2 / 23
第一局
☖ 転校生は××がお好き!
しおりを挟む
「なあなあ、アルフレッド君ってどこから来たん?」
「なんで日本に来たん?」
「日本語ペラペラやったけど、なんで? 勉強したん?」
「マンガとか読む? どんな本が好き?」
「その眼鏡、かわいいなあ。目悪いん?」
始業式が終わったあとの学活は、ウィリアムズ君(名字呼びのつもりだけど、これで合ってるよね?)への質問タイムに早変わり。
にこにこ笑って教卓に座っている駒ヶ坂先生に見守られながら、みんなは我先にとウィリアムズ君に質問をくり出していく。
……私は、自分の席からそれをながめているだけだったけど。
一方、席についたウィリアムズ君は、嫌な顔一つしないで、みんなの質問に順番に答えていった。
彼の出身地はイギリス。
ここ、神戸に引っ越してきたのは、お父さんの海外出張についてきてのことだそうだ。
日本語が上手なのは、母方のおばあさまが日本人で、小さい頃から日本語にふれる機会があったから。
マンガは読むけれど、どっちかといえば小説のほうが好きで、特にファンタジーものが大好き。日本のマンガも向こうにいた頃から読んでいて、王道の少年マンガがお気に入りらしい。
視力はそれほど悪くないけれど、乱視気味だから、矯正のために眼鏡をかけているんだって。
「……ふふっ」
一通りの質問に答え終わると、ウィリアムズ君が、不意に小さく笑みをこぼす。
「? どないしたん、アルフレッド君」
「ううん。みんながたくさん話しかけてくれるから、嬉しいなあって」
机にそっと視線を落として、ウィリアムズ君はぽつりぽつりとつぶやく。
「おれ、クラスになじめなかったらどうしようって、不安だったんだ。言葉も文化も全くの別物だから、みんなに合わせられなくて、仲良くなれなかったらどうしよう、って」
――ああ、そうなんだ。
ウィリアムズ君って、すごく明るい性格みたいだし、すぐ周りと打ち解けられそうだと思っていた。
でも、それはあくまで、私をふくめた周りの人からの印象がそうっていうだけで、本人からしたら、ずっと不安だったんだ。
それもそうだよね。
だって、生まれ育った町を離れるどころか、外国まで来たんだもん。
不安なことも、困っちゃうことも、あるはずだよね。
みんなは納得したようにうなずいたり、周りの人と顔を見合わせたりしていた。
けれど、そのうち、誰かがこんなふうに言ったんだ。
「そんなん、心配する必要あらへんよ!」
声がしたほうを見れば、大宮さん――うちのクラスで委員長を務めている女子だ――が、ふんふんと気合いたっぷりに鼻を鳴らしていた。
「暮らしていく環境がめちゃくちゃ変わっちゃうんやで? そんなん、大変やって誰でも分かるよ! 無理にみんなと合わせんでええんやし、困ったことがあったらいつでも言うてええねんで!」
その言葉に、「おおー」と教室のあっちこっちから感心したような声が上がった。
私も、つられて拍手しちゃう。
あの子、いいこと言うなあ。
あんなに堂々と言い切ってくれたら、ウィリアムズ君も嬉しいだろうなあ。
ちらっとウィリアムズ君のほうを見れば、案の定、彼は照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑っている。
「……Thank.」
ぽつりと聞こえたお礼の言葉は、彼になじみの深い英語でのもの。
彼が、この時間で多少みんなに心を許すことができたんだと思うと、離れて見ているだけの私の心も温かくなる気がした。
空気が和やかになったところで、「転校生は女子がいい」って言っていた、あの男子が「そや!」と口を開く。
あんなふうに言ってはいたけど、今は彼もウィリアムズ君に興味津々みたいだ。
「アルフレッドって、趣味とかないん?」
「シュミ?」
「えーっと、好きな遊びとかそういうやつ!」
「I got it! あるよ、好きな遊び!」
心得たとばかりに手を打つウィリアムズ君に、ぱっとみんなの表情が明るくなる。
「なになに? なにが好きなん?」
「休み時間にそれ、しようや!」
「本当かい!? うれしいよ!」
眼鏡の奥で、ウィリアムズ君の目がきらりと輝く。
そして彼は、本当に、心の底からの嬉しいっていう気持ちにあふれた、とびっきりの笑顔を浮かべたんだ。
「おれ、ずっと、誰かとやってみたかったんだ――将棋!」
……へ?
あまりにも、あまりにも意外すぎるその一言に、教室が水を打ったように静まりかえる。
私も、びっくりして、思わず読んでいた本を落としそうになってしまった。
「……えっと、ウィリアムズ君」
「なに?」
「ウィリアムズ君って、将棋好きなの?」
「うん!」
「「「いや渋っ!!」」」
総ツッコミである。
いや、そりゃそうだよね……
だって、こんなバリバリの「外国人です!」っていう見た目の子が将棋を知ってるなんて、ましてや好きだなんて思わないもん。
びっくりしているみんなとは対照的に、今度は駒ヶ坂先生が目をきらきらさせて、ウィリアムズ君に話しかける。
「アルフレッド君、本当に将棋好きなの?」
「うん! 日本から本も取り寄せて、勉強してたんだ」
「そうなんだー! あっねえ、今はネットでも対局が観られるでしょ? 配信とか見てるの?」
「もちろん! Dadが有料チャンネルも契約してくれてて――」
ああ、将棋好きの血がさわいではるんやなあ……ウィリアムズ君も先生も、楽しそうにおしゃべりしてる。
ひとしきり思いのままにしゃべったところで、ウィリアムズ君は、何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「ねえ先生、この学校って、将棋クラブがあるんだよね? 何人くらいいるの?」
「六人だよ。五年生は一人だけなの」
「あれっ、少ないんだね」
駒ヶ坂先生の言葉に、ウィリアムズ君は目をしばたたかせる。
まあいいや、とつぶやいて、先生から視線を外すと、彼はぐるりと教室を見回す。
「その五年生って、このクラスの子?」
こ、この流れは……!
何となく、この先の展開を察知して、本で顔を隠そうとするけど、もう遅い。
先生はくすくす笑って、窓際の席でひとり、ぽつんと座っている私を示して言ったんだ。
「あの子――白銀蒼輝ちゃんが、今のところ、唯一の五年生よ」
ああああ~……
なんで言っちゃうの、先生!
私、目立つのはあんまり好きじゃないのに!
私のそんな思いもむなしく、ウィリアムズ君はぱあっと表情を明るくして、私を見る。
彼の、ペリドットみたいな瞳が、ぱちんとまたたく。
そのまぶしさに、思わずドキッとしたほんのわずかな間に、彼は私の目の前に来ていた。
「ねえ、君、サファイアっていうの?」
「う……うん」
反射的に、こくんとうなずく。
蒼く輝く、と書いて『さふぁいあ』。
それが、私の名前。
有名なマンガ、「リボンの騎士」が好きだったお母さんが私に残してくれた、大切な名前だ。
いわゆるキラキラネームっていうものだから、初対面だと、まゆをひそめられたり、「変な名前」ってからかわれたりすることが多いんだけど――
「fantastic! カッコいい名前だね! リボンの騎士とおそろいじゃないか!」
「――っ、」
「ちょうど君も、リボンを結んでいるしね。すごく似合ってるよ」
そう言って、ウィリアムズ君は自分の頭の……ちょうど、私がすみれ色のリボンで髪を一房結んでいるあたりを、ちょいちょいと指差して笑った。
うっ……どうしよう。
満面の笑みで言ってくれるから、ドキドキしちゃった。
何にせよ、少し変わった私の名前や、髪を結んでいるリボンのことを直球にほめてもらえるのは、それなりに、いやかなり嬉しいわけで。
「あ、ありがとう」
「You're welcome! どういたしましてだよ!」
つっかえながらも言う私に、ウィリアムズ君は、やっぱりにこにことした人好きのする笑顔で応えてくれた。
けれど、ふと少し真面目な顔をすると、彼は声をひそめる。
「……ところで、サファイアは将棋ができるってことだよね?」
あっ、やっぱりその話になるよね……
興味津々といった様子で、ちょっと上目遣いに見つめてくるウィリアムズ君。
彼は言葉にしないけれど、期待されているのが手に取るように分かってしまって、こっそりため息をついた。
かといって、ここで変にごまかしても不思議に思われるだろうから、言い逃れはしない。
目立つのは好きじゃないけど、将棋は好きだしね。強いかどうかはともかくとして。
「うん。できるよ」
はっきりとそう答えれば、ウィリアムズ君はパッと笑顔になって、「じゃ、じゃあ!」と勢いよく私の両手を取った。
手、手を⁉
「次にクラブがある日に、おれと将棋を指してよ!」
「く、クラブは今日もあるけど……対局がしたいん?」
「うん!」
大きくうなずく彼の目は、将棋が指せるかもしれないっていう喜びに、きらきらと輝いている。
「おれ、日本に来たら、どうしても誰かと将棋を指してみたかったんだ! この学校にクラブがあるのは知らなかったけど、君がメンバーだっていうならラッキーだよ!」
「え、ええと……」
「だめかい?」
言葉につまっていると、ウィリアムズ君は、私が将棋をすることをしぶっていると思ったのか、とたんにしょぼくれてしまった。
あああ、ちがうんだよ!
ただ、手をにぎられているのに緊張してるだけで!
「だ、だめってこと、ない!」
ちょっと声が裏返っちゃったけど、気にしない。
あわてて否定すれば、彼は再び、期待でいっぱいの笑顔をうかべる。
「じゃあ、指してくれるの?」
「うん。私、多分、そんなに強いわけやないけど……それでもええなら」
クラブではほとんど負けなしだけど、それでも多分、ウィリアムズ君が期待しているほどには、私は強くない。
それでも、彼は、とびっきり嬉しそうにして、にぎったままの私の両手をブンブンと強く振ってくる。
「ありがとう! ありがとう! 約束だからねっ、絶対だよ!」
身を乗り出して鼻息荒く言う彼に気圧されるようにして、私は何度もうなずいた。
ウィリアムズ君の勢いのよさには、かなりびっくりさせられている。
それでも、私の心の中では、楽しみに思う気持ちがむくむくとふくらんでいた。
まさか、遠い国から来たばかりの人と、盤をはさんで向かい合えるなんて、昨日までの私が知ったら、どんな顔をするんだろう。
早く放課後にならないかなあ。
早く、この人と将棋がしたい!
換気のためにと開けられた窓からは、冷たい風が吹きこんでくる。
それなのに、私の頬は、じんわりと熱を持ち始めていた。
「なんで日本に来たん?」
「日本語ペラペラやったけど、なんで? 勉強したん?」
「マンガとか読む? どんな本が好き?」
「その眼鏡、かわいいなあ。目悪いん?」
始業式が終わったあとの学活は、ウィリアムズ君(名字呼びのつもりだけど、これで合ってるよね?)への質問タイムに早変わり。
にこにこ笑って教卓に座っている駒ヶ坂先生に見守られながら、みんなは我先にとウィリアムズ君に質問をくり出していく。
……私は、自分の席からそれをながめているだけだったけど。
一方、席についたウィリアムズ君は、嫌な顔一つしないで、みんなの質問に順番に答えていった。
彼の出身地はイギリス。
ここ、神戸に引っ越してきたのは、お父さんの海外出張についてきてのことだそうだ。
日本語が上手なのは、母方のおばあさまが日本人で、小さい頃から日本語にふれる機会があったから。
マンガは読むけれど、どっちかといえば小説のほうが好きで、特にファンタジーものが大好き。日本のマンガも向こうにいた頃から読んでいて、王道の少年マンガがお気に入りらしい。
視力はそれほど悪くないけれど、乱視気味だから、矯正のために眼鏡をかけているんだって。
「……ふふっ」
一通りの質問に答え終わると、ウィリアムズ君が、不意に小さく笑みをこぼす。
「? どないしたん、アルフレッド君」
「ううん。みんながたくさん話しかけてくれるから、嬉しいなあって」
机にそっと視線を落として、ウィリアムズ君はぽつりぽつりとつぶやく。
「おれ、クラスになじめなかったらどうしようって、不安だったんだ。言葉も文化も全くの別物だから、みんなに合わせられなくて、仲良くなれなかったらどうしよう、って」
――ああ、そうなんだ。
ウィリアムズ君って、すごく明るい性格みたいだし、すぐ周りと打ち解けられそうだと思っていた。
でも、それはあくまで、私をふくめた周りの人からの印象がそうっていうだけで、本人からしたら、ずっと不安だったんだ。
それもそうだよね。
だって、生まれ育った町を離れるどころか、外国まで来たんだもん。
不安なことも、困っちゃうことも、あるはずだよね。
みんなは納得したようにうなずいたり、周りの人と顔を見合わせたりしていた。
けれど、そのうち、誰かがこんなふうに言ったんだ。
「そんなん、心配する必要あらへんよ!」
声がしたほうを見れば、大宮さん――うちのクラスで委員長を務めている女子だ――が、ふんふんと気合いたっぷりに鼻を鳴らしていた。
「暮らしていく環境がめちゃくちゃ変わっちゃうんやで? そんなん、大変やって誰でも分かるよ! 無理にみんなと合わせんでええんやし、困ったことがあったらいつでも言うてええねんで!」
その言葉に、「おおー」と教室のあっちこっちから感心したような声が上がった。
私も、つられて拍手しちゃう。
あの子、いいこと言うなあ。
あんなに堂々と言い切ってくれたら、ウィリアムズ君も嬉しいだろうなあ。
ちらっとウィリアムズ君のほうを見れば、案の定、彼は照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑っている。
「……Thank.」
ぽつりと聞こえたお礼の言葉は、彼になじみの深い英語でのもの。
彼が、この時間で多少みんなに心を許すことができたんだと思うと、離れて見ているだけの私の心も温かくなる気がした。
空気が和やかになったところで、「転校生は女子がいい」って言っていた、あの男子が「そや!」と口を開く。
あんなふうに言ってはいたけど、今は彼もウィリアムズ君に興味津々みたいだ。
「アルフレッドって、趣味とかないん?」
「シュミ?」
「えーっと、好きな遊びとかそういうやつ!」
「I got it! あるよ、好きな遊び!」
心得たとばかりに手を打つウィリアムズ君に、ぱっとみんなの表情が明るくなる。
「なになに? なにが好きなん?」
「休み時間にそれ、しようや!」
「本当かい!? うれしいよ!」
眼鏡の奥で、ウィリアムズ君の目がきらりと輝く。
そして彼は、本当に、心の底からの嬉しいっていう気持ちにあふれた、とびっきりの笑顔を浮かべたんだ。
「おれ、ずっと、誰かとやってみたかったんだ――将棋!」
……へ?
あまりにも、あまりにも意外すぎるその一言に、教室が水を打ったように静まりかえる。
私も、びっくりして、思わず読んでいた本を落としそうになってしまった。
「……えっと、ウィリアムズ君」
「なに?」
「ウィリアムズ君って、将棋好きなの?」
「うん!」
「「「いや渋っ!!」」」
総ツッコミである。
いや、そりゃそうだよね……
だって、こんなバリバリの「外国人です!」っていう見た目の子が将棋を知ってるなんて、ましてや好きだなんて思わないもん。
びっくりしているみんなとは対照的に、今度は駒ヶ坂先生が目をきらきらさせて、ウィリアムズ君に話しかける。
「アルフレッド君、本当に将棋好きなの?」
「うん! 日本から本も取り寄せて、勉強してたんだ」
「そうなんだー! あっねえ、今はネットでも対局が観られるでしょ? 配信とか見てるの?」
「もちろん! Dadが有料チャンネルも契約してくれてて――」
ああ、将棋好きの血がさわいではるんやなあ……ウィリアムズ君も先生も、楽しそうにおしゃべりしてる。
ひとしきり思いのままにしゃべったところで、ウィリアムズ君は、何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「ねえ先生、この学校って、将棋クラブがあるんだよね? 何人くらいいるの?」
「六人だよ。五年生は一人だけなの」
「あれっ、少ないんだね」
駒ヶ坂先生の言葉に、ウィリアムズ君は目をしばたたかせる。
まあいいや、とつぶやいて、先生から視線を外すと、彼はぐるりと教室を見回す。
「その五年生って、このクラスの子?」
こ、この流れは……!
何となく、この先の展開を察知して、本で顔を隠そうとするけど、もう遅い。
先生はくすくす笑って、窓際の席でひとり、ぽつんと座っている私を示して言ったんだ。
「あの子――白銀蒼輝ちゃんが、今のところ、唯一の五年生よ」
ああああ~……
なんで言っちゃうの、先生!
私、目立つのはあんまり好きじゃないのに!
私のそんな思いもむなしく、ウィリアムズ君はぱあっと表情を明るくして、私を見る。
彼の、ペリドットみたいな瞳が、ぱちんとまたたく。
そのまぶしさに、思わずドキッとしたほんのわずかな間に、彼は私の目の前に来ていた。
「ねえ、君、サファイアっていうの?」
「う……うん」
反射的に、こくんとうなずく。
蒼く輝く、と書いて『さふぁいあ』。
それが、私の名前。
有名なマンガ、「リボンの騎士」が好きだったお母さんが私に残してくれた、大切な名前だ。
いわゆるキラキラネームっていうものだから、初対面だと、まゆをひそめられたり、「変な名前」ってからかわれたりすることが多いんだけど――
「fantastic! カッコいい名前だね! リボンの騎士とおそろいじゃないか!」
「――っ、」
「ちょうど君も、リボンを結んでいるしね。すごく似合ってるよ」
そう言って、ウィリアムズ君は自分の頭の……ちょうど、私がすみれ色のリボンで髪を一房結んでいるあたりを、ちょいちょいと指差して笑った。
うっ……どうしよう。
満面の笑みで言ってくれるから、ドキドキしちゃった。
何にせよ、少し変わった私の名前や、髪を結んでいるリボンのことを直球にほめてもらえるのは、それなりに、いやかなり嬉しいわけで。
「あ、ありがとう」
「You're welcome! どういたしましてだよ!」
つっかえながらも言う私に、ウィリアムズ君は、やっぱりにこにことした人好きのする笑顔で応えてくれた。
けれど、ふと少し真面目な顔をすると、彼は声をひそめる。
「……ところで、サファイアは将棋ができるってことだよね?」
あっ、やっぱりその話になるよね……
興味津々といった様子で、ちょっと上目遣いに見つめてくるウィリアムズ君。
彼は言葉にしないけれど、期待されているのが手に取るように分かってしまって、こっそりため息をついた。
かといって、ここで変にごまかしても不思議に思われるだろうから、言い逃れはしない。
目立つのは好きじゃないけど、将棋は好きだしね。強いかどうかはともかくとして。
「うん。できるよ」
はっきりとそう答えれば、ウィリアムズ君はパッと笑顔になって、「じゃ、じゃあ!」と勢いよく私の両手を取った。
手、手を⁉
「次にクラブがある日に、おれと将棋を指してよ!」
「く、クラブは今日もあるけど……対局がしたいん?」
「うん!」
大きくうなずく彼の目は、将棋が指せるかもしれないっていう喜びに、きらきらと輝いている。
「おれ、日本に来たら、どうしても誰かと将棋を指してみたかったんだ! この学校にクラブがあるのは知らなかったけど、君がメンバーだっていうならラッキーだよ!」
「え、ええと……」
「だめかい?」
言葉につまっていると、ウィリアムズ君は、私が将棋をすることをしぶっていると思ったのか、とたんにしょぼくれてしまった。
あああ、ちがうんだよ!
ただ、手をにぎられているのに緊張してるだけで!
「だ、だめってこと、ない!」
ちょっと声が裏返っちゃったけど、気にしない。
あわてて否定すれば、彼は再び、期待でいっぱいの笑顔をうかべる。
「じゃあ、指してくれるの?」
「うん。私、多分、そんなに強いわけやないけど……それでもええなら」
クラブではほとんど負けなしだけど、それでも多分、ウィリアムズ君が期待しているほどには、私は強くない。
それでも、彼は、とびっきり嬉しそうにして、にぎったままの私の両手をブンブンと強く振ってくる。
「ありがとう! ありがとう! 約束だからねっ、絶対だよ!」
身を乗り出して鼻息荒く言う彼に気圧されるようにして、私は何度もうなずいた。
ウィリアムズ君の勢いのよさには、かなりびっくりさせられている。
それでも、私の心の中では、楽しみに思う気持ちがむくむくとふくらんでいた。
まさか、遠い国から来たばかりの人と、盤をはさんで向かい合えるなんて、昨日までの私が知ったら、どんな顔をするんだろう。
早く放課後にならないかなあ。
早く、この人と将棋がしたい!
換気のためにと開けられた窓からは、冷たい風が吹きこんでくる。
それなのに、私の頬は、じんわりと熱を持ち始めていた。
4
あなたにおすすめの小説
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる