予定だったので中学の時に色々と調べていて離婚後に働く予定だったためにその際にもスーツを安く購入できるお店を探したことがあった。だから、そういう情報を結弦は熟知しているほうだ。その情報に全員が一瞬固まったと思ったら全員が立ち上がる。
「結弦、お前、すごいな。」
「そうだな、その手があった。」
「全員畏まった格好しなくていいんだもんな。」
 全員が右手を突き上げて出席に意欲を示す。それを見た代表は気を良くしている。
「それじゃあ、全員参加だな。パーティは明日の夜だ。場所は後で連絡するし、参加人数は後で紙を貼っておくから後で全員今日中に書いておいてくれ。」
「「「「はーい」」」」
 まるで、保育園で遠足に来ている子供たちのような良い返事で全員が答える。野太い声に事務所が包まれているが、そんな中、結弦は一人参加に後ろ向きになっていて黙っている。
 その理由を伝えて雰囲気を悪くすることができないので、結弦は流星さえ連れていかなければ問題ないと考え出席を決める。幸い、土日関係なく託児所は二十四時間子供の受け入れをしてくれる。特に、流星のように自分のことを自発的にできる子供はそこに勤めている保育士も嫌な顔をせずに預かってくれる。だいたい当日のことを決めて、結弦は貼られた紙に“出席”と書く。
しおりを挟む
感想 9

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(9件)

うみ
2026.02.22 うみ

更新ありがとございます。
その後の大石ファミリーの動向と、大石母子と結弦君親子の関係が気になっていたので様子が知れて嬉しいです😊
どちらも良好な様で嬉しいです😊
さてさて、パーティーですが、結弦君は流星君の存在を知られたく無いんでしょうが、要君はどう思っているのでしょうか?この機会に二人をお披露目したりして。
次回も楽しみに待ってます。

解除
うみ
2026.01.28 うみ

子は鎹。二人だけの生活では余り会話も無く、お互い何を考えているのかも解らなかったけど、流星君の存在が二人を近づけてくれるのかな?離れていた頃の事、昔の事、亡くなったお母さんの事、話せると良いな~。
本郷さんの現在がどうしてるのか解らないけど、大石妻は繋がっているんだね。
葵君の体格がチョット気になります。保育園に通うので見た目綺麗に、痣等も無いけど軽くネグレクトなんかになっていなければ良いのだけど・・。

解除
にゃんにゃんこ

こんにちは。
いつもありがとうございます。
要くんと結弦くんは運命だと思っているのですが..。
発情期以外接触が無いのは結弦くんがずっと罪悪感を感じて要くんに謝っているから要くんも否定するものの辛いのかなと思いながら読んでいました。
要くんが簡単に結弦くんを諦めてしまったのかとがっかりしていましたが幼馴染みくんに刺激され再会に至ったのは結弦くんの心配とは別に知るべきことを知るのは必要だと思うのでホッとしました。
本郷さんはこれからもいろいろやりそうで怖いですが家族3人幸せになって欲しいです。あ、発情期が正しく再開し家族が増える展開もありますよね。更新を凄く楽しみにお待ちしております。長くなってしまい申し訳ありません。

解除

あなたにおすすめの小説

子持ちオメガが運命の番と出会ったら

ゆう
BL
オメガバースのblです。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。