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2話
奇跡の友
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1
みゆきの住むのは、通りに面している母屋なのだが、左隣にもう一つ家を持っている。
そこに、甚太郎は匿われてた。一間だけしか部屋はなく右奥にベッドがある。そこで、甚太郎は一同を待った。白い布生地の寝間着に包まれた老人は、ベッドに腰掛け上半身を横の壁に預けていた。病で伏せっていたせいか、白いひげは伸びきりバサついている。従来はもっと良い体格をしていたのだが、手足は枯れ枝のように痩せ細り、頬もコケてしまっていた。目の下にもはっきりとしたクマが残されてしまっている。
甚太郎「よく、いらっしゃった。」
力なく、老人は来客を歓迎した。その、語気からは歓迎ぶりがあまり伝わらないが、おそらくは意識のある内でみゆきと対面するのは久しぶりであろう。きっと、嬉しいはずだ。武は、心の中でそう思った。
武「あなたがこの村の長なのですね。なぜ、こんなことに?」
老人は、目を閉じた。寝てはいない、壁を背もたれにしたままだ。
「ふぅ…すまないが…」
一同、会釈をして部屋をあとにするのだった。
「おじいちゃん、疲れてるのよ。またに、しましょ。」
その日の夜、空は荒れていた。風、雨、雷。強い風が、落ちてくる雨粒を横に吹き飛ばす。平たく言えば、横殴りの雨だ。そして、雷鳴が轟くと深淵の縁にある空は、黄金色に燃えるのだった。
「ザァー…」
暗闇の中、空が光ると、何かがそこにいた。しかし、この雨の中家から出ているものは一人もいなかった。いや、いた。ただ一人だけ。老人は、空を見ていた。いや、睨んでいた。土砂降りの雨の中をただ一人だけで。
2
夜が開けると、昨夜の雨も後を残してはいなかった。まさに、これは光の雨だった。その日差しが、太陽の恵みを大地いっぱいに注いでいた。
「雨上がったね」
みゆきは眠い目をこすり家の外に出てきた。起きたてで、まだ寝ぼけている顔だ。
「ゴホッ」
「風引いたの?大丈夫?」
みゆきがたけしを気遣う。その光景に、村の若い連中はやじを飛ばし、冷やかした。
「いや、おふくろと親父を見ているようだ。」「ハハハハ…」「いやー。若いっていいねー。」
みゆきは顔を赤らめてうつむいてしまった。武も、うつむいている。しかし、武は別の理由で俯いていた。
武が考えていたのは、やはり甚太郎のことだ。何故呪われたのか、何故この老人だけが呪いを受けるのか。何故みゆきには、父がいないのか?そして、あの日、魔美は何を言いたかったのか?そして、どうしてこの世界に来たのか?多くの疑問が頭をよぎる。
皆、みゆきの家の前に集まってきてしまった。「おじいちゃんがおきちゃうよ。」みゆきがたけしの肘を肘で小突く。「パタン」ふっと見ると、みゆきの後ろに白い寝間着姿の老人の姿があった。
みゆき「お祖父様。まだ起きてはお身体に触ります。おやすみください。皆さんもお家にお帰りください。」
甚太郎「やれやれ、わしはまだ元気じゃ。それに、こう騒々しくては寝てなどおられん。」
それはそうだ。皆、みゆきのもとに集まってきてしまったのだから。
「おわかいの。なぜこんなことにとおっしゃいましたな?ならば聞きます。何故貴方はここにいらっしゃったのかな?」
「………」
「見なさい。説明できんじゃろ。全ては、結果。因果などは結果が出て説明つくのじゃ。知りたければ、探しにゆくかの?結果が出れば、全てが終わることを知ることとなろう。知りたければ自分の目で確かめることじゃ。今この世界に何が起こっているのか…あなたが帰るすべも、因果で結びつこう…。」
その日の夜武は眠れずにいた。「だめだ。やっぱり行かなくちゃ。この目で…。」
決心が固まった武は、大きめのズタ袋に、ナイフを、水筒を、そして、食料と火起こし用の石と粉をつめて、夜のうちに一人村をあとにするのだった。「西から…」そう言うと、一人東の空を見ながらあるき始めるのだった。
みゆきの住むのは、通りに面している母屋なのだが、左隣にもう一つ家を持っている。
そこに、甚太郎は匿われてた。一間だけしか部屋はなく右奥にベッドがある。そこで、甚太郎は一同を待った。白い布生地の寝間着に包まれた老人は、ベッドに腰掛け上半身を横の壁に預けていた。病で伏せっていたせいか、白いひげは伸びきりバサついている。従来はもっと良い体格をしていたのだが、手足は枯れ枝のように痩せ細り、頬もコケてしまっていた。目の下にもはっきりとしたクマが残されてしまっている。
甚太郎「よく、いらっしゃった。」
力なく、老人は来客を歓迎した。その、語気からは歓迎ぶりがあまり伝わらないが、おそらくは意識のある内でみゆきと対面するのは久しぶりであろう。きっと、嬉しいはずだ。武は、心の中でそう思った。
武「あなたがこの村の長なのですね。なぜ、こんなことに?」
老人は、目を閉じた。寝てはいない、壁を背もたれにしたままだ。
「ふぅ…すまないが…」
一同、会釈をして部屋をあとにするのだった。
「おじいちゃん、疲れてるのよ。またに、しましょ。」
その日の夜、空は荒れていた。風、雨、雷。強い風が、落ちてくる雨粒を横に吹き飛ばす。平たく言えば、横殴りの雨だ。そして、雷鳴が轟くと深淵の縁にある空は、黄金色に燃えるのだった。
「ザァー…」
暗闇の中、空が光ると、何かがそこにいた。しかし、この雨の中家から出ているものは一人もいなかった。いや、いた。ただ一人だけ。老人は、空を見ていた。いや、睨んでいた。土砂降りの雨の中をただ一人だけで。
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夜が開けると、昨夜の雨も後を残してはいなかった。まさに、これは光の雨だった。その日差しが、太陽の恵みを大地いっぱいに注いでいた。
「雨上がったね」
みゆきは眠い目をこすり家の外に出てきた。起きたてで、まだ寝ぼけている顔だ。
「ゴホッ」
「風引いたの?大丈夫?」
みゆきがたけしを気遣う。その光景に、村の若い連中はやじを飛ばし、冷やかした。
「いや、おふくろと親父を見ているようだ。」「ハハハハ…」「いやー。若いっていいねー。」
みゆきは顔を赤らめてうつむいてしまった。武も、うつむいている。しかし、武は別の理由で俯いていた。
武が考えていたのは、やはり甚太郎のことだ。何故呪われたのか、何故この老人だけが呪いを受けるのか。何故みゆきには、父がいないのか?そして、あの日、魔美は何を言いたかったのか?そして、どうしてこの世界に来たのか?多くの疑問が頭をよぎる。
皆、みゆきの家の前に集まってきてしまった。「おじいちゃんがおきちゃうよ。」みゆきがたけしの肘を肘で小突く。「パタン」ふっと見ると、みゆきの後ろに白い寝間着姿の老人の姿があった。
みゆき「お祖父様。まだ起きてはお身体に触ります。おやすみください。皆さんもお家にお帰りください。」
甚太郎「やれやれ、わしはまだ元気じゃ。それに、こう騒々しくては寝てなどおられん。」
それはそうだ。皆、みゆきのもとに集まってきてしまったのだから。
「おわかいの。なぜこんなことにとおっしゃいましたな?ならば聞きます。何故貴方はここにいらっしゃったのかな?」
「………」
「見なさい。説明できんじゃろ。全ては、結果。因果などは結果が出て説明つくのじゃ。知りたければ、探しにゆくかの?結果が出れば、全てが終わることを知ることとなろう。知りたければ自分の目で確かめることじゃ。今この世界に何が起こっているのか…あなたが帰るすべも、因果で結びつこう…。」
その日の夜武は眠れずにいた。「だめだ。やっぱり行かなくちゃ。この目で…。」
決心が固まった武は、大きめのズタ袋に、ナイフを、水筒を、そして、食料と火起こし用の石と粉をつめて、夜のうちに一人村をあとにするのだった。「西から…」そう言うと、一人東の空を見ながらあるき始めるのだった。
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