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本編 1部 1話
記憶
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藁葺の屋根が風に吹かれ、その藁を一本づつ剥がされてゆく。突然の突風は扉を開き、叩きつけている。ホコリで黄ばんだ壁に飲み込まれた匂いはホコリを焼いて焦がしたような匂いだ。部屋の奥で、壁に張り付いたように並べられた2つの木製ベッドは長老と孫娘の睡眠を手伝っていた。しかし、長老の甚太郎と呼ばれた龍族の長は別の建物で村人たちに手厚い看護を受けていた。今、この建物にいるのは孫娘の、杉浦みゆきと呼ばれる少女。背格好から察するに、年の功なら15-6歳といったところだろうか。しかし、このみゆきと呼ばれる少女はもうすでにこの村の歴史を二千年間の間見守り続けてきていた。
時は静かに流れた。みゆきの時も静かに流れてゆく。深夜の0時を時計の針は指していた頃、突然入り口の扉が開き人の手によって叩きつけるように閉められた「バタン」
この家には、杉浦みゆき。千葉武。そして今は別の棟で甚太郎の看護をしているまだ十にも満たない、幼い少女が住んでいる。みゆきの隣のベッドはその少女が普段は寝ている。しかしこの少女は記憶がなく村の西の外れで武と同じように倒れていたところを、やはり、みゆきに助けられていた。覚えがあるのは、あかりという名前が自分を指していることだけである。
あかり「はぁ…はぁ…はぁ…みゆき様。こんな時間にすみません。お祖父様が…お目覚めになりました。」
2
若い男「父様、今、私にも娘ができました。」
父と呼ばれた男「おお…やっと生まれたか。」
若い男は、龍二と言う。みゆきの父だ。そう、つまり、父と呼ばれた男は今は老いてしまったが若き日の甚太郎なのだろう。つまりは、今生まれたのはみゆきと言う訳だ。
龍二「妻は…やはり体力的に無理があったみたいで…」
甚太郎「しかし、新しい命に自分の魂を譲ったか。」
そして、龍二の気持ちを思い、甚太郎はそれ以上は語らずに部屋へ帰ってしまう。ただ、一つ、娘の名を決めた。龍二は「名なのですが…妻と同じ名。みゆきにします。杉浦みゆき。」
こうして、みゆきがこの世に生を落とした。
そして、十年の歳月が刻まれる。
幼い男の子「みゆきも、母ちゃんに弁当を作ってもらえよ。」
みゆきは、泣きそうな顔をするが、険しい表情を無理に作ると。
みゆき「母様、忙しいから…」
おそらく、皆、みゆきの家庭の事を知っているのだろう。それは、わかっていた。頭ではわかっいるのだ。それでも、みゆきは悔しかった。
「父様ただいま戻りました。」
藁葺の屋根も、埃の匂いも、何もかもが当時から、全く同じだった。ただ一つ、この家の長が龍二と呼ばれる青年だった。年は、二十五、六。長身で、柔道家の様な肉付きの良い体格をしている。髪は短く、目つきの優しい青年。果たしてこの青年は、どこにいるのだろうか?少なくとも、武は、会ったことが無い。無論、この人を知らないのも、先刻、ご承知のとうりだ。
みゆき「父様。隣村の長とはお会いになれましたか?怖い人だと噂で聞いていましたけど、何もされませんでしたか?どんな人でしたか?村は大きいの?」
龍二は黒髪の短髪をかきむしると、大笑いした。
龍二「いっぺんに聞くな。全く、誰に似たのか、せっかちなやつだ。」
みゆき「父様に決まってるじゃない。」
扉を静かに押し開けて、祖父の甚太郎が家に入ってきた、いや、帰ってきたのだろうか?
一つ、大きな溜息をつくと、奥の部屋へ引っ込んでしまった。奥の部屋は、実は、この甚太郎の寝室だった。
龍二「父さん、入ってもよろしいでしょうか?」
「コホン…」しばらくして「その呼び方はやめろと…まあ、いい、入りなさい」
部屋に入ると、言うならば立方体の箱といった部屋。わかりやすく言うならば、何もない部屋…龍二は承知なのだが。そこに、甚太郎?は、いた。
真っ白な壁に包まれたその部屋で、ちょうど部屋の中央だろうか。光の玉が、浮いている。
龍二「なぜ、魂でおられるのですか?」
光の玉が、返事をしたのだろうか?部屋中が応える。
魂「近頃、実体が定まらん…」
龍二「なぜですか?」
魂「わからん、わからんが、何かが来る…そんな気がするだけだ。」
「失礼します。」
深く、丁寧に腰を折り頭を下げると、一族の長の部屋を退室するのだった。
3
「…あな…た……あいし…てる…」
「ミユキ!」
男は、夢でうなされていた。
娘「父様、父様、どうかなさいました?」
扉の外から声が聞こえる。みゆきの声だ。無論、娘のみゆきだ。
龍二「なんでもない、驚かしてすまなかった。ただの夢だ。何か、懐かしい夢。」
そう夢なのだ。妻はもういない。わかりきったことだ。
「すまん、休んでくれ。少し風にあたってくる。」
こっちの世界で言うならば、季節は秋?だろうか…。風は冷たく、一つ吹くたびに身体に刺さる。風が身体に当たると、体格のいい龍二でも痛みに耐えられなくなる。「みゆき…俺はどうすればいい…」
その夜は、一夜中星を眺めるのだった。
翌朝。
村の外れ。西の森との境の小屋が燃えていた。急ぎ、龍二は駆けつけてきていた。横には、甚太郎の姿もあった。無論、人の姿だ。
「どうしたのだ?」甚太郎が訝しい顔を作ると、村人たちは皆頭を下げた。
話を聞くと、家の中で火が起きたらしいのだが、誰も中にはおらずに中の家具も燃えていないらしい。小屋だけが燃えており、周囲の草も燃えていないのだ。「?」一同がそんな顔をしていた。小屋には、男が一人で住んでいたのだが、もう、一月ばかり帰っていないらしい。友も、恋人も、家族もいないらしく、小屋が燃えて初めてその事実が分かったと言ったところだ。
最近では、珍しくない話らしく、このような事が村では頻発しているらしい。
時は静かに流れた。みゆきの時も静かに流れてゆく。深夜の0時を時計の針は指していた頃、突然入り口の扉が開き人の手によって叩きつけるように閉められた「バタン」
この家には、杉浦みゆき。千葉武。そして今は別の棟で甚太郎の看護をしているまだ十にも満たない、幼い少女が住んでいる。みゆきの隣のベッドはその少女が普段は寝ている。しかしこの少女は記憶がなく村の西の外れで武と同じように倒れていたところを、やはり、みゆきに助けられていた。覚えがあるのは、あかりという名前が自分を指していることだけである。
あかり「はぁ…はぁ…はぁ…みゆき様。こんな時間にすみません。お祖父様が…お目覚めになりました。」
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若い男「父様、今、私にも娘ができました。」
父と呼ばれた男「おお…やっと生まれたか。」
若い男は、龍二と言う。みゆきの父だ。そう、つまり、父と呼ばれた男は今は老いてしまったが若き日の甚太郎なのだろう。つまりは、今生まれたのはみゆきと言う訳だ。
龍二「妻は…やはり体力的に無理があったみたいで…」
甚太郎「しかし、新しい命に自分の魂を譲ったか。」
そして、龍二の気持ちを思い、甚太郎はそれ以上は語らずに部屋へ帰ってしまう。ただ、一つ、娘の名を決めた。龍二は「名なのですが…妻と同じ名。みゆきにします。杉浦みゆき。」
こうして、みゆきがこの世に生を落とした。
そして、十年の歳月が刻まれる。
幼い男の子「みゆきも、母ちゃんに弁当を作ってもらえよ。」
みゆきは、泣きそうな顔をするが、険しい表情を無理に作ると。
みゆき「母様、忙しいから…」
おそらく、皆、みゆきの家庭の事を知っているのだろう。それは、わかっていた。頭ではわかっいるのだ。それでも、みゆきは悔しかった。
「父様ただいま戻りました。」
藁葺の屋根も、埃の匂いも、何もかもが当時から、全く同じだった。ただ一つ、この家の長が龍二と呼ばれる青年だった。年は、二十五、六。長身で、柔道家の様な肉付きの良い体格をしている。髪は短く、目つきの優しい青年。果たしてこの青年は、どこにいるのだろうか?少なくとも、武は、会ったことが無い。無論、この人を知らないのも、先刻、ご承知のとうりだ。
みゆき「父様。隣村の長とはお会いになれましたか?怖い人だと噂で聞いていましたけど、何もされませんでしたか?どんな人でしたか?村は大きいの?」
龍二は黒髪の短髪をかきむしると、大笑いした。
龍二「いっぺんに聞くな。全く、誰に似たのか、せっかちなやつだ。」
みゆき「父様に決まってるじゃない。」
扉を静かに押し開けて、祖父の甚太郎が家に入ってきた、いや、帰ってきたのだろうか?
一つ、大きな溜息をつくと、奥の部屋へ引っ込んでしまった。奥の部屋は、実は、この甚太郎の寝室だった。
龍二「父さん、入ってもよろしいでしょうか?」
「コホン…」しばらくして「その呼び方はやめろと…まあ、いい、入りなさい」
部屋に入ると、言うならば立方体の箱といった部屋。わかりやすく言うならば、何もない部屋…龍二は承知なのだが。そこに、甚太郎?は、いた。
真っ白な壁に包まれたその部屋で、ちょうど部屋の中央だろうか。光の玉が、浮いている。
龍二「なぜ、魂でおられるのですか?」
光の玉が、返事をしたのだろうか?部屋中が応える。
魂「近頃、実体が定まらん…」
龍二「なぜですか?」
魂「わからん、わからんが、何かが来る…そんな気がするだけだ。」
「失礼します。」
深く、丁寧に腰を折り頭を下げると、一族の長の部屋を退室するのだった。
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「…あな…た……あいし…てる…」
「ミユキ!」
男は、夢でうなされていた。
娘「父様、父様、どうかなさいました?」
扉の外から声が聞こえる。みゆきの声だ。無論、娘のみゆきだ。
龍二「なんでもない、驚かしてすまなかった。ただの夢だ。何か、懐かしい夢。」
そう夢なのだ。妻はもういない。わかりきったことだ。
「すまん、休んでくれ。少し風にあたってくる。」
こっちの世界で言うならば、季節は秋?だろうか…。風は冷たく、一つ吹くたびに身体に刺さる。風が身体に当たると、体格のいい龍二でも痛みに耐えられなくなる。「みゆき…俺はどうすればいい…」
その夜は、一夜中星を眺めるのだった。
翌朝。
村の外れ。西の森との境の小屋が燃えていた。急ぎ、龍二は駆けつけてきていた。横には、甚太郎の姿もあった。無論、人の姿だ。
「どうしたのだ?」甚太郎が訝しい顔を作ると、村人たちは皆頭を下げた。
話を聞くと、家の中で火が起きたらしいのだが、誰も中にはおらずに中の家具も燃えていないらしい。小屋だけが燃えており、周囲の草も燃えていないのだ。「?」一同がそんな顔をしていた。小屋には、男が一人で住んでいたのだが、もう、一月ばかり帰っていないらしい。友も、恋人も、家族もいないらしく、小屋が燃えて初めてその事実が分かったと言ったところだ。
最近では、珍しくない話らしく、このような事が村では頻発しているらしい。
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